仲伊さん家のクリスマス事情
12月24日の朝。森の奥深くにひっそりと佇む古めかしい館の庭では、二人の子供が小さなもみの木を取り囲み、せっせと飾り付けをしていた。
一人は薄茶色の髪の毛を腰まで垂らし、パッチリと開かれた瞳は緑色、頭にはピンクのリボンをつけ水色のロリータに身を包んだ色白の可愛らしい少女、もう一人は頭の天辺に人間ではあり得ない犬の耳の様なものが生えており、腰辺りからふさふさの尻尾まで生えた銀髪金眼の少年である。
少年は、手にしていた最後の飾りを飾り終わると完成した達成感に息を弾ませた。
隣で目を輝かせツリーを眺める少女を見上げ、嬉しそうに腰に生やした尻尾を左右に振り、話し掛ける。
「ふぅ...やっと完成したね」
「...、...!!」
「うん...そうだね、凄くきれい」
「....、..!」
「おーい冷佐、日央。ツリーの準備は出来たか?」
男性にしてはやや高めの、女性にしては低めの声に名前を呼ばれた二人は、同時に声のする方を振り返った。
「大家さん。ちょうど完成した...きれいにかざれたよ」
「!! ... ! ...??」
日央 と呼ばれた少年は、尻尾をぶんぶんと上下に振りながら満面の笑みを浮かべ、冷佐と呼ばれた少女は興奮ぎみに顔を赤らませしきりに頷いた。
「そうかそうか、二人ともご苦労さん。休憩するか」
飾り付けされたツリーを満足そうに見遣って腕組みをする大家と呼ばれた男性は、一見女に見間違えるほどの...いわゆる“女顔”であり、黙っていれば女性と見紛うほど身体の線も細い男性である。
彼が二人を呼び寄せ頭をわしゃわしゃと撫でた後、休憩する為館へと足を運ぼうと一歩踏み出した瞬間...
「わぁ、見事なクリスマスツリーだねぇ」
何処からともなく聞こえてきた、のんびりと間延びした口調の、低くもなく高くもない耳触りの良い声、気配はあるはずなのにその気配の位置が分からぬ者に、彼は顔を歪ませ庭をぐるりと見渡した。
「なんのようだこの ど阿呆。お前の出る幕はないわ」
─帰れ帰れ─ と、まるで犬や猫を追い払うような仕草に、その“声”の持ち主は不服そうに抗議した。
「そーんな邪険に扱わなくたって良いじゃあないか。折角のお客様だよ?歓迎してくれたって良いのに」
「招かざる客ってやつだ。どうぞお引き取りくださいませー」
「本当に清々しい笑顔だよねぇ、君」
「どっから見てんだよツラ貸せツラを」
「今さっきとっとと帰れって言ったばかりなのに、もう前言撤回なのかな?」
「人のあげ足ばっか取ってんじゃねえぞこのヤロー!!」
「怒鳴り声上げて、怖いねぇ」
彼は今にも飛び掛かりそうな勢いで庭のあちこちに視線を移し、声の持ち主は何処から見ているのだか彼の行動にけらけらと笑い声を上げる。
「お前今度あったら覚えとけよ ぜっつったい後悔させてやる!!!」
「ははは、楽しみにしてるよ?麻里ちゃん」
「くんだっつーの男だしつか名前呼ぶな」
「はいはい、またね麻里くん」
呑気な声と共に消えた気配に、麻里と呼ばれた彼は舌打ちを洩らすと、唖然と周囲を見渡す少年達へ気まずそうに視線を向けた。
「...今のは気にするな...って言ってもムリがある...か」
時間にしては五分にも満たないやり取り、されとその五分で濃い体験をした二人は、麻里に詰め寄らんばかりに身を乗り出し、好奇心に瞳を輝かせた。
「あの声は誰のなの...?大家さんのお友だち?」
「断じて友達ではない」
「......」
「冷佐、んなに期待した目しても言わねぇよ」
─さぁさぁうだうだしてっと菓子が無くなるぞ─
と二人の背中を押し急かせば、顔を見合わせ渋々館へと足を運ぶ姿にホッと胸を撫で下ろし、青く澄んだ空を睨み付けたのだった
仲伊さん家のクリスマス事情