逆転 大森食堂、誠人の性遍歴
Ⅰ プロローグ・洋介と誠人
その食堂はオフィス街の無機質なビルが乱立する一角にある。昭和レトロを思わせる木造二階建ての一軒屋で、入り口には『大森食堂』と書かれた暖簾が風にたなびいている。
ここは定食をメインとした大衆食堂で、ボリューム満点のメニューばかりが並ぶ。ハンバーグは挽き肉を四百グラムも使ったビックサイズ。とんかつは大ぶり肉厚のロース肉を使用し、カツが二枚も付いてくる。おかずと一緒に付いてくるご飯はどんぶり山盛りで、味噌汁にサラダ、小鉢までセットになっている。値段は五百円から六百円程度でリーズナブルだが、絶対に残してはならないのがこの店のルールだ。そんな店だから、客も体育会系の男子学生、真っ黒に日焼けした逞しい肉体の土木作業員、シャツのボタンが吹き飛びそうな太鼓腹を抱えたサラリーマンが多い。
「おらっ、誠人! とっとと三番テーブルに運べ!」
厨房の中心で中華鍋を豪快に振るいつつ、声を張り上げているのが、この食堂の店主である洋介だ。
「あ、三番テーブルはとんかつじゃなくて、メンチカツですけど」
誠人と呼ばれた若い小柄な男は、出来上がった料理と伝票を見比べて間違いを指摘する。洋介は八宝菜を作る鍋の手を止めて、目を皿のようにして伝票を見直した。
「おめぇがハッキリ言わねえから、間違えただろ!」
いちゃもんを付けると、客には見えないように誠人のすねに蹴りを入れた。誠人は、ほどばしる痛みに顔を歪めるが、それ以上は何もしない。
いつもこんな感じで働いている。昼時は戦場そのもので、たった二人で切り盛りする食堂に悠長なことをしている暇はないのである。
洋介は今年で四十六歳になる。学生時代はラグビー部に所属していて、大柄重量級のガチデブ体系を今でも維持していた。それは職業柄、美味いメシを堪能しているからでもあり、筋肉の上に上乗せされた脂肪が、その手を好む男にはよだれものである。性格は豪快、自由闊達、大雑把の三拍子が揃った男前。凛々しい顔立ちは実際の年齢よりも若々しく見え、三十代とサバを読んでも通用することだろう。だが、さっきのように気は短い。セックスもバリタチで、つまりはドSである。
一方、アルバイトの誠人は二十一歳で、高校まで水泳をやっていた。背は低く一六五センチにも届かない。洋介の実の子供と言われても、納得してしまうほどだ。それでも、鍛えられた肉体はゲイ雑誌が放っておかないような理想のスリ筋タイプ。性格はこれまた洋介と正反対で、鈍臭い部分が気の短い店主を怒らせる火種でもある。
でも、洋介は誠人を手放そうとしない。それは若々しい肉体に欲情しているだけではなく、その従順な性格を気に入っているからであった。
「誠人、これは五番カウンターのお客さんだ」
「……はい」
ランチが終わる頃になると、誠人はある事を気にしだす。それは今、運んでいる唐揚げ定食のどんぶり飯に添えられた赤い福神漬け。通常ではキュウリの漬物を出すのだが、この赤い印は洋介と誠人、そして今からこの定食を食べる一人の客だけが知っている特別なサインである。
「お待たせしました。唐揚げ定食です」
「おう、美味そうだな。へへっ」
客はくたびれた作業着で、タバコの臭いを漂わせている。無精髭で笑う表情は欲を剥き出しにした獣のようで、鋭い視線を誠人に投げつける。これまで何度も同じような視線を味わってきた誠人だが、生々しい笑みはやはり慣れないものであった。
「ご、ごゆっくり」
誠人がその場を離れると、男は袖から伸びた丸太のような腕でマヨネーズを掴み、揚げたてのから揚げに円を描いていった。
誠人は伏し目がちにカウンターの内側に引っ込み、気持ちの整理を付ける。若いアルバイトは、本職とも言うべく別の仕事を始めるのだ。余計なことを考えずに、淡々とその仕事に取りかかる。そうした方が誠人にとっても楽だろう。でも、当人はまだそれに気付いていない。
「もうこっちはいいから。支度しろ」
洋介は残った食器を洗いながら、そう言った。
「あと、お願いします」
誠人は小さく頭を下げると、二階へ上がっていった。
二階にある小さな部屋。畳の上には、毎日清潔な布団が敷かれている。枕元にはティッシュ箱があり、必要な小道具が入ったカゴが置かれている。部屋の奥にはシャワールームがあり、誠人はバスタオルの数をチェックした。
次に、誠人は急いで食堂の仕事着を脱ぐと、シャワーで自分の汗を流す。濡れた体を拭いたバスタオルを使って、これから上がってくる客のために壁や床に付いた水滴をきれいに拭き取った。
そして、きれいにクリーニングしたビキニタイプの競パンに足を通した。洋介からワンサイズ小さいものを履くよう言われているので、ピッチリと肌に張り付く黒い競パンはケツの丸みや、平常時の状態でもチンポの形を浮かび上がらせている。シックスパックを覗かせた腹まわりに、大胸筋で膨らんだ胸。誠人は手を這わせて自分の体つきを確認すると、白いTシャツを被り無防備な装いで相手を待った。
これから誠人は、さっきの唐揚げ定食を注文した男に抱かれる。あの赤い福神漬けは、誠人の肉体を買う客であることを示す洋介からのサインなのだ。
Ⅱ ハンバーグ定食・初めての男
誠人は食堂の二階で、毎日のように男と寝ていた。ランチが終わる頃に一人、夜の営業の合間に二人くらいの客を相手にする。洋介は裏で手引きをして、表向きは食堂を経営しながら、誠人にウリの客を引き合わせているのだ。
誠人の初仕事は、今から一年前。ハンバーグ定食を平らげた二十代前半の色白でポッチャリとした男が相手だった。その客はメガネをかけた文科系の優しいお兄ちゃんみたいな感じで、誠人は緊張と安堵が入り混じった複雑な思いを抱えて仕事に臨んだ。
「おれ、セックスするの初めてなんだ」
男は頬を染めて、誠人から視線を逸らす。もじもじと指を動かす様子に、誠人はできる限りの笑顔で答えた。
「そうなんだ。本当は、僕も初めてだから」
「そうなの? 初めてなのに、おれでもいいの?」
「……うん」
「ありがとう」
小さな瞳の目を細める誠人に、男は口元を緩ませ、ふくよかな頬を強調させた。男の腰に巻きつけていた小さなタオルには、もうテントが張られている。
「触っていい?」
「いいよ」
誠人の小さな好奇心に応えるように、男は両手を後ろにして前を突き出すような格好になった。誠人はタオルの上からそっと勃起した竿を触ってみる。
誠人は本当にセックスの経験がなかった。だから、洋介にこんなことをさせられているわけなのだ。いくら好きな相手からの指示とはいえ、こんな非常なことをさせられて憤慨するのが当然かもしれない。でも、誠人にとっては洋介に気に入ってもらうためなら、と覚悟を決めたことである。
男のチンポは手の刺激でギンギンに硬くなった。誠人が仮に小慣れたヤツなら次の動作に移り、違った刺激の与え方をするだろう。それなのに、誠人はいつまでもその竿をこねくり回しているだけだ。
「そろそろ、しゃぶって欲しいな」
「ご、ごめんなさい。気持ち良くなりたいですよね」
誠人は慌てて男の腰に巻かれたタオルを外した。その動きは色気もムードもない。でも、一生懸命に目の前の男を喜ばせようとした。これは商売なのだ。初めてだろうが何だろうが、客を愉しませて金をもらう。それは頭の中では分かっていた。
「ふふっ。いいんだよ。本当に初めてなんだね」
