Fate/defective c.24
バーサーカーは、ようやく聖杯の根元に辿り着いた。
たった今鉱山から切り出してきた巨大な水晶を粗雑に組み合わせたかのようなその聖杯は、見上げてもその器の中が見えないほど大きい。それは聖堂の最奥に設けられた祭壇に、聖人の遺体の代わりのように堂々と据え置かれている。
如何なる手段によってか、魔術師アーノルドによって実体を持った聖杯。バーサーカーはその表面をしばらく興味深げに眺めた後、恍惚とした表情で言葉を紡いだ。
「さあ、聖杯よ。聖杯よ。聖杯よ! 僕が勝者だ。僕の望みを叶え給え。既に完成された器よ。僕の願いを!」
薄暗い聖堂に、バーサーカーの声が響く。その声は朗々と、その身に巣食う寒ささえも感じさせず、響く。
彼は両手をあげ、聖杯に向かって、どこか悲痛な叫びをあげた。
「ああ。僕の友人、伊勢三杏路の蘇生を! 真っ当な人生を! ただ一つの幸福を与え、僕と共に生かすことを! 冥界の王がその肩を叩くまで、僕の父と母、そしてすべての神々の名を懸けて祝福を与えよ。約束された幸福と共に、その生涯を―――――――――」
その祈りの声は、ひとつの知らない声によって破られた。
「令呪を以て命ずる。……バーサーカー、そこを動くな」
「―――……!」
バーサーカーにとって全く予想外の事態に、彼は顔をひきつらせた。聖堂の方を振り返っても、何も見当たらない。そうしているうちに、腕が、足が、みるみるうちに見えない鎖で縛られていくかのように硬直していく。
とうとう彼は、その場から一歩も動けない体になった。
バーサーカーは吼えた。だが崩れかけた聖堂には誰もいない。数十メートル先に、ついさっき体を半壊させた魔術師の死体が瓦礫と一緒に転がっているだけだ。
「そう慌てないで。君を邪魔するつもりはない」
また知らない声が響いた。若い青年の声に聞こえる。だがバーサーカーには全く心当たりのない声だ。
「誰だ。令呪を持っているという事は、あの魔術師の手の者か。ならば命は無いと思え」
バーサーカーはゆっくりと、しかしおびただしい怒りを湛えて言う。
その声に応えるように、聖堂の中央にのびる一本道の石の床から、ごぽり、と黒い何かが噴き出した。
「それはまあ、また後で。とにかく今は、君に話をしたいんだ」
声はその黒い泉から聞こえてくる。ごぽり、ごぽりと不気味な噴出音を立てて、石の床から生えるように黒泥が噴き出し、中空に向かって凝固し、何かを形作る。
それはひとつの人影になった。
「初めまして、かな。バーサーカー。ここまで勝ち残ったこと、おめでとう」
黒い泥が人影から剥がれていき、一人の青年が姿を現した。
白い肌に、烏羽色の髪、青い目。黒髪だが、東洋人ではない。白い簡素なシャツに黒いベストを着て、長いズボンを穿いている。そして奇妙なことに、その白い肌の顔から指先にいたるまで、およそ見える範囲の全てを、輝く浅葱色の幾何学模様が刺青のように覆っていた。
サーヴァントの類ではない、とバーサーカーは直感した。此奴は紛れもなく人間だ。バーサーカーは問いかける。
「お前は、誰だ? 今までの一部始終を知っているような口ぶりだが、どこかで盗み見ていたのか?」
「重ねて言うけれど、僕が誰かなんて、今はどうでもいいことだよ。だから名乗らない。だけど、この聖杯戦争をずっと見ていたというのは本当だ」
「何故今になって出てきた?」
「それはね、君に一つ、話をするためだよ。それを知らなければ、君はその聖杯をうまく使えないだろうから」
青年は群青色の瞳の目を細めて、穏やかに笑った。バーサーカーは眉根を寄せて青年を睨む。
「この聖杯に、何か問題でも? ……いや、問題があるのは知っているが」
