ジゴクノモンバン(12)
第十二章 ほんまもんの地獄
どすーん、どすーん。
大地を揺るがす音がふたつ。
「あいたたたたった、あいたたたった」
あたり一面に響き渡る悲鳴がふたつ。
「青鬼どん、無事でっか」
「ああ、なんとか息しとるで、赤鬼どんはどうや」
「お尻がえらい痛うおます。真っ赤になってますがな」
「そりゃ、赤鬼どんの肌の色や。わしは青うなってるがな」
「それは青鬼どんの蒙古斑や。それにしてもここはどこでっしゃろ」
「なんや、広い野原に、ぎょうさん木が生えとるがな。誰や、あいつ。長椅子に人間が寝とるがな」
「地獄にしては、長閑なとこやなあ。ハトにエサやっとる人間もおりまっせ。なんやしらんけど、向こうから、年寄りの人間が犬を連れて歩いてきよる。ちょっと聞いてみましょか」
「ちょっと待ち。なんや、どっかで聞いたことがある風景やな。そうや、サラリーマンと放浪者が言うとった公園と違うか」
「ほんまですわ、あそこの公衆便所の片隅にダンボールが大事そうに積み重ねられてますわ」
「向かいの木には、ベルトがひっかかてるがな。下界、人間界に落ちてしもたんかいな。閻魔さんが言うとったとおりや」
「ほんま、閻魔さん、嘘言いまへんな」
「何、感心してんねん」
「これからどないします、青鬼どん」
「どないもこないもないけど、わしら、生きとんのかいな」
「生きとるのか死んどるのわかりしまへんけど、こうして青鬼どんと話ししてまっせ。生きとんのと違いまっか。まさか、二人とも同時に、同じ夢見てる訳はないでしょう」
「そやなあ、地獄でも生きとったし、こうして人間界へ落ちてきても生きとるし、なんや不思議な気持ちやなあ」
「そんなに言われたら、そうでんなあ。いろんな地獄巡りで、空気や土や水になった奴も生きとるいうたら生きとると言うてはりましたわ。なんや、わしら鬼も人間もどこででも生きなあかんちゅうことですか」
「そう言う事や。まあ、とにかく、また地獄へ戻らなあかんがな。嫁はんも子供も仕事も待ってるがな」
「地獄へ戻ったらまたぎょうさんお金がいりまっせ」
「ほな、これから働いて金ためよか」
「そうですね。わたしは、この背広がありますよって、これからサラリーマンでもやっていきますわ」
「わしは、この公園に住んで、道に落ちとるもんでも拾うてみるわ。ええもんが見つかるかもしれんし、環境美化にもつながる。エコややエコや。時代に遅れんよう、ついていかなあかんがな。それに、一石二鳥や」
「地獄へ戻れるようになったら、またお会いしまひょ」。
「そうやな、それまで頑張ろ。金がたまったら、公園へ来いや。その時は、わしがベルトに首を引っ掛けて、赤鬼どんがハトのエサ喰うんやで」
ジゴクノモンバン(12)