男は優しかった。初めての相手は童貞で、歳が近くて気弱そうな相手が良いだろうと、洋介なりの気遣いが含まれていたのを、誠人は知らない。
誠人は相手の竿を握り、ゆっくりと顔を近付けた。石鹸の匂いに、少しだけ蒸れたような体臭を感じる。それでも皮を剥きながら、亀頭を丸出しにすると、思い切って口にチンポを咥えた。
「ああっ。き、気持ちいいっ!」
童貞男は下手くそなフェラチオでも、天井を見上げて半開きの口から声を漏らした。誠人はソーセージを出し入れするように、竿の長さに合わせて前後に顎を動かしてみる。次第に、男のチンポの先から塩気を感じる液体が溢れてきた。
「もっと。もっとしてよ!」
男は息を荒げて誠人の髪を掴み、竿を出し入れするスピードを速めた。
「んんっ。んーっ! んーっ!」
それに驚いた誠人は男の太腿を叩いて抵抗しようとする。それでも、男は力を緩めずにスピードを加速させていった。口の中に突っ込まれたチンポが咽奥に当たり、誠人は涙目になる。
「ああっ。フェラって気持ちいいね。今度はお尻に挿れさせて」
「ちょ、ちょっと待って」
男はすっかり興奮してしまい、誠人を布団に押し倒して競パンを脱がした。さっきのイマラチオに咳き込む誠人の言葉を無視して、枕元のローションを手にする。粘り気のある液体を相手のアナルと、自分のチンポに塗りたくると、間髪をいれずに挿入してきた。
「あっ、ダメ! ゴム付けて!」
「もう、遅いよ。ああぅ! すげー、気持ちいい!」
誠人の静止を振り切って、男は腰を動かし始めた。誠人にとっては初めてのアナルだが、洋介の指示で自分の指や道具を使って練習をしてきた。それに、この男のチンポは大きくないので、誠人は痛みを感じることはなかった。でも、嫌がった。
「ねっ、ダメだから。ゴ、ゴム付けてよ」
本当は、客が望めば中出しさせてやれと、洋介からは言われている。この男は既にそれを知っているのかもしれない。だが、誠人は密かに初めてのゴム無し、中出しは、いつか洋介とのセックスの時までとって置きたいと思っていたのだ。
「初めてだから大丈夫だって! ほら、ぼくのチンポ感じるだろ? エッチな声だせよ!」
「だ、だめぇ!」
指やおもちゃとは違った生チンポの感覚に戸惑いを感じながら、両手で男の緩い腹を押して抵抗する。
「ああっ、スゲー。気持ちいい!」
男は目をギラつかせて、腰を振りながら誠人を見下ろした。その姿は、さっきまで見せていた優しいお兄ちゃんではない。今、誠人を犯している男は、金で性欲を満たそうとする単なる客だった。
男がアナルに挿入する時間は短かった。
「中に出しちゃった。ごめんね。でも、気持ち良かったよ」
事が終わって、最初のような優しい口調に変わる。誠人は何も答えられなかった。それでも、目元に残った涙を隣の客に気付かれないように拭き取ると、できる限りの笑顔を作った。
Ⅲ エビフライ定食・待てない男
洋介と誠人の出会いは、あるゲイバーだった。誠人がその店へ二回目に行った時に、隣に座った洋介にカウンターの影から太ももを触られ、そのままホテルに付いていった。誠人は有頂天の気分だった。洋介は理想のタイプで頼もしく見える大人の男。初体験の相手がこんないい男であることに内心舞い上がった。
だが、セックスを娯楽の一つと考えている洋介にとって、経験ゼロの誠人は単なるガキにしか見えず、ベッドを目の前にしてセックスを拒否した。期待を裏切られた誠人は思わず泣いた。洋介は面倒臭そうに煙草を吹かしていたが、執拗に懇願する誠人に条件を出した。
「俺が練習相手を見つけてやる。他の男と経験を重ねて、お前が上手にセックスできるようになったら、俺も寝てやるし彼氏にでも何にでもなってやるよ」
洋介の無理難題に、誠人は少しだけ考えたが首を大きく縦に振った。恋は盲目。誠人は洋介のことしか見えていなかった。そうして大森食堂二階の裏営業が始まったのである。
ある雨の日、昼の営業が終わる直前に一人の客が入ってきた。空いているカウンターに座りメニューを見ながら、雨で濡れた頭をハンカチで拭いている。その髪の量はお世辞にも多いとはいえず、バゲの部分を隠すように側面の髪を横に伸ばしてバーコード状にしていた。丸顔に似合った丸いメガネ。ワイシャツのボタンを上まで掛けて、几帳面にネクタイを絞めている。狸のような出っ腹が目立つ管理職風の中年男だった。
「エビフライ定食」
「はい。ご用意します」
誠人は注文を洋介に伝えると、食器を洗いながらエビフライが揚がるのを待った。
「おう、エビフライ上がり!」
洋介の定食は何を食べても美味いと評判だ。得意料理は揚げ物で、エビフライもお手のもの。大きなエビを使ったサクサクのフライは特性のタルタルソースと相性が抜群である。
「お待たせしました。エビフライ定食です」
「おお、美味そうだな」
誠人は客に一礼をして二階へ上がった。さっき運んだ定食には赤い福神漬けが添えられている。
誠人は二階で準備をしていると、いつもあるはずのコンドームが切れていることに気付いた。急いで商店街の薬局に行き、ダッシュで戻ってくると既に部屋には客が待っていた。
「す、すみません。お待たせしちゃって」
「買い物かな? ご苦労さん」
男は丸いメガネの奥にある小さな瞳を細めて笑った。誠人も営業スマイルを返して準備を始める。手を動かしながら、誠人は内心ほっとしていた。ここ数日は取っ付きにくい客が続いていたので、今日は少し気を緩めて接客できるだろうと考えている。
「君はいくつかな? 高校生みたいだね」
男は背後に回り、誠人の軽く汗ばんだ体に抱き付いてきた。
「に、二十一です」
「本当かな? 十七、八くらいに見えるよ」
誠人の腹部を弄る手が胸元にまで動いてくる。男は誠人の体を振り向かせて顔を近付けてきた。
タコのように突き出された唇が、若い男の口を覆う。
「ん、んんっ」
男の舌先が口の中に入ってくると誠人は声を漏らした。絡み合う舌の温度は温かく、少しだけ油の臭いが伝わってくる。男のねっとりとしたキスは誠人の歯並びを確認するように口中を這い回る。
誠人は少しの間、キスに付き合うと、ゆっくりと体を引き離した。
「ごめんなさい。シャワー浴びてくるので、少し待っててくれませんか?」
「ああ、ごめんな。行っといで」
男は再び軽く唇を合わせた。誠人は体を隠すように背を向けて、汗交じりの服を脱ぐとシャワールームに入った。
いつものように髪と顔を洗って、体を入念に洗う。泡だらけになった体を洗い流そうとした時に、背後の扉が突然、開かれた。
「もう待てないよ」
「ああっ。まだダメですよ」
裸の男は誠人に背後から抱きついてきた。シャワールームは一人分のスペースしかない。この場所に二人も入れば、体は自然と密着してしてしまう。
「水泳やってたんだよね? エッチな体してるね」
男はさっきよりも大胆に誠人の体中を弄った。誠人の体に付いた石鹸の泡がヌルヌルと滑り、男の手による快感が伝わる。
「あんっ。シャワー終わるまで、ま、待って」
男は誠人の苦言に耳を貸さずに、乳首を触り、もう片方の手を股間に伸ばす。ふっくらとした手の感触が心地よく、半勃ちになっていた誠人のチンポは強く反り返った。
「こんなに勃たせて、なんてイヤラシイ水泳部員だ!」
「えっ? あっ、あっ!」
男の言葉に戸惑いつつ誠人は、竿を扱かれる刺激に身をよじらせた。
「先生がお仕置きしてやるからな」
