草薙探偵事務所(仮)
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・序章
「錦糸町」
それが俺の街だ。
総武快速線も停まり東京の田舎にしては賑わっている方だ。
そうそう、俺の名は「草薙喜助」
死んだ親父の跡を継いで酒屋兼居酒屋を経営している。
午前、午後は酒屋、夕方からは居酒屋になる。
居酒屋と言っても駅から遠いし決まった客しか来ない。
だから、稼ぎも悪く潰れる寸前って訳だ。
だが、生計を支えるもうひとつの仕事が俺にはある。
その仕事とは…っというのがこのお話だ。
・第一話、拉致
えー…、歳は32歳、住所は錦糸…」
警察官が俺の免許証を確かめる。
真夜中の高速道路、この高速道路を俺はひたすら歩いていた。
何故歩いていたか?記憶から辿ると…。
そういえば、昨日は「仕事」だった。
酒屋?それとも居酒屋?いやいや、どちらも違う。
俺にはもうひとつの仕事がある。
その仕事とは「なんでも屋」だ。
なんでも屋と言っても表看板にはそう書いてはいない。
口コミだけで広がった所謂「裏の世界」専門のなんでも屋だ。
中学卒業後、俺は親父の跡を継ぐのが嫌ですぐに家を出た。当てもなくな。
そして、のたれ死にしそうになってたのを拾ってくれたのが
この仕事にキッカケをくれた「裏家業専門の探偵」を生業にしている男だ。
その男の下で「探偵バイト」をさせてもらいお陰で今の俺があるということだが…。
いや、正確に言うとこの力に目覚めさせてくれたっと言ったほうが無難か。
っと少し脱線してしまったな。
昨日の仕事とはある人物の護衛だった。
そのある人物とは東南アジアに2つのマフィアを持つ通称「クレイジー・マットソン」
若い時は爆弾魔として恐れられ敵のアジトを
潰す時は迷わずC4(プラスチック爆弾)を使うなどイカレぶりからその名がついた。
マフィアにしては珍しく、日本の極道と同じく義理人情が厚いマフィアのボスだ。
そんなボスの護衛を頼まれちゃ流石の俺もビビる。
午後3時過ぎ、酒屋経営時にサングラスに黒いスーツの黒人が
二人も入ってきちゃガラガラの店がさらにガラガラになっちまう。
「アナタ ガ キスケクサナギ?」
我が酒屋は電気を使わず日の光だけで店内の明かりを支えている。
決して金をケチってる訳ではない。言うならばEcoだ、エコ。
まぁ夕方になったらあんまりにも暗いから店内の中央にある裸電球ひとつはつけるんだが…。
日の光だけで支えている店内ではこの黒人はやたらと大きく感じた。
直感でわかるんだよな。
(あぁ、またロクな依頼じゃねぇ…)と
裏家業専門のなんでも屋だとロクな話は入ってこないが(苦笑)
「ああそうだが、表の看板にも書いてあるがここは「酒屋」だ。用がないならとっとと出ていきな」
あっちは黒いスーツ
こっちは股引に腹巻
どう考えても喧嘩したらこっちが負ける服装だよな。
「アイタガテル、ボス ガ コイ」
おいおい、いきなり銃を突きつける奴がいるかよ…。
奴らはそう言うなり俺を股引のまま黒塗りのベンツに連れ込み1時間ほど走らせた。
まだ5月だというのに暑い
「おい、冷房つけろよ、テメェラ暑くないのか?わかるか?レーボーだ」
後部座席に黒人二人に挟まれ俺は真ん中
キツクて物凄い暑い訳だ。
「ダマレ、オマエモノイウケンリナイ」
銃を突きつけてた男が言う。
(ただ日本語わからないだけじゃねぇのか…。)
その時ちょっとだけ頭にきて、からかってみた。
「いやー、お宅「権利」なんて難しい言葉知ってるんだな」
銃を突きつけてた男が俺を睨んだ。
「オマエ、ダマレ!シニタクナケレバ クル!」
冗談も通じなさそうなので俺は適当に相槌をうつ。
「へいへい…。」
「オイ デル!」
いきなり車が停まり、そう言われた。
(「出ろ」って言いたいのか…?)
指示されるがままに車を降り周囲を見渡す。
(ここは…、赤坂か…?)
昔、「探偵バイト」時代に一度来たことがあったのでなんとなく覚えていた。
やたら豪華なホテルの一室に連れ込まれた、股引のままでだ。
そこには過去のブラックリストに載っている男が3人ほどいた。
そして一番奥の男が一番厄介そうだった。
第二話、仕事
「部下の無礼を許してくれたまえ、あれでも私に命を捧げているのでね」
一番奥の厄介そうな男が口を開く。
「ああ、股引のままこんな豪華なホテルきたのは生まれて初めてだ」
怯まず俺も反撃の口を開く。
ここで怯むと「コイツは使えない」と思われ
問答無用で東京湾にコンクリ詰めで落とされるケースがある。
「実は…、君に仕事を頼みたくてね。君の師には相当世話になったものだ。」
物静かに厄介そうな男が答える。
「残念だが俺の師は七年前にとっくに他界している。それに俺はアンタが好きになれない。」
睨みを利かせ男を挑発する。
「ハーッハッハ、面白い男だ。確かに言葉の使い方がアイツに似ている。」
(「アイツ」と言うのは師のことかこの男、師匠とどこまで…。)
俺の心を見透かしたのか男は言う。
「彼には何度も命を救ってもらったのさ、そうでなければ左足だけでなく全身木っ端微塵だったのさ」
苦笑しながら義足を俺に見せ付ける。
「さて、本題に移ろうか」
手前の男が話を切り替える。
「君にはボスの…、マットソン氏を護衛してもらいたい。」
手前の男は静かに話を持ちかける。
「マットソンだって!?」
俺は過敏に反応してしまった。
ブラックリストで見ていたが「見かけていた」と
いう程度だったので顔は覚えていなかったのだ。
しかし「マットソン」という名は有名だ。
(そうか、このオッサンどこかで見ていたと思ったらマットソンだったのか…。」
「おいおい、そんなお偉いさんを俺に護衛させて大丈夫なのか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「君だから頼むのだよ。アイツはもうこの世にいないからな。本当に惜しい男を亡くした」
気のせいかマットソンは涙目になっているような気がした。
「………わかった。この依頼引請けよう」
何故かこの時俺は密かに師匠のことを聞けると確信していた。
俺は師匠の過去を知らない。過去に師匠がマットソンの依頼を請けた時恐らく
俺は師匠とまだ出会っていない。
「ただし、条件がある。」
睨みを利かせ断固この条件は絶対であるということを伝えたかった。
「次は日本語わかる奴を寄越してくれ」
笑いを堪えながらマットソンは苦笑していた。
「んー、マンダム」
一夜明けて俺はホテルのスィートルームでハーブティーを頂きながら
プールサイドか南国の海のようにくつろいでいた。勿論股引のままで。
「護衛は明日から」とマットソンの側近から言われ、詳しい説明もされず
昨日一日はホテルに缶詰状態だった。
【トントン。】
ノックの音がした。
「どうぞ」とドアの方に顔を向ける。
「ルームサービスになります」
ボーイがそう言い、なにやら長い服のようなものを取り出した。
「あ、メッセージがあります。どうぞ」
そう、ボーイが言うと俺に手紙を手渡した。
「追伸草薙へ、その日本の着物「モモヒキ」では仕事にならないだろう?
