はなむけの言葉
「なあなあ、俺って優等生だよね?」
「まあ、表面上はな」
「で、成績もいい方じゃん?」
「っていうか、入学からずっと学年一位じゃねーか、嫌味か? 嫌味なのか?」
「まあまあ。で、もうすぐ卒業式じゃん? 在校生代表として3年生に『はなむけの言葉』を贈るのは俺しかいないじゃん?」
「そうかもな」
「実はさっき先生にやれって言われたんだ。『光栄だろう? 光栄だろう?』って『光栄です』って言うまで言われた」
「へえ」
「で、さっそく原稿書いたから聞いてくれ!」
「え? もうできたの?」
「うん、いくよ」
厳しい冬の寒さが和らぎ、みなさまの門出を祝うかのように校庭のさくらの蕾も膨らみはじめました。
3年生のみなさま、本日はご卒業おめでとうございます。
在校生一同、心よりお祝い申し上げます。文化祭、体育会、生徒会と私たち後輩をリードし、導いてくださったこと私たちは決して忘れないでしょう。何事にもひたむきに取り組まれた先輩方は私たち在校生の憧れでした。
先輩方は、この学校で学んだことを礎にこれからも新しい世界でご活躍されることでしょう。私たち在校生は、先輩方から受け継いだこの学校の理念である「文武両道」を胸に刻み、決して馴れ合うことなく互いに切磋琢磨しながら歩んでいきます。
先輩方もときには母校を訪れ私たちを励まし、ときに叱ってください。
最後に先輩みなさまがたの健康とご活躍を心よりお祈りし送辞とさせていただきます。
「へえ、すごいじゃん。つか、お前がそんなに卒業生を尊敬しているとは知らなかった」
「は? してるわけねーじゃん! 俺帰宅部だぞ、そもそも知ってる先輩いねーし」
「心にもない言葉かよ!」
「あたりめーだろ! こういうのは『心にないこと』じゃないとダメなんだよ。心にあることをちょっとでも入れてみろ、先生に『心がこもってない!』って怒られるだけじゃん」
「……言われてみれば確かに。じゃあ、心にあることを言ったなら?」
「どうでもいい。早く帰りたい」
「まあ、そうなるわな」
はなむけの言葉
自分で設定したテーマが「はなむけ」 卒業式の「呼びかけ」ってまだやってるんですかね? 「校長先生の言葉」に並ぶ、「誰もがいらないとわかっているのに、誰もつっこまない」習慣だと思います。逆に言えばあんなに面白いものはないと思います。