弱肉強食

弱い者の肉を強い者が食べる。
自然界ではそれがルールらしい。
そうでないと、回っていかないらしい。

私は、クラスの人気者だった。
クマちゃんは、クラスの嫌われ者だった。

だから……

「あ、パン私の分も買ってきてね、お金?今度払うから」
「私、なんか風邪っぽくて……クマちゃん頭いいから、レポート2つくらい簡単だよね?」
「わあ、かわいい財布! 欲しいなあ」

クマちゃんは、私に逆らえない。
当然だ、私以外友達のいない『弱い子』だったから。
クマちゃんのおびえた目を見ると、心が落ち着いた。
自分は強いんだって思えた。
だから、周りの人間にも優しくなれた。

でも……。

あれから10年経った今、自分は強くなんてなかったと知った。

派遣切りにあったのは3ヶ月前。
ハローワークに通いつめて通いつめて、やっと1社だけ面接に漕ぎ着けた。
家賃の滞納もぎりぎりだ。
合格しないと、路頭に迷うかもしれない。
 
「あら、久しぶり。元気だった?」

その女性面接官の顔には、確かに見覚えがあった。
彼女の首から下がっている社員証に『人事部 隈元』という文字。
その目が笑っていない笑顔に、私の背筋が凍りついた。

――コンドハ、ワタシガ、タベラレルバン?

弱肉強食

弱肉強食

強いモノが弱いモノを食べる。私はそれを知らなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-22

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