Thanks to U! 33
ひとかけらの幸 33
ピッツバーグ内の全ての企業位置と重要とみられる人の名前とそれらの特徴等を徹底して頭に叩き込んだ。
と云うより、日々繰り返す仕事柄、彼には自然とそうなっただけなのかも知れません。
これは、日々配って回る人、ひとり一人から、温かいウエルカムをゲットできるという好循環をうんでいくが。
このような行動姿勢のお陰で、多くの顧客との間に強い信頼関係が芽生え、In the end(回り回った結果)、アンディ自身の成長にも大きく寄与することとなる。
後々世界ナンバーワン億万長者になった自らが、性格は、変えられる、意思と努力と笑顔次第で。 変えられないのはこの後者三つ*が弱いからであると回顧している。
*前作掲載参照、闊達・明朗・誠実・努力家。
アンディ15歳の1850年から翌年の‘51年まで電報配達の仕事を、とにもかくにも、全うした、享受*したと云う方が正確だろう。
*きょうじゅ、味わい楽しむ、受け入れて自分のものとする。
16歳になったアンディは、これまでの一年間の仕事ぶりから、諸先輩らを差し置いて大任である電信技師へと、この短期間をもって、昇格を果たした、しかもこれは、慣例を破っての大抜擢であった。
異例な出世であったが、これも普通にして普通に起きた結果である。
格上のポジションを得たアンディ。
ボス直々の仰せつかりにより、自分よりもはるかに年上の居並ぶ大人たちを部下とする電信技士に抜擢された、ということです。
どのような仕事ぶりであったのだろうか?
当時の電報は、電信局が受信したモールス信号を紙テープにいったん刻み、そのテープからアルファベットに解読して電報を作成するという手順を踏んでいた。
しかし、アンディは、紙に刻む受信信号を省き、直接モールス信号を頭で解読してしまう離れ業をやってのけた。本人からすれば、数多くをやっているうちにこの方が楽であったからです。
しかし結果は、経費を低く抑え、なによりも電報一通当たりの単価を低廉にしたばかりでなく、一段と速く電報発信へと貢献することにつながったのです。
弱冠16歳にして成し遂げた特技であった。
運命を拓く扉ともなった。
この成し遂げによって、程なくして、更なるチャンスの扉が開こうと待ち構えていた。
トマス・アレクサンダー・スコットとの出会いである。
“幸運は自らに存し、招くのは他者”、この格言を地で行くことになる。
そーかあ、やはり他人かぁ、どーしても自分!自分!なる!
みんなそうだよ・・・・・・。
だよね!自分ファーストしてたら恋愛相手も、逃げるよな。
そうだよ、自分を大切に思ってくれない人になんか付いてったら危なくて。
うん。・・・・・。
うわさというものは、良きにつけ悪しけにつけ、さっと広まるものです、いくら漏らさないと約束をしたとしても、いつかは必ず筒抜けになるものです。
人間はしゃべる動物であるからです。
シーッ!これ内緒だよ、という秘密事ほど他者間においては広まりやすいからね。
広まって幸いなこともあった。このスコットの耳にも、アンディ昇進後しばらくすると、その仕事ぶりが届くことになったからです。
彼は、先見の明(せんけんのめい)に勝れた人物で後に大実業家となる。
彼スコットは1850年にペンシルベニア鉄道に就職し、程なく小駅の駅長を勤めるようになった。
やがて頭角を現すようになると短期間のうち、1858年には、同社の最高責任者に就くが、この際の昇進の要となったのがアンディの仕事ぶりが一助となっていったことはいうまでもない。
一世代上の先輩格に当たる。1823年12月生まれであるからアンディとは12歳上ということになる。なかなかの美男子である。アンディは好男子の部類に属する、美形とはちょっと云い難いが・・・・・。
なかなかの美系男子であるスコット、これはどうでもよい、彼は無類のやり手でもあった。
いち企業人としては、美男云々は何の役にも立たない、実力ある者だけが勝ち抜く社会とこの世は定められてる。
この人物との巡り会いが無かったら後のアンディはまったく異なった人生に終わっていたことであろう。
経営手腕とその実力実績を備え対外交渉術もやり手のスコットであったことはつぎの事実からも容易に察しがつきます。
彼は1861年8月、一時、かの超有名なエイブラハム・リンカーン大統領の直々の要請を受け陸軍次官補を拝命した。
これにより、24時間以内で延べ25000人もの兵士輸送を可能にし、結果、南北戦争で北軍勝利へと転換させる大転機となる成果に貢献した一人として名を馳せた。
それには彼なりの戦略・アイディア・秘訣があったことは、誰の目にも、察しはつく。
