けむる

 学校のはんぶんが、ガマズミ、という花にうめつくされてから、半年が経って、空は、いつも、くすんだ青色をしていて、太陽は、どことなしか暗くて、きみが、ときどきつぶやく、呪文のようなことばを、通りすがりの女の子が、メロディーをつけて歌っていて、この街は、いつ息絶えてもおかしくはないと、ニュースや新聞で連日伝えられているけれど、ぼくは、公園の池のところにある売店で、ソフトクリームをたべることをやめないし、きみのお兄さんも、どうぶつのぬいぐるみを縫うのを、やめないし、きみは、呪文のようなことばをつぶやく以外は、ふつうの女の子で、花柄のスカートがよく似合っている。
(そうそう)
 ガマズミのしたには、なんにんかのひとが、うまっているってはなし。うまっているのは、生徒、教員であるが、半年も経てば、ガマズミの根が、からだにからんで、もしかしたら体内にも、生やしているかもしれないね、なんて、よく行くレコードショップの、マッシュルームヘアーのお兄さんが、おもしろおかしく言ってたけど、それってすごい、こわいことじゃん、と思いながら、ぼくは、ぼくが、うまれるよりも二十年も前に、発売されたレコードを、しゅたしゅたしゅた、と物色していて、店のなかに流れる音楽は、ときおり、ノイズで、とぎれとぎれだった。初夏に咲いた、ガマズミの花は、白くて、秋には赤い実になった。血を吸ったように、赤々としていた。
 息をとめると、きみがみえる。
 公園の池にいるカルガモは、たまにおしゃべりをしている。ここも、あと半年くらいかしらねぇ、居心地よかったのに、ざんねんねぇ、なんて言い合っていて、ぼくはそれを、ソフトクリームをゆっくりたべながら、聞いている。

けむる

けむる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-29

CC BY-NC-ND
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