48ちゃんと1ちゃん

星をみるひとのしばとあいねが公園でソフトクリームを食べます

「もうちょっと子供らしいことをしなさい」
 傷つきマムスの村へたどり着いたサイキックの少年少女は、手当をするシールド能力者に怒られてきょとんとしている。最初にあいねが、次いでしばが発言の意図を察する。みなみとみさは意味が分からないのだが、お互いしば、あいねに視線を送っても同意が得られなかったためお互いを見つめ合っている。
「あのな、みなみ」
「あのね、みさちゃん」
 しばとあいねは同時に喋り、自分たちの台詞がハモってしまったことに気付いた。二人が顔を背けて恥ずかしそうにしている様子がおかしく、みなみとみさの二人は笑いあった。
「決まりね、今日はこれから居住区へ行きなさい。ただし、みなみくんとみさちゃんのペア、しばくんとあいねちゃんのペアに別れること。あと、危ないことは禁止します」
 シールド能力者のお姉さんはどんどん話を進める。少年少女は反論を試みたが、聞き入れられなかった。普段からお姉さんの世話になっている後ろめたさと、彼女の腰に下げられた剣の威圧感に負け四人は居住区で別行動することとなった。

「よりによってテレパシ女と一緒なんてやりづらいな、ねぇ……ずいぶん言ってくれるじゃない」
 二人っきりになったとたん、あいねがしばに対して牽制球を投げた。
「おまっ、テレパシは使わないって約束だろう」
「今日はトラブル禁止でしょ。サイキックだってばれたらどうするの、あの二人は置き去りにする気?」
 しばの反撃は叶わず、結局あいねがしばを含む周囲の心を読むことになった。会話を聞き取られないよう、テレパシで念話しやすくするために二人は手を繋いだ。
(くそっ、本音は苦手なんだけどな)
(いいじゃない、たまにはテレパシで会話したって。ふふふ、たのしいわ。みさちゃんもみなみも、言ってることと思ってることが同じでつまんないんだもん)
(この女、底意地の悪い……どこか知らない場所へ飛ばしておこうか)
(やってもいいけど、テレパシであの二人は呼ばせてもらうから。あーあ、みなみくんもみさちゃんも怒ると怖いからね、しーらない!)
 傍から見れば、少年と少女が仲良く手を繋いで歩く微笑ましい光景だ。しかし危険をかいくぐり生きてきた二人は感情を表に出さぬ術を心得ており、実際はお互いの腹を探り合うというギスギスしたことをやっていた。
(ねえしば、わたし気付いたんだけど)
 あいねがテレパシを使い、繋いだ手を通じてしばに語りかける。
(なんだよ)
(わたしたちがやってるこれ、全然子供らしくないんじゃない?)
 しばはその通りだと思い、思いはそのまま相手に伝わる。
(なあ、小遣いもらったしあれ食べてみないか? アイスクリーム)
(いいわね、二人でアイスクリームなんてすごく子供らしいわ)
 双方が合意し、二人はアイスクリーム屋台のある公園へと足を向けた。
(実はあれ、前から気になってたんだ)
(奇遇ね、わたしもよ)
 しばとあいねは繋いだ手をいったん離し、あいねが一人でアイスクリームの屋台へと向かう。
「おじさん、これ二つくれる?」
 店主は人の良さそうな男だった。
「ほー、バニラがご所望とは渋いねお嬢ちゃん。チョコ味やイチゴ味もあるが、いいのかい?」
 あいねは初めからバニラ味しか見ていなかった。チョコもイチゴも食べたことはある、だがアイスクリームは初めてだ。彼女はアイスクリーム味に憧れていた。
「ええ、シンプルなのが好きなの」
 店主は笑いながら二つのソフトクリームを差し出した。
「はいよ、お嬢ちゃん。あの男の子は彼氏かい?」
「違うよ、友達の連れ」
 あいねは受け取るとき、無意識に店主の心を読んだ。
(今日は子供のカップル二組目か。オレにもあったなぁこんな頃が)

