無為

海岸線、吐息


電車の中は、いつも、後悔が漂っている、本当は、こうなる筈では無かったんだ

車内アナウンスは、随分落ち込んでいる、とても、疲れていた、みんな俯いて、瞼の裏で草原の夢を見ていた


このまま夢に落ちるなら、何かを掴まなければならなかった、わたしには、そんな力は残っていなかった

みんな、やはり、疲れていた
誰も彼も、瞼の裏に、草原の夢を見ていた、

電車は明かりを消したまま、最高速度で、海岸を走り抜けた

車内アナウンスの、ため息は、誰の鼓膜にも、届かなかった

大海の詩


黒々とした海を眺めていました
白波は傷口のようでした

何かが飲まれているようで、
それは女の人でした

それは傷だらけの女の人でした

私のヘッドフォンからは
相変わらず欠伸しか聞こえません

昔の私が雲の隙間から落ちてくる

その上の雲は、荘厳でした

きっと神様が降りるための
光り輝く空と雲だったと思います

濃い緑色にむせ返える、山々
私の喉は甘くなります

帰りたい、と呟けど
帰る先は、この海のどこにもありません

許されたい、と思いましたが、
許してくれる相手は、この海のどこにもありません

私は海を愛している

手も足も出ない、苦しい苦しい、海が

胸が詰まり、記憶が覆う、大きい大きい、海が

無為


君をすっきり、無くしてしまおう

兎はとても、喜んだ

もう、私の指を、噛まなくなった

猫はとても、眠そうだ

私の膝は、寝心地が悪いそうだ

君に関する記憶を、火に焚べた

とてもよく燃えた、

うっかり火傷をしてしまい、兎はとても怒っていた

火傷は、君の記憶の形をしていた

この火傷によって、死に至る

それを願えば、兎はますます怒っていた

君をすっきり、無くしたい

私の器から、君の形を取り除こう

ハサミを取り出し切り抜けば、
それもやはり、君の記憶の形となった

兎はすっかり呆れ果て、私のところからいなくなった

私にたくさんの不吉が降り注いだ

「散々だね」

猫は仕方なしに私の膝の上で寝息をたて始める

私は色々な怪我をして、結局全てを失敗して、涙をポトポト落としていた

消えない君に、縋りながら、

無為

無為

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 海岸線、吐息
  2. 大海の詩
  3. 無為