私が用意させたスーツをきてくれ」
マットソンからの手紙だった。
今のルームサービスってスーツも取り寄せられるのか…。と関心したのは言うまでも無い。
気づけばマットソンの部屋に呼ばれてるのはAM10:00
現在AM9:50、結構やばいぞ俺。
素早くスーツに着替えるがなかなかネクタイがうまく結べない。
ネクタイなんて成人式以来マトモにやったことはないからだ。
仕方なくネクタイは諦めそのままマットソンの部屋へ行く。
ネクタイより時間厳守だろ?と俺は思ったが間違っていた。
マットソンの部屋に軽くノックをし「どうぞ」と言葉が返ってきたので部屋に入る。
ブラックリストで見かけた男、どうやらマットソンのボディーガードらしいが…
部屋に入るなりいきなり床にねじ伏せられた。
「貴様、ネクタイはどうした!?」
そのまま反撃してもよかったがここで血を見せちゃ素直に帰してくれなさそうだし素直に答える。
「ネクタイは俺の性に合わなくてね、結べなかったんだよ」
するとボディーガードらしき男が唖然とする。
「ボス、本当にこんな奴でいいんですか…?」
ボディーガードらしき男が不満そうに尋ねるとマットソンは笑いながらこう言い放った。
「本当に君は師にそっくりだな!ますます気に入ったぞ!」
まるで子供に玩具を与えたときのようにマットソンははしゃいでいた。
(そういえば、師匠もネクタイが嫌いだったな。)
「ふ、まぁいい。では護衛の説明をする。」
やっと本題の話が入った。
第三話、品格
「ちょっと待った!」
護衛の内容を説明していた側近の口を止めさせる。
「護衛って事は、誰かに狙われてるって事だよな?」
確実に厄介な敵に狙われていないかぎり普通はボディーガードがいるのだから
わざわざ俺を指名しなくてもいいハズだ。
マットソンは下を向き溜め息を吐いてこう答えた。
「東京には凄腕の刑事がいるのだろう?奴に命を狙われているのだよ。」
刑事…?
「まさか知らないのかね?」
マットソンが驚いたような顔をした。
「…ああ、見当はつくがアンタのお目にかかるような奴は…」
ふむ、と考えたようにマットソンは口を開く。
「君は高見沢健吾という男を知っているかね?」
「!?高見沢だと!」
高見沢健吾という男。
この男は以前、師匠と共に組んで東京全体のヤマをいくつも片付けてきた男だ。
実際に会ったことは無いが師匠が俺よりも信用する男と聞いていた。
でも、確かこの高見沢は…
師匠が死んでから刑事を退職して行方不明になったハズだ。
そんな男が何故今頃になってマットソンの命を狙うんだ?
疑問になって聞いてみた。
「奴は…、私が君の師匠「ミツキ」を殺したと勘違いしているようなのだ。」
それは勘違いというものだ。
師匠は七年前、ヘマをした俺をかばって死んだのだ。
俺が殺したのも当然なのだが…。
暗い顔をして下を向く俺にマットソンが問いかける。
「君は…、私がミツキを殺したと思うかね?」
一呼吸置いて答えた。
「いや…、違う。殺したのは紛れも無く俺だ。」
場の空気が変わる。
「どういう事かね…?」
マットソンの殺気が俺に全て向けられる。
「俺が…、ヘマをして、俺をかばって死んだんだ…。」
大きな溜め息の音が聞こえた。
「…君をかばったんだな。立派な最後じゃないか」
やれやれ、という顔をして少し大人気なかったとマットソンは謝った。
「で、話を戻しますがいいですか?」
側近が申し訳なさそうに言う。
「どうぞ」
俺は軽く答えた。
「高見沢は恐らく、移動最中に襲撃してくると予想出来る。」
「どこ見ても人が多いから自分がやったってばれるのを避けたい。って考えたんだろ?」
腕を組んで余裕そうに答えてみる。
「そうだ」
してやったと顔に出てしまった。
「我々はいつでもボスを囲んでいる。死角がないように。」
「そして人が多い時間帯を狙ってわざわざ移動する。」
「ふむ、だから移動最中の必要最低限の警備、例えば…。車での移動とかって事か?」
「うむ、そうだ。察しがいいな。」
言われて悪い気分ではないが考えて当然だ。じゃないと裏家業なんてやってられん。
「では、さっそくだが移動を開始する。」
こうして俺の長い一日が始まった。
「君にはボスと違う車に乗ってもらう。」
マットソンが乗った車に乗り込もうとした瞬間に言われた。
「は…?それじゃどうやって護衛するんだよ?」
少し喧嘩口調になってしまったが車が違うと護衛どころではない。
「そこは君の腕の見せ所ではないのか?」
見下すように言われた。仕方ない…。と折れてしまったのが後に幸いするのである。
高速道路を使い赤坂を抜ける。行き場所は伝えられていない。
30分走った頃だろうか。三郷という標識が見えた。
マットソンの車を含め、計3台の車で移動している訳だが
ここで妙な事に気づいた。
そういえば、乗り込むとき一通り確認したが運転手が一人日系の男が混ざっていたな…。
他の運転手は皆、白人や黒人なのに…。
一応確かめた方がいいか。と思い聞いてみる。
「なぁ、なんで…」
と聞こうと思った瞬間。
いきなり護衛している一台の車がマットソンの乗ってる車の前へ出て急ブレーキをかけた!