 ベンチに座り、しばとあいねは無心でソフトクリームにかじりついた。
「……おいしいな」
「……おいしいわね」
 未知の味に、内心二人とも興奮していた。あいねはテレパシを通じてしばの心に気付いていたが、自身も同じ心境であったため茶化すことはしなかった。
 アイスクリームを食べながらも、二人は道行く人々を監視する。あの男は普通の人間か、この女はガードフォースではないか、隣のベンチに座る年寄りはサイキック狩りではなかろうか。長く続いた逃亡生活が、二人に心の余裕を許さない。
 しかし、その日は普段と様子が違った。道行く人がしばとあいねを見ると、微笑むのだ。何か平和なものだとか、小動物を見るような目で二人を見つめ、通り過ぎていく。しばはあいねの手のひらに触れる。
(普通の子供に見えてるみたいだ。あいね、何かしたか?)
 あいねは無言で首を振り、しばにテレパシを送る。
(何にもしてない、アイスクリームを食べてるからじゃない?)
 しばは納得して頷いた。
(なるほど。サイキックの子供がアイスクリームを買える金を持ってるとは思わないだろう)
(今度歩くとき、全員でアイスクリームを持つってのはどう? 怪しまれないし)
(悪くない考えだが、あいねはアイスが食べたいだけだろう。金を出させるには都合のいい方便だな)
 置かれた手をふりほどき、あいねはしばの顔を指でつまみ引っ張った。
「いてててて! 何するんだ」
「しばだって美味しそうに食べてたでしょ。わたしに向かっていい子ぶるなんて度胸あるわね」
「そういう意味じゃない、みなみとみさがはしゃぎすぎると思って」
「だって心の中じゃ……あっ」
 あいねが黙り、しばもすぐに黙った。二人は周囲を見渡し、今のやりとりが聞かれていなかったかどうかを気にする。
(あいね、居るか?)
 鋭い視線を前髪で隠しつつ、しばはあいねに念話を試みる。
(大丈夫、わたしたちを意識してる人間は居ない。聞かれてなかったみたいよ、助かったわ)
 二人は大きくため息をつき、残ったソフトクリームを平らげる。
「居た居た、さっきのお嬢ちゃんだな」
「ひっ!」
 幸福の余韻に浸る二人の目の前に先ほどの店主が現れた。体を震わせ小さな声を上げるが、店主の両手に握られたソフトクリームを見て二人は警戒を解く。
「おっと、ビックリさせたか、悪い悪い。じゃ、もっとビックリしてもらわないとな。チョコ味とイチゴ味、ウチじゃこれのミックスが一番の売れ筋でね」
 しばとあいねは顔を見合わせ、店を訪れたあいねが受け答えた。
「えっと、わたし注文してませんけど」
 店主は気持ちよく笑いながら茶色とピンク色のソフトクリームを差し出した。
「こいつはサービスだ。最近はこいつで喜んでくれる子供が少なくてな、二人があんまり美味しそうに食べてくれるからお礼だ」
 お礼という言葉に、しばは見返りを感じ警戒する。
「でも、それだけでボクたちが受け取る理由には……」
 しばが横を向くと、あいねが納得した顔でソフトクリームに手をさしのべていた。しばはあいねが店主の心を読み、受け取ることが正解と判断したのだろうと察する。
 そんな心根に微塵も気付いていない風の店主は、あいねに微笑んだあとしたり顔でしばを見つめる。
「坊主も嬢ちゃんみたいに素直になりな。それに理由はあるんだ」
 店主に指さされ、周囲を見るとベンチに座っている人、たたずむ人が皆ソフトクリームを手にしているのが目に入った。美味しそうに食べる二人を見て、食べたくなったのだ。
「あんたらはウチの広告をしてくれたって訳だ、儲けさせてもらったよ。こいつはそのお礼だ」
「あ、ありがとうございます」
 しばがチョコ味のソフトクリームを手に取ると、店主は店のほうへ戻っていった。しばは手に取ったソフトクリームに口を付ける。バニラとも、ただのチョコレートとも違う、チョコ味のソフトクリームだから味わえる優しい甘さが口の中に広がった。
