いつまでも覚めない春の悪夢
寒々とした薄暗い部屋で、ナターシアは今日もただベッドの上で一日を過ごしていた。ただ、窓から見える景色を眺めているだけ。灰色の空と、影に沈む岩山しか見えない。
大抵の日は天気が悪い。今は春。どこかには若緑の森があるに違いない。もしかしたら岩山の麓は森なのかもしれない。しかしナターシアはそれを確かめる事が出来ない。ベッドから離れられないから、窓から顔を出して下を見るのは不可能なのだ。
結局、窓の景色も部屋の中と同じく陰鬱だった。それでも他に何も出来ないナターシアは、ずっと眺めていた。
曇り空の光が射し込むだけの部屋では、絹の布団も豪華な調度品も、影の一部に過ぎない。だがナターシアの純白の肌は光り輝いているようだった。
まだ幼さの残る肢体は艶かしいふくらみを帯びていて、誰も見ていない部屋の中、蠱惑的な姿態を存分に晒している。布団は足元しか覆っておらず、その身には包帯とテープ以外何も纏っていなかった。包帯に隠れていない片方の乳首はとても薄いピンク色をしていて、今にも消えてしまいそうに儚い。
赤味の強い金髪はきらきらとして、明るい。妖精のように野で踊るのが似合いそうな、綺麗で生き生きとした髪。
けれどナターシアの体には、そんな生命力は無かった。ずっと続いている病気で歩くことも出来ない。一度負った傷はなかなか治らず、場合によっては二度と治らない。
だからナターシアは何も出来なかった。毎日をベッドの上で淋しく暮らすしかない。ナターシアの純真な眼差しは哀しみをたたえている。でも、もう涙は流れなくなった。この境遇がナターシアの当たり前だから。
こんな悲しみの中でも、今はまだ安心していられる。今は苦しいのは気持ちだけ。
しかし痛みは必ずもたらされる。ドアの向こうからカツ、カツと靴音が聞こえてきた。それはゆっくりと、だが確実に近づいてくる。
ナターシアの顔に恐怖が浮かび、悲鳴を上げるべく半ば無意識に口が開く。
が、声は発せられなかった。ナターシアは表情に諦感を表し、口を閉じた。明らかに恐怖は消えていなかったが。
ドアが開けられた。
「おはようございますお嬢様。お食事をお持ちしました。」
華やかにいつも通りの言葉を告げたのは、美しいメイドのエカテリーナ。シルバーブロンドの下方に非常に豊満な胸、その下に食事の載ったトレイ。
ナターシアは返事もせず、震えている。呼吸が速い。彼女にとってエカテリーナは生活の中の唯一でこの上ない恐怖だった。
エカテリーナはベッドの横に椅子を置いて腰かけ、膝にトレイを乗せる。そして匙で粥をすくってナターシアの口元に運ぶ。
ナターシアは震えを抑えて必死に食べた。エカテリーナの機嫌を悪くしてはならないから。そうでなくとも必ず刑は執行されるのだが。
虚弱なナターシアは粥を噛んで飲み込むのも遅い。それに合わせ、エカテリーナはゆっくりと匙を運ぶ。
粗末で量の少ない食事。しかも食事は一日一回だけ。しかしナターシアは不満を言ったりしない。エカテリーナに一日一回しか会わなくて済むのだから。
他のメイドは決してこの部屋に来ない。病気になってからは、エカテリーナ以外のメイドに全く会っていない。
母も、会いに来てくれない。母はとても優しく、いつでもナターシアのことを大好きだと言って抱き締めてくれた。だが病気になって数日すると会ってくれなくなり、手紙を書いてエカテリーナに託しても返事は帰って来ない。
何故母が来てくれないのか、エカテリーナに聞いても教えてくれない。メイド達のことも何も話してくれない。
「それは内緒です、お嬢様。」
と言って微笑するだけである。
この病気は伝染病なのだろうか。それも、エカテリーナは教えてくれない。何でエカテリーナだけがこの部屋に来るのだろう。それは何だか怖くてまだ質問したことはない。
粥はまだ半分残っているが、スープは飲み終わった。そのときである。
「お嬢様、お胸は苦しくありませんか?」
エカテリーナが冷酷な笑みを浮かべて優しげな声で訊ねた。
「う、ううん、苦しくないわ。」
ナターシアはそう答えたが、少し息が切れていた。とにかく弱々しいナターシアの体は、何か食べただけで呼吸が苦しくなる。
「本当ですか?強がりはいけませんよ。」
優しく、優しくささやきながら、エカテリーナはナターシアの胸をそっと撫でた。
エカテリーナの柔らかく繊細な指の感触はとても心地よく、ナターシアは高まる恐怖にますます呼吸困難になる。エカテリーナは気品に満ちた顔に邪悪な悦びを露にして、ほのかな胸のふくらみを指先だけで弄び、淡い桃色の突起をゆっくりゆっくりこすった。
エカテリーナは指に触れる快さだけに全身が支配されているかのように軽く痙攣してうっとりとしていた。
ナターシアにもエカテリーナの指は気持ち良かった。しかしそれは恐怖なのだ。だがやめてほしいとは言えなかった。恐ろしすぎて声を出せない。