耳元でささやかれる卑猥な言葉。でも、誠人は気が付いた。
「先生っ! 恥ずかしいです。あ、ああっ!」
「ふん。先生の言うことが聞けんのか? もっと罰を与えてやる」
男はそう言って、誠人の尻の谷間に手を這わせた。滑りの良くなった指先がアナルに辿り着くと、誠人は深い吐息を漏らした。
「先生、そこはダメです。ああっ、感じちゃう」
「スケベな生徒だ。先生のチンポを味合わせてやる!」
男がアナルに指を数回出し入れすると、誠人は声を上げて、さらに尻を突き出した。この客は本当に学校の先生なのかもしれないと、誠人は思っていた。言葉にしない欲求を掴み取る。それを汲めるのと、そうでないのとでは、セックスの楽しみは雲泥の違いになる。
「せ、先生のチンポ、おっきいです。僕、壊れちゃう!」
「可愛いぞ。先生、本気になっちゃうぞ」
男は誠人のアナルを肉棒で掻き回す。太くて短いそれが、肉壁に擦れ合い、誠人は今までとは違った快感を感じる。
「ああっ、やばっ、すげぇ!」
男の亀頭が中でゴリゴリと当たる。それがチンポを間接的に刺激して、誠人はいつの間にか、演技をすることを忘れてしまっていた。
「い、一緒に行こう!」
「う、うん、うん!」
男は背後から誠人のチンポを掴むと、乱暴に扱きだす。誠人は内外から受ける刺激に、眉間にしわを寄せてシャワールームの壁を掴もうとした。
「うっ……」
男は急に低い声を漏らすと、腰の動きをピタリと止めた。アナルの中に熱いものが流れ込む。誠人は腰の力を失いそうになるが、両足で踏ん張って何とか立ち続けようとした。
「き、気持ち、良かったよ」
男は誠人の体を抱かかえるようにして背中に頬を寄せた。誠人は額に汗を浮かべて、うっすらと笑みをこぼす。体に残された泡がゆっくりと太ももを伝って流れていった。
Ⅳ カツ丼・責め好きな男達
誠人と洋介は食堂近くのマンションで一緒に暮らしている。それは恋人が同棲するようなものではなく、友人がルームシェアをするような暮らしだ。洋介にとって誠人は見た目にもど真ん中のタイプであることには間違いない。だが洋介は、誠人が十分な性の経験を積むまで相手にしない。それだけは頑なに貫き通していた。
誠人は洋介がどのようにして客を見つけてくるのか、よく分かってない。前に相手をした客から、洋介はラグビー部時代の知り合いと聞いたことがあった。洋介は信頼できるネットワークを利用して口コミ的に客を掴んでくるのである。
ニュースで熱帯夜になると伝えられていた金曜日の夜のことだ。食堂の客足が落ち着きだした頃、三十代前半と思わしき客が入ってきた。その客は席に座るのと同時に注文の声を上げた。
「おーい、カツ丼くれ。大盛りで頼む」
誠人が振り返ると、短髪で凛々しいスポーツマンタイプの男が白い歯を見せている。誠人は笑顔でお冷を運び、伝票に書き留めると注文を洋介に伝えた。
「お待たせしました。カツ丼の大盛りです」
誠人は大型の丼をプレートごと、テーブルの上に置いた。丼から溢れそうなご飯の上に、新鮮な卵で閉じられたロースカツが二枚乗せられている。そして、あの赤い福神漬け。
男は重量級の丼を、半袖のTシャツから伸ばしたムッチリとした腕で軽々と持ち上げる。ラウンド髭を生やした大口でカツとご飯を一緒に頬張った。
誠人が二階でカツ丼の客を待っていると、階段を上がる音が聞こえてきた。だが、誠人はその足音に首を傾げた。足音は複数聞こえてくる。
「おう、さっきの兄ちゃん。本当にウリしてんだな」
さっきカツ丼を食べていたラウンド髭のムッチリとした男がほくそ笑む。そして、その背後にも別の男、髭はなくガッチリとした体系の男がニヤけた笑いを浮かべていた。
「結構、可愛いじゃん。美味そうだな」
「え、二人ですか……?」
誠人は面食らっていた。今まで複数の客を相手にしたことなんてなかったからだ。もしかしたら、洋介に無断でカツ丼の客が連れてきたのかもしれない、と思った。
「ちょっと、待ってて下さい」
「おい。どこ行くんだよ!」
「さっさと、おっぱじめようぜ!」
部屋を出て行こうとする誠人。だが、ムッチリした男が誠人の腕を掴み、もう一人のガッチリ体型の男が力任せに布団へ押し倒した。
「下で確認したら、すぐに戻りますから!」
「何を確認するんだよ!」
「俺ら、ちゃんと金払ってんだぜ!」
シャツや競パンを引っ張ろうとする男達の腕を押さえながら、誠人は声を張り上げる。でも、ムッチリ男が誠人の背後に回り羽交い絞めにすると、もう一人が競パンを引き下げた。
誠人は為す術もなく二人の男に弄ばれることになった。いつの間にかTシャツも脱がされて、体中を貪られている。
「はあっ、はぁ、はぁ」
誠人の体は執拗な責めにより熱を帯びていた。
「もう乳首もチンポもギンギンじゃねぇか。エロガキだな、こいつ」
「俺たちがたっぷりと味わってやるからな」
誠人は後ろから伸びる両手で乳首を摘まれ、首筋を舌で舐められる。さらに、股間には別の男が顔を埋め、天井に向けて突き上がる竿を入念にしゃぶられてしまう。鈴口からガマン汁が溢れ出し、その汁も一滴残らず吸い尽くされた。誠人の耳には背後の男の荒い呼吸が聞こえている。
「気持ちいいか? 気持ちいいだろ?」
一度に複数の性感帯を刺激され、誠人はただ熱い吐息を漏らすだけだった。
「そろそろ、俺たちも気持ち良くしてもらおうかな」
背後の男が耳元で囁くと、二人の男は立ち上がってスボンのベルトに手をかけた。ズボンとパンツを一緒に膝まで下げると、誠人を取り囲むようにして股間を近付けてきた。
「好きな方からしゃぶれよ」
ガッチリとした方の男が言った。誠は言われた方のチンポに顔を近付けると、蒸れた熱気と、汗や男性特有の臭いを強烈に感じた。筋肉で締まった太腿の間にあるズル剥けのチンポは、腹に付くように反り返り、鈴口からはガマン汁を垂れ流している。男達はシャワーを浴びていないのだ。でも、今さらどうしようもないので、誠人は目をつぶって勃起したチンポを口に含んだ。
「ほら、こっちは手で気持ちよくしてくれよ」
もう一人のムッチリとした男が誠人の手を取り、自分の竿にあてがう。誠人はチンポをしゃぶりながら、手に別のチンポから伝わる熱を感じた。
「おら、しっかりしゃぶれよ」
男は誠人の髪を掴み、乱暴に竿を喉の奥まで出し入れする。
「んんっ、んーっ、んーっ!」
誠人が苦しそうな様子を見せると、竿を咥えさせている男が口元を大きく歪ませた。
「今度はこっちも咥えろ!」
今度は隣の男が髪を掴み、誠人の顔を自分の股間へ押し付ける。ムッチリとしている男は肉付きの良い体に添えられているようなチンポで、竿は太く短い。勃起をしているが亀頭の先が辛うじて見えている状態だった。誠人は相手の反応を確かめながらゆっくりと皮を剥いてみる。カリの部分に白いカスが溜まっていて、ガッチリとした男のチンポよりも強烈な臭いが漂ってくる。
誠人は鼻奥に刺さる刺激に堪えつつ、裏筋を沿うように舌先を這わせた。
「おお、いいぞ。もっとやれよ」
男は髭を生やした大きな口から白い歯を見せて天井を仰ぐ。誠人は鈴口をこじ開けるように舌を尖らせてみた。
「うぉ! 何か痺れんぞ。コイツ、上手ぇな」
誠人が顔を上げてみると、男は眉間にしわを寄せて自分の竿が責められている様を見つめている。
「そろそろ、こっちも欲しいだろ?」
「ああんっ、くうっ!」
