ENDLESS MYTH第4話ー4

Zin

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 クリスタルの都の朝は、無数のクリスタルの乗り物が中空を行き交うことで始まる。中には通勤の人々が乗り込み、それぞれの仕事へと向かっていた。
 メハは徹夜明けの酷い顔でボサボサになった赤毛を掻くと、正面に浮遊するクリスタルの大きな板を流れるデータを再確認すると、掌をかざしてデータをシャットダウンした。
 するとクリスタルと大スクリーンは自動でクリスタルの天井へと上昇し、自らが収まるスペースへきっちりと収納された。
 大きくため息をつき仕事が一段落した疲れを見せると、クリスタルの大きなデスクから立ち上がり、目覚めたクリスタルの都を全面クリスタルの壁面から眺め、硬直した身体を伸ばすと、仕事部屋から出て、トーガに似た衣服をクリスタルの床へ脱ぎ捨てる。するとそれを円盤型のロボットがクリスタルの壁の下方が開いて現れ、衣服を回収すると、そのまま壁へと戻っていった。
 サラシのような下着を脱ぎ、彼女にとって邪魔でしかない胸と尻を顕にすると、クリスタルのカプセルへ入った。
 殺菌効果などの風呂と同じ効果の光を時間で言えば数分浴びると、サッパリした顔でカプセルを出る。
 と、目の前に骨のように細い金属で部品が構築された人形のロボットが立って、衣服を手に持ち待っていた。
「昨晩も仕事だったのですか?」
 ロボットは無機質に聞く。
「仕方がない。国家の執政官としては休んでなどいられないさ」
 そう言いながらロボットが持っていたサラシのような下着を身につけ、トーガのような衣服をまとった。
「ご自愛くださいませ。あなた様は1人しかいらっしゃらないのですよ。我々ロボット違い、壊れたら治らないのてす」
 ながらく使用しているロボットが、こうしたプログラムで自らの主人を気遣うのは知っているが、長年の愛着だろうか、軽く微笑んだ。
「今日はゆっくり休むさ。これから会議だ、支度を頼む」
 そういうと彼女はそそくさと身支度をするため、浴室を出ていった。

