流れ星を見た日
さくぶんの末路
観測されない希望
記録されない絶望
天秤に掛けたら、
どちらにも傾かなかった
飼い慣らされた絶望は、
野良猫に引っかかれて、
毎日泣いていた
ぴかぴかのオフィスビルの上では、
紙飛行機が旋回する、行き場も無くて、困り果てていた
私のノートは、今日も、真っ白だ
観測も、記録も、涙で滲むから、
私は、ただ、泣き出す絶望を、抱き締めてあげていた、
みんな、みんな、いじわるだった
胸が苦しくて、会社の屋上で横になる
コンクリートの温度は、一定だった
頰を擦り付けて、ノートを曇天に見せびらかす
「わたしは、学者なんだよ」
迫り来る日々に、啖呵を切って、
苦しくなる胸に、泣き虫な絶望を、埋めてあげて、わたしは、コンクリートに、呟いた
希望の観測の難しさについて、わたしは論文を書くんだと、白いノートを破りながら、光を失った世界に向けて、話しかけてみた
「わたしは、学者なんだよ」
流れ星を見た日
希望のない宇宙と夢のないあの子
その隙間に僕らの生活は流れている
あの子のイヤホンから流れる音楽は、あの子の血液の循環を助ける
あの子は満月の下では不条理だった
欠け落ちた部分を、葉っぱ、木の皮で覆っている
あの子は新月の下では無防備だった
怯えた心を覆うのは、太陽みたいな笑顔だけで、あの子はひなたのフリがとても上手だった
疲れたままの身体で、散歩に出掛ける
あの子は、階段を探していた
線香花火みたいな、夕焼けが、1人で、燃え尽きないように、寄り添って、あげようとしていたのだ
工事中の階段を、上っては、いけなかった、
何も知らない、あの子は、駆け上がる
あの子が持っていたものは、
温度のない宝石に、
真実のない砂時計、
それだけをポシェットに入れていた
何も知らないあの子は
落ちていく
ポシェットの中身も
重力に逆らわなかった
あの子は僕らの生活圏に、少しだけ、小指の先だけ触れていった
僕はあの子を知っていた
僕はあの子の好きな音楽を知っていた
落下する先が、ひなたでも、ひかげでも、あの子は、あの子のままだということを、今日、僕らは、きちんと、理解できた
僕らは、あの子にとって、つなぎ目でしかなかったことも、きっと、明日になれば、僕らのDNAは、学習する
僕は、あの子を、記憶していく
居酒屋の唄
アブサンの向こう側に、
星型の砂浜と、
そこに埋まった古い絵画、
グラスは霞んでいるから、
捉えきれない光景だった、
わたしは、しんじる
その光景を、しんじる
アブサンに浸けられた、果実たちは、わたしの声を聞いて、クスクス笑ってる
わたしは、しんじる
その笑い声を、しんじる
明日は、広場で、わたしは、歌おう
わたしの、作った、最高傑作、オペラを、歌おう、大きな声で、清々しく、
観客は、たくさんの、ヒマワリが、いい、
わたしは、ちかう
明日のわたしを、ちかう
霞んだ、グラスを、丁寧に、拭いて、
ロウソクの火を、消した
流れ星を見た日