別れ方-1-

もう付き合って5年がたっていた。
私ももう29になり、三十路に王手をかけた。同い年の和也は、男は30からだと喜んでいたっけ。まったく、頭の痛い話だった。
ずっと結婚するのだと思っていたし、お互いの親にも簡単な挨拶はしてある。それなのに、和也はいっこうに、式の日取りも、結納のことも、改まった挨拶も、する気がないのだった。結婚しないの?と問いかけたことがある。それも何度もだ。その度に必ずすると言って熱い夜を過ごした。

「あなたのご両親へのご挨拶なんだけど」
横に眠る和也へ話しかける。しっかり聞いてもらえるように、肩をゆすりながら。
「いいよ、そんなの」
「そんなわけにいかないでしょ。必要なことよ」
思ったよりも大きな声が出てしまったことに、私自身がおどろいた。
「ご挨拶をしなければ話が進まないわ」
和也は聞きたくないというように布団を頭までかぶってだんまりを決め込んでいた。
やっぱりもうダメなのかもしれない。
今まで抱いてきた感情が日に日に膨らんでゆく。この人は、私と結婚する気がない。あるとしても、大事な事を向き合えない2人が上手くやっていけるはずもない。もう十分に時は共にしたではないか。
もちろん、30手前でフリーになることは怖い。和也のことも好きだ。だが、このままで幸せになれる気がしないのだ。

「和也、私たち終わりにしましょう」
ふと口から想いがこぼれてしまった。何も今言うことではないではないか。つい先ほどまでベッドで交じり合っていたばかりだというのに。それでも、もう逃げられない、と和也の答えを待った。
「大丈夫、きちんとするから」
拍子抜けした。まさかの答えだった。少しくらいは、感情を出してくれると思っていた。

諦めがついた。というのが1番似合う言葉かもしれない。
私は和也の部屋の合鍵を置いて、簡単に荷物を束ねて部屋を後にした。和也は寝息をたてていた。



次の日、仕事から戻ると部屋の前で和也が座り込んでいた。
「カギ、なかったから」
不思議そうな彼を見て、私も不思議そうな顔をしていたと思う。
「当たり前よ。別れたのよ。カギは昨日返してもらったわ」
「別れてなんかないよ、俺納得してないし、お前は俺が好きなんだから」
めまいがした。この男と別れるにはどうしたらいいのか。もうすでに彼の
存在は重荷に感じられた。

別れ方-1-

オトコとオンナの価値観の違い
愛し合ったことの重みを書いていきたいと思います。

別れ方-1-

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-01

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