ENDLESS MYTH第4話ー3
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サングダム恒星の第5惑星ガイナシスに重なる巨大なクリスタルの塊。
直径120キロ、収容軍艦100万隻、表面対空砲700万、病院設備、住居設備、食料生産設備を備え、さらには軍艦製造、兵器生存も担える、まさしく人工の巨大な惑星がそこには君臨していた。
惑星ガイナシスへの陽光を遮るそのクリスタルの巨大な人工惑星は、星間国家ジェザノヴァの戦略要塞であった。
ジェザノヴァの軍省が建造、運用している惑星型要塞は、星間国家宙域全域に配置されており、属国の感知、敵国進行への抑止力、反乱鎮圧への迅速なる対応などの目的に使用されていた。
ジェザノヴァが運用する巨大要塞の最大の能力は、そのクリスタル表面の反射を利用した、無尽蔵のエネルギー光線による火力はもちろんのこと、その優れた機動性にこそ、最大の能力が備わっていた。
巨大要塞はジェザノヴァ以前の国家も建造、運用していた。しかしそれらは宙域の確保であり、恒星のようにその場から移動するという能力自体をそいだ、巨大な塊にすぎなかった。
そこへ最新鋭技術、つまりは巨大建造物を安定して超光速移動させる、巨大動力炉の開発がジェザノヴァの機動要塞の量産を可能とした。
自在に戦地へ赴き、敵の惑星を完全に鎮圧する。戦場での補給を考えずとも、自軍兵士は戦え、また軍艦も修理、補給を長距離移動せずとも可能とすることで、最大値での戦闘を可能としたのである。
これがジェザノヴァが最大の軍事力を宇宙で誇っている最大の理由なのだ。
機動要塞ブガナビーは、中型機動要塞でありながら、最新鋭の動力炉、表面のクリスタル強度の増強、生産性を向上させた、最新鋭機動要塞であった。
これを好み使用していたのが、ジェザノヴァ最高軍事総司令官たるン・トハ軍省総官だ。
彼女はまるで宇宙空間に浮いているようになる展望室の無重力へその身を置き、朽ち果てていく敵の惑星を眺めるのを、最大に優越としていた。
姉、執政官ン・メハへの戦況報告の後、拡大する前線へ再び昨日中に戻ったトハは、苦戦する師団の立て直しをすぐさま行うと、戦況が優勢に転じてすぐ、この展望室へと入っていた。
「閣下。ご無理をいたしますと、身体にさわりますぞ」
甲冑で浮遊する彼女の後ろから、幼げな少年の声が聞こえてきた。
顔だけ横を向けると、白い顔立ちがまだ幼い少年が、黒い軍服を身にまとい、彼女へクリスタルの球体を差し出した。中には栄養価を高め、飲むだけで栄養補給が万全となる飲料水が入っていた。
主に将兵の身の回りの世話をする補佐官として軍省に雇用される少年兵である。
この補佐官という少年兵たちは、だいたいの素性が金銭に余裕がなく、まともに学校へ入学できない貧しい家柄出身者が多く、彼女が好んで使うこの補佐官もまた、母子家庭で育ち、学校へ通学させる資金に困り、入学金免除の軍学校へ入れられたうちの1人であった。
「お前は少し細かいぞ、ベタース」
補佐官が身につけることを義務づけられている、学生服のような黒い軍服の襟を撫で、ベタース・ロマフは静に咳払いした。
「総官である閣下の身に万一のことがあれば、ジェザノヴァ国の軍事は総崩れになるのです。まして今は宇宙各地で前線を広げているのですから、大事な時期なのですよ。そもそも総官は首星で指揮をお執りになるべきなのです。閣下自ら前線に立たれる必要はありません」
またいつもの小言が始まった、と耳に小指をつっこみ、ベタースから渡された飲料水を、クリスタルのチューブで口に含み、喉に流し込む。
軟水を操作したことで硬水となった飲料水は、お世辞にも旨いしろものではなく、喉につっかえる感覚があるが、彼女は兵士らしく好みを口に出すことも、効率性を考えて、常にこれを喉に流し込んでいた。
しかしながらこの完全飲料水が逆に彼女が食料を摂取する手間を省いてしまい、ベタースが注意しなければ、3日は固形物を口にせず、飲料水だけで食事を済ませてしまうこともあった。
彼が着任してから少しは食事にさく時間が増えたものの、彼女としては食事を含めた私生活を非合理だと考える主義であり、常に軍事の場に立っていたい人物なのである。
飲み干したクリスタルの球体を彼に投げ返し、彼がキャッチすると同時に少年の肩に太い腕を回し、彼女は静に呼吸した。
「まもなくここも終わる。また1つ、ジェザノヴァの惑星が増えるな」
溜息交じりに囁く総官を上目で見たベタースは、軽く微笑んだ。
「これでまた、総官の部屋の勲章が増えますね」
彼女の私室を知る少年は、無骨で散らかった彼女が寝るためだけに使用する部屋の壁に、無数に輝クリスタルのメダルを思い浮かべていた。
「勲章などただの飾りだ。戦禍の中で死んでいった者たちこそが、本当の勇者なのだ」
そういうと、女性にしては大きな手で少年の赤毛をクシャクシャと荒く撫でた。
「あたしにとっては、お前が最高の勇者だがな。よくぞこのあたしの私生活を破綻せずに持ちこたえている。これは侵略よりも難しいことだぞ」
褒め称えるようにからかう彼女を突き飛ばすよに離し、乱れた髪の毛を整えながらベタースは、不満げに言った。
「総官、失礼ながらお着替えください。汗の匂いがしますよ」
また口うるさくいったな、と軽く微笑んだトハが再び、惑星ガイナシスを見た時、惑星表面で複数の爆発を認識できた。
この上空から見えるということは、現地ではそうとうな爆発だということを示し、総官は厳しい表情で心中に囁いた。
あの爆発で何人が死ぬのだろうか・・・・・・。
ENDLESS MYTH第4話ー4へ続く
ENDLESS MYTH第4話ー3