満月~Supermoon
短いお話の三部作、その第一篇です。
これからの展開、話の内容に皆様の心がくすぐれていたら幸です(^^
ー満月ー
20歳の夏の終わり、
まだ暑さの残る八月の終わり、僕は一人満月を眺めていた。
僕は疲れていた、あまりにも多くのことがありすぎたのだ
もう、ここには誰もいない
皆、皆去っていった
でも、確かに分かる、ここには誰かがいたのだ
僕以外の誰かが。
弥生
ー弥生ー
世間一般では僕のことをニートと言うのかも知れない、
毎日毎日朝から晩まで部屋で過ごすのだから、
でも僕だって働く意欲がないわけじゃない
ただ僕にあった職場がないだけなのだ、
友達だっている、そいつはいまだ僕の部屋に毎日毎日やってくる
僕はその日もやはり部屋で一人この世との繋がりを必死に守っていた
ノートに方程式をがりがりと書き写す僕の後ろ姿を見て彼は言う、
「しかし、君も飽きないねぇ。」
一拍置いて僕がぶっきらぼうに返す、
「別に勉強は嫌いじゃないから。」
「一回いってみたいよ、お前みたいに。」
彼は浅く綺麗に笑って言う、
「なんだ、瞑はテストの点数いいんじゃなかったっけ?」
僕の言葉を聞いて彼、朝倉瞑は言う、
「違う、点数が悪いんじゃなくて勉強が嫌いなんだ。」
「どうして」
半ば被せるように僕が聞く
「わからないんだ、勉強する意味とか、価値とか」
「ふうん」
僕は少し考えてから言った、
「別に考えなくてもいいんじゃないか」
「どうして」
今度は彼が被せる番だった
「ただやっておけば取り敢えずは困らない便利なものだよ、勉強なんて。」
「それってなんか悲しくないか?」
「何が悲しい」
「いや・・なんとなくだ」
「ふうん」
会話はここでいったん途切れた。
結局、この日はこの後彼は何も言わずに僕の作業を黙って見ていた
何も言わずにただじっと。
その次の日に彼は去った。
即死だったそうだ
卯月
ー卯月ー
この頃、僕はバイトを始めていた、
一人暮らしの僕にはさすがに親の仕送りに頼っていられる余裕なんてなかった
僕は比較的愛想の良い方だった、勉強していたから頭もそこそこよかった、与えられた仕事も文句ひとつ言わずにやってみせた
時給はすぐにあがったし、他のバイトの娘とも仲良くなった
あるときから僕とその子はいっしょに暮らすようになっていた
いつからかはよく覚えていない、多分流れだったのだろう
僕たちはまだ若かった
「ねぇ、何を考えているの」
二人で寝ていると彼女が聞いてきた、
「なにも」
「嘘」
「どうしてそう言いきれる?」
「分かるのよ」
彼女は少し体を起こして言った、
「なんとなくだけど分かるの、」
「それはすごいね、じゃあ今僕は何を考えていたのかな」
「友達のことよ」
僕の目が揺れた気がした
僕はこの時彼を思い浮かべていた
「どうしてわかったの」
「だから、なんとなくよ」
彼女は振り返って僕に言った、
「あなたは今遠い所にいる友達を思い浮かべているのよ」
「遠いところか、確かに遠い。」
「けどそんなことはどうでもいいの、問題なのは貴方がそれを私と寝ているときに
思い浮かべていたことなの。」
「ごめん、つい考えてしまうんだ、彼と過ごした時間を」
「それほどまでに魅力的だったの?」
「どうだろう、そうでもなかった気がする。」
「ふうん」
「うん」
彼女がそれいじょう何も言わなかったので僕はそのまま彼女を抱いてねた。
次の日の朝、彼女も去った。
皐月
ー皐月ー
バイトをやめて僕は一人町をぶらぶらしていた
時には喧嘩だってした
絡んできたチンピラなど僕は相手にしなかった
ただひたすらに女に溺れていたのだ
「ねえ、あなた最近ずっと私を指名してくれてるけど
ほんとに私なんかでいいの?」
「いいんだ」
僕はその時夜の店にいた
僕の目の前にはもはや見慣れた彼女の裸体があった
「どうして?」
「抱く体は見慣れてないよりも見慣れてたほうがいい」
「そうなの」
「だから僕は毎回君を指名するし、君を抱くんだよ」
僕が答えた後に彼女はまた聞いてきた
「それならなぜ私なの?この店に初めて来た時は?」
「君の名前を見た」
「名前」
「看板でね」
「そう」
「そうだよ」
「じゃあこれといってないのね」
「なにが」
彼女はなんだかイライラしているようにみえた
「理由よ、この店にきて私を選んだ理由。」
「理由が欲しいのかい?」
「ええ」
「どうして」
彼女は私のほうを向いてこう言う、
「私が選ばれた理由を知りたいの、正直私すごく助かってるのよ?
貴方のお陰」
「僕は君を助けた覚えはないんだけどな」
「そう」
「そうだよ」
なんだかうんざりだった
彼女はとても難しいことを考える人だった
僕はかんがえるのが面倒になってそのまま彼女を抱いた
なんとなく、意識の底で僕は彼女を抱くのはこれが最後になるだろうと思っていた
翌月には彼女は店から消えていた。
朝日
ー朝日ー
一通り話してきたけど、これが三ヶ月の間に僕の周りで起きた出来事だ
これが何を意味するのかまだ僕にも判らない
ただ記録しておくべきなのだ
これから僕に起きることのために
僕は再確認しておくべきだったのだ
なにが起こるのかはまだ判らない
ただわかるのは
今僕の身には現実では起こりえないようなことが起きようとしていることだけだ
朝日の中に渦巻く黒くどろどろしたものが僕には見える
僕は恐怖に怯える
頭の隅で彼らのことを認識している
彼らをまた垣間見るのではと恐怖している
何が起こるかわからない
その恐怖を抱えたまま僕は
朝日を迎える。
1、満月~supermoon
ーー了ーー
満月~Supermoon
どうも^^
満月の雲海です、第一篇「満月~supermoon」どうでしたか?
少しでも不思議な雰囲気を感じて頂ければ幸です^^
ごらんの通りこの作品「満月」は過去形です
「僕」が過去を語っています、
次の作品、「深夜」では、これを機に起こる不思議な現象と「僕」が直面し、
小刻みに揺れ動く「僕」の心を描けていけたらな、と考えております
それではみなさま
ごきげんよう。
2012 . 9 . 1 満月の雲海