同調率99%の少女(19) - 鎮守府Aの物語

同調率99%の少女(19) - 鎮守府Aの物語

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=== 19 それぞれの初陣 ===
 急を告げるブザーの音。鎮守府に泊まっていた那珂たち艦娘は緊急出撃することに。川内と神通にとっては、深夜の出撃が初陣となる。

深夜の出撃

 夏まっただ中、自由演習のために艦娘たちが泊まっていた深夜の鎮守府本館にけたたましいブザー音が鳴り響く。

「な、なに!? このブザー!?」

 那珂は寝っ転がっていたソファーから飛び起きて慌てて靴を履いてロビーを後にした。向かうのは当然、さきほどまで提督らと一緒にいた3階の広間である。
 ブザーは5回ほど鳴ったのちに音が止まっていた。
 3階の広間に着くと、提督と明石は立って顔を見合わせて何かを話し込んでいる最中だった。

「提督!この音って!?」
「那珂!さっきはなんで……」
 提督は決まり悪そうに言いかけるが那珂がそれを遮る。
「そんなことはどうでもいいから!」
「あ、あぁ。わかった。」
 提督も明石も酔いが吹き飛んでしらふに近い状態に戻っていた。

「西脇さん、この音は……あれですよね?」明石が不安げな声で尋ねる。
「あぁ。これは東京湾に敷かれた警戒線が突破されたことを知らせる音だ。俺も管理者研修時にそう説明されたけど実際の音を聞くのは初めてなんだ。」
「警戒線って?」
 那珂が質問する。
「国と隣の鎮守府とうちのとり決めで敷かれた、深海棲艦がある海域を突破したことを知らせる警告音だよ。隣の鎮守府と横須賀の海自および米軍が監視の目を光らせていて食い止めているからよほどのことがない限り鳴ることはないって言われてたんだが……ともかく俺は問い合わせてみるから、那珂と明石さんはみんなを起こしてくれ!特に五月雨は急がせるように!」
「「了解!」」

 提督は椅子とキャビネットを押して執務室へと戻っていった。那珂と明石は3階から降りて皆が寝ているそれぞれの階の和室を目指す。

「私は1階のみんなを呼んでくるので、那珂ちゃんは2階をお願いしますね。」
「はい!」
 階段の踊り場でそれぞれ確認しあい、那珂は途中で明石と別れて2階の和室へと向かった。


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 那珂が和室に入ると、残してきていた3人は布団から体を出してキョロキョロして慌てふためいていた。
「みんな、緊急事態だよ。急いで執務室に集合!」
 那珂が入室一番に言うと、当然のごとく3人からは質問の嵐が飛んできた。
「え?え!?ど、どういうことですか!?」と川内。
「変な音でビックリして起きたから頭痛いっぽい……なんなのこれ~?」
 両目が半開きで完全に開けられていない夕立が愚痴るように言う。
「な、那珂さん……?」
 五月雨はすでに目が覚めているのか、冷静に不安げな口調で問いかけてくる。
 深呼吸してから那珂はそれぞれに答えた。
「深海棲艦がね、東京湾のなんとか線っていうのを超えたらしいの。とにかく秘書艦の五月雨ちゃんは先に執務室に行っといて。あたしたちは1階のみんなと合わせて執務室に行くから。」
「は、はい! でもこのまま行くのは……」
「いいから!」

 那珂は五月雨に発破をかけて着替えはさせずにパジャマのまま向かわせた。五月雨は靴を中途半端に履いて慌てて出て行った。その後那珂はまだうつらうつらしてる川内と夕立を立つよう促して和室を出ることにした。
「じゃああたしたちも行くよ。」
「「は、はい。」」

