学戦関連(マコト)
無銘(烈火+柘榴)
埃を被って眠っていた。
それが何なのか、烈火にはよくわからない。いつもの通りどやされて、蔵の片付けを言い渡され、渋々と古い扉を開けた。ぶつくさと届かぬ恨み節を連ねながら、適当に動かした箒で軽く砂を払っていたのである。
――が。
ふと目に留まったのは、視界の端に転がる銀塊だった。
作業台の下に転がされている。暫し見詰めてから、何の気なしに近寄っていく。箒と塵取りを放り出した烈火の目には、図らずも見付けた眠れる宝物しか映っていない。
ところどころの錆びた鉄だ。開け放した入り口から差し込む光が、烈火の形に遮られて映っている。鈍く銀に輝くそれには、目を凝らせば柄がある。
――刀だ。
ゆっくりと手を伸ばす。埃でざらつく柄を引き出し、両手で掴んで持ち上げた。
烈火の――身の丈ほどもある剣だった。学校の軍事訓練でも見たことがない。一番大きな刀身でも、小柄な彼が片手で扱える打刀が精々だ。それが、世界にはこんなにも長い刀身が眠っていたという。
恐る恐ると日にかざす。呑気な日の光が、薄暗い蔵に差し込んで、埃にまみれた白銀を静かに照らしている。
自身の手には重すぎるそれに――。
弾かれたように走り出した。両手に掴んだ宝物を傷付けぬよう、すっかり鈍った刃先を抱え込む。漲った瞳で、彼は自身に掃除を命じた男の背へ声を張り上げる。
「じいちゃん! 俺、これ使いたい!」
皺の刻まれた顔に驚愕を浮かべる。その表情が苦々しく歪むのも、今や烈火の目には映らない。
――故に。
馬鹿者、と続くいつもの怒声に、烈火は普段よりも数段大きく肩を跳ね上げた。
「そんな得物が鍛錬もなしに使えるものか! それより掃除はどうした!」
「んなのどうでもいいだろ、なあ、これ俺のにしていいか? いいよな? 誰も使ってないんだろ?」
結局――。
果てのない押し問答に、祖父の白旗が上がったのは、宵闇も近くなろうかという頃合いであった。
明日には刀鍛冶に研がれるというそれを、烈火は上機嫌に抱えている。ようやく手に入れた正真正銘の自身の得物に、しかし彼は違和感も覚えていた。
これは――多分、自分だけのものではないのじゃないか。
柄を握ったとき、かつての誰かが手を添えたように感じた。使い込まれて、刀の方が握り方を覚えてしまったのかもしれない。埃を被るほど待ち望んだ主人は自分ではないかもしれないが、ただ。
――眠らせておくのは可哀想だった。
もう一度握る。確かに手に馴染んで、そこにいた誰かが遺した温もりさえも感じられるようだった。
「いつか使いこなしてやるからな」
ここにいた誰かと同じように。
九十九の神が宿るという無機物に笑って、烈火は目を閉じた。
学戦関連(マコト)