「へえ、それは何? 君はこの聖杯戦争の何を知っているのかな。話してよ」
試すようなその声に、バーサーカーは一層苛立ちを募らせる。だが、その青年の言葉に宿る強制力に逆らうことができない。
「……この聖杯戦争は、最初から仕組まれた物だったんだろう。僕を召喚した魔術師たちは、『初めから聖杯を持っていた』。しかもそれは、既に願望器として完成した物だった。だから六騎の英霊の魂も必要なかった。
しかし何故か、魔術師たちはその完成した聖杯の力で英霊召喚をし、令呪を七人に分配し、聖杯戦争を執り行おうとした。だが偶然バーサーカーとして呼ばれてしまった僕が、主催者であり勝者となる予定だった僕のマスター役と魔術師たちを殺したから、主催者の計画が狂った」
青年は頷く。バーサーカーは自分を見据えて品定めをしているかのような、彼の群青の目に気圧されるように続ける。
「聖杯戦争を始めた魔術師たちの計画は失敗した。そして魔力切れで消滅しかけていた僕を、途中から参加したアーノルドという魔術師が再契約で拾い上げ、令呪をもって六騎の全滅を命じた。そして今、五騎が倒れ、僕のマスターだったアーノルドは死に、令呪は無効となった。だから聖杯は、僕のものだ。
そうだろう?」
バーサーカーは青年に咬みつくように語り終える。青年は、左頬の刺青を撫でながら首をかしげる。
「途中までは大体あってたよ。だけど、その説明ではあまりにおかしな点がいくつかあるよね。
ひとつ、なぜアーノルドという魔術師―――曰くそこで死体になっている男だが―――は、君に六騎の全滅を命じたのかな。
ふたつ、なぜ数ある英霊の中から、よりによって君が、しかもクラスを変えてまで召喚されたのかな?
そして最大の謎は、君のマスターたちが、なぜ願望器として完成した聖杯で、聖杯戦争を起こしたのか、だ」
「知ったことか!」
バーサーカーは身をよじるように怒号を上げる。令呪の鎖を引き千切るように右腕を振り上げ、顕現させた剣をあらんかぎりの力で刺青の青年に投げつけた。
「聖杯戦争が何だろうが、僕は僕の望みを叶えるだけだ! 聖杯があればそれでいい。真実など、知ったことではない!」
剣は青年の心臓に真っ直ぐに突き刺さる。だが次の瞬間には、青年は黒い泥塊となって地面に崩れ落ちている。
「ひとつ、なぜアーノルドという男はおまえに六騎の討伐を命じたのか?」
消えたはずの青年の声が聖堂に響く。間をおかずに、バーサーカーの体に黒い縄が幾重にも巻きつき、固く縛り上げた。
「離せ、この―――泥人形が!」
咄嗟に霊体化しようとしたが、なぜか出来ない。縄が霊基までも縛りつけたように動けない。
抵抗する彼の耳元で、青年の声が囁いた。
「何故なら、あのアーノルドという男こそが、お前を召喚した魔術師達の一派、魔術協会スウェイン派の頂点、全ての黒幕、アーノルド・スウェインだからだ」
バーサーカーの動きが止まった。
「……魔術……教会?」
「そう。魔術協会スウェイン派。君が言う、『完成した聖杯で聖杯戦争を執り行う』作戦を決行した、魔術師の集団だよ」
バーサーカーの真横に、刺青の青年がふわりと姿を現す。
「魔術協会、聞いたことあるだろう? 君はよく知っているはずだ。なぜなら―――」
「ア……ああああああアァァァァァァァァァ!!!!!」
バーサーカーが力の限り咆えた。薄闇の中で、翡翠色の目を燃え上がらせ、激昂のあまり口の端が震える。
「マスターを………! 僕の……僕のマスターを!!」
「そう、一九九九年の聖杯戦争で君は現界した。その時のマスターを実質的に殺したのが魔術協会だからだね」
怒り猛るバーサーカーの腕と胴を油断なく黒縄で締め上げながら、青年はまるで春風のような笑みを浮かべて言う。
