時計

 時計は嘘をつくと私は思っている。
 時計の通りに出勤したら、いつもより1時間早く着いてしまったことがある。いつも遅刻しがちだと上司に怒られたので、時計を1時間早めておいたのをすっかり忘れていたせいなのだけど。
 
 それならまあ自業自得と言えなくもないのだけど、こないだの嘘はあんまりだ。
 12時半に待ち合わせたはずが、友人は13時半と表示された電光掲示板の前に立っていた。なんと部屋の時計がキッチリ1時間遅れていたのだ。いくら電池が切れかかっていたとはいえ、あまりに時計としてのプライドがなさすぎる。
 友人はというと、怒ってくれればいいのに、異常に他人に気遣いをする性格の女だからして、待ちすぎて疲れを隠せないくせに私を責めなかった。何もなくてよかったと笑っていた。そんな性格でよく今まで誰にも騙されずに生きてこれたものだと感心する。

 だから私は信じない。
 私の時計が止まっているのは、故障に違いない。私の派遣先の時給が安いから時計だって安物しか買えなかったせいだ。
 例の人の良すぎる友人が、眠っている私の横で大泣きしているのもきっと気のせいだ。
 そうに違いない。

時計

時計

時計は嘘をつく。だから私は悪くないし、、これもきっと嘘に違いない。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-29

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