お地蔵さん


 なんつーか、最近微妙な立ち位置だなーと思うわけよ。
 え、俺? 地蔵、地蔵!
 一応尊敬をこめて「お地蔵さん」って呼ばれてはいるけど、さま付じゃなくて、さん付けなのがミソだ。
 そもそも、俺を見た人間はなんとなく微妙な顔をする。
 「つか、お地蔵さんって、何?」的な?
 なんか漠然とありがたいモノだって認識の奴が多すぎるつーか。ほら、阿修羅像とか、千手観音とかいかにも神様って感じの仏像なら即行ありがたがってくれるわけだが、俺は地蔵。
 地蔵ってコンパクトな上に、街のあちこちにあるから「本当にこれ拝んでなんかご利益あるの?」的な疑問をうっすら持ちつつ、まあでも拝んでおかないとバチとか当たりそうな気がする的な気分で拝むやつがほとんどだ。
 とりあえずで拝まれる俺の立場もたまには考えて欲しい。
 まあこれも時世の流れ、しかたないといえばしかたない。
 俺なんて割と細い路地に居るもんだから、よく「え、居たの?」的な目でよく見られる。しかたないだろう、作った奴がここに設置したんだから。
 だから、そんなに大切にされることもなく、微妙にカビとか生やしながら、でも、撤去するわけにもいかないし、なんかご利益あったらめっけもの的な立ち位置の俺をわざわざ拝みに来る人はまずいない。
 そうそう、一人だけいる。
 週に2,3回くるじいさん。よろよろしながらやってきた、必ずひよこの形のまんじゅうをお供えして俺をしばらく拝んでいく。
 近所にはもっとちゃんとした神社があって、願い事とかは全部そっちに持って行かれている状態なのに、奇特なじいさんだなーと思ってた。
 その理由が、ある日わかった。
 じいさんがボソッとこうつぶやいた。

「お地蔵さん、あんたの顔……死んだ女房に似てるんだよ」

 そこまで聞けば、だいたいわかった。
 一応、地蔵だからな。人間よりは勘がいい。地蔵だからって人間の心全部見えるわけじゃないけど、人間の方で心を開いてくれればわかる程度には。
 無くなった奥さんにもっと優しくしてやればよかったとか、なんかそういう感じらしい。
 そんなこと言われても、俺は地蔵だから。
 じいさんの告白に返事をすることもできなけりゃ、その禿げ頭を撫ででやることもできない。地蔵のボディは石だし?
 地蔵にしては、ライトな感覚で存在しているつもりの俺だが、珍しくしょぼんとしてしまった。もちろん表情が変わるわけないけど。

けど、じいさんは俺の顔を見てにこっと笑った。

「いいんですよ。聞いてくれるだけで」

そっか……。
じいさんはその日もひよこのまんじゅうを置いて、よろよろと帰って行った。
死んだ奥さんの好物らしい。

お地蔵さん

誰もお題をくれないから自分でお題を出しちゃうぞシリーズう第2弾。
ライトな感覚で生きているお地蔵さん、けっこう気に入りました。

お地蔵さん

いや、俺いちおう地蔵やってんだけど。最近なんか立ち位置ビミョウな気がすんだよね。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-30

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