本日は、晴天なり。(16枚)

眠れる虎は大切な人の為、ようやく開眼する。

これは、アニオタゲーマーの恋と覚醒の物語(そんなかっこいいモンじゃない)。

 1人で登校し、蜂を食べさせられ、ズボンを下され、殴れらて、1人で帰る。無限ループに嵌ったかの様な毎日と、死。どちらかを選べと言われたら、心の強い奴らは、有るかどうかも解らない【幸せな将来】を夢見て、地獄と言うにも表現できない最悪な毎日を耐え、生き残る事が出来るのだろう。
 僕は心の強い人間ではない。
 というわけで来週、僕は校舎の屋上から飛び降りて死ぬつもりだ。


日の出と共に目覚めた、なんてことはない。普通に6時に起きた。身体中にある痣。朝の食卓で母は気の毒そうに僕を見る。
父は「今日こそ勝ってこい。男だろ」と言った。
 立ち向かっていけるようなら苛められない。
 憤りを顔に出さず、淡々と朝食をお茶で流し込み、何も言わずに玄関から出た。
 苛めが始まってから晴天の日でも空が曇っているように見えるのは、気のせいだろうか。


「転校生を紹介する。……ほら自己紹介」
教室中がざわめいた。かなりの美人だ。美人と言うより、美少女と言った方が適切か。
目が大きく、髪は長いが、結んでいない。身長は僕より少し低いぐらいか。ちなみに僕は百六十二センチだ。
「初めまして。安心院美咲です。趣味はゲームです。よろしゅっ、宜しくお願いします」
ほう、僕と趣味が被っている。こいつは可愛いのだから、苛めに会う心配はなかろう。
「じゃぁ安心院の席は、明弘の隣な」
男子の視線が痛い。こりゃ今日は生き残れるか心配だな。
「よろしくね」
満面の笑みで僕に挨拶した。こんなことをしてくれるのは何年ぶりだろうか。
 まぁ、明日にはこの子も僕を無視しているのだろうけど。


 今日もいつも通りの無限ループ……とは、いかなかった。
昼休み。いつも通り、クラスのイケメン達に呼び出され、クラスの女子にクスクス笑われながら、教室を後にした。目指すは体育館裏。
「調子乗ってんじゃねーよ、このオタクがっ」
木村は半笑いで僕の鳩尾目掛けてパンチ。
ここまでは日常茶飯事だった。
「何してるんですかっ」
嗚呼、貴女は神様ですか?
安心院は怒っていた。俺の為に?そんな。
だが、待て。か弱い女の子である安心院に何が出来ると言うのか。
 案の定、木村達は、
「あぁ?何だよ、お前もこうなりてーのか」
と、頭の悪そうな声を出す。
 しかし、安心院は木村より頭が良かった。
「私の父は警官です。いじめをやめなければ父に言いつけますよ。そして今の行動はペン型カメラで撮らせていただきました」
 おお、これは凄い。つまりこれから僕を苛める=逮捕、ということになるのか。待て、なんでそんなもん学校に持ってきてんだ。
木村一味は非常に悔しそうにしている。良い気味だ。
「おい放せよ、脳筋野郎」
僕が思い切ってそう言うと、木村はまた殴ろうとした。だが寸止めし、歯痒そうに、
「覚えてろよ……」
と、定番のセリフを残して去って行った。
「大丈夫?」
安心院様がみてる。僕は安心院の差しのべた手を取り、立ちあがり、惚れた。
「放課後、一緒に帰ろう」
気がつくと、そう言っていた。


「へぇ、アキヒロくんもゲーム好きなんだ」
僕と安心院、二人きりで下校。昨日までの僕とは大違いだ。教室を出るときに木村一味と女子が話し合ってたのを見たが、気にしない事にした。
「じゃぁさー、ペルソナ4っていうゲームした事ある?」
やったことない。
「えぇー、面白いのに。ストーリーやキャラも好きなんだけど、あれはゲーム音楽がもう最高でね。特に通常戦闘曲がいいの」
ほう。そういうゲームは好きだな。MOTHER2とか、ああいうのだろ?
「わぁ、アキヒロくんレトロゲー好きなんだ。まぁあれは不動の名作だよ。最強の雰囲気ゲーって感じ?」
 そうだな。それより、そのペルソナ4の通常戦闘曲ってやつ、聴かせてくれないか?
「ほー、アキヒロくん、興味あるんだ?いいよ、貸したげる。今日CD作ってくるね。本当はゲームも貸したいところだけど、今7週目の最中だから」
7回もやってんのか……相当面白いんだな。
「もう、面白いってもんじゃないよ。……あ、この別れ道でお別れだ。また明日―!」
おー、さいなら。
……明日が、楽しみだな。


