文化人

村の掟

この村では
生まれると同時に村の長から
『使命』を言い渡される。
それは、ひとりひとり違っていて
「来たる厄災を討つ」とか
「魔神を追い散す」とか。


そんな恐ろしい『使命』に反して
この地に住む人々の暮らしは豊か。
海に山に囲まれたこの村で
人々はのびのびと暮らしている。
厄災?魔神?
そんなものはいるはずはない。
『使命』なんて忘れて人々は過ごす。


でも、今もなお
この『使命』の文化は続く。
なんのために?

この『使命』が輝くのは
生命としての最後。
つまり、死ぬとき。


ある青年が崖から転落死した。
しかし、村の人々は青年の
死因を転落死とは認めない。
目撃者がいるのに。
村の人々は青年を
山のような亀に殺されたという。
青年の『使命』は巨大な亀と戦うこと。

ある老人が病で死んだ。
しかし、村の人々は老人の
死因を病とは認めない。
皆が看取ったのに。
村の人々は老人を
魔女の呪いで殺されたという。
老人の『使命』は魔女の壺を奪うこと。


この村の人々は
死んだものたちを皆
『使命』の最中に散ったもの。
つまり、『英雄』と評するのだ。
悲しむことはせず
彼らを讃え続けていく。


ひとりひとりの『使命』は
ひとりひとりの『神話』に変わり
彼らを『英雄』たらしめる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-15

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