地唄『楫枕』に寄せて/新作短歌9首
地唄『楫枕(かじまくら)』とは江戸の昔の舟饅頭と呼ばれる、最下層の舟遊女の哀感を唄った曲です。
題名で検索すれば、数名の演奏がお聞きいただけます。筆者は此の曲を最近習いました際、思い浮かべる
がままに彼女たちの心情を歌にしてみましたので、ご覧ください。
その昔 苦界に身を沈め乍らも生きた女性たちに捧ぐ
憂き世をば浮きに浮かれて浮草の
ねもなき水の船に揺られて
何もかも船辺に流るる病葉の
ゆくに任せて世を漕ぎ渡り
見上げれば小判跳ね散る座敷間よ
艪を漕ぐ我が手に冷たき村雨
我が身をば過ぎゆく風の冷たさを
知るもなお待つ恋の春風
吉野山 花は散りゆく淵の水
汚れ沈むも無常なる故
落ちに落ち さらに落ちよか お千代船
落ち行く先のさらなる深みに
此の世には岸手の差すを諦めて
弥陀の仏の手にぞ縋らん
苦海をば漕ぎて渡らん弥陀の国
蓮の浄土に仏拝みて
泊まり船 身の哀れさを三味に乗せ
唄う今宵も空は時雨れて
地唄『楫枕』に寄せて/新作短歌9首