バレンタイン
誰だこんなイベント考えたやつは。
なにがバレンタインデーだ。どいつもこいつも製菓会社の商業戦略に乗せられやがって馬鹿じゃないのか。
……岩下さんは、誰かにあげるのだろうか。
「あの……」
おずおずとした声に振り返ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。
あたりに人影はない。断っておくが、決して俺があえて一人になるようにつとめていたわけではない。
なんとなく、たまたま一人になりたくて、廊下の隅っこにいただけだ。……たぶん。
話しかけて来たのは、クラスの女子、小川だった。地味なタイプだ。
いや待てよ、眼鏡を外して、ピンクのリップでも引けば、けっこう……って、何を言っているんだ俺は!
俺が好きなのは、岩下さんだ!
小川がオレンジの包みを差し出してきた。思わず俺の喉がなる。
「これ、三宅くんに渡してくれる? 同じ部活で仲いいよね?」
「え? あ、ああ、うん! い、いいよ、ぜんぜん、うん!」
あたふたする俺にその包みを渡すと、小川はカバンからもう一つ包みを取り出した。
青い箱に、小さなクマのマスコットがゆれている。
「それからこれ。岩下さんがあなたに渡してって」
「え……?」
前言撤回! バレンタイン最高!!
バレンタイン