桃太郎
「じゃあ、うちのクラスが学芸会でやるのは『桃太郎』でいいですか?」
先生がそう言うと、男子が「はーい」と返事をした。「白雪姫」にしたがっていた女子たちは、顔を見合わせては小声で悪口を言っている。
「では、役をきめましょう。みんな積極的にこの役をやりたい!って手をあげてくださいね。立候補してくれた人を優先にします。誰も立候補がないときは、推薦してもらった人の中から投票して決めます。じゃあここからは、学級委員の2人よろしくね」
そう言って先生は横の自分の席に戻って行った。
代わりに男子と女子の学級委員が席を立って教壇の前に移動する。2人は顔を見合わせしばらくて不安そうにしていたが、男子の委員が口を開いた。
「じゃあ、まず主役の桃太郎やりたい人いますか?」
「はい!」
学級委員が言い終わる前に僕は手を挙げた。
一瞬、静まり返る教室。
「浦田くんはちょっと……」
女子の学級委員がつぶやくと、男子の学級委員が「他にいませんか?」とさっきよりずっと大きな声で言う。
でもクラスメイトは顔を見合わせるばかりで、誰も手を挙げない。
「はい! 僕がやりたいです!」
僕は上げた手をさらに高く挙げた。が、誰ひとり僕を見ない。
「他にいませんか?」
男性の学級委員がさらに声を上げる。しかし、男子は全員目を合わせようとしない。
女子はこそこそなにか言い合っている。
「じゃあ、浦田でいいの?」
男子の学級委員が言うと、クラス全員が「やだ!」と声を上げた。「絶対ヤダ!」「ありえない」「それならやらない方がいい」全員が騒ぎだした。
僕は頭に来た、どうして僕が桃太郎をやってはいけないのか! 僕は立ち上がると、自ら前に出てチョークを持ち「桃太郎…」の下に自分の名前を書こうとした。
「ちょっと、やめろよ!」
そのチョークを男子の学級委員が取り上げようとした。
なんでだよ!
僕は学級委員をつきとばした、それでも相手は僕のチョークを奪おうとしてきたから、今度はもっと強く突き飛ばそうとしたら手で防がれたのが頭にきて、今度は蹴った。相手が倒れたからその上に乗って、僕は今度こそ学級委員の顔を殴った。殴った。殴った。
「浦田くん! やめなさい!」
両腕の下から腕が伸びてきて、大きな有無を言わせない力で僕は引き離された。いつの間にか後ろに来ていた先生だった。
まだ殴ってやりたい気持ちが抑えきれず、腕をぶんぶん振り回してみても、びくともしない。くやしい。くやしい。くやしい。
真っ赤になった頭のどこかで、先生が保健委員に学級委員を保健室に連れて行くことと、他の生徒は自習しておくように指示しているのが聞こえた。
多分このまま職員室に連れて行かれて、親が呼ばれる。
そして、またすごく怒られる。
僕は悪くない。
でも、きっと謝るまで怒られる。
桃太郎
ある方のブログに「サイコパス」についての考察が書かれていて、それを読んでいる内に浮かんだ作品です。きっと普段から浦田くんはいろいろ一方的かつ乱暴なことをして、クラスのみんなに心から嫌われているんでしょうね。
でも、発達障害もサイコパスも生まれつきのもので、本人の努力で治るものじゃない。
もちろんサイコパスだからって人を傷つけて言いわけじゃない。
でも周りに理解されずに、生きるの辛いだろうなとも思います。