終末世界とアンドロイド。
その、彼ら二人は、
地下空間から出られない。
いつからそこにいたのか、お互いに知っているようで、全くしらない。
サトルは生真面目に、拠点の整備ばかりをしている。
壊れた配管を分解して、机にしたり椅子にしたり、はたまた工具の形にしたり、
時代が時代なら、
彼は、よっぽどすごい技術者になっただろう。
——拠点00
そこは、開いた空間の、大きなトンネルのわきにある、
生活に丁度いいほどのトンネルの、二人の家だった。
「下水の匂い以外は完璧なのに。」
彼の口癖だ。
地下トンネルには、彼ら二人のほかに人影はみえない、
いつからそうだったのか、わからない、
けれど二人は、いつかみた書籍で、何が起こったのかは知っている。
これは、最後の戦争が終わった直前に作られたトンネルだ。
クーコは日中、ガラスで覆われ、その下を鉛で覆われ、安全に外が観る事のできる、カメラごしの画面から、地上世界を眺めて、
いつかその目で地上を見る事が出来る事を望んでいる。
それが彼女の希望。
あるとき、サトルはクーコを馬鹿にした。
「生きているなら、そんな絵空事ばかり考えているんじゃない、
冷凍装置はまだ見つかっていない、友達も見つかっていないじゃないか。」
冷凍装置は、サトルが持っている文庫本に書かれている、人間を保存しておく装置、
だけど、こんな地下空間にそんなものや、その電源が整備されているはずもなく、
彼ら自身、偶然にみつけた発電機や拠点にあつめた色々な家電(センタッキテレビレイゾウコ)
や何かがなければ、日中でも電気に簡単にありつける事はなかった。
だけど、サトルもひとつ隠していた。
それは、あまりにも恐ろしく、悲しい絶望的な秘密、隠し事。
クーコは、外に出たがっているのに、彼女の希望を打ち砕くかもしれない、恐怖を深追いする必要もない
だから、その時がくるまで黙っていた、
そうして、心のどこかで、彼女が空を眺めているのを、面白おかしく眺めていた。
彼は、夜眠れなくて、目を覚ます事があった。
「僕らは、アンドロイドだよ。」
彼が、夜中、寝ぼけてはっしたことばを、クーコはずっとおぼえていた、
そのとき、彼ははっと、上半身を起き上がらせ、クーコが寝ていることを確認して、クーコはタヌキ寝入りだったのだが、また寝ころんだ
けれど彼女にとって、そんな事はどうでもいい事だった。
ある日、クーコが夜中目を覚ましてしまった、そんな事はめったにないが、その日彼女も、
サトルの秘密、隠し事を何なのか、さとった。、
というのも、夜中たちあがり、おもいたちトイレへ、トイレはこの拠点のそばのさらに細いトンネルの奥に整備されている、サトルが
つくったのだ。
彼女は拠点へ戻ってくる、拠点の目印は、とまれの、道路標識だ。
もう一度眠りにかかると、あまりねむれない、上半身をおこし、
立ち上がろうとするとふと日常の一幕を思い出す。
「サトルは、夜出歩く事があった、この長い地下トンネルを、わざわざ、広いトンネルへでて、そのまま朝まで起きている事があった。
まるですすり泣くような声がきこえて、」
はっとする、
そばのサトルはまだ寝ているみたいだ、
チャンスはいましかない。
この何もないトンネルの中で、自分はいつまでも、
サトルに甘やかされていていいのか、
ふとそんな想いもよぎった。
——すすり泣き——
それがサトルかは、わからない、サトルだったかもしれないし、もしかしたら、あの
“もっと大勢”
だったかもしれない。
いてもたってもいられなくなり、自分も、自分達の拠点にいるばかりではなく、その広いトンネルをみてみたい、
そう思うようになった、
でも、日ごろそんな事をいうと、サトルは暗い顔をする、
サトルは、なぜか、夜中すすりなくのに、
居てもたってもいられなくなり、
真夜中、彼女は一人でその場所へとむかった。
サトルは、“近寄ってはいけない場所”を知っていた。
それは。トンネルに光ががさすところ、どうやらふさがっているらしいが、何か欠陥があるところがあって、
そこには直接光がさしている。
「何がおこるかわからないから」
そういって、そういう場所には、クーコを近づけさせなかった。
それはちょうど、電灯のようになっている。
でも規則正しい生活をしていたクーコには、
その電灯を使った生活は思いも浮かばなかった。
クーコはひとりで大きなトンネルへとむかってあるいてきて、疲れたので、
いつもの場所に、その光をみつけた、
それはちょうど入口あたり、
それを発見すると、そこでひといきつこうと、道路の端(今来たところの入り口あたり)におちていた。
角材をもってきて、テーブル替わりにおいて、落書きをはじめた。
いつも、メモ用紙と、ペンはもちあるいている。
それは、天使の絵だった、この暗やみを照らす天使の絵、
クーコは、そのわずかな灯りから、天使の姿を連想した。
1匹、二匹、十数匹まで丁寧に、こまかく書き込んでいく。
これを見て喜ぶサトルの姿が目に浮かぶ、そう考えると余計に楽しくなってくる、夢中でどんどん書き留めていった。