 クリスタルの球体で家を出て数秒もしないうちに、メハ執政官にその情報はもたらされた。
 クリスタルの滑らかな内面に大きく人の顔が映された。赤毛の坊主頭で緑色のクリスタルが顔に光っている、彼女の部下の官僚だ。
「軍省情報部より報告です。惑星アザナイタ、サムタ国へ派兵した師団が壊滅とのことです」
 一気に訝しげに執政官は眉をひそめた。
「壊滅? アザナイタはそれほどの軍事力を保有している情報はないはずよ。詳細は?」
 と言いつつもすぐに、
「すぐに到着するから、資料を用意しておいて」
 彼女の乗った球体は高速でクリスタルタワーへ到着すると、クリスタルの壁面が波紋を広げるように開き、彼女は足早にタワーの専用出入り口へ入っていく。
 彼女の身柄を守るため、周囲にはシールドが展開しており、テロを未然に防いでいた。
 専用の入り口を入るとすぐ、警護型ロボットが彼女の周囲に殺到、彼女の歩調に合わせ移動した。
 自らの執務室へ入るなり、居並ぶ完了たちへ顔を一瞥する。
「詳細を報告して」
 デスクに座るなりホログラムディスプレイを起動させ、報告資料を自らの眼に入れる。 
 それを元に官僚たちは、戦況報告をする。
「現地時刻04589、サムタ国北北西より進軍した第8970師団は、主要都市を占領、領土を52.7%を支配下においた時点で戦況は大きく変わり、師団を押し返し始め、現地時刻0522には、撤退を余儀なくされたもようです。しかしながら師団はほぼ壊滅と言ってもよい状態だったとのことです」
 自軍の動きは理解できたが、肝心の陣現地で何が起こったのかは、官僚たちにも分からない状況だった。
「軍省からの情報では、サムタ国の軍事力は原始的レベルに当たるから、進軍は問題なかったはずよね?」
 そう言われても官僚たちは軍人ではなく、しかも軍省からの情報提供が限定的であったために、皆が口をつぐんでしまった。 
 これまでも敗戦は幾度もあった。しかしここまで情報が分からないことは初めてで、当惑を隠せないメハは、立ち上がると官僚たちに告げた。
「直接、軍省へ出向くは。今から行くと伝えておいてちょうだい」
 そう述べると、そそくさと自らの執務室を出て、再びロボットの護衛を周囲にまとわせて専用で口から出ると、クリスタルの球体へ乗り込むのだった。
 軍省本部はタワーから少し離れた位置にあり、正方形のクリスタルの大きな建物である。
 横には軍港が設置されており、彼女が本部前で降りると、丁度、軍港の各クリスタルベイのドアが開き、全長5キロを超えるクリスタルの軍艦10万隻が空へ向かい飛び立つ、圧巻の光景を眼にできた。
「執政官」
 圧倒される光景を目の当たりにする彼女の元へ、血相を変えて小男が走り寄ってきた。
「こちらからご連絡しようと思っていたところでした。おこしいただき、助かります」
 軍省の事務局長は、顔色が蒼白で、事態がただ事でないことをすぐにメハの理解するところだった。
 軍省事務局長に付き添われ施設内部に入ると、すぐに憲兵か彼らの周囲につき、果てしなく巨大なロビーの真ん中を抜ける、移動通路に足を置いた。
「短的に言ってしまいますと深刻です」 
 事務局長の顔色が更に紫かかった、困惑の色になる。
 軍省情報部が事前に敵地を調査した際、敵の文明レベルは低レベルと判断され、軍事的統率こそあるものの、クリスタルの都を脅かすほどの武力、科学力は皆無と判断されていた。
 だからこそメハも事務局長も顔色を変えてしまう事態なのだ。
「調査報告を見ましたが我らの軍隊を退けることは、確率的に不可能なのでは?」
 高速の動くクリスタルの通路を降りた先には、クリスタルの筒が待っていた。空気式のエレベーターである。
 憲兵の一部が筒の入り口の前で立ち止まり、残りが2人を囲んでエレベーター内に入ると、クリスタルのドアが閉鎖、空気圧でクリスタルの円盤が上昇していく。
「参謀会議でも同様の結論に達し、軍事的戦略は間違いのないものだったのですが」
 どうしたら良いのか分からない様子の事務局長。
 メハも軍事的に堅実な軍省だから無理な軍事作戦を展開するとは考えられず、情報部も間違った情報を提供するとは思えず、敵国の軍事力を図り間違うということもなく、だからこそ彼女は腑に落ちない。
 エレベーターが目的の階へ到着、クリスタルの扉が開くと、憲兵たちが道を開けて、2人が降りると、その階で待っていた憲兵たちが、護衛を引き継いだ。
 一団は廊下を進み、巨大な部屋へと到着した。
 そこには多くの軍人が行き来して忙しくしていた。
 ホログラムの画像が各戦場の戦況を伝えている。
 多くの軍人が立ち止まり2人へございました打を下げる中を進み、部屋の中央へ来ると、そこからクリスタルの円盤が浮上、巨大な部屋の中空に漂うクリスタルのテーブルに彼らは到達した。
 そこが軍省の中枢、参謀会議の場であった。
 反重力物質を埋め込んだクリスタルの椅子は中空に浮かんでいる。
 それに腰掛けていた参謀たちは、それぞれの背に伸びたハントを翻して立ち上がると、何十年も年の離れた彼女へ頭を下げ、それぞれの額のクリスタルを光らせた。
「現状はどうなってますか?」 
 反重力の椅子に座るなり、開口一番、メハは参謀たちを一瞥した。
 1人の参謀がため息混じりに言う。
「惨敗です。この戦闘は我が国の歴史に刻まれるほどの大敗です」
 苦い顔で初老の男は悔いていた。
「なにが起こったのです? 報告ではこの戦闘に問題点はなかったはずですが」
 参謀たちを見る彼女の視線には、困惑の乱れが混じり、導線は波打っていた。
「映像を」 
 大柄で腹が酒樽のように出ている参謀が、声を張り上げた。騒がしくしている巨大な司令室に轟くほどの、稲妻のごとき大声であった。
 すると自らの周囲にホログラムを展開していたオペレーターの1人がスイッチを入れ、司令室の中央に全長50メートルはあるホログラム映像が流れた。
 そこにはクリスタルの甲冑で武装し、手には剣と素粒子破壊光線が照射される銃が一体となった武器を装備していた。
「こちらは第18579師団。本部、応答してください。情報にはない戦力に現在、襲撃を受けています。応援を!」
 と、叫んだと同時に獣のような雄叫びが映像に流れ、兵士は黒い泥のようなものに包まれ、映像は遮断された。
 続けてクリスタルの国家が誇る要塞が現出した。目標惑星の軌道上に浮遊している。その神々しさは恒星の光を反射して、まさしく漆黒に浮かぶダイヤのようであった。
 ところが目標惑星の表面に黒い斑点が見えたと思った刹那、墨汁の噴射のような黒い液体が要塞を直撃すると、跡形もなく消し去ってしまったのだった。
 これには思わず口元を押さえ、メハは息を引いた。
 ホログラムが消滅すると、痩せこけた参謀がメハをじろっと見た。
「ご覧の通り、まさしく一撃で我が要塞は砕かれました」
 唖然とメハは頷いた。
「なんなんです、あれは」
 誰かの答えを求めて彼女は声を絞り出した。
「現在、調査しておりますが、不明です。生物反応は検出されましたが、現地との連絡手段がありませんので、情報がつかめておりません」
 困った顔をしたのは、口ひげを蓄えた参謀だ。
 そうこのとき、戦場との連絡は途絶え、戦況を誰も把握できなくなっていた。
「あれが生物だと?」
 愕然とするメハ。
「現地調査は再三行いました。現地生命体に現在、該当する生命体は存在しません。つまり、惑星外殻で生息している生命体ではないということです。この場で憶測を述べるのはいかがとは思いますが、あれは惑星内部に存在していた現地生命体としか説明がつきません」
 参謀の1人が言う。
 憶測で物を言う場ではないのは理解し、戒める立場のメハではあるのだが、参謀が言う憶測しかこの状況を説明する言葉がなかった。
 それにしても数多くの星々を征服、地平の彼方まで見透ししていたとばかり思っていたメハや参謀たちにも、こうした形状の生物を見た覚えがなく、誰もがそれっきり口を結んでしまった。 
「援軍を派兵しろ」
 威厳のある声と共に中空に浮かぶ参謀本部に、王の姿がむっくりと現れた。
 全員が緊張した面持ちで起立し、眼下の兵たちもみな、起立している。
「ですが陛下。状況もわからない戦場へ新たに派兵するのは、リスクが大きすぎます」
 メハが王の意向に助言するも、娘の言葉は陛下へ届かなかった。
「生存者を救出後、直ちに敵軍を鎮圧せよ。各方面軍より要塞を集め、圧倒的火力で敵を殲滅する」
「しかし陛下ーー」
 と、彼女の言いかけたのを父は凄まじい眼光で睨みつけ、反論を飲み込ませた。
 こうして方針は決定し、メハは激しい不安白い胸の奥に抱えるのだった。

4話ー5へ続く
 

ENDLESS MYTH第4話ー4

ENDLESS MYTH第4話ー4

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-25

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