まさか!?
悪い予感は的中した。
【ガシャーン!】という音をたてマットソンの乗った車はスリップする。
護衛以外の周りの車にも当たりながら200M後ろで蛇行運転をしている。
このままじゃまずい!
「おい、運転手!」
俺は思わず大声を出し
「Uターンしろ!Uターンだ!」
素早く指示を出すが
「What!?」
言葉が通じない…。
この危機的状況に気づいてるハズだが運転手は何事もなかったかのように運転している。
「ちぃ」軽く舌打ちして「Stop a car!」と叫んだ。
運転席に身を乗り出して叫んだ俺にゴリッと眉間に銃が突きつけられた。
「Fall silent; a boy」
コイツら、グルか…!?
仕方ない、やるしかないか。
俺は運転手を睨みつけたまま右手に意識を集中する。
速い速度で移動している最中はなかなか「水」が集まらない。
しかし、冷房がきいているお陰で水を集める事は出来た。
左手で銃を払い、言葉の引き金を引く。
「放て!」
運転手の下腹部に右手を突き出して運転手の意識が飛ぶ。
そうこれが俺の能力。
空気中に漂っている水を右手に集中させ言葉の引き金で集めた水を放つ。
距離が開くほど威力は落ちるがこの至近距離ならダメージは拳銃にも負けない。
意識が飛んだ運転手の右足をブレーキに乗せ力をかけ踏ませる。
「キキィー」と反動が凄かったがうまく止まれた。
「相当前にきちまったか…」
止まった車から降りて後ろを窺う。
だが、こうしちゃいられない。
俺は走ってマットソンの車を探す。
走ってる最中、ぶつかった傷だらけの黒いベンツが物凄いスピードで俺を追い抜いた。
おいおい、マジかよ…?
急いで俺も乗っていた車に戻る。
運転手を後部座席に移し後を追う。
しかし、外車というものは運転しずらい…。
宅配用の車がマニュアル車でよかったとふと思った。
3キロくらい走ったところで路肩に傷だらけのベンツが二台駐車してあった。
俺も路肩に駐車し車内を窺う。
前に停車してあるベンツの中には撃たれて死んでいるボディーガードが2名。
その他はものけの空だ。
辺りを見回すと非常出口が見つかる
非常出口のドアノブには血の跡が残っていて恐らくマットソンはここから逃げたのだろう。
(早く追いつかねば!)
俺は焦った。
焦りは俺にとって最大の敵であり弱点でもある。
焦ることにより集中力が乱れ、水の弾丸を作ることが出来ない。
「本当にピンチの局面になったとき勝負に勝つのは己を殺すことの出来る奴だ。」
師匠の口癖だったっけ。
非常出口を抜け「そこまでだ!」という声が聞こえた。
それと同時に銃声がひとつ。
「後はお前だけだマッドソン、あの世でミツキに謝り地獄へ堕ちろ。」
おいおい、いきなりクライマックスかよ。
俺は右手に意識を集中させようとする。
しかし、意識を集中させようにもやはり「焦り」が邪魔をした。
く、このままじゃまずい!
俺は咄嗟に「待て!」と叫んでしまった。
最悪の結果になりそうだった。
しかし止めるにはこうするしかなかった。
「なんだ貴様は!?」
驚いた元刑事が俺に尋ねる。
「俺か?俺は…、ただの酒屋だ。」
「そして…、アンタの元相棒ミツキの弟子だ!」
横に跳び、意識を再び集中させる。
「焦り」にも弱点があり自分自身が最大のピンチになればなるほど再び集中力が回復する。
そういう性格で助かった。
「くっ!」
【パーン…!】
高見沢が銃を俺に向け発砲する。
撃ったと同時に俺も言葉を放つ
高見沢が撃った弾丸を水が囲い弾がそれる。
「貴様能力者か!?」
相手が焦ればこっちのもの。
高見沢との距離は7メートル弱
この距離なら確実に気絶させるだけの威力を誇れる。
このジメジメした日本が俺は好きだ。
能力が存分に活かせる。
「放て!水の弾丸よ!」
次の瞬間高見沢の膝が地面に落ちた。
第四話 終焉
「さて、怪我はないか?マットソン」
俺は動揺もしていないマフィアのボスに尋ねる。
「ああ、来てくれると信じておったよ」
信じられるのは嫌いではないが不思議な気分だった。
「どうするんだ?アンタの部下は皆殺しにされちまったみたいだが携帯かなんかで呼ぶか?」
俺は携帯電話など持っていない。使い方がわからないのだ。
決して機械音痴な訳ではない。
レジ打ちも出来るし車の運転も出来る。パソコンだって家にないだけだ。
「私は「ケイタイ」などと言うものは持ち合わせてなくてね。部下が探しに来るのを
待つしかないようだな」
おいおい、マジかよ…。
こんな田舎にオッサンと二人きりなんて勘弁だぞ…。
まぁ世間一般で言えば俺もオッサンの部類に入るのだが。
取りあえずここでひとつ策を申し出る。
「あー…、とりあえずベンツに戻らないか?ここだと流石にだな…。」
それは名案だ、とマットソンが同意したその時。
【パーン!】銃声が鳴った。
迂闊だった。
気絶させたと思っていた。
しかし、それは思っていただけであって
高見沢がマッドソンを打ち抜いた。
俺は高見沢に落ちている石を全力で投げた。
こんな急な展開は予想していない。
咄嗟に集中出来るほど人間出来ていないのだ。
投げた石は高見沢の後頭部に当たり再び高見沢は意識を失った。
「マッドソーン!」
俺はマッドソンに駆け寄る。
…心臓を打ち抜かれ即死だった。
くそ!こういうシーンは少しでも生きているハズじゃないのかよ。
映画では必ず何か一言言うだろうが!
