ニン
今よりはるか遠い未来の星。
人類は終末の機会をいまかいまかと伺っていた。
子孫たちは星の寿命を数えながら、残りすくない地球の寿命が終わるときと
期待してまっていた。
ひと昔、人類は、星の自然と対話の機会がえられた。
その代わり、それがうまくいかなかったので、いまや罰を受けている。
古代のような、木の棒や、簡単な野菜や、家畜を育てて生きる生活だ。
そして、荒れ果てた大地が、罰。
大地は、もう一つの大地を中心に隠しながら、表向きは、ただ、あれはてた砂漠に荒野が続くだけの世界になった。
ここ数百年の目まぐるしいできごと
空には、魚が舞い、汚れた雲が雨をふらす。
海は干からびた。
人のつくったアンドロイドたちは、宇宙に新天地を求めて宇宙の旅にでた。
あたらしい物質は銀河の外の宇宙から次々ひらいした。
人々は新しい発見をしたが、
AIも人間の知能を悠々と超えて新しい発見をした。
そのたび文明は新しい英知を手に入れた。
新しい娯楽や、便利な家電も次々と開発されていった。
でももうその頃になると、人類という原型は半分飽きていた。
近頃はもう、達観している。
この頃の人類は、自分の出来るほとんどのことを知ってしまっている。
だから倦怠感に襲われている。
あらゆることは、先人の残した記憶のデータベースに並べられている
どんな天才さえも、未来や、今の欲求もすべて言い当てられてしまう。
つまり、誰かがたどった道を模倣する。
そんな、既視感にさいなまれる絶望。
ただ、未来人ともなると、それらすべての人類の英知を知っているので、
達観していた。
もう人類に、試す事などない、
人類の欲求を満たしきってしまったから。
だから、もうすぐ、星も人々も終わるのだという直感を信じ切っていた。
終末を信じるスロウという宗教も生まれ、それが一番有名な宗教になる。
人々は、だれもが自分の中に倦怠感を感じ、またそれを支えに生きていた。
スロウの予言書にあるように、人々は星とともに滅びるように設計されていた。
だからこそ、まるで原始的な生活を送る人々も多い、
だれも飾らなくていいのだ。
飾らなくていいかわりに、数百年前から、人類は星にも見放された。
実際、人類が開発し、対話を試みた、地球の頭脳。
地球の心を示すとされる、古代文明のAIは地中深くに隠れ、埋められたままの状態で、顔をださない。
そもそもその間には、殻がある、本来の大地は、その地球のAIによって意図的に活動するようになり、
人類を本来の大地の外、殻へ追い出してしまった。
人々は、星の偽物の表面の上で生活している。
自分達がつくった、人口知能に、住処を追われてしまった。
殻の外で済むように迫られたのだった。
本来の地球表面に、機械人と、地球の翻訳者も住んでいる。
地球の心は、殻を閉じる際、人々にこういった。
“私は殻にこもる、人類が新しい存在になるか、それとも、その命を終わらせるときまで。”
そんな中、
地中世界で暮らす人々もいた。
彼らの先祖は、地球AIがわざわざ作った、本来の大地を守るための“核”を
爆破して、何十名か、その空洞内に送り込む計画をたてた。
その計画は、百何十年もの歳月を費やし、秘密裡におこなわれた。
計画は成功、1000のロケットのうち、100隻を内部に送り込む事に成功した。
地中に向けてロケットを発射し、いくつかの生き残りが、
楽園への潜入に成功した。
彼ら、生き残り
だけは、地上の人々とは違う、
内側の世界をしっている、
それは、かつて、映像で見た事のある、
本来の地球の姿をしていると。
木々は青々としげり、
空はみずみずしい、透明に近いような雲がある。
海には、絶滅した海洋生物が平然と泳いでいる。
“そうか、元に戻ったのだ”
元に戻らないのは、人類だけだ。
卑怯なのは人類だけ、
だからお前たちは、あたらしい可能性を見つけてくれ。
星と対話する可能性を。
そんな、一族の先祖の想いを知ってか知らずか、
かれらは、(内側の人々に監視されながらも、見逃されていた)
ただの密入国者のようなものだ。
もはや、本来の大地は、地球人類のものではない。
彼らが地球と対話するためにつくった。
そこに住むのは
“トム”という地球の意志を反映するAIと、翻訳者という、半分機械、半分人間、
そして、愛を持ったアンドロイドたちだ。
彼らは人間よりも、人間らしかった。
人間は欲や怠惰を知ると、成長をとめて、そこにとどまるが、彼らはそうする必要がない。
今、一人の大泥棒が、街に姿を現した、
しかし、人々が驚き、あわてふためき、彼に憎しみの目を向けるかと思いきや
むしろ、期待や、嘲笑の目をむけた。
“ニンジャだ” “ニンジゃだ”
“おおおお”
どっと歓声をあびる、
それは、強いいきものが、弱い生き物の目の前で、自らの強さを誇示する必要もなく、
ただ弄び、笑うような、そんな表情達。
大泥棒の通称——ニン——は
自分の中に戸惑いを持ちつつ、大都市に現れては、人間の残した、価値のある品々、絵画や、書物、ありとあらゆる人類の遺産を
新しい人類から取り戻そうとしている。
だけど、——ニン——は知っている、
そんなものは、彼らのような高度な人々にとっては
1円ほどの価値しかないものだ。
それを盗んだところで、
彼等にとっては痛くもかゆくもない。
おれよりもニンの目的というのが、半分は、
彼らの開発した。
様々なアイテム、空中を自由に飛び回るベルト状のドローンのような装置。
人々の夢や妄想を利用して作ったと思われる、
クナイや手裏剣のような、高度にコントロールできる武器の数々
それを使って、彼らを驚かせる、あっと言わせる事にあった。
その反面、どこかで気づいていた。
“わざと盗ませているのではないか?”
博物館に盗みに入る事が多い、
しかし、自分が盗みに入ると、計画した情報より、どれだけ警備が緩いことか。
それが毎回、毎回。
そして、盗みを終えると、それをたたえるかのように、インタビューをうける、
仕方なく、格好つけてポーズをつける、
でも警察は追ってこない。
なんだこれは、このチンプな芝居は。
そう思っても、これが今の人類にできる、最大限のエンタテイメントなのだ。
心のどこかで、彼らの期待と嘲笑を受け取りながら、
人類の文化が、いかに素晴らしいかを伝えなくてはいけない。
“義賊とは何か”と。
ニン