死闘
死闘
ある、高校で、異動してきた先生方を紹介する、所謂新任式をやっていた。
その中でもとくに、美人だったのが、福家美奈子という教師だった。
「美人だな。あいつ。」
と隣にいた生徒が、善家敬之にいった。
「う、うん、そうだね。」
と、敬之はいった。敬之は、成績こそよくなかったが、授業では、よくノートをとり、先生のはなしも、同じ事を二回書いてしまう、しかし点はとれない生徒だった。
嬉しいことに、美奈子先生は、敬之のクラス担任教師と、なった。科目は、現代文。主に、二十世紀以降の文書から学んでいく学問である。ところが、自分の意見は排除され、なぜかチャラチャラした人たちの答えが正しいものになっている。はじめは、敬之も、自分が間違えていたのだと、思ったが、そのうちに疑問を感じるようになった。他の生徒の鞄の中には、教科書が一冊も入っていないひともいて、とても、予習復習しているとは、思えなかった。そして、試験があれば上位は、常にチャラチャラした者たち。自分が素直に感じて書いた答は、皆間違い。敬之は、美奈子先生に抗議した。
「どうして、僕は、いつも間違うんですか、思った通りにかけとかいてあるから、そうかいたのに、なんで、間違いなんですか、素直に思った通りに書けばいいんじゃないですか?」
「あなた、子どもね。」美奈子先生は、高笑いした。
「小学生じゃあるまいし、そんなんで大学受験はどうするの?受験はテクニックよ。いかに正しい答えを書いて、合格するか、なのよ。」
「受験の事じゃない、今のことを言ってるんです。学校って、みんなが違う意見をだしあうから、面白いところでしょう?だからクラスって、ものがあるわけじゃないんですか?いろんな考えを出し合って、正しい答を導き出すのが、学問って、いうもんでしょう?」
「あなたは生まれるのが百年遅かったわね。確かに、戦前であれば、それは、通用したかもしれないわ。だけど、今はちがうのよ、いまは、できるだけおおくの点をとる人がえらいの。点がとれれば、運命がかわり、進学がより可能になる。日本は、どこの大学をでたかで、人間の価値がきまる国よ。そして学校は、価値のある人間を輩出して、より価値があがるのよ。」
「先生!」と、敬之は叫んだ。
「僕は、小学生のときに、骨肉腫になりまして、二年間休学しなければ、なりませんでした。そのあいだは、本当につらかったですよ、手術や、抗がん剤、陽子線治療まで、痛いし気持ち悪いしの連発で、学校にいったときは、本当に楽しかった、もういちど、あの場所にもどれたら、と一生懸命願いましたよ。それで、学校に戻ってきたら、もう天にも昇る気持ちでした。だから、2つ年上でも、やっていけたんです。中学も。それなのに、高校は、こんなにも違うんですか?」
「頭を冷やしなさい!」と、美奈子先生は怒鳴った。
「敬之くん、あなたはもう学校をやめなさい、ここは、決してあなたのいるところじゃない。」
美奈子先生は、そういった。敬之は、泣く泣く職員室をでた。それ以来
彼の姿を見ることは、なくなった。
京都に、養源院という寺がある。昔、関ヶ原の戦いに敗れ、自殺していった武将たちの血で赤く染まった床を、弔いのために、天井に採用した寺で、毎日観光客で、ごった返している。天井は、いかにもグロテスクで、中には人間の形をしたものや、足跡の形をした、血まである。
「ようこそ、敬之君。」
と、女性のこえがした。
「だ、だれですか?」と、敬之は、気がついた。周りは霧で覆われ、なにも見えない。敬之は、自分の姿が変わったことにきづいた。耳は尖った耳になり、服は、紺色の着物を着ていた。髪は、黒く長くのびていた。
「敬之くん、」と、女性は、近づいてきた。全身、緑色の着物を着ていた、五十程度の女性だった。彼女も、尖った耳をもっていた。
「妖精の養源院へようこそ。私は、道代、この院の宗家。ここは、社会で傷ついて自殺した物がくるところ、私たちの役目は傷つけた人を殺し、平和な、日本をつくること。これを、持ちなさい。あなたの恨みでできたうち刀。これは、使い方を工夫すれば、全く研がなくてもいいの。そして、恨んでいる人の背中をきれば、そこから、恨みが入って、心臓に達してそのひとは、ころせる。私たちは、人間からは姿が見えない。警察でさえ、みることができないわ。さあ、行きましょう。もうすぐ、修学旅行生がやってくる。私たちの稼ぎ時よ。」
道代は、よく斬れそうな、日本刀を一振りくれた。
そして、霧は晴れ、敬之は、養源院の伽藍の中にいた。大勢の修学旅行生がやってきた。どこの学校にも、チャラチャラした人たちはいた。敬之が日本刀を振り下ろした生徒は、すぐに、死ぬ、というのではなく、ホテルで食中りしたとか、山に登って遭難した、など「合理的な」やり方で死亡した。
妖精たちは、他にもいた。みんな、日本の法律を遵守しているのに、死に至らしめられた者たちであり、養源院で、妖精と化し、逆に自分を陥れた人を次々に殺していく。とくに、15歳以上20歳未満のものが、大多数をしめていた。敬之の着物は、いつからか、緑色になっていた。
「さあ、今日の獲物は、A高校よ。」と、道代が仲間に合図した。
A高校、、、。聞き覚えがあった。
敬之は、伽藍にでた。すると、そこにいたのは、なんと、美奈子先生であった。もう、敬之を退学させて、何年もたっている。あのときとは趣が違っていた。あの時のような、張りも、力もなかった。敬之を退学させた事で、美奈子先生は、一気に人気が落ち、いじめの対象になってしまったのだ。美奈子先生は、ふっとかおを上げた。敬之と目があった。
「今よ!」妖精たちは、一斉に武器をふった。様々な生徒たちが、いずれしんでゆく。道代が美奈子先生に襲いかかった。敬之の日本刀が、それをさえぎった。
「美奈子先生、逃げて、逃げてください!」
敬之は、美奈子先生には、聞こえないということを忘れてさけんだ。美奈子先生には何もきこえない。道代は、日本刀を振りかざして、美奈子先生の背を斬ろうとする。敬之は、それを一生懸命阻止した。道代は、「どうしたの、あなたを一番苦しめた人でしょう!」
とさけんだ。
「僕は、いやな人であっても、美奈子先生がすきなんです!」
と敬之も叫び、養源院に生えていた、桃の木から、桃の実をとり、道代に投げつけた。桃をみた道代は、力がなくなり、消えてしまった。
美奈子先生は、命をすくわれた。と、同時に敬之も空気の一部と化した。美奈子先生が後ろをむくと、桃の身が一個、落ちていた。ホテルに戻って、美奈子先生が、桃を食べると、とても、いい味がした。
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