 覚醒しきってない二人の尻をかなりの本気の強さで叩いて和室を出させた那珂。階段にたどり着くと、下から明石と五十鈴たちがちょうど登ってくる頃だった。
「あ、那珂ちゃんたちみんな!」
「明石さん、下のみんなは……大丈夫みたいですね。一人除いて。」
 明石の後に続く面々を見て那珂は大体問題ないことを確認した。こういう事態では頼りにしたかった肝心の五十鈴は低血圧のためなのか眠気が冷めきっておらず、目を細めて表情を苦々しく歪めていた。決して睨んでいるわけではないのかわかっていたが、他人から見ると印象がものすごく悪い。
「ねぇ、五十鈴ちゃん。後で顔洗って目をちゃんと覚ましとこーね?」
 そのため階段を全員で駆け上がる最中、那珂は五十鈴の隣に寄り添って一言かけてフォローをする。五十鈴はダミ声を出して返事をした。


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 那珂たちが執務室に入ると、提督は誰かと電話で話していた。受け答えする提督の返事の声質はかなり切羽詰まった雰囲気が伺えた。
 先に行った五月雨は秘書艦席に座ってPCを操作している。緊迫した空気になっていた執務室のため、普段おしゃべりな那珂や川内・夕立もさすがに口を真一文字に閉じ、提督が電話を終えるのをひたすら待ち続ける。
 やがて電話を終えた提督の口から、現在の状況が語られ始めた。

「改めて説明する。東京湾アクアラインに沿って、海底に向けて一定間隔で探知機が設置されている。それが深海棲艦の東京湾への侵入を知らせる警戒線を形作っているんだ。本来その警戒線手前までは隣の鎮守府と横須賀の海上自衛隊・米軍がメインで守っている。今回はその警戒線を越えてしまった深海棲艦がいるんだ。数にして5体。幸いにもそいつらはレーダーやソナーに引っかかる個体だ。そいつらは二手に分かれて、2体はアクアラインを千葉県側に沿って北上中。こいつらをAのCL1-DD1。残りの3体は東京湾のど真ん中を移動中でやや東京寄りに針路を変えつつある。そいつらはそのまま進むと荒川を上る可能性もある。こいつらをBのCL2-DD1としたとのことだ。今、隣の鎮守府の艦隊が向かっているらしいが、越えられたのはもともと隣の鎮守府から出撃した艦隊の作戦ミスによるものらしい。それで、我々も念のため出撃してほしいとのことだ。」

「また隣のやつらのミスなの?いいかげんにしてほしいわね。」
「まぁまぁ。五十鈴ちゃんってば~。」
 五十鈴と那珂のやり取りに、緊迫した空気に耐えられなかった他の面々がアハハを笑い声を漏らし、一呼吸整える。
「警戒線を越えられはしたが、強さ的にはいずれも軽巡クラス・駆逐艦クラスの下らしい。以前の重巡クラスに比べれば、君たちでまとめてかかれば大した苦もなく撃破できるだろうと思う。」

 そうして説明する提督は、敵に付けられた名称も説明する。それは艦娘制度の鎮守府、つまり深海棲艦対策局としての面で使われる作戦上の共通の分類方法だった。
 この頃の鎮守府Aではきちんとした教育体制がまだ整っていなかったため、共通の分類方法は古参の五月雨と不知火しか知らなかったための再説明である。

 敵の集団をチーム分けし、それぞれAからアルファベット順に割り振る。そしてその集団内の敵の個体の強さやサイズに応じて呼んでいる駆逐艦級~戦艦級を、アルファベットの頭文字で示す。駆逐艦級はDD、軽巡洋艦級はCL、重巡洋艦級はCA、戦艦級はBB、空母級はCVである。その集団に含まれる各分類と数を判定し、連続して指し示す。
 仮に駆逐艦級が3体、軽巡級が2体、そして重巡級が1体の集団Aだとすると、単にAと呼ぶか、あるいはCA1-CL2-DD3というように名付けられ、艦娘たちは作戦中にそう認識することになる。