師匠のことを何も聞けないまま俺の仕事が終わった。
取りあえず、このまま放っておくわけにもいかないので
公衆電話で警察に電話をかけボロボロのベンツに戻る。
…ベンツのドアが開かねぇ。
あの緊急事態で何故ご丁寧にドアに鍵がかかってるのか俺には理解出来ない。
しかも二台ともだ。
そして俺が乗ってきたベンツにも鍵がかかっていた。
…キーはさしっぱなしだ。
つまりオートロックなのだ、この車は。
すぐ戻って死体を漁ってもよかったがいつ人に見られるかわかったものじゃない。
股引のまま連れてこられた俺は財布に小銭しか入っておらず帰る手段もない。
「どーすっかな…」
取りあえずわからないので煙草を吹かす。
「まぁ…、歩くか…」
よれたスーツで次のサービスエリアまで歩くことにした。
「錦糸町まで流石に遠いよな…。」
これが俺の今日でありヘマをした最悪な依頼であった。
第五話、乱心
「ふぅ。」
昨日の今日で重労働だ。
昨日何10kmと高速道路をひたすら歩いた俺には過酷な重労働。
32歳の足、腰には辛い現状である品出しという「重労働」
意外に酒は重いのだ。
それに一昨日から店を空けていたお陰で頼んでいた
酒類が溜まっていて片づけるのに一苦労だ。
マットソンの一件では報酬は勿論無し、下手したら命がやばい。
ま、タダ働きにも慣れてるしここは目を瞑る事にしよう…。
「喜助さん、いますかー?喜助さーん。」
甲高い声が狭い店内に響く。
この声は聞いたことのある声だ。うむ、日常的に。
「なんだ白子、い、今忙しいから後に…、あ、後にしてくれ」
震える声で対応する、本当に重いからだ。
この声をかけてきた少女の名前は「城崎麗華」高校3年生の女子高生だ。
俺の家の裏側に住み、ガキの頃から世話をしていたら懐かれて時々店番で雇っている。
お節介であまりにも口うるさくガサツでとても「麗華」なんて
名前が似合わないから俺は白子(しろこ)と呼んでいる。
「またこんなに溜めちゃって、サボってるからですよぉ?」
違う、断じて違う。言い訳を言いたかったが今はそれどころではなかった。
「お、大きなお世話だ!あ…、」
【ガシャーン!!!】と狭い店内に響く。
酒を落とし床が濡れる。
やはり腰痛の時は品出しをしないほうがいいらしい。
「で、何のようだ?こんな時間に、まだ午前中だぞ?学校はどうしたんだ?」
酒を落としたのはオマエのせいだ!と言わんばかりに言葉攻めを食らわす。
「昨日からテスト休みで学校はお休み!それよりも昨日朝行ったら
お店開けっ放しじゃん?どこいってたの?」
うっ、と逆に言葉攻めを返されぼそっと反撃する。
「…オッサンと田舎デート。」
「はぁ?」
「いやなんでもない!なんでもないぞ!」
ブンブンと顔を横に振り否定する。
流石に本当の事を言うほど俺も馬鹿ではない。
「で、白子は何の用なんだ?」
「ひっどーい!昨日店番してあげたか弱い女の子に向かってそんな言い草ないと思わない!?」
ヒラヒラとこちらに見せつけるのは昨日一昨日で届いた大量の酒とその類の伝票。
ああ、なるほど。
業者がわざわざ狭い店内に置いてった理由はオマエのせいか。と納得し頭をゴチンと小突く。
「いったーい!何すんのよ!このヒトデナシロクデナシトウヘンボク!」
…酷い言われようだ。
「………いつも言ってんだろ。こういう酒類が納品された時は
裏の倉庫に置いて貰えって、じゃないと店内で人が通れないだろうが」
「だって、倉庫もいっぱいだったよ?とてもお酒なんて置けないよぉ」
両手で頭をさすりながら涙目で訴える白子。
なに?なんだって?いっぱいだった?
まさか!?と思い俺は裏庭にある倉庫へと走る。
ガチャガチャ
鍵がかかってないのに扉が開かない。
「ま た ア イ ツの仕業か…。」
顔を左手で覆い考え込む。
「オイ!ジジイ!そこはテメェの家じゃねえと何回言ったらわかんだよ!?」
倉庫の中に向かって叫ぶ、動く人影が見えた気がした。
「テメェ…、あくまでシラ切るつもりだな…。」
それならこっちにも考えがある。
我が草薙家は素晴らしい構造をしたボロ家である。
古いながら家に地下空洞があり倉庫と繋がっているのだ。
「覚悟しろよ、ジジイ…!今日こそテメェを警察に引き渡してやる!」
俺は必死な思いで隠し通路に続いている床下扉の上に置いてある酒類の箱をどかす。
「よし、これで!」
カチャン
扉が開かない。
カチャンカチャン
扉が開かない…。
カチャンカチャンカチャン
扉が…開かない…。
何故だ何故です何故なんですか?
我が草薙家に伝わる秘密の抜け道への抜け道の扉が開かないではありませんか!
「白子、ノコギリ………持ってきてくれないか………?」
ビクッと白子が体を跳ねさせて俺を諭す。
「き、喜助さん。目がなんかイっちゃってますよぉ?」
「はハハはhaはハHA、これはジジイを討滅するチャンスなんだ。
それ相応の事をしてあげないとジジイも成仏しないでしょ?」
気持ちを抑えきれない俺は自ら「危険触れるな!(注:親父より)」と書かれた
屋根裏に10年以上放置された禁断の工具箱から何やら赤い液体のついたノコギリを持ち出す。
「ジジイ!覚悟しやがれええええええええええ!」
ギコギコギコ
実に単純単調で地味な作業だ。
こんなに地味な作業のお陰で思い出す事が出来た。
あ、
そういやこの下にある階段腐ってて確か俺がこの扉封印したんだったよな。
それに気づいた時、俺は3m下に落ちていた。
第六話 漆黒
漆黒、それは光が遮断された闇の世界。
生を成すモノは光を求め辿り着けず朽ちて逝く。
店の明りから蟲の死骸を見てふとそう思った。
生憎、運はいい方で下に置いてあったダンボールの山で骨は折れていないようだ。
「いってー…、、」
「喜助さんだ~いじょ~ぶですかぁ?」
不抜けた声がコダマする。
「あぁ、とりあえず大丈夫だ。一旦上に上がって…?」
上に上がる?