サトルは、なぜだかおきてこない、そう思って
顔をあげたとき、クーコは、ここへきた事を後悔した。
——さっきまでと雰囲気がまったく違う——
あたり一面見渡しても、だれもいないはずだけど、
彼女の心は、そんな不安と
自分はとても危険な事をしているんという漠然とした恐怖感に包まれた。
丁度、サトルがいつもこの通路の“入口”と呼んでいる西の方角から、逆側へむけて、
大勢の足音が聞こえるのだ、
それに耳を澄ましてしまうと、余計に濃く聞こえる、
そこで耳をふさいでも、もっと余計に濃くきこえた、
今度は、視界を塞ごうと思ったが
すでにおそかった。
人々の足がみえた、しかし、足より上はすけてみえない。
「いやだ!!」
これは徐々に、これを見なければいけなくなるのかもしれない。
そう思うと、次は匂いがしてきた。
それはなにかが焼けるようなにおい、鼻がおかしくなりそうな、ものすごい腐臭、
そして、最後には、人々の悲鳴、
そして、人々の全体の姿が、一瞬彼女の視界にうつる。
腕全体を覆い、彼女は、視覚と聴覚、それに鼻での呼吸を止めた。
目と耳をふさいだクーコの視界、
というより、心の中の情景に、その時の全てが明確に、はっきりとうつしだされた。
「ウワアアアアアアア」
自分が叫んだか、人々が叫んだか、はっきりとはわからない。
大勢の人々が西から東へ向けて、固まって走り去っている光景が浮かぶ、
はっきりと、それがわかる、
でもそれは、実態がなく、彼女を踏みつけることも、彼女を見つける事もなく
ただ、まるで過去の光景が映し出されていて
そこに、彼女が置き去りにされているかのような状態になった。
人々は、
なにかからにげまどうように、全員が全員悲鳴をあげてわめいている。
少しすると、
後ろで、何かとてつもない轟音と、爆発音が聞こえた。
鈍い彼女にも
それが“終末”のときの映像だとすぐにわかった。
戦争の記憶、その時の人々。
このトンネルには、彼らの“亡霊”がでるのだ。
クーコは東でも西でもなく、もと来た南の、小さな脇のトンネルの入り口へ、自分の持ち物を捨てたたままにげさった、
そのとき、すべてを理解した。
“サトルは、これを隠していたんだ”
サトルは、人々の話や、過去の話をしたとき、クーコの前でもの言いたげな、微妙な表情をする事があった、
間違いなく、これを見ていたに違いなかった。
次の日、朝がくるまで起きていたクーコ。
ひざをかかえて、掛布団の中で、くるまる、もうひとりの生き残り、サトルをじっと眺めていた。
この時間なら、いつも彼はおきていて、
クーコは、あの天上のドームから、外の映像をみているはず。
今日は、そんな気分ではない。
彼のそばで硬直してサトルのほうを見つめ続けるミーコを見つけるまで
ずっとそうしていた。
「おはよう」
そうして昨日の出来事は、二人の間で共有された。
彼はあっけなく白状した。
「知ってる。僕も見てる。」
止まれ、の看板が立てられた、
我が家とはお別れして、真相を確かめに行かなければいけない。
サトルがそういうと、クーコは安心した。
彼はその看板を引き抜いた、
そして、懐中電灯を、クーコに手渡した。
(いつまでも隠しているつもりはなかったんだ。)
二人は広いトンネルへでて、昨日クーコがいた場所へと向かう。
足取りは重い、けれどサトルはいう。
——(亡霊は夜にしかでないよ。)——
昨日の場所は、荒らされた形跡もなく、昨日のままのこっていた、
強いて言うなら、逃げるときにクーコがなげとばしたペンが、わきへ転がっていた。
サトルが昨夜、クーコがこっそり書き上げた、天使たちをみて、くすっとわらう。
人差し指で昨日つくった即席テーブルをゆびさした。
「君イラスト書くのは、やっぱりうまいね」
少し西へ進むと、自分達の拠点によくにた、わきみちをみつけた、
うれしいことには、ここは幾重にも、扉が設置されている、おくは豪華な椅子や机が設置されている、
なかに鉛がしきつめられている。
ここはどうやら、どこかの大富豪のための、特注シェルターらしかった。
彼はいう、
ここを新しい拠点にしよう、
クーコは、大富豪に、なぜか謝罪した。
そして、とまれの看板をたてた。
そして、彼ら、“過去の人々”が“亡霊”が走り去ったと思われる地点の、より奥深くを、捜索を始める事にした。
サトルもその先の事を知らないらしい、あたらしい決心をしたらしかった。
だけど
サトルだけは、しっていた。
あの映像のもっとさき、
あの集団のほとんどが、何ものかに焼き尽くされた事も、
自分やクーコが、普通の人間ではない事も、
アンドロイド、自分達に流れる血の色のこと、
薄いピンクの血を持つ生物。
書物で情報を調べるにつれ、現実味を帯びてきて、
それでも、自分自身、まだそれを受け入れる事ができていない、
クーコは、その事を知りたいのだろうか、
そうならば、二人は、いつか地上に出る事は可能なのだ、
電力さえ、確保できれば、ほぼ永遠に近い月日を生きていくことが可能なのだ。
終末世界とアンドロイド。