ガッチリとした男は枕元のローションを取り、誠人のケツの谷間に手を這わせた。チンポを舐めることに集中していた誠人は、急にアナルを触られてビクンと体を硬直させた。
「たっぷり掘ってやるからな。しっかりほぐさねぇとな」
耳元でささやかれる卑猥な言葉。その言葉に誠人は胸の内が少し熱くなるのを感じた。アナルの入り口にひんやりとしたものが伝わり、ゆっくりと指が入ってくる。肉壁をこじ開けるような感覚で、体温がさらに上昇する。
誠人は大の字に寝かされ、自分から両足を広げた。ガッチリとした男はさらにローションを垂らして二本の指を挿入する。
「どうだ? 感じるだろ?」
ムッチリ男が横から誠人の乳首を舐め、萎えたチンポを掴む。その声に、誠人は素直に頷いた。
「ああっ、あんっ。それ、凄いっ……」
アナルの中にある男の指が、誠人の前立腺を刺激する。今までも客に指でアナルを掻き回されたことはあったが、今日は全く違う。中で伝わる異物感よりも、チンポに伝わる刺激の方が強かった。誠人は、仕事という意識を常に頭の中に持っていた。でも今は、それすら忘れてもいいんじゃないかという気持ちに襲われている。
「チンポ、ぶち込んで欲しくなっただろ? どうだ?」
耳元でささやかれる言葉に、誠人の理性が溶けていく。
「い、入れて……」
頬を紅潮させて熱っぽい声で呟いた。
「ああん? 入れてだぁ? 言葉遣いがなってねぇぞ!」
男はグッと力を入れて、アナルの奥に指を突っ込む。
「はああんっ! ごめんなさい。入れてください!」
誠人は中に伝わる強い刺激と痛みに身をよじらせた。
「何を入れて欲しいんだよ?」
「チンポを入れてください」
「お願いします、は?」
執拗な男の言葉に、誠人は唇を尖らせ低いうなり声を漏らした。
「お、お願いします」
なかなか聞き入れてくれない男に対して、誠人は涙目になって懇願をした。その様子を見て、二人の男がニンマリと笑みを浮かべた。
「おおっ! スッゲー気持ちイイっ!」
「ああんっ、あんっ、あんっ、あんっ!」
アナルを弄っていたガッチリ男が、四つん這いになった誠人にチンポをぶち込み、勢いに任せて腰を振る。誠人は激しい腰使いに身を任せるようにして、絹を裂くような声を響かせた。
「おい、こっちも気持ち良くしてくれよ」
その声に導かれるように、ムッチリ男のチンポをすっぽりと咥える。さっきはカリの白いカスが気になっていたが、今の誠人にとってはそんなこと些細なことになっていた。
「しっかりしゃぶれよ。次は俺が掘ってやるからな」
男は誠人の頭をなでながら満足そうに声を漏らす。口の中でムクムクと元気を取り戻すチンポに、誠人は無心にしゃぶり続けた。後ろには腰を鷲掴みにしてピストン運動を繰り返す男もいる。一突き一突き繰り返されるチンポの刺激に、意識が飛びそうになる。
「そろそろ出してやるからな。孕ませてやるよ」
腰を動かすスピードが加速する。刺激の間隔が短くなり、誠人は口に含んでいたチンポを離して歯を食いしばった。
「ああっ、ああっ、ああんっ……」
「おらっ!」
男が大きく一突きをすると、誠人はアナルの中にドクトクと流れる熱いものを感じた。脈を打つように、二度、三度と噴出す白濁液。
「じゃあ、今度は俺の番だな」
さっきまでチンポをしゃぶらせていた男が背後に立つ。交代でケツを掘っていた男のチンポが目の前に現れた。
「きれいにしろ」
誠人は言われるままに亀頭を咥え込み、鈴口に残った精液を舐め取った。同時に、アナルに次のチンポが挿入されるのを感じた。
客が帰った後も、誠人は二人から責められた快感に翻弄されていた。両乳首を一度に貪られた感覚、チンポに伝わる男達の舌遣い、アナルを犯され続けた腰の疲労感。いつもなら、責められても感じたことなんて忘れてしまうはずだった。でも、今夜の経験は明らかに誠人を戸惑わせていた。
Ⅴ 焼肉定食・狂気的な男
食堂の二階で、誠人が男に買われている。これはトップシークレットである。誠人の客は必ず先に食堂で食事をして洋介に食事の代金を支払い、一般の客と同様に店を出る。そして、裏の通用口に回ってこっそりと二階に上がってくる。ウリの代金は振込で洋介の口座に支払いをしているのだ。
誠人は毎日のように男と寝て、多少のことではビクつかない程度に経験を重ねてきた。あのカツ丼の男達と三Pプレイの後、誠人は珍しく洋介に文句を言った。実は、洋介は事の次第を全て把握していたのだ。誠人が洋介に怒りをぶつけるなんて初めてのことだった。だから洋介は、何かある時には仕事の前に伝えると約束した。
秋風が冷たくなってきた頃、坊主でサングラスをかけた客が食堂にやってきた。注文を受けた焼肉定食には、赤い印が添えられている。
「お待たせしました」
誠人は料理を運んだ時、チラリとその客の顔を見た。表情はサングラスに隠されていて分からない。普段、肉付きの良い男ばかりを相手にしていた誠人にとって、この客は少し細身に感じた。それでも、まくったYシャツの袖から見える腕には、筋肉がしっかりと付いている。
男は首から下げられたネクタイを胸ポケットに仕舞うと、無言で箸を取り食事を始める。誠人は軽く会釈だけをして、その場を離れた。
「おい。誠人、ちょっと」
「何ですか?」
「お前。あの客の前では、大げさに演技しろ」
洋介の耳打ちに、誠人は目を丸くした。言葉足らずの意味を理解できない状況。誠人はその答えを求めるが、洋介はそれ以上、何も答えずに料理の続きを始めた。
二階でいつものように準備をして、客が上がってくるのを待つことにした。さっきの洋介の言葉の意味を考えてみるが、その真の意味はやはり掴むことができないでいる。
しばらくすると、下からゆっくりと階段を上る足音がした。誠人にとって、その響く足音は少しだけ不安なものに感じる。扉がゆっくりと開き、さっきの男が部屋に入ってきた。
「よろしくお願いします」
誠人はいつものように客に挨拶をして顔を上げると、その男は急に誠人の側まで歩み寄り頬に平手打ちをした。
「なっ……!」
急に叩かれた衝撃で、口を半開きにする誠人。男はその無防備な姿を乱暴に押し倒し、馬乗りになった。誠人は男の顔を見上げるが、サングラスに隠された瞳からは何も掴み取ることができない。ただ、口元が僅かに上がるのが見えた。
ビリッ、ビリビリッ、ビリッ! 男は誠人が着ていたTシャツを胸元から引き裂いた。
「ちょ、ちょっと、待って」
男は何も答えない。誠人は今まで多少乱暴な客は何度も相手にしたことがある。でも、今日の客は狂気的に見えて、新たな恐怖心を抱いていた。無下にさらされた胸や腹に外気が当たる。それを思わず隠そうと手で覆ったが、男は両手を使って誠人の首を強く絞めた。
「……っ!」
誠人の声にならない声が響く。本当に殺される、と思った。男に向かって手を伸ばし抵抗を試みるが、首に込められた力がどんどん強くなっていくのを感じた。呼吸を失った目には涙が溜まる。視界がゆがみ、男に向けて伸ばした手から力が抜けていった。
だが、不意に首を締め付けていた力が弱まり、誠人の体が大きく空気を吸い込むと、その反動で勢い余って咳き込んだ。誠人はゲホゲホと喉に引っかかるものを吐き出し赤い目を晒す。馬乗りの男はその様子を見つめながら、ネクタイを外し相手の両手首を一つに縛り上げた。
「やだっ、止めて!」
誠人はかすれた声で、縛られて頭の上に放り出された両手に力を込める。自由を奪われた不安感から、涙が頬を伝う。男はその姿を捉えると、また口元を緩ませて、乳首に舌を這わせた。
