おやすみなさい
私が年をとるにつれて、私の中の主人公もどんどん年をとっている。一人暮らしを始めて、そんなことに気付いた。
私が年をとるとまわりも年をとっているという当たり前のことを再認識したのもつい最近で、近所に住んでたおばあちゃんが老人ホームに入っていたり、大学の友達に子どもがいたりして、驚く。
みんな私をおいていくということにも最近ようやっと気づいた。
だいじょうぶだよ。私のところにもどっておいで。ずっと一緒にいようね。
そんなふうに声をかけてくれる人はもういない。
言われたくて言われたくて仕方なくて、涙腺を叱るように、目頭を押さえる。
みんないるのに。そのみんなは、誰ひとり、私のことを忘れたりなんかしていないし、嫌ってなんかいないはずなのに。だけど、みんないないふりをする。
小学校のときの友達。
中学校のときの親友。
高校のときの仲間。
みんなどこかへ行ったきり、戻ってこない。
最後に見たのが笑顔なものだから、みんな私の中で笑っている。
何を笑っているの。
みんな今まで私と一緒にいたじゃない。つらくなったら私のところにもどってきたじゃない。どうして私にはだいじょうぶだよって言ってくれないの。どうして知らないふりをするの。ありがとうって言ってたじゃない。私に感謝してたんじゃないの。どうして知らないふりをするの。どうしてだいじょうぶだよって言ってくれないの。どうして私がつらくなっても抱きしめてくれないの。みんな私と一緒にいたくないの。
私が夢の話をしても笑って聞いていたじゃない。
ありがとう、って。元気が出た、って。
もう、そんな話、必要ないの。
必要なくなっちゃったの。
目を隠せば袖が濡れて気持ち悪い。誰もいない。
誰もいない?
ああ。
私がみんなをいなくしていたのか。
みんながいないのは、私がそう確認したから。そんな簡単なことだった。
気づけたのはいいことなのかわるいことなのかわからない。みんながいないと確認したところでみんながもどることなんてないし。ずっと一緒にいたいと申し出る人もいない。私が抱きしめる必要のある人もいない。
ただ私が誰かに抱きしめてほしいだけだ。誰か、私のことを好きな人に。いつかの夢の話を面白がって聞いてくれた人に。
倒れるようにベッドに飛び込みたかったけれど、私のベッドはそんなに上等ではないし隣の部屋にも響きそうだから、いつものようにそっと横になる。
小さい頃の記憶みたいな夢が見られたらいいのに。あったかいお母さんの夢。
わるものをやっつけたりお姫さまに変身したりできない私には、そのような夢を見ることはできないのでした。
おしまいプツリで、ろくにみていないテレビを消して眠る、一人暮らしの部屋。
おやすみなさい