「まあ…もうこんなにお元気になって。」
エカテリーナはナターシアの股を見やって涎を垂らしそうになった。
ナターシアは両性具有だった。どこからどう見ても可憐な少女なのに、クリトリスは肥大して醜く怪物のように巨大で、硬く勃起して上を向きびくびく上下に揺れて、男性の恥部と見分けがつかない。そして男性のそれと同じように醜怪な臭いを撒き散らす液体を溜め込んでいる。
「まだ子供なのになんてはしたなく腫らしているのでしょう。すぐになおして差し上げますわ。」
エカテリーナは両手に唾液をたっぷりと垂らし、その手でナターシアの硬く腫れ上がったクリトリスを撫で回した。
「ふ…ふあぁ……!」
天国のような快楽だった。しかしナターシアは快感に溺れることが出来ない。地獄に落ちることを知っているから。
ナターシアの体に射精は猛毒である。射精の衝撃は傷を痛ませる。傷口が開くことも珍しくない。そして、数分後には必ず病気の発作が来る。心臓は激しく高鳴り、呼吸がまともではなくなり、死にそうな程に苦しい。
発作は一時間もすれば収まる。だがナターシアにとってその地獄の時間は一日より長く感じられる。
もがいているナターシアを見ると、エカテリーナは心から愉快そうな笑顔になり、やがて我慢しきれなくなって笑い出す。そして自らのスカートをたくしあげる。
エカテリーナもふたなりである。ナターシアが発作に苦しんでいる時、エカテリーナは常に勃起していた。そして笑いながらまるで狂人のように激しくオナニーし、精液を飛び散らせる。
その後は平然とナターシアの包帯を取り替え、傷から出血していたら薬で治療し、まだ苦しんでいるナターシアを尻目に部屋を出ていく。
毎日同じように繰り返される出来事。もう何年も、一日も欠かされることが無かった。
にも関わらずエカテリーナは少しも飽きた様子が無い。ナターシアの体も、快楽に慣れる事がなく、そして恐怖も苦痛も何度経験しても和らげられることは無かった。
だから、どうせ今日もあの苦しみを味あわなくてはならないのだと諦めていても、殺されるかのような恐怖にとりつかれずにはいられないし、地獄を見ることなく終わらないかと希望にすがりつかずにもいられなかった。
「アハハ、お嬢様のちんちん、火のように熱い……もう、出るんですね、お嬢様の甘ぁいとろとろの白い蜜…」
夢見るように呟くエカテリーナは、何かに耐えているのか片腕で自分をかき抱き、もう片方の手ははげしい勢いでナターシアの怒張したクリトリスをしごいている。
ナターシアも終わりの時が近づいているのはわかっていた。クリトリスはびくんびくんと痙攣し、何かがこみあげてくる。
「はぁ…やだ……あぅ……やだよ……」
ナターシアの頬を涙が伝い落ちる。それはエカテリーナを歓喜させ、クリトリスをしごく手に力を与えただけだった。
クリトリスがエカテリーナの手の中でふくらみ、そして激しくびくびくした。同時にナターシアの体も強く痙攣する。
「ウフフフ、ウフフ、ウフフフフフフ……」
エカテリーナの愛らしい悪魔の笑い声が冷えた部屋の空気を満たした。
それはいつまでもとまらないかのようだった。だが、すぐに彼女は黙った。
「あら……?」
ナターシアも異変に気づいた。精液が出ていない。
確かにイッたはずなのに。が、勃起したクリトリスの中をすぐに何かがせりあがってきた。固い。液体ではないものがクリトリスの中にある。
亀頭がふくらんだ。そして、クリトリスの先から出て来たのは、赤くて球形の物体だった。
「こ……これは!!」
エカテリーナが叫ぶ。彼女は強いショックを受けているようだった。
ナターシアにもその赤い玉が何を意味するのかわかっていた。案外そういう知識があるのだった。
エカテリーナは非常に焦った様子でナターシアの股間をまさぐった。クリトリスは柔らかくしぼんでいる。エカテリーナの滑らかな指に触られて、クリトリスの下の割れ目は熱い液を滴らせるが、クリトリスはふにゃふにゃなまま。
射精していないのに愛撫されても無反応なクリトリス。どんなに撫でても擦っても無駄だった。
エカテリーナは床にくずおれて悲痛に泣き叫んだ。まるで依存症患者が心の支えを永遠に失ったかのような絶望的慟哭だった。
しかしそれさえ今のナターシアにとっては小鳥のさえずりの如く心を安らがせる。ふと気づくと、窓の外に陽が射している。日の光を照り返す岩山がとても美しい。
今日はいい日だな、とナターシアは思い、すぐに考えを改める。
これからは毎日がいい日なんだ。
もう、怖いことは何も無いんだから。
ナターシアは二度とふくらまないクリトリスをそっと触った。柔らかくて手に心地良かった。
エカテリーナはいつまでも泣いていた。
いつまでも覚めない春の悪夢