「やっ……! ん、んんっ!」
ねっとりと絡めるような舌の動きに、誠人は身をよじらせる。頭の中では嫌なはずなのに、体は反応してしまう。いつの間にか、眉間にしわを寄せて、無防備に開かれた唇からは熱い吐息を漏らしていた。
「ん……。んんっ、んっ」
男はその唇にそっと指の腹を沿わせると、乱暴に唇を重ねた。男の舌が誠人の中に進入し、口の中を暴れるように動く。勢いに任せた舌は鼻の下や顎にも這い回り、唇の周りを唾液でベタベタにした。
「もう、やめてぇ……」
誠人は声を上げるが、明らかに語気の強さを失っていた。いくら仕事とはいえ、一人の男に好き勝手に甚振られる。それは誠人にとっては間違いなく陵辱的な気分であった。だが、その気持ちの裏側には、心臓が高鳴っている自分も存在していることに気付いていた。
部屋の隅には浴衣がいつも用意されている。ほとんど使う客はいないのだが、男はその中にあった帯を手にすると再び誠人に迫った。そして、誠人の手首に巻かれたネクタイを解き始めた。
「ああ……」
手首の拘束を解かれた誠人は、情けない声を上げた。男はそんな様子を無視して、誠人の足首に自由になったばかりの手首を縛り上げる。そして両足を広げ、大股開きにする。これではまるで、誠人が自ら望んで目の前の男にアナルを晒しているようだ。
男の表情は見えない。だが、サングラスの奥の瞳には、誠人は獲物のように映っていることは間違いない。その証拠に、男は一つ息を吐き出すと、スラックスのベルトを外して興奮に踊るチンポをアナルに直接当てがった。
「くうっ! い、痛い……っ!」
男のチンポからはガマン汁が溢れて、亀頭のヌルヌルとした感触が誠人のアナルに伝わる。でも、汁は挿入のための潤滑油としては足りなかった。それでも、男は腰を押し付けて肉壁を裂くようにチンポを誠人の中に入れてくる。
「はあっ、んああっ、はあんっ」
中に広がる痛みに誠人は顔を歪ませた。心臓の鼓動が速まり、体を硬直させるが、なぜか淡い期待感を抱いていた。男は根元まですっぽりと挿入をすると、大きく腰を動かし出し入れを繰り返す。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!
激しく重なり合う音が響く。
「ああっ、ダメ! ダメぇ!」
本心は違う。誠人は首を横に振りながら拒否するが、この状況に酔いしれていた。自分が想像もできないような行為にスリルを感じ、男の次の行動を待ち望んでいた。
しばらくの間、誠人はアナルを犯され続けた。男の腰の動きに合わせて、二つの肌が乾いた音を響かせる。その音を聞きながら、誠人はいつしか恍惚の表情を浮かべていた。
Ⅵ ミックスフライ定食・愛を求める男
様々な男と交わった誠人は、洋介の望みどおり快楽的なセックスの悦びを体に染み込ませた。セックスは愛を持って交わされるものと言う奴もいる。そう考えれば、誠人も肌を重ねて情が移ることも決してなかったわけではない。でも、全ては洋介のため。それを思えば、短い呼吸をする間に知り合った男など、誠人にとっては取るに足りないものだった。
「ミックスフライをもらえるかな?」
その客はニッコリと笑った。歳は三十代半ばくらい。丸くポッチャリとした顔立ちで、少し長めの髪は、誠人からすれば優しいノンケのように見えた。がさつで荒々しい風情の男とは違って、優しいけれど胸の奥には強い意志を感じる。きっとこの人は誰からも好かれるのだろうな、と誠人は思った。
「誠人、さっさと運べ!」
洋介の大雑把な性格も魅力的ではある。でも、誠人は少しだけ口を尖らせて、注文の定食を客に運んだ。
「ごゆっくりどうぞ」
いつもの言葉を残して、誠人は二階へ上がった。ミックスフライ定食には、いつもの赤いマークが添えられていた。
「君はいくつなのかな?」
「二十一です。でも、来週で二十二になります」
その男はシャワーを浴びると、誠人の隣に座り肩を並べて話し始めた。誕生日が近いと聞いて笑顔になると、欲しいものや趣味を聞いていった。誠人はその取り留めもない質問に素直に答えた。
「あ、あの。好きなことしていいんですよ?」
いつまでも行為を始めようとしない男に、誠人は言葉を選んでそれとなく誘ってみた。
「ん? 好きなことしてるよ」
男はそう答えると会話を続ける。男が触れる話題には、エロい要素がない。タイプじゃなくてガッカリしているのかもしれない、と思いながら誠人は男の話し相手になった。
「そろそろ時間だね。また来るよ」
決められた時間を全て使って会話をしただけ。男はキスすることも、手を握ることもなかった。
「あ、ありがとうございます」
誠人は唖然として客を見送った。
その三日後、男は再び食堂に姿を見せた。
「今日もミックスフライを頼むよ」
「ありがとうございます」
誠人は注文を洋介に伝えると、カウンターの内側で皿を洗いながら、その客の姿に二度、三度と目をやった。
「ミックスフライ上がり! 誠人、ボケッとしてんな!」
洋介が声を上げる。誠人は赤い福神漬けが添えられた定食を運ぶと、二階へ上がっていった。その後姿を洋介はチラリと見て、足元に置かれたポリバケツに蹴りを入れた。
「僕は智弘って言うんだけど、名前は何ていうの?」
「僕は誠人って言います」
シャワーを浴びた男は、色白のふくよかな胸や腹回りを見せながら笑顔で話を始めた。誠人は最後に名前を聞かれたのはいつのことだろう、と心の中で考えていた。毎日のように男達と顔を突き合わせているのに、名前を聞かれることが新鮮に感じる。それに、客が自分の名前を名乗るなんてことは決してない。そんな必要はないことを、誠人だって分かっている。でも、智弘という名前を聞かされて、何か温かいものを感じていた。
「智弘さん」
「ん、何だい?」
誠人は隣に座る裸の男を呼んだだけで、自分の頬に熱を帯びていくのを感じていた。男は呼びかけられて屈託のない笑顔で覗き込むので、誠人はその視線から逃れるように目を泳がせた。
「す、好きなこと……して、いいんですよ」
数日前と同じセリフを繰り返した。
「……じゃあ、君の裸が見たいな」
智弘は頬を染めて小さく呟く。その言葉を聞いて、誠人は少しだけ寂しいものを感じてしまう。そして、ついさっきまで勘違いをしていた自分を恥じた。でも、そんな様子を悟られないように、口元を緩ませて立ち上がった。
誠人は智弘の前に立つと、Tシャツを脱ぎ、肌に張り付く競パンをゆっくりと下ろした。全裸を客の前で晒すことに今さら抵抗などない。智弘に近寄っていくと、チンポがよく見える位置で仁王立ちになった。でも、ただ裸を見せるだけでは能がないので、右手を股間へ伸ばし竿を握りつつ、左手で乳首を摘んでみせた。
「智弘さん、触ってもいいんですよ」
わざとらしく腰を振り、挑発するような仕草をする。でも、智弘は顔をますます赤くするだけで、相手の股間から必死に目を逸らそうとしていた。
「どうしたの? 遠慮しないで」
「そんなことしないでくれ!」
誠人が手を掴もうとしたところで、智弘は声を張り上げた。その言葉に、誠人はビクンと体を揺らし強張らせた。
「ご、ごめんなさい……」
小さな空間に沈黙が続いた。でも、智弘は笑顔になって、もう一度口を開いた。
「僕が見たいって言ったんだよね。誠人くん、ごめん」