「……とにかく出撃だね。提督、編成と作戦の指示をお願い。」
「わかった。敵のチームそれぞれに対応するためにこちらも2編成で行こうと思う。那珂、問題ないかな?」
「え……なんであたしに? うん、別に問題ないと思うよ。」
 那珂が頷くと提督も頷き返し、しばらく視線を辺りに動かして思案した後口を再び開いた。


「1艦隊4人編成にしよう。Bチームに対する艦隊には那珂、君が旗艦になってくれ。それからAチームに対する艦隊は……五十鈴にお願いしたい。」
「ちょっと待って提督!そっちは川内ちゃんを旗艦にしてもらいたい!」
 提督が指示を出すも、突然の那珂の提案に提督はもちろんのこと他の艦娘たちも驚きの声をあげる。特に驚愕の表情を見せて抗議し始めたのはむろん言及された川内だ。
「ちょ!ちょ!ちょっと!!あたしこれが初陣なんですよ!?いきなり旗艦なんてヤバイですって!!ってか無理無理!」
 どもりまくって那珂に詰め寄る。しかし那珂はそれを全く意に介さない。
「大丈夫。その代わり副旗艦?を五十鈴ちゃんに勤めてもらうから。まぁ生徒会長と副会長みたいなもの?」
「いや……そんなぁ……。」
 那珂の例えを交えたさらなる提案に川内は戸惑い、言い返す気力を失いつつあった。そんな狼狽えていた川内をフォローしたのは提督だった。提督の反論はかなり真面目な口調だ。

「那珂。今回は緊急の出撃だ。川内の成績は確かに俺も評価したいけれど、訓練を終えたばかりの彼女では荷が重すぎると思う。決してダメって言ってるわけじゃなくて、ヘタすると国の最終防衛ラインに関わる問題に発展しかねない事態だ。俺としては経験を積んだ那珂と五十鈴にそれぞれを任せてうちの評価を無難にしっかり固めたいんだ。」
 提督の言い分は十分理解できたが、那珂には不満があった。
「こんなときだからこそあたしは二人には率先して前に出て本当の空気をしっかり感じ取って欲しいの。川内ちゃんには五十鈴ちゃんをつけるから、いいでしょ?」
 提督は眉間に皺を寄せ目をつぶって悩む。そして那珂に向かって言い返した。
「だったら五十鈴が旗艦で川内がその副旗艦とやらでもいいだろ?君の言いたいことはわかるけど、俺としてはこれが妥協点だ。あまり時間もないからこれで頼むよ。」
「でも!! ……わかった。それでいい。」
 口ぶりでは納得を見せるが、その表情は素直に今の気持ちが表れていて、誰が見ても不満タラタラだった。

 話題になってしまった川内はほっと胸をなでおろし、隣にいた神通と五十鈴にため息を漏らす。
「あ~よかった。あたしこんな事態でいきなり旗艦なんて大事な役割、嫌ですよ。それにしてもなんで那珂さんはあたしを……。」
「教育したいってことだと思うけれど……あの娘にしてはかなり意固地な感じがしたわね。」
 川内が小声で誰へともなしに質問する。さすがにこの時の那珂の気持ちが理解しきれなかった五十鈴と神通は適当な相槌と言葉を与えることしかできなかった。


--

「それじゃあ那珂と五十鈴は連れて行きたいメンバーを急いで決めてくれ。」
「はい。」
「それはいいんだけどさ、今ここにいる8人全員出ちゃったら、連絡役の人いなくなっちゃうよね?さすがに秘書艦の五月雨ちゃんは残したほうがいいと思うんだけど。」
「それは……そうだな。えぇとどうするか……?」
 悩む提督に数歩近寄りながら提案したのは明石だ。
「あのー、よければ私が秘書艦勤めましょうか?那珂ちゃんたちが出撃しちゃうと私ぶっちゃけやることないんで。なんだったら2階の機械室こもってあそこの機器使って直接連絡役勤めますよ?」
「うーんそうだな。緊急事態だし、あとは黒崎さんにも来てもらおう。」
 提督は賛同の意を示すも、完全に承諾できる心境ではなかった。二人とも酔いが完全に抜けきってない、まだ酔っぱらい状態だったからだ。普通の人を加えたかった提督はもう一人の大人である妙高こと黒崎妙子を呼び出すことにした。
 那珂はそれを見て納得できたので、その場にいた艦娘たちと向き合ってチーム分けを話し合い始めた。

