崩落する画廊
御伽噺の印
カレンダーが俯いている
赤い印は、とても悲しかった
鏡に映る、明日の出来事
白雪姫は、生きながらえる
誰かが不幸になっていても、
それは、御伽噺に、
何の爪痕も残さなかった
混濁した景色を思い出す
赤い印が揺れている
蝶番の夢
この世界が、すっかり、暮れる頃に、わたしは、蝶を見ていた、大きな蝶が、怖かった、
シャボン玉が弾けている、
子どもが泣いている、わたしには、世界は広過ぎて、もう少し壁が欲しかった、
開けっ放しの扉から出入りするのは、
灰色になった記憶たちだけで、新しいものはひとつも無かった
わたしは、それを、喪失だなんて、
呼ばない
崩落する画廊
君の描いた絵と君の人生は、
あまりに美しくて、いけなかった
買いたい、と申し出る
君は、ゆっくり、首を振る
杖を、ついた老人が、君に向かって怒鳴りつける、
君は、ゆっくり微笑んだ
君の、全てが、もはや、過ぎ去っていた、せめて、絵を買おう、君が、持って、死んでしまおうとする、君の、絵を、買おう
君はその場からいなくなる
君は、全てが、過ぎ去って、あとは、君が、去っていく、それだけだった、それが、仕事みたいに、去っていく、
泣き出す私に、
君は残酷なぐらい優しかった
報われない、ヒマワリと、
許されない、夕暮れは、
曇天だけが、傘であり、
雨雲だけが、心臓だった、
そろそろ許して欲しかった
そろそろ愛して欲しかった
傘すら許されない人生だった
せめて、濡れるなら、骨まで、と、願うことすら、忌み嫌われて、
微笑みは、過ぎて、日々は、傷だらけだった、表層は、痣だらけだった、もはや、雪の日に、天日干しするしか、なかった
絵は、売れない
喪失は、売れる
困り果てて、貯金箱を割ったけど、壊れた貯金箱が、あまりに、可哀想で、やっぱり、私は、泣き出した、
君は、喪失を売り捌く
崩落する画廊