ぴんぽーん。あきひろくーん、いっしょにがっこういこうよー。
飛び起きた。安心院、何故僕の家が解った。
大急ぎで着替え、パンを齧って外に出る。母がニヤニヤしていた。泣いていたように見えたのは気のせいだろう。
「な、なんで僕の家が解ったっ」
「表札。思いっきり長嶋って書いてある」
そこまでして探してくれるとは。なんか赤くなってきたぞ。顔が。なんとか落ち着きを取り戻す。深呼吸、深呼吸。
「……行こう行こう」
登校中にCDは貰った。【Reach Out to the Truth】とCDに書いてある。曲目だろう。訳は―解らん。僕は英語が苦手だ。


 その日、僕は自分と安心院が甘かった事に気付いた。
 皆、僕と安心院がいないかの様に振る舞うのだ。安心院が挨拶をする。無視。安心院が話しかける。無視。安心院が俯く。無視。
僕?僕は無視なんて日常だから別に記す程でも無いだろう。それより、木村が安心院に何か囁きかけている。なんとなく気分が悪い。安心院は目を見開き、一筋の涙を流して教室から出て行った。おい、お前等は何であんな可愛い子を泣かせることが出来るんだよ。
 もうすぐHRが始まる?関係ない。安心院がどこにいったか解るのか?関係ない。急いで僕は教室を飛び出した。


 安心院は屋上にいた。
「……あ、アキヒロくん。どうしたの?」
それはこっちの台詞だ。
「はは……そうだね。……ごめん、アキヒロくんのこと、助けられなかった」
何故?警察に言えばいいだろ。
「ううん、無視っていうのはね、証拠が凄くつかみづらいの。それを利用して、あいつらは無視をし続けるみたい。もちろん、アキヒロくんもね。そこまでして他人を傷つけたいなんて、最低だよね」
 僕は溜息を吐いてこう答えた。
「まぁ、な。無視してる証拠なんて出しようがない。僕は慣れてるから大丈夫だ。安心院は……ごめんな、僕を助けたせいで」
心の底から謝った。安心院は僕のせいでこうなったのだ。僕が不甲斐ない所為で。
「いや、そんなことないよ。あんな連中とつるむより、アキヒロくんといた方が万倍楽しいもん」
え?ちょっと照れるな、それ。そう思ったのが顏に出ていたらしく、安心院も顏を赤らめてしまった。
 脈アリかな。いやいや、思いあがるな明弘。
安心院の隣に座った。チャイムはもうだいぶ前に鳴った。だがもうそんな事はどうだっていいのだ。
 すると、安心院が僕の手を握った。
 僕も、強く握り返した。
 安心院は、笑っていた、ような気がする。


 今日は何もなかった。安心院と僕が無視を全く気にせず、あんまり楽しそうに過ごしているので、木村達は何かぶち切れそうな顔をしていた。でも、もちろんそんなことは気にしない。
 今日の夜は安心院から貰ったCDを聴くことにした。部屋にあるHDDにCDを挿入し、スピーカーのスイッチを入れる。
 軽快なアップテンポの曲が流れてきた。それはあまりに元気な音で、僕の部屋は活気で満ち溢れた。素晴らしい音楽だった。この曲は色々な意味で、大人になっても忘れないだろう。
英語で歌っていたので、今日は和訳にでも挑戦してみるか。英語の成績、二だしな。
それに明日、安心院との会話のタネにもなるかもしれない。明日が楽しみでしょうがないってのは、生まれて初めてかもしれない。


 寝不足だ。三時間しか寝ていない。また、ぴんぽーん、とチャイム音が鳴って、昨日と同じように玄関に出る。今日は父も涙ぐんでいた様な気もするが、気のせいか。
「おはよー。アキヒロくん、曲聴いた?」
ああ、凄かったよ。安心院がおすすめするだけはあるな。
「まぁね、私はゲームに関しての知識ならだれにも負けないよ」
じゃぁ、MOTHER2のフランクさまはクリア後、どこにいる?
「チッチッチ。そんな問題簡単さ!答えはハンバーガー屋さん」
おお、正解。すごいな安心院は。
「えー?そんなことないよ」
そんな事を話しながら登校した。
安心院なら、僕はおどおどせずに話せる。何故なんだろう。そう言えは、安心院はなんで見知らぬ僕を助けてくれたんだ?
こんな顏、見覚えあったっけ。