その柔らかい口調に、誠人は足元に目を落として、黙って首を横に振った。
時間が来てしまった。智弘はシャワーを浴びて服を着た。そして、胸ポケットからペンを取り出して手元のメモに何かを書くと、誠人に渡した。
「今度良かったら、外で会えないかな?」
「えっ?」
予想外のことに、誠人はただ戸惑うだけだった。手にしたメモにはメッセージアプリのIDが書かれている。智弘は誠人の回答を待たずに、部屋を出て行った。
『なら明日会おうよ。誕生日だし、お祝いしよう。お店は休めないの?』
『お願いすれば大丈夫だと思う』
『この前、話していた映画を見に行こう』
『ありがとう』
『楽しみにしてるよ』
誠人はアプリの画面を閉じると、ベットに寝転び目を細めた。相手が洋介だったら、と考えていた。もう一年になるのに、何も進展がない二人の関係。これからも食堂の二階で男達に抱かれ続けるのかと思うと、自分が小さく縮こまっていくような錯覚に襲われた。
急に部屋の扉が開いた。
「おい、誠人。明日なんだけどよ……」
洋介がいつものぶっきらぼうな口調で部屋に入ってくる。
「洋介さん。明日、お店休んでもいいかな。夜の遅い時間なら一人くらいお客取ってもいいからさ」
誠人は、洋介の言葉を被せるように言った。
「んー。でもよ、明日は……」
「お願い」
誠人は食い下がった。今まで洋介の言うことなら何でも聞いていた誠人が、珍しく言うことを聞かない。
「分かった。休め」
洋介はもみ上げの辺りを人差し指で掻きながら、ぎこちなく頷いた。
誠人は次の日、智弘に会いに行った。一緒の時間を楽しむ二人の姿はデートと言っても過言ではない。金で買われた男と、その客という現実の構図でも、誠人にとっては楽しい時間であることに変わりはなかった。
二人は不思議な恋愛のアニメ映画を見て、お昼にイタリア料理のバイキングで食事をする。午後は大きな池のある公園を散歩して、小さなカフェで話しに花を咲かせた。
「誠人くん。二人っきりになろうか?」
智弘は四角いテーブルの隣脇に座る誠人の手をこっそりと握る。不意の行動に、誠人は頬を染めて黙って頷いた。
二人は繁華街の外れにある古びたラブホテルに身を潜めた。
「はあっ、智弘さん。……んんっ」
部屋に入るなり、誠人は智弘に抱き付かれ唇を奪われた。歯と歯がぶつかりそうなキスの勢いに、誠人の身は少しずつ後ろずさりをする。ふくらはぎにベッドの枠が当たると、そのまま二人は倒れこんだ。
「誠人くん。俺、君のこと好きになったみたいだ」
誠人の耳元で囁かれる甘い言葉。智弘は相手の首筋に舌を這わせながら、胸や股間をまさぐった。
「智弘さん……」
誠人は荒い呼吸に相手の名前を交えて、両手で頭と背中を抱きしめた。智弘は誠人のシャツに手を入れて乳首を弄りだす。最初はそっと優しく、次第に強く摘むようにする。
「ああんっ!」
急に強い刺激が電気のように体中を駆け巡る。その様子を見て、智弘は柔らかい笑みをこぼした。
「乳首、モロ感なんだね。可愛いよ」
パンツ一枚の状態にされた誠人は、同じ格好の智弘に背後から抱き抱えられている。智弘の温もりに、誠人は骨抜きにされたように身を任せた。
「ほら、乳首でチンポも勃ってるよ。変態だね」
「恥ずかしいから、見ないで……」
頬を真っ赤に染める誠人のチンポに、智弘はゆっくりと手を伸ばした。
「どんどん硬くなってるよ。見られて嬉しいんだね」
パンツの上から膨張した竿を執拗にこねくり回す。誠人はナイロン生地のパンツを履いていた。その薄い生地から伝わる手の感触は、直に触られるよりも気持ちいい。ねちっこい責めに、誠人は素直に身をよじらせた。
智彦は誠人と向かい合わせに座ると、腰周りをピッチリと覆うパンツのゴムに手をかける。
「パンツ、脱がしちゃうよ」
「ああっ、ダメぇ!」
誠人は本当に恥ずかしかった。それでも智弘の手によって、パンツは下げられようとしている。
「智弘さん、恥ずかしい」
羞恥心に身を震わせた。まるで部屋の隅に追い詰められていくような感情が心に広がっていく。
「ほら、脱がされちゃうよ。恥ずかしい部分が見えちゃうよ」
智弘は優しい笑顔で、嫌らしいことを口にする。誠人の黒い陰毛が現れ、少しづつ竿の根元や玉袋も外気に晒されていく。
「あああっ……」
誠人は自分の興奮が増していくのを感じた。それは智弘なら、どんな痴態を晒しても受け入れてくれる。そういった期待もあった。
ゆっくり下げられる誠人のパンツ。ゴムの部分がチンポの先をなぞるようにかすめると、硬くパンパンになった竿が勢いよく飛び出した。
「ほうら、もうガマン汁をこんなに垂らしてる」
「はうう。うんっ、うんっ」
智弘は汁で濡れた先っぽを指の腹で撫で回した。こそばゆいような快感に、誠人は妙な声を上げてしまった。
「僕はそんなに上手じゃないけど」
智弘はそう言って、誠人のチンポを咥えた。ゆっくりと大きく上下に顔を動かし、口の中で竿を出し入れする。手で玉袋を触りながら、誠人の顔を見つめた。
「と、智弘さん。だ、ダメだよ。汚いから」
「誠人くんのなら、きれいだよ」
智弘はチンポをねっとりとしゃぶりながら、乳首を弄りだす。乳首の刺激が信号となって、誠人のチンポは更に硬さを増していった……。
「もう一度、言ってもいいかな?」
智弘は腕枕で誠人の肩を抱きながら言った。二人は初めての交わりを終えて、心地よい疲労感に身を任せていた。
「何を?」
誠人が小さく呟くと、智弘は身を起こして誠人の目をじっと見つめる。
「誠人くんが好きだ」
「……」
智弘の黒い瞳。その光を見ているだけで、吸い込まれそうになる、と誠人は思った。身を任せてしまえば楽になるだろう。それは分かっていることだった。でも、心の隅にある小さな影が誠人を押し留める。
「ごめんなさい。僕、智弘さんの気持ちに答えられない」
智弘から目を逸らした。でも、そんなことをされても、智弘はいつもの穏やかな笑顔を見せた。
「そっか。残念」
まるで答えを知っていたかのような口ぶりで、智弘は下世話な天井を見上げた。
「ごめんね」
「そんな可愛い目してると、どこかに連れ去っちゃうぞ」
智弘は両手の指を食指のように動かしながら誠人に迫る仕草を見せる。
「やぁん。ダメだって」
身をすくめて笑顔になる誠人。でも智弘は真顔になって、その頬にそっと両手を合わせた。
「誠人くんは、本当Mになんだね」
「そうなのかな? 自分ではよく分からない」
誠人は首を傾げ、あっけらかんとした表情に変わる。
「MはSと紙一重なんだよ。もしかしたら、君は凄いSなのかもしれないね」
「そうなの? 全く違うものだと思うのに……」
「そうなんだよ。君は、表向きはMだろうけど、何かのきっかけでSの本能が目覚めちゃうかもしれないよ」
そう言って、智弘は誠人に優しく最後の口づけをした。
Ⅶ 炒飯・堕ちた男
洋介はイライラしていた。それは、ここ数日負けが続いている競馬のせいではない。何か言いようのない不安感。心を握り潰されそうな恐怖心。洋介にとって、今まで感じたことのない気持ちに襲われていた。
誠人に男相手のウリをさせていることは、彼が言い出したことである。二階での営業を始めて一年が経ち客足も好調で、最近では予約の調整に追われることもしばしばだった。初心で女々しくて、つまらない男だと思っていた誠人は、男達に抱かれて明らかにステップアップしている。
