夢を見る体

藤里 圭

深夜放送


心気症の季節
空気の中の死亡説
肺の中で冬が死ぬ

(世界との距離は適切ですか?)

口に詰め込むケチャップライス

本当にお腹が空いているのか
本当にこれが食べたかったのか

何もかもわからないまま

肺の中で冬が死ぬ

身代わり

酷い事柄は、わたしの肺の中で、
死なせることにしている

どこへも行くことは、許さずに、
わたしの、薄くて赤い、肺の中で、
死なせることにしている

今日も、隣人の言葉を、つるりと吸い込んだ、肺の中に、引き入れた、
誰かが、苦しむことは、許されない、

わたしは、誰かに、誰かの、ナイフが、刺さらないよう、掠めないよう、

注意深く、息を吸う、

偽善者、弱虫、風見鶏、

わたしを表す言葉たちは、
辞書の上では、美しかった

辞書から離れて、誰かの吐息と共に、
わたしの心臓を通り抜ける時、

空気が足りなくなって
つま先が震えて
文字は宙を舞う

行ってはならない、
生まれてはならない、

わたしは、居場所を与える
わたしの、中身が傷んでも、
わたしの、居場所が更地にされても

わたしは、引き止め、受け入れた

誰にも知られず、偽善者らしく
誰にも認められず、弱虫らしく
誰にも信頼されず、風見鶏として

誰も傷付けずに生きていく

誰も褒めてくれない生き方をする

夢を見る体


精脈を流れる、子守唄は、
雨音との親和性が高く、
あの子の神経を休ませる

父親の医学書に書かれた、
虹色の理論体系について、
僕の心臓は、関与しない

夢を見続ける、毛細血管は、
あの子の世界に、色を与える

言葉に変えたら、消えてしまう
あの子の世界に、力はない

あの子の心臓は、鳴り続ける、
あの子の血液は、夢を見る、

この先にある、袋小路で、
誰かが歌を、歌っている

あの子の耳に入らない
誰も知らない、誰かの歌だ

白くなった季節の行方、
灰色になった誰かの思い出、
飴色になった他人のぬくもり、

五線譜の上に、散りばめられて、
あの子のポストに入り込む

二度と開けられないポストの中で、
誰も知らない音楽は、呼吸する、

あの子の体は夢を見る

夢を見る体

夢を見る体

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-07

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