ハッ、俺とした事が階段が無ければ登れないではないか。
俺としては「らしくない」ミスをしでかした。
そう、上に上がる手段が無い。
「おい、白子!ロープとかなんかないかその辺に?」
キョロキョロと周りを見渡して白子は言う。
「酒瓶なら沢山ありますよぉ!?」
俺は左手で顔を覆い小言を言う。
「あんの馬鹿には1から10まで言わないとわからないのか」
「喜助さ~ん、どうしますかぁ?」
「馬鹿野郎!とっととロープか縄か引きあがれそうなもん持ってこいって言ってんだよ!!!」
ビクッと体を跳ねさせ「ハイですぅ!」と慌てて白子は探しに行く。
「ハァ…、ついてねえついてねえついてねえ…。」
っといけねえ、昔の癖がつい出ちまった。
ついてねえと言ったら昔よく師匠に頭をバール?のようなものでどつかれたもんだ。
今でも「ついてねえ」と思っただけで師匠に頭をどつかれてきた痛みが込みあがってくる。
「喜助さ~ん!ありましたよぉ!」
思い耽っていると白子が甲高く声を上げこっちの様子を窺っていた。
「ナイスだ白子!早くそれを下へおろしてくれ!」
にぱーっと笑って下へ白いロープのようなものをたらす。
ん?白い…?
ちょっと待てよ白いロープっていうかこれってヒモみたいなもんで…?
「あのー、白子さん?これってどこにあったもんですか?」
「ハイですぅ!これは喜助さんの配達用の自転車の荷台に…」
「こんの馬鹿白子!これは荷造り用のヒモだ!これで人が上にあがるとでも思ってんのか!あぁ!?」
ビクッと体の跳ねてから白子が言う。
「び、ビニールをなめちゃ駄目ですよぉ、何重にもすれば「きっと」大丈夫ですよ!「きっと」」
「テメェの「きっと」ほど安心出来ない言葉はねえ!とっとと別の縄探して来い!さもねえとテメェ縛ってこの通路に閉じ込めんぞ!」
「ハイですぅうううううう!!!」
まるで追いかけられた猫のように慌ててまた探しに行く白子。
アイツに頼った俺が馬鹿だった。
また左手で顔を覆いながら考えた。
奴に頼るのは止めて先に進んでみるか。
もともとジジイを警察に突き出すのが目的な訳だしな。
そうそう好きにはさせん。なんてどっかの赤い人のセリフだったよな。と独り寂しくほくそ笑む。
さて、この階段を登れば倉庫、な訳だが…。
ガンガン
扉が開かない。
ガンガンガン
扉が開かない…。
ガンガンガンガンガンガン
ト ビ ラ ガ ア カ ナ イ。
プチーンと何か俺の頭の中で静かに切れた。
「弾けろ弾丸!」
これでもか!というほど水の玉をでかくし放った。
地下は湿っていてじめじめしてたお陰で思いっきり大きいのを作れた。
とは言ってもバスケットボールくらいの大きさだが。
【バコーン!!!】
扉が壊れ、倉庫の中に辿り着く。
「やい!ジジイ!覚悟しやがれ!」
俺はジジイの方に水を集中させた。
「なんじゃい?五月蠅いのぅ」
尻をポリポリとかきながら寝そべったジジイが言う。
「笑っていい友!がいいとこなんじゃ、黙っとれ」
こんの野郎…!
「善良な一般市民代表として貴様を警察に突き出してくれるわ!」
すぐさま溜めた弾丸をジジイに放とうとする。
「放てみz…」「dant.ziz,c'y」
「ふむうう、ふむむむううう」
ジジイの呪文の方が速く、俺は口を塞がれた。
「やれやれ、五月蠅いのがやっと静かになったか」
「ふむうふ、ふむむううううう」
俺は必死に抵抗するが争えない。
よくよく考えれば口を塞がれただけだ。
手や足は使える事に気がついた。
「ふむうううう!」
ジジイの胸倉を掴み、必死に訴える。
「ふむうう!ふむふむうう!」
ジジイは神妙な顔をしてこっちを見ていい放った。
「さっきから何が言いたいんじゃ?ふむううじゃわからんぞい?」
俺の中でまた何かがキレた。
その瞬間ジジイを殴ろうと拳を肩より上にあげた瞬間、
俺の体はこの世の法則とは逆の方向へ吹っ飛んでいた。
「いってえぇ………。」
吹っ飛ばされて口封じの術は解けたようではあるが全身がバラバラになりそうなくらい痛い。
「いたいけな年寄りの胸倉掴んで殴ろうとするからじゃ。」
どこからか持ち込んだのかボロボロのTVをチラ見しながらジジイは言い放つ。
「お、そういえばお前さんに依頼があってわざわざここに越してきたんじゃぞ」
わざわざ依頼があるのならば越さなくてもいいじゃないかと心底思った。
「依頼って何だ?てか、ここはテメェの住処じゃねえと…、ん?」
ジジイが一通の封筒を無言で差し出してきた。
「ふむ…。」
手紙の内容は失踪した娘を探して欲しいという内容だった。
そして封筒の中身には古びた聖徳太子の一万円札が5枚入っていた。
「その手紙はホームレス仲間のゲンさんから預かってきたものじゃ」
ジジイが下を向きながら静かに言う。
「依頼金としては不足はあるまい?」
確かに不足ではないが…。
「何故俺に頼む?」
一息ついてジジイが言う。
「お前さんなら依頼を放棄したりしまい?」
そりゃちゃんと金貰えばやるだろう。
「それに…」
ジジイが何かいいかけたその時、外で物凄い爆発音が聞こえた。
「喜助さーん!そこにいるのはわかってるんですからねー!」
…どうやらうちのやっかいもんが親父の秘密コレクションで悪さしたようだ…。
第七話、偏見
倉庫の扉がコナゴナに砕け散り、現場検証が執り行われた我が草薙家の倉庫。
パトカーが二台、黒塗りでパトランプをつけた車両が一台と知り合いの刑事のお説教。
「ま た お前の仕業か」
知り合いの刑事、友近優警視が俺を睨みつけガミガミと説教を吐く。
濡れ衣だがここで白子に罪をきせると白子の親父さんに八つ裂きにされてしまうので黙って聞く俺。
俺ってなんていい奴なんだろうか…。
「聞いてるのか、草薙!」
自分に耽っている俺に対して容赦なく言い聞かせる鬼刑事。
「ったく、お前が警視総監に認められてなきゃ危険物処理の疑いで豚箱にぶち込んでやるんだが…。」
