アキレスと亀 異聞③


         「アキレスと亀 異聞③」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスはす

ぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしてはたと立ち止まった。目の

前の道がふたつに分かれていたからだ。

「えっ!どっち?」

アキレスは亀の足跡をたよりに駆けて来たが、ふたつに分れた道のどちら

がゴールへ続く道なのかわからなかった。そこで、

「もしもし亀さん・・・」

声をかけられた亀は驚いて振り返った。そして、

「なんだ、ウサギじゃないのか」

「ウサギって何っ?」

「いや何でもない、勘違いした」

「・・・」

「ところで、いったい用は何だ?」

「あっ、そうだ。先に道がふたつに分かれているけど、コースはどっ

ちでしたっけ?」

「何を言ってるんだ、始めにちゃんと説明を聞いたじゃないか」

「そうでしたっけ?」

老いた亀は、

「右だよ、右側」

「ああ、思い出した!そうでしたよね」

アキレスは老獪な亀の言葉をそのまま信じていいものかどうか疑った。

「そもそも競争している相手が本当のことを教えるはずがない」

そして、左の道を駆けて行った。

 しばらくして亀がゴールしてもいつまで経ってもアキレスは現れなか

った。つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

                          (おわり)

アキレスと亀 異聞③

アキレスと亀 異聞③

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-12

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