地図帳の記憶

藤里 圭

地図帳の記憶

君は青い地図記号
わたしの心に描かれる

コンパスの針は、意識と夢の狭間を指している

記号になった君は、相変わらず素っ気ない

何も変わらない、何も終わらない

コンパスの針は決して君を目指さない

わたしの神経質な心すら、磁場の前では無力だった

気象台、官公署、三角点、
果樹園、荒地、発電所、

青い記号の君は、ただ、ただ、君であった

到達できない君であった

残酷なコンパスを空に投げた

わたしの足は、君のところに向かえない、

地図帳を広げて、嘆く、小学5年生のわたし、

会いたい、と呟いた



随分遠くに追いやられてしまった



記号になった君を、冷たいまま、胸に抱く、会いたい、と呟いた、三度、呟いた、

記号になる前の君に、夢で会えたなら、コンパスの針を、直してもらおう

わたしは、あなたに、会いたかった

信号機の夢


冷たい道路の真ん中で
君と僕は対峙した

青信号が拍動する

夜の気配は地面を這う

君と僕との間
新しく引かれた白線がある

君を見つめて透明にしてあげたい
君に見つめられて透明になりたい

白く光る空から数億の雨粒が落ちて
その中に僕の言葉を混ぜてみて
それが君に届くことがないと、
ほんの少し安心する

黄色信号は呼吸を忘れる

朝の気配が僕を背後から覆う

君は僕のことを見ていない

対峙した僕らには約束なんてなかった

僕らには距離しか存在していない
ビニール傘で顔を隠して、僕は泣いてみた、君に涙は悟られない、ほんの少し傷が付く

赤信号は沈黙する

猛スピードで交差点を走り抜ける、
するどい車、地面を痛め付けて歩く、冷たいハイヒール

僕には怯える心しか残っていなかった

僕の震える指先は、君に知られることはない、ほんの少し息を吐く

冷たい道路に霧が立ち込める

僕らの対峙は、1行にも満たない
僕らの間には、1行の思いもない
僕らの間には、字数制限しかない

やがて、拍動する、青信号

君の背中を見ることなく

僕は君の目も見られずに

冷たい道路の真ん中で、冷たい体を震わせている

傷跡

フラッグ、
地中海、仮想空間、理想都市

嘘みたいな世界はやっぱり嘘でした

毒殺された夢のこと
君は何も覚えていない

友達と、色とりどりの、デザートを、
キラキラしたネイルごと、
写真に収めてる君は、

いつも、何かに、祈っているね

私はなるべく低い姿勢を保ったまま
宇宙のはじまりからおわりまでを
逆再生で眺めていた

夜の上に浮かんでいる
白い球体は、
誰かの声で、

君はイヤホンから流れる
君を生かす音楽しか聞かなくなった

球体なんてないじゃない、

吐き捨てた君に、

私は何も言えなかった

薬を飲んだ
日曜日の昼間
私の心は穏やかです

束の間、

君は全部わかっていた

咲かなかった花の記憶
裏切られた季節の記憶

君は何も覚えていない

でも君は、

全部わかっていた

私には、何一つ、
理解できる事柄なんて、無かった

地図帳の記憶

地図帳の記憶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-09

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  1. 地図帳の記憶
  2. 信号機の夢
  3. 傷跡