野生の力

 お話 はじまり、はじまり。
「人間様は偉いのだ。そして神様の次に強いのだ」と考える一人の利口そうな男がいたそうな。
「本当か? それなら競技会を開こう」と動物たちが言った。
その結果は、
  100メートル競走・・・チーターの勝ち
  レスリング・・・ゴリラの勝ち
  重量挙げ・・・象の勝ち
  1500メートル自由形・・・イルカの勝ち
  最長不倒距離と着地・・・白鳥の勝ち
「残念、だが芸術文化なら負けないぞ。人間様は神様の次に有能だから」とその男はまた言ったそうな。
「本当か? それなら文化祭を開こう」とこんどは小鳥や昆虫が申し入れ、植物も加わった。
その結果は、
  音楽コンクール・・・春はうぐいす、秋はスズムシが優勝
  美術コンクール・・・これも春の桜、秋のもみじが優勝 
  ダンスコンクール・・・極楽鳥が優勝
  衣の部門・・・みのむしが優勝
  食の部門・・・ミツバチが優勝
  住の部門・・・蟻が優勝
「悔しい、それなら科学技術はどうだ。人間様は神様の次に頭がいいのだ。スマホもAIも相対性理論もあるぞ。いまに宇宙の謎を解き明かし、生命も作れるぞ。いずれ神様を追い越してトップに立つのだ」とその男はまた言ったそうな。
「本当か? それは困った。人間がトップに立つのは迷惑千万だ」と全ての生物が言った。
千年杉は「天地の恵みを受けながらここにじっと立ち、わしが何を見て、何を考え、何を思って来たのか人間には分るまい。人間が使っている物など何も必要ないのだ」、また小鳥は「小さな暖かい巣があり、森の木の実を分けてもらって雛が育てば幸せだ。それ以外に欲しいものなど何もない。人間の欲しがる物など興味ない」と言った。
それを聞くや、見下されたと勘違いして「何を生意気な。やっつけてやる」とプライドが高くて思いあがったその男はとうとう怒り出したそうな。
さあ大変、闘いが始まった。ドーピングまでして競技に勝ちたいと相手をだましたり、核兵器を使って相手を全滅しようとするような人間のやる事に生き物たちはホトホト困ってしまった。フェアプレイでは勝てないとみると人間は熊を銃で撃ち、ライオンを罠で捕らえて見世物にした。動物や小鳥たちの楽園だった広大な森林も開発やゴルフ遊びのために切り倒した。
「ようし、神様より悪魔に近い人間を許せない」と人間と比べればはるかに小さなウイルス、細菌が猛威を振るった。そして、こんどは大勢の人間が倒れた。
ここに来て男は自分の愚かさを反省したそうな。
全ての生物は夫々に優れた能力というか、特徴というか、力があり、人間はその中の一つの生き物に過ぎないということを知り、神は人間をえこひいきしないということも知った。    
そして男は「人間は特別な存在、なんでも一番、何をやってもいい」という考えをやっと捨て、今度は本当に賢くなったとさ。
きょうの話はこれでおしまい。
 私は下手な話を聞きながら利口そうで馬鹿な男が最後には本当に賢くなったという結末に安堵した。
   2017年11月15日

野生の力