「君は、その聖杯戦争でマスターの少年を失った後、マスターを殺した魔術師たちを全員虐殺し、更に一般人の殺戮に手を伸ばした。その時の行動が霊基に刻まれ、君はめでたくバーサーカーとしての側面を持ち得ることになった。……非常に珍しい例だけれどね。
そしてアーノルド・スウェインはその一九九九年聖杯戦争でのお前を『知っていた』。だから、バーサーカーとして召喚出来ることも知っていた。
さらに言えば、お前がこの聖杯戦争に召喚されたのは、聖杯の意思でも、単なる偶然でも、何でもない。初めから、意図されたものだったんだよ」
青年は、すっと腕を伸ばして、祭壇の左手側の柱を指した。
「二つめ、どうやってアーノルドは君を意図的にバーサーカーとして召喚したのか。答えはこれだ」
青年の手から伸びる泥が変形し、腕の形になる。その腕が、祭壇の真横に立つ柱の一柱、左手側の柱のなめらかな表面の一部に爪を立て、カチリ、とこじ開けるように動く。
柱の表層が蓋のように外れ、中身がかすかな光にさらされ、露わになった。
「……ッ、……こ、れ……は」
バーサーカーがそれを見て息を呑む。
柱の中に収められていたのは、薬品のような液体に漬けられた、少年の身体だった。
円筒形の水槽のような柱の内部に琥珀色の半透明の液体が満ちており、その中に痩せた少年の上半身が入っている。普通の少年ではない。髪は短く真っ白で、痩せ細り、胸には大きく穴が開いている。肋骨より下は無く、腕には無数の注射針の痕が残っている。閉じた目は落ちくぼみ、老人とも見分けがつかない程にやつれていた。
「………ああ……あ……杏路……」
バーサーカーが呻くように呟く。青年は穏やかな笑みのような表情を崩さないまま、言う。
「そう。アーノルド・スウェインが、バーサーカーとしての君を召喚するために使った触媒。それが、この伊勢三杏路の遺体だよ」
「ああ、あ……!」
「アーノルドは狡猾だ。一九九九年、この少年をマスターとして擁立したライダー陣営の魔術師集団の中の一人として存在しながら、ただ一人君の大虐殺を生き残り、君が喉から手が出るほど欲しがった遺体をこうして隠し続けた。……ねえ、サーヴァントも絶望する? するとしたら、今みたいな瞬間なのかな」
バーサーカーには最早、青年の言葉など耳に入っていなかった。ただ目の前の少年の遺体に目を奪われ、憐憫と妄執の眼差しでそれを見つめ続けている。
「でもさ、ペルセウス。これはもう要らないよね」
唐突なその一声とともに、バーサーカーの目の前で少年の入った水槽が、ガシャン、と無慈悲な音を立てて叩き割られた。ざぶり、という水が溢れ出す音、大量の液体と共に、少年の上半身の遺体が聖堂の床に投げ出される。それは骨と皮ばかりの両腕を投げ出して、無造作に床に転がった。
「あ……」
「『adolebitque』」
青年は無表情でその少年の体を指差し、呟いた。瞬時に、その遺体の辺りから赤い炎が上がり始め、少年の上半身を舐めとるように覆いつくす。ジリジリと肉体の焼け焦げる音に、バーサーカーは悲鳴にも似た叫びをあげた。
「何を……! 何を、やめろ、やめろ、やめてくれ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!嫌だ、嫌だ、杏路、杏路、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒泥は容赦なく身体を締め付ける。手を伸ばす事も、すぐ背後の青年を斬る事も、消えることも顔を背ける事も出来ず、バーサーカーはただ目を閉じる。そこに青年の声が覆い被さってくる。