このやり手の実力者の間近で仕事をするようになり、その秘訣とやらの一部始終を聞き及ぶ立場となったのがアンディであった。
云わずとも、アンディに与えた影響は測り知れない大きな学びをもたらした。
聖徳太子然り、アレキサンダー大王、信長、家康、首相や大統領に至るまで、たった一人独力で、天下を獲り、これは絶対に不可能。
どれだけ優秀な参謀たちが居るか否かで天下獲りへの形勢は、栄華にも没落にも、異なる結果を導く。あの時、西郷さんに、龍馬さんに、もう少しより佳き助言者が居たのなら、その後に首相となりニッポンの運命も変わっていたかも知れない。
独り英雄になった、と庶民が喜びたがるのは、そのほうが収まりがいいからであって事実を見誤ることを肝に銘ずべき。
いくら世間評判上々な話でも、いくら著名な作家の云うことであっても、いくらテレビの有名評論家であっても、その口車に乗ってはならない。評判が、視聴率が、本が、劇が、チケットが、売れるからに他ならない、屁理屈と見透かした方が事の真実が見え易くなります。
成功している大企業も例外ではない。トヨタ・ホンダをはじめグーグルやアップル社も優秀かつ実力ある専門エキスパート達面々がいればこそ、世界トップ企業として居つづけられる。
・・・・・当然、ブレインが何かの都合で去ってしまえば、或いは、バカ指導部の下では、今いくら著名な企業だったとしても--いくら独り社長が頭良くても、一気に倒産ってことだってありうる。
東芝指導部はじめ調査部を見れば判る。米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)買収につき、1兆円もの瑕疵*が隠れていたことに気付かなかったことに象徴されるように経営全体、つまり、ブレインらが健全性を失っていた結果だあった、云々と聞いたことがあるが。・・・・・もったいなーい。
*かし、本来あるべき機能・品質・性能・状態等に潜む、きず、欠点、過失。
スコットは、うわさを単に信じたのか?
自らの経営的第六感ゆえからだったか?
その辺はさだかではないが、アンディのことを耳にしたことだけは確かである。
ある日の夕刻、こつん!こつん!とアンディのボロ屋のドアを叩く音がした。
彼スコットの第六感は当ることになるのか?
アンディにも五感プラスもう一つの電波塔が立った、第六感である。
ノックの音にとっさに奔った六感は、説明できないがどこか快い緊張あるものとして微かに浮かんだ勘である。幸運を招く人物の登場か、あるいは・・・か、の六感ではあったが・・・期待と不安も。
妙に胸騒ぎがするときは、人類600万年間もの長き時の流れのなかで生死との戦いで培ってきた経緯からか?或はDNA(遺伝子・ゲノム)からか?なにかしら、あるにちがいない。
これが勘だろう。
力を抜いた穏やかな顔に声であった。
が、その響きにはどこ力強さ宿るトーンを感じさせる挨拶が耳奥を押す。
ハーイ!アンディ!
ナイス・ミチュユー・サー。
スコットのあいさつに、押し倒されてなるものかと、応じるアンディ。こう思う時点で既に押されてるのだが。
君のうわさを聞き訪ねてきました。少しお時間、よろしいでしょうか?
スコットは、物腰低く、しかし語気しっかりとした口調で笑顔を投げている。
ハイ!あのお・・・・・うわさって? 汚い部屋ですけどよかったらどーぞ。
アンディは震えてはいなかったが、いつもとちがって身体が急にガクガクしたり固くなったり、自分でも始末に負えない空気に見舞われる。
萎縮していたようだ。明らかにスコットの存在に押し切られていた。
それでも尚、スコット自身の穏やかな物腰から出る口調はキープしたまま・・・。
晴れてます!青空は気持ちいいですね。空気も美味いよ!少しこのまま歩きながらでも、お話出来たらいいのですが・・・・で、その上で私の話をアクセプトして頂ければ、つぎに中におられるご家族ともお話したいのですが如何でしょうか。
丁寧な口調に要所要点をつく言葉がトントンと出る。
はい!わかりました!
としか応じられなかったアンディ。
ズバリ申します。私に力を貸していただけませんか。
この控え目な云い方ではあるが、それだけに相手に食い込む力ともなって。
彼のリンカーン大統領が重用した意味がなんとなく伺える。人を動かす物腰を、スコットはカンペキなまで、備えていたからである。
力ずくを誇示するリーダには、一時は付いて来ても長くは人は付いてこない。柔らかさ漂い、社員に等しくに思いやりを抱き、同時に、力強さを兼ね備えたリーダには、人が群がるのは自然なこと。
あ、モーメント!
