痛そうなアジ

 痛そうなアジが泳いでいた。泳いでいたとは言えないかもしれない。
 銀色の皮がむけて、赤黒いすごく痛そうな傷をつけたアジは、水槽の下の方で漂っていた。
 水面にお腹を向けて、背ビレも尾ビレも動かないから死んでいるんだと思った。
 でも、口がぱくぱくと動いた。痛そうなアジは生きている。
 他のアジたちは、銀色をひらめかせながら上の方で泳いでいる。
 不思議なほど同じ方向を向いて。右に左に泳いでいる。
 その下で、痛そうなアジは漂っている。ただ流されている。
 ああ、痛そうだなって思っていたら、店員さんが私に言った。

 「サバ定食お待たせしました」

痛そうなアジ

ただの実話です。魚料理の店で、水槽に一匹だけ傷ついたアジがいて。すごく痛そうで。魚に痛覚あるんだっけ?とか、そもそもこいつら食べられるためにここにいるんだよなとか考えてしまって。単に「痛そうなアジ」ってフレーズが気に入っただけかもしれません。

痛そうなアジ

本当に痛そうだったんです……

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-08

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