広い世界

「考えすぎ」
いつものように悩みを聞かされていた彼女が、ばさりと僕の言葉を遮った。
確かに、脳は眠らないと聞くが、そういう問題を抜きにしても僕の例の
不安は365日、昼夜問わず年中無休だった。

「じゃあさ、どうすればいいと思う?」
僕は頬づえをついて問題を彼女に丸投げした。
「んー、たぶんさあ、人生に答えなんてないんじゃないかな」
いいこといった風に開いた瞳になぜか瞼が重くなった。そういえば同じ
ことをどこかで聞いたっけか。誰の言葉だったのか思い出そうとしたが
彼女の話がそれを邪魔した。
「Kはいつも心の世界にばかり目を向けてるじゃん? 言い方は悪い
けど、それって狭い世界なんだよ。もっとハピーに楽しく生きた方が
絶対いいって!」
彼女は明るく、とても相談を受けている人とは思えない程の笑顔だった
が、決して間違ったことはいっていなかった。それでも僕は頷くことが
出来ないのはただの感性の違いなんだろう。

考えすぎ。
彼女はそれが全ての元凶であるかのように切り捨てたけど、どうしても
僕は納得出来なかった。
24時間、48時間、72時間、今日と、延々考えていても答えがない
ことは理解したものの、考えることをやめる理由を必要としている自分
には不可能のように思えた。

「狭い世界」
こんなにも出口の見えない内面が、入り組んでいるというだけで狭い世界
なのだろうか。

自分と同じ悩みを持つ誰かのため、何になればいい。
誰かが自分のようになってしまわないため、どうすればいい。
彼女の言葉のループからいつもの考えに戻ると気付いた。
狭い世界というよりも、むしろ僕はその逆の世界にいるのだと。

広い世界

広い世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-23

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