ナウ!攻めき! 35
ひとかけらの幸 35
ポッとなったときは、もう百キロ先、ただイッ直線!
一々調べてから恋をするか?
してれば失恋の70パは無くなるって。
有名なシンクタンク*の一つにブルッキングス研究所**が挙げられるが30代そこそこの日本人で年収数千万円超え、ボーナスは億の場合も、稀ではないと聞く。この日本人の祖先は、きっと甲賀・伊賀の忍者だったにちがいない。
*シンクタンク(think tank)は、諸分野に関する政策立案・政策提言を主たる業務とする研究機関。 調査部とは異にする。
と、早合点、なめたらいかんぜよ。正確な調査なくして立案もへったくりもない。どれだけ精緻な調査如何で全ては係る。龍馬さんなら、きっと、そう云う。決まっとー!と、せごどん(西郷どん)さぁも云うはず。
**本部ワシントン。民主党政権下では政策立案にも加わり多大な影響を及ぼすと共に有能な人材をも送りだした。スゲー、日本のシンクタンクどころの比じゃね。そーいやー、家康も数多く有能な忍者のお陰で天下獲り成功したしね。今でも記念品が残ってる、皇居半蔵門、忍者服部半蔵に因んだ名とか。行って見たら分かる、両茂みから忍者が現れるって。
アンディがこのような調査部で仕事が出来たことは自身の経済的知見を鍛えるにふさわしいチャンスすなわち幸運を得たことに通じる。
或る日スコットはアンディの働く支社へと立ち寄った。新鮮でよろし、数か月ぶりの顔は。
近くのレストランで二人はディナーが醸し出す食味真っ只中、クチャクチャ、ゴックンうんうんと、語り合う。
口周りに付いたクランベリーソースをワインが流す。
赤ワイングラスに七面鳥の肉片が一粒残るがそれはそれでディナーウェア(御馳走なら昼でもディナー、米国)としての役目を果たしている。
クリスタルな輝きはいいものだ。どこかこちらまで透明無色な気分になる。なっていないからこそ余計にそう思う。ディナーも仕事のうち、食い物に気を奪われ相手の思惑が見えなくがっつき程みっともないことはない。
コーナ片隅のテーブルに集った四人家族が食卓を囲み、まだ年のころ十歳前後だろうか、少女の目が時折こちら方へと飛ぶ。澄んだブルーアイがその唇と共に似合う。
笑顔は更に少女を綺麗にというイメージに変えている。
だから笑わないブスは余計にブスなんだ、と思っても口にしてはならない。
アンディ、いつもいろいろとサンクス!正確な分析で我々は助かってるよ・・・。
とんでもないです!助かってるのはオレの・・・ぼく!の方です。教えられることばかりで勉強になってます。本当にボスには感謝してます。
聴いたスコットの顔が、満足気にひたり、赤見にもなる、ワインのせいであった。
おいしい話、おすそわけしてやろうと思って、直接会って話した方が良いと思って今日立ち寄ったんだ。
なんですか?美味しいの頂いてますが、普段こんな旨いステーキ食べられないし。
ハッハハハそうか。この店のturkeyステーキは評判でねえ。
スコットの表情はいつにもなく赤見色を発し楽しげにはずむ。油顔なつやのせいである。
アンディくん!君だからこの際、私の本心を告げておきたいことが。
口元にはディナーの汁がまだ左隅に張り付いたままであるがご満悦満願がそれを打ち消す。
が、一点違っていたのは目元がやけに真剣さを漂わせている。
はいっ!と返した。
店内設置の古い Rococo調*な時計らしいが、アンティックな時計の音が、今で云うデジタルにはないアナログだけに返って癒される気分にもなる。アナログは、デジタルと異なり、高域が特に澄んで聴こえ、音にならない心地好い音域も、耳に届く、と聞く。
*バロックに続く時代の美術様式を指す。18世紀、ルイ15世のフランス宮廷から始まり、ヨーロッパはじめ他国にも伝えられ、大流行した。今でも豊かな生活者には人気があるとか、数百万円・なかには数千万円のベッドもあるらしい。が、数万円もあるらしいからピンからキリまでと云うこと。個人的には実用性イチ!と云うものが多い。
周囲に居わせる客たちの声を微妙にかき消す、同時一瞬、その音だけが浮き出、響く、カチカチ、ドキドキ、と耳元に、心臓に。
リベンジーだ。巻き返しだ。某鉄道会社を乗っ取りたい!