 あまり時間をかけられないことがわかっていたため、メンバーは日中に訓練で分かれていたメンバーにすることにした。

第1艦隊、対A:五十鈴、川内、村雨、夕立
第2艦隊、対B:那珂、神通、五月雨、不知火


「提督、チーム分けできたよ。」
 那珂と五十鈴は自分たちが選んだ艦娘らを自分たちの後ろに並べて知らせた。提督はそれを見て頷く。そして深海棲艦のさらなる情報を二組の艦隊に伝えはじめた。
「それじゃあ今の状況と君たちの出撃の仕方だ。Aはかなり素早い個体で構成されているらしい。うちの鎮守府の海岸線近くにまで来られるとまずい。途中にはいくつか製油所や火力発電所もある。とりあえずこっちも海岸線に沿って南下してくれ。隣の鎮守府からは旗艦軽巡球磨率いる3人編成の艦隊が来ているそうだ。現場の判断は五十鈴に任せるから、先に出撃してくれ。球磨の通信コードは○○○○だそうだ。」
「はい。了解よ。」
「わっかりましたー!」
「はぁい。」
「わかったっぽ~い!」

「それじゃあ私は工廠に行って艤装の運び出しをしておきますね。」
 そう言って明石は駆け足で執務室を出て行った。それを見届けてから提督は話し続ける。

「Bは比較的ゆっくりな速度みたいだ。だがかなりフラフラしてるらしいから、荒川だけじゃなくて東京港の方にも行く可能性がある。あっちに行かれると地形が入り組んでるからとてもじゃないが探しきれなくなる。えーっと、ふむふむ。幸いにも今は東京湾のど真ん中まで来てクルクル回ってるとのことだ。隣の鎮守府からは天龍と龍田率いる計4人編成の艦隊が来ているらしい。」
 提督はもらった情報の内容を途中で見て再度確認しつつ説明と想定を続ける。
「おっ!?天龍ちゃん来るんだ!なっつかしいなぁ~。なんだかんだ忙しかったから会えなかったなぁ。話したいなぁ~。」
 那珂はすでに見知った名を聞いて気持ちと想いを高ぶらせた。
「天龍が使う通信のコードは○○○○だそうだ。出撃したらすぐに連絡取れると思うから現場での話し合いは任せるよ。」
 提督がそう言うと、那珂は背後を振り返る。そこには少女たちの思い思いの表情があった。それに対してキリッとした視線と声を送る。
「それじゃあいこっかみんな。」
「「「はい。」」」
 那珂の合図に神通・五月雨・不知火は眠い雰囲気を吹き飛ばすべくなるべく声を張って返事をした。

 五十鈴たちにわずかに遅れて出て行く那珂たち。出ていこうとする4人に提督はその背中越しに声をかけて鼓舞した。
「みんな、暁の水平線に勝利を。」
 一瞬立ち止まる那珂だが特に返事はせず、再び足を動かし始めて執務室を後にした。4人の背中を見送った提督は一人、8人分の心配を胸に秘めて執務室で待つことになった。



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 着替えを急いで済ませた那珂たちは工廠に行き、すでに艤装の準備を始めていた明石の元に集まった。技師たちがいないため那珂たち自身も手伝って自分たちの艤装を運び出す。それなりに重く大きい艤装の者は先にコアユニットを装備して同調開始して装備を手伝った。