「どうして悲しむの? どうして目を瞑るの? だってこれから、あの聖杯で、正にあの伊勢三杏路少年を生き返らせるんだろう? だったら古い体はもう要らないじゃないか」
青年はあっさりと言い切った。
「サーヴァントだから強いと思っていたけれど、精神は意外と脆いんだね。目の前の結果にしか目が向かない。それとも、それは君がバーサーカーで、妄執という狂気でしか霊基を支えられないからなのかな」
「ああ、あ……」
呻くバーサーカーに、青年はそっと耳打ちする。
「さあ、もう悲嘆に暮れるのはやめなよ。最後の謎の答えを教えたら、きっとあの子を生き返らせてあげる。君もそうしたいよね?」
バーサーカーは怒りに身体を震わせながら、隣に立つ忌々しい黒髪の泥人形を睨みつけ、吐き捨てる。
「黙れ。黙れ、黙れ、黙れ、黙れ! 僕の友人の亡骸に犯した罪、その死を以ってしてもまだ償いきれないと知れ!」
「威勢がいいなあ。まだ怒りを燃やす余地があったとは。流石、狂気に堕ちただけの事はある。その精神、壊すのは難しい」
青年は口角を上げて、薄ら笑いを浮かべる。頬に刻まれた、浅葱の幾何学模様が歪む。
その瞬間、バーサーカーの頸椎に鋭い痛覚が走った。
「――――――――!」
声にならない悲鳴を上げ、バーサーカーはうつ伏せに倒れる。首の後ろ、うなじより少し下の辺りから、皮膚を抉るような、グチャリ、という生々しい音が聞こえる。
「精神を壊すのは難しい。だけど頸椎に直接、泥を流し込んでしまえば簡単だよね」
「ど、ろ……?」
地面に這いつくばりながら、バーサーカーは揺れる視界の中で刺青の青年を捉える。青年は右腕から伸びる黒い触手じみたモノをバーサーカーの首筋に突き刺し、無感動な表情でそれを眺めていた。
「さあ願って。伊勢三杏路の蘇生を、一緒に、聖杯に。大丈夫、君の願いは叶う。君は友人を理不尽な死から未来永劫に救い出し、共に歩める」
「あ、ろ……が……生き、て……」
脊髄に突き刺さった泥が脳を蝕んでいく。考えることができない。この謎の青年の泥人形の言われるままになってはならないと分かっているのに、体は、口は、舌は、思い通りに動かない。
霞みかけた視界に、ぼんやりと何かを描いた。
小さい背中。短く白い髪。だけど彼はどこまでも続く草原の上に自分の足で立ち、自分の心臓で生きている。彼は僕の方を振り返り、僕の名前を呼ぶ。苦痛のない呼吸で。二度と傷つかない身体で。憎悪と怒りを知らない目で世界を見る。
「―――――杏路、生き返って」
◆
「よく言った」
その声で、ハッと我に返る。友人の幻覚は急速に遠のき、意識は薄暗い聖堂の祭壇へと戻ってくる。
脊髄に突き立てられていた泥も、自分を霊基ごと縛り上げていた泥縄も、気付けばどこかへ消えており、刺青の青年だけが穏やかな表情で、バーサーカーから少し離れた場所に立っていた。彼はすっと右腕を上げ、聖杯を指差す。
「願いは聞き届けられた。では最後の謎―――なぜアーノルド・スウェインは、完成された聖杯で聖杯戦争を執り行ったのか、の答え合わせだ」
バーサーカーは呆然と聖杯を見上げ、次の瞬間、大きく目を見開いた。
「なっ……」
「聖杯戦争の理由、それは――――」
聖杯の器の縁から、真っ黒な泥が溢れ、聖杯の表面を滑り落ちて聖堂の床に広がる。透明無色な聖杯は、あっという間に零れだす泥でどす黒く汚れた。泥から熱気のように放たれる尋常ならざる魔力に、バーサーカーは思わず後ずさった。
「これは……何だ?」
青年は平然と泥に触れ、手のひらでそれを転がす。
「一九九九年のやり直し。これは、そういう聖杯戦争だったんだよ。サーヴァントの魂を呼び水に、更に高次の存在を召喚する。そのために、アーノルドは君の願いを叶えたがった。そして現に今、伊勢三杏路の蘇生は叶えられた!
