あなたのため

いつまでたっても子離れできないと子供は将来何もできなくなります。


 これは全て貴方のためなの――

 小さい頃からの母の口癖だ。

 お友達も学校も、部活も全て母が決めた。

 明日着ていくお洋服も玩具も全部全部母の思い通り。

 口答えは許されない。私の意思はいつも通らない。反論する私に母が言う。

 「これは全て貴方のためなのよ」

 母の言葉を信じて、母が決めたレールの上を歩いた。

 私の人生は母と共にあって、母に手をひかれてここまでやってきた。

 これから先も私は母に手をひかれてレールの上を歩く事だろう。

 だけど私は初めて母の手を離れたいと思った。

 母の敷いてくれたレールを外れて新しいレールを歩きたかった。

 母以外の手にひかれて、私はただその道を歩いてみたかっただけ。

 だけど母は許さなかった。

 貴方のためと言いながら新しいレールを私から取り上げた。

 悲しくて辛くて初めて母に憎しみを抱いた。

 だけど何もできず、私はまた母に手をひかれてレールを歩くしかなかった。

 ずっと逃れたいと思いながら、私は母から離れる事が出来なかった。

 これから先も私はずっと母と2人。

 長いレールを歩いていく。

 レールに終わりはないけど、母には終わりがあった。

 母がいなくなって、私はレールの上に一人ポツンと残された。

 誰も私の手を引いてくれない。

 この先、私の事は誰が決めてくれるのだろう。

 不安と恐怖。

 助けて。タスケテ。たすけて。

 ああ……そうか。

 私もそうすればいいんだ。

 手を引いて歩いてくれない方がよっぽど怖い――これも私のためでしょ?お母さん。

あなたのため

あなたのため

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-03

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