「それじゃあ先に私たちが行くわね。」
「うん。お先にどーぞ。」
 那珂は声を掛け合って先に行く五十鈴達を見送った。今回は深夜であることと緊急の出動のため、さすがの提督も普段のスピーカー越しの声掛けは省略した。ただ、提督の意を察して明石はその場でいつもの言葉をかけて普段代わりとした。

「それでは、軽巡洋艦五十鈴、軽巡洋艦川内、駆逐艦村雨、駆逐艦夕立。暁の水平線に、勝利を。」
「「「「勝利を!」」」」


 4人が出て行った後、続いて那珂たちも水路に足を付けて浮かびそして後ろを振り向いて明石の顔を見た。
「それでは次は那珂ちゃんたちですね。」
「はい。3人は先に出ていいよ。」
 そう言うと神通ら3人が水路へと駆けていく。
 那珂は3人が発進するのを待つ間、ふと明石に意識を向ける。明石は那珂の無言の問いかけに気づいたのか話しかけてきた。
「ねぇ那珂ちゃん。さっきのことですけど。」
「明石さん! 今は……いいですから。」
 そう言って再び明石のほうを振り向くと、那珂の目は泣きそうな雰囲気を浮かべていた。

「那珂ちゃん、あの時は飲みの席でしたから茶化すようなことになってゴメンね。気持ちが本物にできるよう、応援してますから。私から言ってあげられるのはそれだけです。」
「それって、嘘ですよね? だって明石さんも……好きなんでしょ? そうじゃなきゃ仕事上の付き合いっていってもあんなおっさんと夜にあんな寄り添って飲めるわけないじゃないですか。それはきっと提督だってそのはず。恋愛初心者から……見たって、そのくらいはわかりますし本当だと思ってます。」
「那珂ちゃん……。」
「だから、わかってますから。明石さんの気持ちも、にし……提督の気持ちも。あたしは艦娘として、あの人の部下として全力を尽くすだけですから。」
 明石に余計な言葉を言わせまいと那珂は静かに、しかしながらイントネーションの端々に明らかな敵対の刃を付けてまくし立てた。明石も負けじと言い返そうとする。
「那珂ちゃん、人の話を最後まで聞きまsh
「もう気にしないでください!同調率が下がって海に落ちて死んだら化けて出てやるんだから!!」
 那珂は声を荒げて一方的に会話を打ち切って水路に駆け出す。走る最中に同調開始し、乱暴に水路に降り立つとともに急発進して水路を進んでいった。

川内の初陣

 那珂たちとは別の方向の出撃現場のため、川内と五十鈴たちは鎮守府Aのある川の河口で立ち止まって那珂たちを待つことなく、そのまま南東に移動し始めていた。海岸線に沿って移動すると、4人の目には千葉ポートタワーが飛び込んできた。

「おー、ポートタワーだぁ~。あたし一度も行ったこと無いんですよねぇ。一度も行ったことないのに海の上から見てるのってなんだか不思議な感じ~。」
「あたしもあたしも!行ったことない!」
 川内に続いて夕立が両手を上げて軽くジャンプしながら口にする。
「ホラ、二人ともよそ見しないで行くわよ。」
「「はーい。」」
 くだけた返事をする川内と夕立。
 そんな二人とは対照的に、村雨はやや不安げな声色でもって五十鈴に尋ねる。
「あのぉ、五十鈴さん。目的の深海棲艦って今どのあたりにいるんでしょう?」
 五十鈴はコクリと頷いて自身のスマートウォッチを確認する。
「ええと。ここから南南西に約12kmのあたりね。海岸線にそって北北東に進んでるみたい。このまま私たちが進めばどこかで出くわすはずよ。」
「いざ実戦で夜戦となると、感じが違いますし不安ですねぇ……。」
 これで2回めではあるが、不安を隠し切れない村雨は真面目に今の心境を五十鈴に打ち明けた。