さあ、今日は運命の日だ。君の友人と、君には、この人類の祝日に相応しい、特別な役割をあげよう」
群青色の瞳が、聖堂の薄い明かりを反射して輝く。バーサーカーは敵対することも忘れ、喉から声を絞り出した。
「お前は―――――何をする気だ?」
「言ったじゃないか。一九九九年のやり直し。その時為し得なかった、聖杯の奇跡の再来を。すなわち、―――――――ビーストの召喚だ」
その瞬間、バーサーカーの目に「それ」が写った。
「あ……?」
聖杯から溢れる泥が、蛇のように絡み合い、幾つもの頭をもたげて、ひとつの形を作る。まるで刺青の青年が現れた時と同じように、それは人の形をとり、凝固していく。
「まさか、貴様、杏路を――――」
「それは違う。いくらなんでも、杏路くんをビーストとして召喚するのは無理だ。けれど」
「惜しいね。限りなく、正答に近い」
唐突に、青年は語る。
「どこまでも清く正しい魂と、ほんの少しの狂気。それで、獣になれる」
「ねえ、わかるだろう? 人の欲というものが、どれほど醜悪なものか。
見て、この世の哀れさを。無尽蔵に増え続けた、ありとあらゆる欲望を。一つ満たされたとしても、それで満足することなど無い、哀れな貪欲の奴隷。それが人間なんだよ。
原初から、人間は争う生き物だった。たとえば食糧を。土地を。権利を。名誉を、知恵を、奪い合い、侵しあい、勝者が敗者を虐げ、敗者が立ち上がり、何度も何度も世の中を作り変えてきた。それでも、今の今まで人間はちっとも変わらない! 何度殺しても殺し足りず、何度生かしても生かし足りない。
人類史は語っているじゃないか。欲望こそが全悪の根源だと」
青年は語る。
「伊勢三杏路はどうして死んだんだい? 狂った天才の気まぐれと、それを利用して欲望を満たそうとした愚かな魔術師たちのせいだろう?
君は良く知っているはずだ、バーサーカー。
人間は馬鹿で、どうしようもないものだと。
それが杏路を殺した。その聖人性に気付かなかった私利私欲の化け物たちが、君の大切な友人を、道端の草みたいに踏みつけて殺したんだよ!」
だから僕は考えた。
その悲劇を目前にした者として。
十八年前、モニター越しに、魔術師達と一緒に見ていたあの光景を忘れない。瀕死の身でありながら最期まで友人の英霊の身を案じ、受肉させ、全人類の幸福を願い続けた、かの純真無垢な少年のことを。
人間は欲望に囚われすぎた。
誰も、他人の幸福だけを望んで生きていくことなどできない。――――今のままでは。
変えなくては。人類の機構そのものを変える、何かが必要だ。―――装置。――――思想。――――洗脳に近い何かを完璧に遂行する、理想的な装置が。
「僕は考え続けた。そして計画し、実行した。人類を根本から変えるための、理想郷を作る装置の開発。それは今日、今まさに、この瞬間に成る。
さあ、ペルセウス。僕と一緒に、理想の世界を作ろう」
泥から生まれた人影が、青年の指に操られるようにバーサーカーに近づいていく。
その腕が、人とは思えない速さでバーサーカーの身体に伸び、
その無抵抗な英霊の身体を引き寄せ、
―――――その霊基ごと、喰らい尽くした。
青年はその様子を眺め、満足げに頷く。英霊の身体を呑みこんで蠢き、肥大化しつつあるその泥の塊に、恭しく礼をした。
「さあ、ビースト。炉心を埋め込んだら、いよいよ受肉だ。生贄も、もう少しで足りる。そうしたら、僕が君のマスターだね。……せっかくだし名乗ろうか?」
「僕が、アーノルド・スウェインだよ」
Fate/defective c.24