そろそろ相手をしてやるか、と思った。このイライラする気持ちの原因は、単に欲求不満なだけなのかもしれない、とも考えた。実を言うと、洋介は日頃から誠人に内緒でハッテン場に通い、性欲の捌け口を求めていたのだ。だが、ここ一ヶ月は日照り続きの状態だった。見た目にも美味そうな誠人を犯せば、この気分も晴れるだろう、と結論に至った。
「おう、誠人。今日はお前が、まかない作ってくれ」
「えっ……?」
夜の営業が終わって、食堂の暖簾を下ろした時のことだ。いつもなら、まかないは洋介が作ってそれを二人で食べる。そして店を閉めて一緒に帰るのだ。
「何でもいい。マズくてもいい。お前が作れ」
洋介は誠人に目もくれずに、手元の競馬新聞を読みふけっている。
「じゃあ。ご飯が余っているから炒飯でもいい?」
「おお、いいぞ」
誠人は厨房で中華鍋に火を点けて油を注いだ。溶き卵を半熟にして、余ったご飯を投入する。その手さばきは洋介と比べ物にならない。でも、誠人はぎこちない手つきで包丁を握りネギや焼豚を切る。中華鍋を振るのも下手くそだ。それでも、何とか炒飯らしきものが完成した。
「おい。それに福神漬けもくれよ」
「……赤いのですか?」
「そうだ」
大森食堂には、福神漬けは赤いものしかない。洋介が赤い福神漬けを望むと言うことは、アレの合図でしかなかった。誠人は驚きつつも、ついにこの日がやってきたのだ、と思った。自分で作った炒飯を胃に流し込むと、急いで二階へ上がった。
誠人はいつものように競パンと、ラフなTシャツ姿で相手を待った。今日の相手は特別な存在。これで見知らぬ男に抱かれる屈辱と焦燥感からようやく開放されるのだ、と思うと初めて洋介を見初めた時のように心臓が高鳴っていた。
しばらくして部屋に洋介がやってきた。
「誠人。待たせたな」
そう言って、洋介は唇を重ねた。誠人は少し荒っぽい感じのキスに身を任せようと目を閉じる。口の中をなで回す洋介の舌から、油の臭いが伝わってくる。下手くそな炒飯でも洋介は残さずに食べていたのだ。
「お前の体も、じっくり味わってやるからな」
洋介は誠人のTシャツと競パンを剥ぎ取ると、布団の上に押し倒して体中を嘗め回した。首筋、鎖骨、乳首、脇の下を愛撫され、誠人は熱っぽい吐息を吐き出す。男達に抱かれた体は感度が増し、乳首を弄られただけでも、チンポが勃起する。
硬くなった竿が勢いよく持ち上がり、覆い被さる洋介の胸を何度も叩いた。洋介はニヤリと笑った。
「モロ感じゃねぇか。どうして欲しいか言ってみろ」
「は、恥ずかしい……」
誠人の見え透いたセリフに、洋介は口元を緩ませた。
「ああん? 俺の言うことがきけねぇってのか?」
「……そんなことないです」
「じゃあ、言ってみろ?」
「気持ち良くなりたいです」
「具体的には?」
「乳首とかチンポとか、触られたりしたいです」
「それだけか?」
「……アナルに洋介さんのチンポ入れて」
洋介はニンマリと笑った。純粋な初心には興味がない。でも、今の誠人は初心っぽく演技をしている。そう思うと、誠人がどんなテクを身に付けているのか、楽しみで仕方なかった。
「おうし。たっぷり可愛がってやるからな。俺も一ヶ月ぶりにチンポ突っ込めるぜ!」
「……一ヶ月ぶり?」
誠人は怪訝そうな表情になる。一方、洋介は余計なことを口にした、と視線を逸らした。
「洋介さん。それ、どういうこと?」
さっきまでの熱っぽい空気はどこかに行ってしまった。洋介は何も答えようとせずに、目を泳がせている。
「洋介さんは、他の人とセックスしてたの?」
「お、お前だって、いろんな男とヤッてたじゃねえか?」
洋介は語気を強めるが、どうみても不利な状況だった。誠人は目を細めて、相手のことを睨み付けた。
「僕が望んだことじゃない。洋介さんがやれって言ったんだよね?」
「も、もう、そんなことどうでもいいじゃねえか!」
少しずつ詰め寄ろうとする誠人に、洋介はもう一度キスをしようとした。だが、その瞬間、誠人の中にある何かが切れてしまった。
――もしかしたら、君は凄いSなのかもしれないね。
誠人の視線が鋭くなり、目の前の洋介を見つめる。誠人の目には、あれだけ大きく頼もしく見えた憧れの男が、今では小さく写っていた。
「おらぁ! 洋介、ナメんなよ!」
誠人は、覆い被さる洋介の腹に膝蹴りを入れて身を引き離した。
「くうぅ……。誠人、お、落ち着けって」
不意の一撃を喰らってしまった洋介は腹を押さえて誠人を静止しようとした。だが、誠人は無言で詰め寄ると、洋介の体を冷たい畳の上に押し倒した。
「誠人、止めろって。これじゃ、逆だろ?」
「ヤリたいんだろ? ぶっ放したいんだろ?」
誠人は洋介の膨らんだ腹の上に乗っかり、Tシャツを力任せに引き抜いた。仕事の汗に混じって厨房で使う食用油の臭いが漂ってくる。洋介の胸は大胸筋の上に脂肪がまとわり付き豊かに膨らんでいる。誠人が両手で鷲掴みにすると、親指と人差し指の腹で擦るように乳首を摘んだ。
「くわぁ! 乳首は止めろ!」
洋介は両目を強くつぶって、大きく左右に首を振った。誠人はその様子を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「洋介は乳首がモロ感なんだな? 普段はオラオラ厨房で言ってるくせに、乳首で女みたくなるんだ!」
「や、止めろ!」
誠人はそう言いながら、両方の乳首をコリコリといたぶった。洋介は額に汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべている。
「気持ちいいんだろ? 素直になれよ」
誠人は片方の乳首に吸い付き、舌先を使って突起に小刻みに刺激を与えたり、乳輪をなぞるようにして円を描いてみた。
「はあん、ああっ、ああんっ!」
洋介は時々、体をビクン、ビクンとのけ反らせる。誠人が振り返って洋介の股間を見ると、厨房で着る白いズボンがくっきりと盛り上がっていた。
「イヤイヤ言ってたくせに、しっかり感じてんじゃね?」
「ん、んなこと……んぁ!」
誠人は洋介のチンポをズボン越しに掴んでみた。長さはさほどないが、少し細身のナスのような太さは存在感を感じる。布地を挟んでいるのに、手に伝わる温度は燃えるような熱さだった。
「そろそろチンポも弄って欲しいんだろ?」
その言葉に、洋介は何かを言い返そうとしているが、頬を真っ赤に染めているだけだ。誠人はその反応などは気にも留めずに、ズボンと一緒にパンツも一気に引き下げた。太い枝のような竿が天を突き上げ、黒光りの亀頭が誠人の前に晒される。
「こいつで何人の男を泣かせてきたんだよ?」
誠人が竿を強く握ってみると、洋介は、はうっ、と情けない声を上げた。額に汗を浮かべて苦しそうな表情だが、まんざらでもなさそうな様子。誠人には分かっていた。自分とは間逆で、Sっ気たっぷりの男を剥いてしまえば、ドMに成り果てることを。
「ああっ、んあっ、ううんっ、ああっ!」
誠人の手の動きに合わせて、洋介は色っぽい声を上げた。鈴口から透明の汁がドクドクと溢れてくる。
「このチンポどうして欲しいんだよ。言ってみろよ?」
誠人は洋介の表情を見ながら、嫌らしく口を緩ませる。
「しゃ、しゃぶって……」
「ああん? 言葉遣いがなってねぇぞ!」
誠人は洋介の脇腹を強く叩いた。肌が弾かれるような音が響くのと同時に、洋介はまた声を上げた。
「す、すみません。チンポを舐めて下さい」