張り付いていた汁を飛ばす勢いでスコットは一気に舌打ちまくった。汚い!避けようと思った。
アダムス・エクスプレスしょ。
アツく返した、アツいアンディ。
この鉄道会社はアメリカでは老舗中の老舗の名門会社で当時ナンバーバーワンを誇っていた。
このパワーを元に、ホテルだ、スーパーだ、リゾート施設だ、とグループ会社を次から次へと立ちあげこの拡大利益を我が物に独占先行、云わば、わが世の春とする勢いにあった。
今でいう東急・小田急・西武電鉄、JR 等の例を見ればなんら変わりがないことに納得はいく。
そこに目を付けた。
さすが我がボス、大物狙撃主と思わざるを得ない一瞬。
それにしても超ビッグ会社アダムス・エクスプレス!
1854年に設立され、19世紀最大となる輸送鉄道会社となり貨物とその輸送事業はアメリカ南部に及ぶまで鉄道網を伸ばしキングオブキング状態。
ピッツバーグ鉄道会社が、食ってかかることに気づ付かずにこの会社はいたのである。
この時アダムス・エクスプレスは、アンディたちの鉄道会社など目ではなかった。その会社はピッツバーグ社他が天の星と憧れるほどに。
ピッツバーグ鉄道がこの時点では第二位に甘んじていた。
何故か?簡単である。
アダムス社がピッツバーグ会社、三位のニューヨーク・ニューヘイブン・アンド・ハートフォード鉄道会社、さらにアメリカンエキスプレス、ノーフォーク・アンド・西洋鉄道など一連の名立たる鉄道会社の株を大量に保有していたことに他ならない。
しかもン兆円もの大企業。
そんなこんなの事実をアンディは調査という仕事の立場上とっくに知り得ていた。
君を調査に抜擢したのは大正解だった。さすがアンディ、よく見通していたね。君を敵に回したら怖いハハハハハハハ冗談冗談。
冗談には聴こえなかった。
アダム社を乗っ取るのにアンディも一役加わってほしい。無論、給与など問題にならないほどのビッグリターンがある。
君が500ドルで購入した株配当金で大儲けするということだが、どうだろうか。
そうなれば君はますます当社から離れられなくなるしハハハハハ、なんといっても君がこれからも必要なんだ!
そこまで云われて悪い気はしない。やっぱ本心を吐露した。それにもまして、株で大儲けは、いつかしてみたいと密かに念じていたことであり、二つ返事で快諾した。
問題は株購入をする資金である。
500*ドルなんて見たことも!触れたことも!ましてや思いもしなかった!どうしよ?
身近な人に相談するしかなかった。母マギーへだった。
*この500ドルは現在価値に換算するとおおよそ数百万円代後半ではなかろうか。
母に相談すれば父へ。父から関係者へとつぎからつぎへとリレーするはずだ。
アンディは心内に密かに算段したが・・・・・。
ねえっ、あなた!アンディが真顔で相談してきたの、500ドルのことだけど・・・。
母は、暗い灯の中、父と、ビールとコーヒーを間に面していた。
ほの暗い灯りだけが、どうしてか、やけに明るくチカチカと映る、二人の顔はそのほの暗さにハッキリと浮かぶ。
え!ダメ!ダメ!ムリ!ムリ!どうしてそんな大金を!何に使うってんだ?
つばが飛んだとおもう。
その口元はつづいて、
それどころではない、他にも支払はあるし・・・家族皆が食べていくので精一杯・・・。
声なき震えにも似た動きはつづいていた。
スコットさんが「500ドル元手に株で大儲しろ!する好機だと」という話だそうよ。
きっぱりと押す母。
危ない!騙されてるんだ。株で儲けて金持ちになった人なんかほんの一握りだ。リスクが大き過ぎる。第一、そんな儲かる話ならスコットさん自身が買えばいいじゃないか。
云い終わると、またしてもその口元はもごもごへと帰す父。
貧乏に同情してその話をアンディにふったのかしら?それにしちゃ、今じゃアンディは高給取りだし変といえば変にもとれかねませんけど・・・・・ねえ?
・・・・・・分かった。アンディらにも名義分け購入するということは、購入先の会社に気付かれないようにするためか!?そうだよ!きっと!!
また、つばが飛んだにちがいない。
実は、この父の勘はご明察となる。
気付かれたら相手方は対策を講じるはず。かたや、その会社を乗っ取っとるとさらにスコットさんの会社は太る、太ればアンディの収入も増える。だとしたら、これは大博打!攻める方に利あり、忍者部隊で。
なるほどー。あなたの云う通りかも。
ナウ!攻めき! 35