過去に俺は「捜査協力」という名目で殺人鬼を逮捕した経歴がある。
その輝かしい経歴があり警視総監も俺を認めてるって訳だが、
今回その経歴のおかげで助かった。
ついでにジジイを突き出そうと思ったが逃げ足だけは速いものでパトカーが来る前に姿が消えていた。
爆破した当の本人、白子は家の窓から優雅に紅茶を飲みながらこっちの状況を眺めていた。
「あの野郎、絶対に一発こづく…。」
現場検証していた友近がこっちを振り向き
「あ?何か言ったか?」
小声でいったのだが地獄耳というのはこういうことなのか。
現場検証も終わり野次馬も去り、ようやく肩の荷がおりたと思いポケットに入っている煙草を漁る。
「ん?なんだこの封筒は」
忘れていた、ジジイの依頼だ。
「確か、失踪した娘の捜索だったな。」
顔写真が同封されており名前、年齢など書いた文章も同封されていた。
…以外と早く見つかるかもな。
与えられた仕事はキッチリこなす。それがプロの何でも屋だ。
俺は新宿にいる「とある情報屋」の元へ向かった。
眠らない街、新宿。
ここで俺は歌舞伎町にある「とある情報屋」を伺った。
表沙汰は「風俗案内所」なのだが「ある合言葉」を言えば裏は情報屋なのだ。
「んー、田村由里24歳ねぇ…。」
人の顔を一目見たら一発で覚えるという特技を持つ杉下五郎37歳(独身)
この情報屋での看板野郎でもある彼には情報屋独自のネットワークを張り巡らせ顔写真一枚で
現在何処で何をしているかさえもわかってしまう恐ろしい男だ。
昔のドラマや漫画なら自分の足で探すだろうがそんなことやっていたら商売上がったりなので
小金を握らせ事を済ます。そもそも俺は面倒くさがりだ。
「もうちょっと、もうちょっとで思い出しそうなんだけどナー。」
物凄い棒読みでギャラを引き上げようとする杉下五郎37歳(独身)
奴の額に指を立てて俺はこう言い放つ。
「もうちょっとまともな演技できねえのかこの豚野郎、早くいわねえとテメェの額に風穴あけんぞ!」
「ひ、ひぃここで騒ぎを起こしたら困るの喜助さんなんっすよ!?」
「上等だ、テメェラまとめて豚箱ぶち込むぞ!国家権力なめんなよ!?」
俺が警察に通じた裏家業屋だと情報屋共は認識しているのでこういうハッタリはよく使える。
「わ、わかりましたよー。そういえば特常会が取り仕切ってるキャバクラで見たことありますよ。」
「特常会?」
「最近出てきた中国系マフィアみたいな暴力団っすよー。俺らの同胞も撃ち殺されたっす。」
おいおい、そいつは物騒だな…。
しかしここで怯んだら。草薙喜助の名が泣く。
「その子が働いている店教えてくれ。」
腕を組み腰を回しながら考えるフリをしている杉下五郎37歳(独身)
「もうちょっとで思いd」
「放て、水の…」
「あー!あー!!あぁぁぁあああ!!!「セシア」って店っす!歌舞伎町のダビデビル4Fにあるっす!!!」
焦った杉下五郎37歳(独身)はぶっ倒れながら場所を教えた。
「ういうい、了解。ったく素直に言えばいいんだよ。」
そして俺は情報屋をあとにした。
「あ、3Fと5Fが特常会の組事務所って言うの忘れたっす…。」
適当に夜まで時間を潰し、いざセシアへ。
「お客様お一人ですか?」
ボーイが話しかけてくる。
「ああ、一人だ。指名したいのだが…。」
顔写真の子を探し、
「ああ、この子がいいな。」
「少々お待ちください、お先にお席の方へ。」
ボーイに席まで誘導され、ユカこと田村由里を待つ。
数分経ち女性が俺の目の前に立つ。
「ご指名ありがとうございます。ユカです。」
可愛らしいドレスを着込み派手な化粧をしているが間違いない、田村由里だった。
それから数十分たわいのない話をした。
(そろそろか…。)
「あー、ユカちゃん?」
「はい、なんでしょう?」
首を可愛らしく傾げこっちを伺う。
耳元で俺がこう囁く。
「お父さんが探してるよ?」
明らかに動揺した態度を見せたが
「な、なんのことですか?お父さんなんて…」
ここで間髪いれずに俺が言う。
「ここに捕まってるの?」
数秒経ってから首を小さく縦に振った田村由里。
「じゃ、お兄さんが助けてあげるから安心しな」
この歳でウィンクなんてシャレにならんが女の子を安心させるには
俺なりにこれが一番だった。
「あー、ボーイさん」
「はい、なんでしょうお客様」
「俺、この子とアフターしたいんだけどいいかな?」
「困りますねえ、ユカはアフター出来ないんですよ。」
「なんで?ユカちゃんはOKしてるけど?」
「店長にきつく言われてまして…」
「店長呼んでくれない?」
「…少々お待ちください」
数分経って店長登場、明らかに店長ってガラじゃないヤクザ風のガッチリした男が出てきた。
「困りますねえ、お客様。規則なんで駄目なんですよ。規則なんで」
睨みを利かせた眼で俺を威嚇する店長らしき男。
「えー、規則なんていいじゃん?三流ヤクザさん。」
場の空気が一瞬にして変わった。
「お客様、ちょっと裏のほうへ…。」
無理やり笑みを浮かべている店長。
「て、店長!」
田村由里が店長を呼ぶ。
「だーいじょうぶ、お兄さんに任せておきなさーい!」
またもウィンクをし店の裏へ連れて行かれた。
「お客さん?どういうおつもりですか?」
店長の顔が先ほどとは別人のような顔で俺に語りかける。
「別に?俺はあの子と夜の街へ遊びに行きたかっただけだけど?」
奥にいたヤクザの子分風の男達がいっせいに出てきて取り囲まれた。
「ウダウダうっせんだよ!どこの組のもんじゃオラァ!?」
そう言った子分Aが俺の脇腹を一発殴る。
「殴ったな?今殴ったよな?」
俺は思わずニヤリとしてしまった。
決してマゾではない。
「あぁ!?だったらなんだっていうんだ!?」
しゃしゃりでてきた子分Bが俺に尋ねる
「正当防衛だ。」
静かに俺が口を開き、さっき持ってきた
未開封シャンパンを頭上に投げ、続きに言葉の引き金を引く。
