成人式
クリスマス・イブ
落下する光の中を
丸い背中が歩いている
「僕は天国を信じない」
吹雪の夜に、そう呟いた
君の声と重なった
この世界にあるのは、重力だけで
救済の声を拾うには、
私の肉体は重過ぎた
私の声は暗過ぎた
行き場のないこと
世界中の不平に
わたしの不平は掻き消される
世界中の叫びに
わたしの叫びは掻き消される
何を言いたいのかを見失って
固いまま、正しいままで、夜の中に存在するビジネスホテルを見上げていた
わたしのからだ、一つでしょうか?
電車の中で、不安になったから、サラリーマンの中に入り込んで、スーツを着たわたし、正しい存在に思われたくて、中に入り込んで、本を広げてみた
正しいような気がしていたのに
それを壊す人に出会ってしまって
薬を飲んだ
昼間買った、ぬるくなった水で飲んだ
誰の声も聞こえないこと、
祈り続けてマフラーと鞄でわたしを隠して、わたしは逃げた
眠りに落ちていく
顔を上げると酷く光った革靴が
わたしのことを責め立てる
わたしは逃げた
最初は、細胞分裂だと、思ったの、でも、カフェ・オ・レみたいに、わたし、分離してくの、コーヒーの、わたし、ミルクの、わたし、これ、書いてる、わたしは、どこにいるのか、わからなくなっていく、の、
ここに、いたくないって、叫びたくなる
誰にも見つからないところで息を潜めて感情の首を絞めている
誰かに見つけて欲しい気がしている
誰にも見つからないで欲しい気もしている
もう嫌だった、みんな、みんな、
わたしのこと、苦しくさせる
苦しいままで、会社の屋上の扉を開ける
空気はすっかり冬で、突き刺す寒さは、中学生の頃と変わらない、いつでも冬の空気だけが優しかった
さむくって、さむくって、
みんなわたしのこと忘れたまま
安心とステータスのパッケージに包まれた車で、あたたかい家に帰ってゆく
やっぱりわたしはひとりでした
みんな、わたし以外がいいのです
みんな、わたしじゃなくていいのです
冬の空気の優しさに、
気がつけることだけが特権でした
正しい人には与えられない
わたしだけの特権でした
成人式
10代の頃は、いつでも傷付いてよかった
たくさん傷付くことを肯定されていた
大人になると傷付くことは、ならないと、まるで、道路交通法みたいに、厳格な線引きがされていた
わたしの傷は、誰にも受け入れられなくなって、戦う人が偉い日々が始まった
わたしは、その、偉い人たちが、熱のないゴム毬みたいに、跳ねている後ろを、俯いて歩いていた
許されない、許されない、そう呟きながら、生きている、巡礼者が通り過ぎて、救いの手ほどきを受けてみても、
わたしの傷は、否定され続けた
成人式