「おいしい……あっ」
 しばは慌てて、左手をあいねの右手に乗せる。
(あいね、知ってるなら教えてくれてもよかったじゃないか)
 イチゴ味のソフトクリームを口にしながら、あいねはしばと目を合わせず答える。
(しばはテレパシに慣れてないでしょ。わたしが教えたら不自然になるかもって思ったの)
 一理あると思い、しばは少し悔しく思ったがその思いはすぐソフトクリームの味に溶けてしまった。
(アイスクリームって、すごいな。こんなにおいしいとは思わなかった)
(同感よ。イチゴ味って聞いたけど、野イチゴとは全然味が違うわね)
 かすかな沈黙のあと、あいねはソフトクリームから口を離す。
(ねえ、イチゴ味を食べてみたくはない?)
(お前、チョコ味が気になるだけだろ)
 顔を合わせない二人の会話は続く。
(気になるよ、おいしいもん。じゃ、しばは気にならないわけ?)
(いや、気になる)
 二人は食べかけのソフトクリームを交換し、新しい味に酔いしれた。
(イチゴ味ってすげぇな。すごくイチゴの味って感じでもないけど、なんていうのかな、イチゴミルクをおいしくした感じ?)
(なにそれ、イチゴミルクがおいしくないみたいじゃない)
(そうは言わないけどさ、こっちのほうがおいしいよ)
(それは、わたしもそう思うけど)
 傍から見れば、二人は互いなど意識せずソフトクリームに夢中な子供にしか見えない。しかし、実際は口に含んだまま熱いアイスクリーム討論を行っていた。
(アイスクリームにチョコを混ぜようって思った人は天才ね、全然違うじゃない)
(同感だ。固くて甘いのがチョコだと思ってたけど、こういうのなら柔らかくてもおいしいな)
(みなみに食べさせてあげたいね、せっかくのチョコを溶かしちゃうことが多いから)
(言いたいことはわかるが、溶けかけのチョコとアイスクリームは別物だよ。こっちはほんのりバニラの味もする)
(同じ原料でこれだけの違いが出せるなんて、人類の英知だわ)
 ほぼ食べ終えてから、しばの手が止まる。理由を察したあいねも遅れて手を止めた。
(なあ、これってもしかして)
 あいねはしばの思いを強く押しとどめる。
(言わないで、わかってるから。食べるのに夢中で気付かなかったわたしの不覚だわ)
(オレも人のことは言えない、食べ物を分けるなんて普通だから。あの店主の言ってたみたいに見えるんだろうな、オレたち)
 あいねは勢いよくしばのほうを振り向いた。
(あんた、聞こえてたの?)
 しばは照れくさそうに顔を背けた。
(す、少しは心を読まれるのにも慣れたってことさ。いいだろ、別に)
 隠された内面に気付き、あいねもまた顔を背ける。
(ふん、テレパシ女だの散々呼んでおいて。男って見境ないのね、最低)
 二人は手を離し、お互いの顔も見ず、頬を染めながらみなみとみさに約束した時間までベンチに座り続けた。

48ちゃんと1ちゃん

48ちゃんと1ちゃん

最強のサイキックと呼ばれ、名を隠しながらサイキックの少年少女を手助けする女性がいた。四人の関係を見た彼女は、彼らに休息を命じる。 「子供らしいことをしなさい」 そう言った彼女は、四人の少年少女に様々な条件を付けた。その一つに、男女二人で一組ずつに分かれて行動せよというものがあった。 星をみるひとの二次創作です。しば×あいねのカップリングものです。 微笑ましいほのぼのを目指しましたが、二人とも頭が回るため妙な方向に議論が進みます。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-25

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