素直に懇願した。その表情は眉間にしわを寄せて、苦しそうでいる。
「仕方ねぇな! てめえの汚ねぇチンポ舐めてやるよ」
誠人はそう言って、ガマン汁でテカテカになった亀頭を咥えた。舌先で鈴口の辺りを小刻みに嘗め回してみる。すると、さらに汁が溢れてきた。
「ああ、ああー、ああー」
洋介は目を閉じて深いため息を付く。だが、誠人はその様子に不満げな表情を浮かべ、チンポから口を離すと大きな腹を叩いた。
「おめーだけ、気持ちよがってんじゃねーよ!」
そう言って、洋介の口にチンポをぶち込んだ。
「ううっ、んー、んーっ!」
急に入れられた誠人のそれに、洋介は戸惑いの声を上げる。その様子を見て、誠人は腰を動かし乱暴にイマラチオを続けた。
「んだよ。オメー、フェラ下手くそだな」
誠人の声に答えるように、洋介は必死にフェラを続ける。でも、竿の出し入れをするだけのフェラチオに誠人は満足できなかった。誠人は口からチンポを取り出すと、洋介の股間に手を伸ばした。
「こっちの具合も確かめてやるよ!」
「そ、そこは……。や、止めろ!」
誠人はタマの裏筋から蟻の門渡りへ手を這わせた。その手の動きに、洋介は何をされるのか察知したようで、再び抵抗の声を上げた。
誠人は洋介の言葉を無視した。蟻の門渡りから更に奥の秘部へ向けて指先を躍らせる。ムチムチとしたケツの肉に間にあるアナル。手の感触だけで蒸れている状態が分かる。穴のすぼみに見当を付けると、誠人はブスリと指を差し込んだ。
「ああーっ!」
洋介は声を上げた。誠人はアナルの感触を確かめるように出し入れを繰り返した。
「これは、オメー。アナル処女じゃねぇな。掘られた経験あんだろ!」
誠人は指でアナルをかき回しながら、問い詰めるような目で洋介を見つめた。
「くうっ! そ、そんなこと……」
「嘘付くんじゃねえよ!」
誠人は洋介の見え透いた嘘を見抜いている。
「はうっ! や、止めてぇ!」
「じゃあ、白状しろ!」
誠人は執拗に責め続ける。洋介は脂汗を流しながら小さく口を開いた。
「大学の時、部室で先輩達に廻されたことがあります」
洋介にとっては口にすることすら恥ずかしい過去で、文字通り顔を真っ赤にしている。
「ふーん、そうか。本当はドMのケツマン野郎だったんだな!」
「もう、止めてくれぇ……」
洋介は顔を両手で隠す。
「指では不満か? そんなら好物をぶち込んでやるよ!」
誠人は不敵な笑みを浮かべて、自分のチンポを扱いて硬さを増した。洋介は逃げようともせず、ただ手で表情を覆っているだけだ。
「ほら、久しぶりだろ? たっぷり味あわせてやるよ」
誠人はそう言って、力任せに洋介の中に侵入した。
「はうううっ!」
洋介の金切り声が小さな部屋に響き渡る。それでも誠人のチンポは肉壁をこじ開けるように奥へ進んでいく。
「どうだ? 久しぶりに突っ込まれた感想は」
意地悪な言葉に、洋介は声を上げて呼吸をするだけだった。誠人はつながった状態で、洋介に顔を近付けた。
「キスしてやるよ」
必死で顔を隠す両手を振り払うと、洋介は鼻を鳴らしながら涙を溜めて赤い目を細めていた。
「……なんか可愛いな」
誠人はそう呟くと、洋介に唇を重ねて舌を絡めた。洋介の舌は素直に誠人の動きに従う。それは何かをねだる様にまとわり付いてくる。
「んんっ、んふっ、ふへっ、ふへっ」
洋介は情けない声を上げながら、誠人の背中に腕を回した。体は洋介の方が大きいのに、今はまるで誠人に甘えているようだ。
「洋介、お前のこと好きだよ。もっと気持ち良くしてやるからな」
今までの誠人ならこんなセリフは使うはずがなかった。でも、今は自分でも不思議なくらいに自然な気持ちで吐き出された言葉だった。
誠人は洋介の表情を見ながら、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初は出し入れの距離を短く、次第に大きく腰のピストン運動へ移る。
「はあっ、ああっ、あんっ、ああんっ!」
「慣れてきたか? もっと感じさせてやるよ」
洋介の声が吐息交じりに変わってきた。その深い息遣いが何を意味するのか。誠人は亀頭の先に意識を集中させる。洋介の中にある前立腺を探り当てると、集中的に責め続けた。
「誠人、それっ! それ、ヤバイ!」
「ここがいいんだろ?」
「お、俺っ! そこ、そんな風にされたら……」
洋介のチンポは天を突き上げていた。今にも爆発しそうな熱を帯びている。一方、誠人も初めてのタチとしてのアナルセックスに、長く掘り続ける耐性はなかった。
「洋介っ! 俺、もう出る!」
「お、俺もっ! 出るっ、出るっ!」
二人の言葉が重なると、それぞれのチンポから白濁液が勢いよく飛び出した。誠人のチンポからは脈を打つように数回に分けて大量に中へ注ぎ込まれ、洋介のチンポからは勢いよく濃いものが腹の上へ飛び出した。
二人は絶頂の波が治まると、額に浮かべた汗のことなど忘れて、お互いの唇をいつまでも貪りあった。十分にキスを味わうと、先に口を開いたのは洋介だった。
「誠人、すげぇ。もっと、もっとしてくれ」
「……お前が俺よりもセックス上手になれば考えてやるよ」
誠人は見下げた目で洋介を見つめた。
Ⅷ エピローグ・誠人と洋介
――三ヵ月後。
大森食堂のランチタイムが終わる頃。
「焼き魚定食、上がり!」
「洋介さん! 焼き魚には福神漬け!」
誠人の言葉に一瞬、手を止める洋介。でも言われたとおりに、ご飯のすみに赤い福神漬けを盛ると、誠人に定食を手渡した。
「お待たせしました!焼き魚定食です」
注文客は美味そうな焼き魚に舌舐めずりをする。
これで今日のランチは終了。それと同時に、洋介は厨房から離れ二階へ上がろうとする。だが、カウンターの端にいた誠人の腕を掴み耳打ちをした。
「おい。あと何人相手すればいいんだ?」
「んー。あと、五十六……、いや五十七だね」
誠人は二階用のえんま帳を手に、横目で洋介に仕事の準備をするように促した。
「くっそう。終わったら、覚えてろよ!」
洋介は軽く捨て台詞を残すと、二階へ駆け上がった。
二階の客相手は誠人から洋介になった。誠人が寝た客と同じ数だけ洋介も仕事をすれば、誠人に相手をしてもらえる。洋介のセックス修行とも言える二階の仕事。それが明けた時、きっと二人は本当の恋人のようになれるのかもしれない。
逆転 大森食堂、誠人の性遍歴
また新しい物語を書くことができました。これまでの小説をお読み頂いた方であれば、今回の物語は毛色の違うものと感じて頂けたのではないかと思います。今回はエロに比重を置いた物語であること。そして、初めて三人称の文体で書き上げてみました。二つのチャレンジは今後の執筆の糧になれば良いと思います。
最初のストーリー構成では、誠人が洋介にいいように使われまくってバッドエンドを予定していました。でも、執筆をしていると、やはり自分は明るい傾向のものしか書けないようです。最終的に二人の立場が逆転して、その先にハッピーエンドになるかもしれないと締めました。このほうが自分らしいという気がします。
さて、次回作の準備が進んでいます。次も初の試み、チャレンジ作品です。ケモです。ケモ小説はじめます。クマさん、トラさんなどケモのカルテットが登場します。恋愛モノです。エロは少なめになるかと……。では次回作でお会いしましょう。
最後までお読み下さりありがとうございます。
二〇一七年一〇月