自らのうちに咀嚼*してから、アンディの口が開く。
*そしゃく、物事や言葉の意味をよくかみしめ整理して理解すること。
ぐーんと年上の人からそんなことを云われたの初めてなんで・・・何が何だか。こんなおれですいまん。
実は伺って要件と申しますのは、うちの会社で働いてほしい!アンディ君がどうやって電信技士になったのかを聞き及びましてね・・・、そのやり方が気に入りました。先ずは週給4ドル*からにしたいのですがいかがですか。
*今の円換算で凡そ15万円くらい。ということは月額換算でおよそ60・70万円程の額高が十代の少年の初任給、スゲー。
“週給は4ドルです”と終止形にせずに“・・・からにしたい”と余韻をのこす辺りのこの物云いよう、さすが将来の大物実業家スコット。
この提示に、ただただ圧倒されるアンディ。
圧倒されたのはこれのみならず、17歳vs29歳、押し切られて当然なのだが。
速っ!そんな話もう飛んでるんですか。とゆうより、普通に普通の仕事をしただけで、おれには身に余る光栄過ぎてなんて言ったらいいか。
アンディはスコットのアクセプトを“光栄過ぎて”のこの一言で暗黙のうちにとっくに快諾したことになる。
同時に幼少の時のあのサクランボ・テク*を使ったアンディ。
*サクランボ・テクとは、自分から言わずに相手の方にこちらの思惑を云わそう、行動して貰おう、と誘導するテクである。
連れだってアンディの家へと入る。
パチパチ~ッッ♪ アンディおめでとー!スコットさんありがとうございます。
アンディ一家総出の喝采であった。あっけにとられるアンディとスコット。
実はアンディの母マギーは見知らぬ男性つまりスコットであるが、アンディと一緒に連れだって外を歩きだして以来ずっと、話す内容を花ミズキの間から、歩道沿いに咲いているが、その花列を塀越しに追い掛けながら、ときには草取をするふりもしながら、しっかりと耳を傾けガン見していたのである。
抜け目ない母というか、この遺伝子がアンディに受け継がれたいたのは当然、容易に納得域。
知ってか知らぬか、多分気付いていたであろう・・・そのスコットは今、鷹揚*に一同を見渡すと、ポーカフェイスのまま云う。
そうでしたか。さすがアンディ君のお母さんだけのことはある。よくもこのような利発なお子様を育てのですから。よろしくお願いします。
*おおよう、“鷹が大空を悠然と飛ぶように”、あるいは、“小さなことにこだわらずゆったりとして。大様、と云えば良いのにね。だが、これでは、小さなことにこせこせしないさま、だけとなる由。要は、小説書きの見栄っ張り、故ですね。
少しドッキトして母マギーはいう。
あら、「よろしくお願いします」はこちらの方ですわ」
と慌てて自分事を見透かされるたのを、かもふらじゅするかのような母。
ここまでの流れから、ふと整理の付いたアンディ。
うーん、これは…手強い、スコットは自分同様にサクランボ・テクを使ったことに、咄嗟(とっさ)に気付いたのだ。
スコットさん、おれは、どんな仕事をすればお役にたてるのでしょうか?
わたしの秘書をお願いしたい!のですが。
ズバッと返した。
秘書ですか、やったことのない仕事ですが、おれなんかに勤まりますかねえ・・・?
つまり、わたしの分身役です。して頂ければ、私は2倍3倍の働きが出来るようになるので是非!是非!!と願ってますが。
熱気を帯びたスコットの言葉はさらにつづく。
会社みなの手前、いきなり秘書では周りから反感も湧くでしょうから電信技士役をしてもらいます。ただし、これは表向きの顔ということにして実態はわたしのビジネスのブレイン秘書です。アンディ君なら出来ます!出来ると踏んだから、こうして本日お邪魔したわけです。
こーまでハッキリ見込まれては。恋愛に相通じるものあり・・・なんと説得力ある口説きか。
口説かれたアンディ。
なんでもいいです、光栄です、一生懸命やるだけです。懸命にやる気がスコットさんと話してるうちに湧きました。頑張りますのでよろしくお願いしまーす!
誘い上手なスコットに軍配は挙がったようである。
相手から更なる言葉を引きだしたアンディにも、実は、軍配は挙がった。「是非是非!!」とまでにスコットのスカウト熱をあおったからです。
程なくして、一変。
まだ高級品とまでは手が届かないが、すっかりリットル紳士の艶姿な仲間入りを果たしかのような格好、ダンディなスーツ姿。
Thanks to U! 33