残業中の御伽噺

藤里 圭

窓の詩


朝の空気を部屋に招きれる
正妻を向かえるように
朝の空気はこの部屋にとって朝食で
この部屋は浮気現場であった

数時間前まで夜と交わり愛し合った
浮気現場の私の部屋に
威武堂々と朝の空気は入ってくる

全てを見透かした上で
全てを塗りつぶしていく
余裕のある笑みを浮かべて
私の部屋を覆い尽くしていく

鎮痛剤の詩


今日はとても頭痛がします
きりり、きりり、と頭痛がします

体がとても、痛くなり、
それが何故だか遠い国のことのように、実感がないことのように、感じます

痛みは、どこに、ありますか?

朝は大変騒がしく
コピーを取りながら、逃げ出しました

ニュースの原稿を思い出す
お天気予報を思い出す

効かない薬が机の中で
寝息を立てていたもので、

仕方なしに二錠飲みました

きりり、きりりと痛むのは
頭なのか、胸なのか、
全部曖昧になりまして、

夕方のニュースを予想します
明日の天気を予想します

みんな穏やかに過ごしています
私の胸は濁流です

いつか、この身を、引き裂いて
美しい流木が姿を現したなら、
それは、私の骨だから、

どうぞ、玄関に、お飾りください

残業中の御伽噺


花が枯れて、
誰が泣くというのだろう

倉庫で死んだわたしを、
だれも、心に描かない

死んでしまえ、

自分で自分に呟けば
破裂した、のは、わたしの体

例えるのなら、遺言

あいしてました

とても、

あいしてました

そう言って、
消えてなくなる、わたしのからだ

誰も生きろなんて言わなかった

無言の弾圧は、
小さな絶命を積み重ねていく

誰もいないオフィスで
死んじゃえと大好きを繰り返してる

狂えない地獄の中

わたしのからだは健康だった

残業中の御伽噺

残業中の御伽噺

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-26

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  1. 窓の詩
  2. 鎮痛剤の詩
  3. 残業中の御伽噺