今日も楽しむ、ハズだった。
五時限目の休み時間、事件は起こった。
「ちょっとアキヒロ、来いよ」
木村が叫んだ。僕は驚いた。そんなことをしたら、逮捕されるだろ。とうとう頭が逝っちまったのか木村。
「何、捕まりたいの?」
僕は言った。しかし、木村は予想外の行動に出た。
「うるせぇっ」
僕を思いっきり殴り飛ばした。結局、僕は木村に引き摺られていった。
 安心院は……ちゃんと、撮れただろうか。


「お前、最近調子乗り過ぎなんだよ。オタクが粋がってんじゃねえよ」
木村は僕の髪をつかみ上げ、鳩尾目掛けて殴った。成す術も無い。僕はその場に崩れ落ちた。やっぱり僕は立ち向かう事も出来ない。不甲斐なさすぎる。あまりの痛さに、反射的に涙が出てきた。
木村はぎゃはは、と頭が悪そうに笑い、
「泣いてやんの、こいつ。男の癖に!」
さらに一発、今度は鼻にやりやがった。鼻血が滝の様に流れる。そこで、
「木村っ」
安心院の登場。
「あんた達の今の行動はこのペン型ビデオカメラに撮影しておいたわ。これであんた達は――」
そこで、言葉が途切れた。木村の仲間が安心院を羽交い絞めにしたのだ。
「安心院っ!」
安心院は必死に抵抗しているが、やはり女だ。
木村一味の腕はほどけない。
「あいつをお前と同じようにしてやったら、ビビって、証拠、警察に出さなくなるかもな……?良かったなぁ、明弘クン」
目の前が真っ暗になった。安心院を助けたい。助けなければ。でも、足が竦んでいる―。
「くそっ!」
涙がさらに溢れ出てきた。木村は笑っている。
クソッ、助けたいのに、僕は――。
 そこで、安心院から貰ったCDの、あの曲の一部が、頭に流れてきた。




Now I face out, I hold out
I reach out to the truth of my life
Seeking to seize
on the whole moment yeah

立ち向かうんだ 逃げたりしないで
自分だけの答えにたどりつくんだ
いつだって求め続けている…さぁ、カラを破れ!



 足の竦みが、おさまった。木村の手を噛んだ。千切る勢いで。
「痛ってぇ!」
木村は反射的に手を離した。僕は自由の身だ。
今までの仕返しに一発。もちろん、鳩尾。
これで暫くは動けまい。
「うあぁあぁぁあああ!」
僕は気合い(と言うか悲鳴)を入れ、木村の仲間に襲いかかった。
いつもは大人しく、何も反撃してこないビビリが襲ってきたのに驚いてか、そいつはきょとんとしていた。
必殺、上段回し蹴り。これでも小学生の頃、少し空手をやっていたことがある。蹴りは見事に命中、そいつは頭を押さえながら逃げて行った。
この僕が、安心院を守った。感動で、涙が止まらなかった。
「ありがとう。アキヒロくんって、強いじゃない」
安心院は僕にいきなりキスをした。
血の味だったけど、もちろんそんな事は気にしない。

自殺するのは、やめにした。

木村一味は暴行罪で逮捕された。いじめを隠ぺいしていた学校はニュースになり、大変な事態となった。安心院以外は、僕のことを怖がって近寄ろうとしない。
でも、もちろんそんな事は気にしない。
 




 本日は、晴天なり。

本日は、晴天なり。(16枚)

元ネタ→http://www.nicovideo.jp/watch/sm15134155


こんにちわこんばんわはじめまして。呑んだくれです。

なんだか、僕は小説を書くときに、前に読んだ作家の文章を無意識にまねようとする癖があるようです。
お読みいただき有難うございました。
家庭の事情(中学生がこんな事言うとなんだか可笑しいですね)で長い間執筆しておらず、手を慣らす意味も込めて投稿しました。
それにしてもこういう、ゲーム等の実名を出せるっていうのは、アマチュアの利点ですかね(笑)

本日は、晴天なり。(16枚)

苛められっ子が好きな人の為に覚醒します。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-01

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