「弾けろ、酒の爆弾よ」
周囲を取り囲んでいた男達が後ろに吹っ飛び、後ろで構えていた店長の顔が青ざめる。
「貴様、なにもんだ!?」
「なに、しがないただの酒屋だよ、あぁあとお宅の安酒ちょっと質悪くねえ?」
挑発代わりに威嚇してみる。
「チッ!」
店長が後ろのドアを蹴り破り外の非常階段を登った。
俺はそれを追いかけ仕留めようと思った矢先、拳銃を持った男達が前を覆う。
「やっちまえ!」という掛け声と共に一斉に男達は発砲してくる。
こういう状況にはやはり「慣れ」が必要なのだが過去何度も死線を掻い潜った俺には通用しない。
先ほど自動販売機で購入した350mlのミネラルウォーターの
ペットボトルを右ポケットから取り出しそのまま投げこう叫ぶ。
「防げ、水の壁よ!」
ペットボトルが弾け飛び、水の壁が弾幕を防ぐ。そしてそのまま続きの言葉を言う。
「縛れ、水の荒縄よ。」
男達の首を締め付け死なない程度に気絶させる。
(奴は上か、上の階に言ったって事は増援が来ると覚悟しといた方がよさそうだな。)
残りの水は左ポケットに入っている飲みかけの350mlのお茶。(半分くらい入っている)
「こんな事ならもうちょっと買っとくんだったぜ…」
後悔したって始まらないのはいつもの事。
階段を登り待っていたのは何故かガチムチでレスリング着の外人二人。
片方は黒人で片方は白人だった。
「ボブ!ジョン!やっちまいな!」
さっきの店長が大声で叫んだ。
「オーケー、テッチョサン!ギャラギョウサンメグンデクーダサイ!」
片言の日本語を話し黒人の方がいきなり突っ込んでくる。その手にはメリケン。
「ぐ、やべえ二人相手じゃ水が足りねえ!」
あまりこの手の武器は人を傷つけやすいので使用したくなかったが仕方がない。
飲みかけのお茶のペットボトルのフタを開けこう言い放つ。
「抜刀せよ、茶の刀よ!」
ペットボトルから水の刃が出てくる。
が、しかし飲みかけだった為に10cm程度しか伸びなかった。
「これじゃナイフじゃねえか!?」
久々に慌てた。計算が合わなかった。
「ちょっと待て!待ってくれ!頼む!」
必死に止めた。止まってくれたのが奇跡だった。
「テッチョサーン、Whatイッテマスヨー?」
黒人が後ろを向き指示を仰ぐ。
「あぁ?いまさら命乞いなんざ出来ると思ってんのか!?」
顔が鬼のようになってる店長が怒鳴る。
「命乞い?違うな…」
俺は意味ありげに呟いた。
「逃げる為の時間稼ぎだよ!!!」
してやったと思ってしまった。ペットボトルのキャップを閉めるには十分すぎる時間。
「弾けろ!茶の爆弾よ!」
さっきの酒爆弾と同じ原理、即興型水素爆弾で周囲を吹っ飛ばす。
「オオォオオオオオノオオオオオオオウ!!!!」
そう叫びながら黒人は5Fから地上に落下。俺は素早く非常階段を降る。
「自販機!自販機!じはんきいいいいい!!!」
水が無ければただのオッサンと化す俺は全力で階段を降る。
流石にあの人数を水弾(集中して空気中の水を集めて放つ弾)で片付けてたら
いくら集中力があってもたりない。
集団戦では携帯用の飲料水が少ない集中力でとてつもない破壊力を発揮するので重宝している。
地上に降り、無造作に財布から千円札を取り出し
自動販売機から500mlのミネラルウォーターを3本ほど購入。
振り向こうとした瞬間後ろに嫌な気配がした。
【ガッシャーン!!!】
咄嗟に避けた俺には何が振り回されたのかわからなかったが
さっき購入した自動販売機がぶっ潰れてるのはわかった。
避けた拍子に購入したミネラルウォーターを全て落とした。
「チョットオニイサンモウユルサナイヨー!」
先ほど落下した黒人が何やら白いパイプのようなものを振り回していた。
ん?何やら…?
よく見たらそこに刺さってたハズの一時停止の看板、つまり「止まれ」の標識だった。
「なんでそんなもん引っこ抜けるんだよ!!!てか、なんで生きてんだよ!!!」
人間出来る出来ない非常識な奴らが多すぎる気がする。俺を含めてだが…。
「キルユー!」
滅茶苦茶に「止まれ」の標識を振り回す黒人。
周囲は逃げ惑う人々。
(ここじゃ被害が増えちまう…)
そう思った俺はダビデビルに引き返そうと思ったが
ヤクザ共がかけつけてきたので戻るに戻れなかった。
「くっそう、どうする…?」
こういうときこそ己の底力を発揮するものだがそんな都合のいい力など生憎俺は持ち合わせていない。
水弾を作るにも数が多すぎる。ましてやこの状況で瞬時に集中力を高められるほど人間出来てないのだ。
しかし俺は運が悪い方の人間ではないらしい。日常では悪いようには見えるが…。
騒ぎを聞いて駆けつけた警官が「お前達何やってるんだ!」と叫んだ。
たじろぐヤクザ。これは好機!と俺の直感は告げる。
「オラアアア!」
俺はラリアットをしながら階段を登った。にわか仕込みだが多少武道の心得はある。
3,4人いたヤクザ共がまるでドリフのコントのように足を踏み外し階段から転げ落ちていく。
ガチムチのマッチョは警官に任せて俺は5Fを目指す。そう、目指そうとしていた。
「オニイサン!チョットマツヨー!」
…嫌な声が聞こえた。
恐る恐る後ろを振り返ると右手に「止まれ」の標識、左手にはまるで猫を掴むように
さっき叫んでいた警官の首根っこを掴んですごい形相で…。しかもダッシュで追いかけてくるマッチョ。
普通の人間なら逃げるよな。うん。
「うわあああああああああああぁぁぁあああああああああああああ」
叫びながら全力で階段を登った。
こんなに階段を全力でダッシュしたのは小学生の時、確か6年生の時の「マンション鬼ごっこ」以来だ。
4Fまで登った頃だろうか。
必死に逃げてるので階数などいちいち覚えてられない。
非常階段の踊り場で白人マッチョが両腕を組み仁王立ちをしている。
「ココマデネ!オニイサーン!」
白人マッチョの手には何故か「ファブリーズ」
(何故だ…?)
