加太の瀬戸にて
眼下の潮は
茅渟の海より太平洋へと
島の狭間を滔々と流れ
頭上を 舞う鳶の群れは
次第に雲の高みにまで達し
赤き夕陽は遥か彼方に霞む
四国の峰々へと沈みゆく
積もりし日々の憂いを離れんと
山上の露天の湯に身を投ずれば
幾筋もの湯煙は初冬の風に煽られ
天に輝くオリオンの膝元へと舞い上がり
漁火は見えず月細くして海は暗し
まだ暗き暁の湯より港を見下ろせば
僚船の灯は途切れることなく沖へと続き
洋上一面に広がりゆくその光景は真に
星降りて水面に浮き輝く神の世の如し
白々と明くる夜に漁火は星の影と消え
波間に白き花弁の如き舟影が姿を現す
我ともに露天の人影は儚く去り行けども
天地自然の美は永遠に訪れし人々を魅了せん
加太の瀬戸にて