未の刻の崩壊
本題
私はとある小さなお城の城主の長男だった…それはそうだな。ざっと室町時代とか安土桃山時代くらいの話だっただろうか。その日はやけに物悲しく、うす暗い空模様だった。窓から見える木の葉も茶色い服を着始めていた。はらりはらりと山の木も元気を失っていった。私はそんな景色を見るのがたまらなく好きだった。いつものように窓から外の様子を見ていると、小さいころからの友人が私に声をかけてきた。
「おまえ…あいつに気があるんだろ??」と。
当然私は知らないふりをしてみるが、何分嘘が付けない性格なせいかあっという間に友の予想は確信にかわってしまった。私は城内のとある女性に気があったのだ。ちょうど私と同年代だったか。そう、確かにそうだったのだ。そこで友は言った。
「いつまでも見てるだけで、その時を待っているだけで、我慢し続けられるのか?」と。
あぁ。そうだ。私は愚かだった、愚かだったのだ…。我慢し続けられるわけがなかった。
「俺も応援してやっからよぉ。なぁ?」
そういわれ私は窓際から離れた。そうだな、その時のことははっきり覚えている。未の刻、つまり14時ごろだった。
もうその女性のことしか頭になかった私は愚かだった。彼女がどこにいるとも知らない中、私は直感が妙に冴えわたり、大広間に向かった。そこにいる気がしたのだ。辺りはやけに静かだ。静まり返っている。逆にうるさく感じるほどに…。意を決して大広間に入っていくとそこには私が大好きなあの人がいるではないか。もうあまり覚えていないが彼女は私の姿を認めると、話しかけてくれた。そんな中私はもうどうにも我慢がならなかった。彼女の服の裾をまくろうとした。抵抗された。押さえつけようとした。抵抗された。押さえつけようとした。危害を加えてしまった。私は彼女の抵抗を押さえつけようとするあまりに暴力をふるってしまった。そのせいか辺りは少し血で染まってしまい、彼女は叫んだ。
「や…やめてっ!」と。
その時、偶然廊下を通った召使の女に見つかってしまう。
「おやめください!若様!!!」
などと言い、その女は必死で私と彼女を引き離そうとした。騒ぎはみるみる大きくなり、住み込みの者や家臣なんかが男女関係なく大勢集まってきてしまった。激しく抵抗した私だったが、数には勝てなかった。あまりにも人の数が多いものだから途中で何もかもイヤになって抵抗することをやめた。
これはとても大きなことをしてしまった。一城主の長男、次期筆頭がこのような大事件を起こしてしまった。有無を言わさず、父上は私を追放なさった。しかし、私の身分も身分だけに、監視の意味も込めて城の者が総出で門の前に立ち、私を見送った。絶望と名残惜しさは私を振り向かせた。あぁ。何ということだろうか。私の耳元で甘い言葉をささやいた私の友は薄ら笑みを浮かべているではないか…。その時ようやく気が付いた。
「あぁ、そうか。すべて、私を陥れるための罠だったのか。」
その後
その後__城を追われた身となった私はゆく当てもなくあたりを彷徨った。すこし、またすこし、と城は小さくなっているんだろうな。後ろを振り返らない私は思った。歩みを進めるほどに、うまく嵌められたことに対しての怒りというのか、恨みというのか。そう言ったよくない感情が次から次へと湧き上がってきておさまらない。歩みを進めるごとに、大地に八つ当たりしている私がいる。歩みを進めるたびに私の思考は我が友に侵されていった。
そんなふうに、私の感情が自然状態に著しく反したためだろうか。因果応報というやつだ。いつの間にか山に入っていた私は足を滑らせ、谷の方へ転落した。いや、正確には落下したという方がふさわしいだろう。しまったと思ったときにはもう遅かった。地の力の下では私はあまりに無力だった。あぁ、それは他から見たらいったいどのような光景だっただろう。私の身体は木の枝に刺さっているようだ。ちょうど胴のあたりだ。熱い…熱すぎる__。
幸か不幸か、私は即死しなかった。私は暫く生き永らえた。胴に刺さった木の枝が私の身体に、精神に、突き刺さっていた。もはや私には恨みしかなかった。魂の叫びが響き渡った。そうして私は人通りの全くない谷間の木に突き刺さったまま2日間わが友を呪った。それこそ死力を尽くして、だ。
他人から見れば欲に負けてしまった私にも非があることは明らかだろう。そんなことも抑制できなかった私は愚かだった。そう気が付く日がいつの日か来ることを祈り__「終幕。」
未の刻の崩壊