兄様へ
遥か遠方でお仕事をなさっている、私の兄様。
お久しぶりのお手紙ですが、お元気でしょうか。
私は相変わらず、身体が弱いままでございます。
秋も深まって、そろそろ紅葉の時期になりますね。
私も体調の良い時に、外へ足を運んでみたいものです。
さて今日お手紙を差し上げましたのは兄様に関して、不思議な出来事がございましたので、お話したく思ったからでございます。
本日私は愛犬の、兄様もご存知の珀と共に暖かい窓際のベッドの上でお昼寝をしておりました。
秋の日差しは本当に眠気を誘います。
私はうとうとしていると、ふと背を向けていた左側に人の気配を感じました。
そしてその方は一人でぶつぶつとお話しておりました。
「帰りたいんだ。本当は帰りたいんだ」
私はその方が誰なのか、声を聴いて直ぐにわかりました。
「兄様」
私がそう声を掛けると、兄様は直ぐに居なくなってしまいました。
私がお話したかったのはこの事でございます。
あれは兄様の生霊、心の叫び、そのようなものではないかと思いました。
お仕事がお忙しく、中々こちらへ帰れないことは承知でございます。
お母様のフィアンセと仲違いしているのも承知しております。
帰って来づらいのでしょう。
けれど次の長い連休は、お母様のフィアンセも姿が見えないようでございます。
その事もお伝えしたかった事の一つでございます。
兄様が心配する事は何一つ無いのですよ。
お仕事がお休みでしたら、是非お顔を見たいと思っております。
お母様も同じ気持ちでございます。
お母様のフィアンセなど、所詮家族では無いのですから、兄様は本当はいつでも帰ってきて良いのです。
それでは、私は一日一日を楽しみに待っております。
拝啓、貴方の妹より。
兄様へ