遠吠えが聞こえない。
「狼が群れでやってきて。
人を食らうんだよ。」
ジャンの姉のジョエルが、そんな事をいいだしたのは、
最近となり村で、そんな事件がおきたからだ。
「ねえさん、どうすればいいの?僕こわいよ」
二人は、山羊小屋で夜、こっそりぬけだして話をしていた。
ここでは親に文句は言われない。
しかし、姉は、女性らしくない。
花柄のかわいらしい、ふりふりのワンピースがよごれるのを何とも思わないようだ。
「あとで風呂に入るのよ」
なるほど、洋服もお風呂にはいる。
「でも、群れで過ごす狼の事は聞いた事がないよ。」
「違うよ」
姉は、自作のバックのポケットから、昔話の本をとりだした。
これじゃない、といい、次は、怪奇小説の本をとりだす。
あまりに、動作が面倒なので、ジャンは古びた小屋の空いた天上からちらちらみえる星をみようと首をのばしてのぞき込んでいた。
「あれのことだよ」
「あれ?」
ジャンはまだ幼く、人差し指を加えるくせがのこっている。
姉は、その左腕をジャンのくちもとからはなして、つよくなぎはらい。
怒るような表情をみせた。
「“あれは狼男”
人狼だよ。」
「……」
「だから、村人はへったよ、一度で、大勢ね」
二人の小屋の前に、大きな影ができた。
しかし、気づいたのは姉のジョエルだけ。
人狼……ボードゲームで姉と遊んだ事もある。
あれがもし、現実でおきたら、世の中はパニックになる。
ジャンはあとからとから色んな想像がわいてきて。
思わず姉にとびつきそうになった。
ぎょっとして
よくみると。
それは両親だった。
「こんなところで何をやっているんだ、早く家に帰りなさい」
狼じゃないの!?
とジャンが尋ねると
両親は、きっとジョエルをにらんだ。
「またおどかして、遊んでいたのか!」
ジョエルはしょげていた。
ふたりは、両親それぞれに手を引かれ、暖かいストーブのある家の中へ。
さっき、隣人が訪ねてきて、例の話の後日談を聞かせてくれたらしい。
どうやら、隣村の話は、誰かの嘘らしい、
ジャンは、テーブルの上にひじをつき、掌にあごをのせ、
目じりで、にらむように姉を見つめると、
姉は、反省したようにしたをだしつつも
「オオカミ少年ね」
とおどけてみせた。
遠吠えが聞こえない。