Fate/defective c.?
天賦の才能を持つ人間は、そうでない人間を助けなければならない。
僕と、その「キャスター」はまごうことなき天才だった。そしてキャスターは生前、天才らしく、人々に救済をもたらした。
『私と君は同じだ。天才で、人々と違う。だから、他の人にはできない、責務を果たす意思がある』
かつて運命に出会った夜、僕はその責務を見つけた。天才にしか出来ない責務。人類に対して果たすべき責任。
すなわち、人類を混沌とした争いの世から救い出すこと。
沙条愛歌も為し得なかった、ビーストの召喚、人々の思想の更新、無欲の人々による理想の世を築くこと。
沙条愛歌は、セイバーへの恋慕という余分な感情の為に偉業を失敗した。でも僕は違う。とても冷静に、完璧に計画を遂行できる。恋は目をくらませ、論理を滅ぼすが、純粋な人類愛は目を冴えさせる。僕は人間を愛しているし、そして同じくらい憐れんでいる。
『そう。私と君は、悲しいくらい同じだ。人間が好きで、人間を愛している。このまま進めば、かならず死の神罰が降りかかるだろう。禁忌を禁忌とも思わず、理想を疑いもせず、偏執するならば』
そんなことは無い。
神代は去った。残されたのは、神々から見放された人間の悪意と憎悪、それらが絡み合う複雑な社会だけだ。
僕は人間を愛している。
愛しているからこそ、成長させたい。
全てを悟り、皆で同じ、平和の境地に立ちたい。
それだけのことが、なぜ罰を与えられる罪になるのだろう?
「マスター。私は君に、私と同じ道を歩んでほしくない。君の願いは至極真っ当で、眩しすぎる。理想論だけでは生きていかれない。こんな戦争はもう閉じよう」
「何故?」
「――――なぜ、お前が僕を否定できるんだ? 死という欠陥を忌み、それを天賦の才能で克服してみせたのはお前じゃないか。僕はお前を尊敬している。力を貸してくれよ。理想を達成するために得た奇跡を、英霊としてマスターである僕に行使してくれ!」
「それは私の意志では承諾できないな。神々はそれを許さないし、その犠牲になった子を更に汚すことは出来ない。君に、私と同じ道をたどってほしくはないよ」
キャスターは真珠のように艶やかな髪の間からのぞく、孔雀色の双眸で僕を見た。彼は一切の怒りや憎悪なしに、純粋に、切実に僕の身を案じているようだった。
「そんな心配はいらないよ。もし神がいたとしても、僕のことを罰するはずがない。だから、さあ、ほら――――」
「できない。私は、そんな歪んだ理想に加担するために現界したのではない」
「……そこまで言うか、キャスター。ならば、令呪二画を以て命じよう」
「第一の宝具を展開し、僕と聖杯を繋げ。そして、捕えた魔術師の魔術刻印と魔術回路を、僕に移植しろ」
キャスターは静かに粘った。凛として立ちながらも、全身を強張らせ、強引に開かれる宝具を閉じようと必死になった。両方の手を握りしめ、祈るように。
青い火花が散る。
「ねえ、無駄だよ、キャスター。令呪に逆らえるサーヴァントはいない。手間を取らせないでほしいな。じゃないと―――友人である君に、怒ってしまいそうだ」
「……私と、君は、確かにかつて友人だと、思った。が、今は……私にとっての君は、ただの悲しい鏡写しだ。人間に、同じ轍は、踏ませない!」
キャスターは目を閉じる。苦悶を額に刻む眉根の皺は一層深くなる。それでも無意味だと知りながら、そのサーヴァントは最後まで主に抵抗し続けた。
『ああ、ダメだ、やめてくれ―――アーノルド。どうして。どうして分かってくれないんだ。
大神よ。どうか彼に雷霆を与えてください。踏み越えてからではもう、遅いのに――――』
「命よ、垣根を越え給え。
――――――――『生命全知の蛇杖』……!」
Fate/defective c.?