物凄い悪臭を消すのかと、いや今その必要があるのかと様々な考えが一瞬にして頭の中をぐるりと回った。
「クライナサーイ!」
白人マッチョがファブリーズを俺の方に吹きかけてくる。ヤクザの新兵器、とか中は硫酸、とかやっぱり色々と考えられるが
パシュッ!
…いい香りだ。
「オオオオオオオオオオノオオウウウウウウウウウウウウウウ!!!」
白人マッチョが両手で顔を覆い叫びだした。
「コレハニッポンノ「ぴすとる」デハナイノデスカ!?」
「どんな勘違いだよ!!!」
俺は突っ込みも兼ねて白人マッチョに回し蹴りを食らわせ4Fから落とす。
「オオオオオオオオオオ(以下略)」
突き落とした直後。
「ヤットツカマエマシタ!」
さっきの黒人外人が息を切らせながら俺の右足を左手で掴んでいた。
よほど疲れたのか階段を這って登ってきたようだ。
少し焦ったが気になったので聞いてみる。
「あれ?さっき左手で警官持ってなかったっけ君?」
「オモイノデぽい!シマシタ!」
…重いのかよ。
「標識引っこ抜く野郎が人一人で重い!とか言ってんじゃねえよ!!!」
またも突っ込みのように足を思いっきり振り上げ黒人マッチョが咄嗟に手を離す。
「落ちろ!水の弾丸よ!!!」
「オオオ(以下略)」
まさかこんな馬鹿げた感じに厄介な二人を片付けられるとは思わなかった。
いや、片付けたと思うのはよそう。また登ってくるに違いない。
俺は油断しようとした自分に歯止めをかけ、非常階段を再び登った。
非常階段を登り、ヤクザの事務所を蹴破る。
3人ほど下っ端風の男達がドスを構え身構えてたがそんな見え見えな展開俺には到底効かない。
「放て、水の弾丸よ!」
早撃ちはそんなに得意ではないがさっきのガチムチマッチョの二人組みに比べたら
コイツら下っ端は可愛い方だ。
下っ端達の膝が地面に着き、さっきいた店長が軽く舌打ちして部屋の奥へと逃げ込む。
「待ちやがれ!」
まぁそう言っても普通は待たないが自然と言ってしまう台詞ってあるよな?
店長を追って奥の部屋へ駆け込む。
だいたい予想出来る展開だったが考え無しに突っ込んで後悔した。
組長室みたいな十畳ほどの部屋に15~20人ほどのヤクザが
それぞれ危ない武器を持って待ち構えていた。
…お約束の展開だな、おい…。
「よくもやってくれたな!お前はここd…」
【キィーン、ガタン】
心の中で「失礼しました。」と一礼し、無かったことにして扉を閉めた。
【ガタンガタンガダガダガダダ】
「おいいいいい!!!話はまだ終わってねええぞおおおおおお!!!」
必死で扉を開かすまいと踏ん張る俺。
ここで開けたら確実に死ぬ!直感がそう囁いてる。
だが、いつまでもこんな事をしている場合じゃない。
というか俺の体力が持たん!
そう思い、俺は咄嗟に集中力を高める。
この扉は生憎、俺の方から見て開くタイプだ。
そして冷房が効いたこの部屋は水分を溜めるには効率がいい。
うーむ、いい掛け声が思いつかないがこの際仕方がないか。
思った言葉をそのまま口にし扉を封じる膜を造る。
「塞げ!水の膜よ!!!」
水が扉の隙間に入り込み水圧の力で扉をロックする。
ふぅ、これで一安心。
「なんで開かないんだ!おいいい!?」
あたふた慌てるヤクザ達。
今のうちにアレだ、110番と…。
俺は面倒くさいのは嫌いだ。
ヒーローみたくこの場でコイツら全員倒して警察に引き渡すという
自殺行為紛いな事もやりたくない。
最初に入った部屋に固定電話があったので拝借する。
プルルル、プルルル、ピッ
「はい、こちら友近」
やや緊張した声で応答した若き警視。
「よぉスグルちゃんげんきー?」
…ガチャン。
まぁ当然の反応だわな。
プルルル、ピッ
「やりすぎた、反省はしている…」と俺
「何の用だ?専用回線にわざわざかけるなとあれほど…」
不機嫌そうに答える友近警視。
「あー、すまん。ちと新宿のダビデビルで一悶着起こしたわ。近くで外人が暴れてるからわかると思うんだが」
「新宿だと!?城東の管轄ではない。他を当たれ」
電話を切ろうとしているのは受話器越しでもわかるので必死に止めた。
「ちょーっと待った!マジで頼む待ってくれ!」
「で…、何を起こしたんだ?」
不機嫌そうに聞いてくる友近警視。
「ずばり!ヤクザの事務所を襲撃した!」
ブチッ!ツーツーツー…。
あの野郎!切りやがった!切りやがったぞ!!!
相変わらず使おうと思ったときに使えねえ野郎だと落胆する俺。
その時。
非常階段側の扉を蹴破りサブマシンガンを持った警官隊が突入してきた。
「両手を頭に乗せ床へ伏せろ!!!」
おっかないオジサン達が恐持ての声を唸るように出し受話器を握り締めていた俺に言い放つ。
「へ、へるぷみー…」
面倒なので人質のフリをして難を逃れようとしたが問答無用で警官隊数人に床に叩き伏せられた。
俺の人相ってヤクザに見えるのか、おい!?
その後、警官隊とヤクザの激しい攻防戦(俺の水で塞いだ扉のせいだと思う)の末、
ヤクザは逃げ道が無く全員豚箱行きになった。
そして俺はというと…。
何故か歌舞伎町警察署の留置所に拘束されていた。
そして何故か俺の隣にはさっき戦ったガチムチ外人二人が手の平を合わせて枕にし横で爆睡している。
どうやら留置所が満杯らしく相部屋ときた。
「…ふざけんなああああ、こっからだせえええええええ!!!」
遠吠えは空しく眠らない街にかき消されていった。
草薙探偵事務所(仮)
初めましての方は初めまして。
Curseことカースです。
学生時代に書き留めた未熟小説でありますが掲載してみます。
小説家になろう様に移転しました。
続きはこちらからお願いします。
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