「そうね。前の合同任務の時は那珂がライト持って立ちまわっていたし、私、的確に照らして皆をサポートできるか実は不安なの。ねぇ村雨。一緒にあの時夜戦を経験した者同士、私のサポートをお願いね?」
「はい。それはいいんですけどぉ、那珂さんが言ってたように川内さんは……いいんでしょうか?」
「あの娘は今日が初戦よ? 今は緊急事態だから川内の教育を加味している場合じゃないわ。正直、私は提督の当初の意見に全面的に賛成だったのよ。だから那珂には悪いけど、こちらは私が役割を練り直すわ。」
「はい。私もそのほうがいいと思いますぅ。」

 村雨の同意を得た五十鈴は一旦全員を止め、自身の考えを伝えた。
「陣形と動き方を決めるわ。実戦の夜戦を経験している私と村雨が先頭に、最後尾を夕立に任せるわ。川内は真ん中にいて。」
「ん?一体どういう目的なんですか?あたしが五十鈴さんの隣じゃなくてもいいんですか?」
 当然のごとく自身の立ち位置を聞く川内。五十鈴はそれに対して冷静に答える。
「那珂はああ言ったけど、私はこんな緊急時に初めての川内を前に出すのは反対。川内と神通の本当の初陣はもっと私たちが守ってあげられるシチュエーションがよかったと思うの。今回は敵が少ないとはいえ、隣の鎮守府が逃してしまうような個体を相手にしたら、経験者である私や村雨・夕立だって自分を守るのに一杯一杯になってしまうかもしれない。これは決してあなたたちの実力を疑っているわけではないことはわかってほしいわ。」
 五十鈴の思いの打ち明けに真っ先に頷いたのは村雨だ。続いて夕立も頷く。一番最後に残ったのは川内だが首を縦にも横にも振らない。そんな返事を示さない様子を見て五十鈴は問いかけた。
「川内?」
「えぇと、はい。ぶっちゃけ、あたしも五十鈴さんに賛成って思ってます。ゲームだってそうですもん。初期装備で町の外に出た主人公が戦うのは、決まって弱い敵です。そこから順々に強い敵と戦っていって強くなる。これRPGやシミュレーションゲーの基本っすよ。今回みたいなイレギュラーなバトルは……まぁ好きっちゃ好きですけど、それはあくまでゲームの話であって。現実にはあたしなわけだし、マジで死にたくないから五十鈴さんたちに頼っちゃいます。いいですかね?」
 川内は五十鈴の案に否定していたわけではなかった。彼女なりの捉え方でもって考えを整理していただけだった。川内もまた、那珂とは違って初陣を無難に行きたい質なのだ。そして川内は頼れる人がいるならば依存したうえで自由に振る舞いたかった。そのため今こうして経験者3人と自分という状況はまさにもってこいの状況なのだ。

 川内の意志を確認した五十鈴は表には出さなかったが心の中でホッと安堵の息をつく。那珂と似ているところがあると思っていた川内は実のところ那珂とは違う。もしかしたら、自分が付いていれば那珂ではなく自分が影響を与えることができるかもしれない。
 那珂の勢力を奪いたいわけではないが、あの常識外れの発想力と実力を持つ那珂だけが目立つと、集団戦闘をする艦娘の和が乱れるかもしれないことを五十鈴は危惧していた。今はまだいい。那珂に引っ張られる形で全員が成長しあえる。しかし本来するべき集団行動と戦闘を確実にできるようにどこかあるタイミングで調整しないといけない。
 つまり一人の英雄よりも、共に補完し合いながら戦える多くの戦士が必要、五十鈴はそう考えていた。思考の発想と道筋は違えど、帰結する考えは那珂も同じだが、当然互いにそれを知る良しもない。


 陣形とおおまかな行動パターンを決めた五十鈴は合図をして再び動き出した。川内は3人に囲まれてやや妙な優越感に浸っていた。移動しながら上半身を少しそらして頭をフラフラさせて浸っていると、後ろにいた夕立にツッコまれた。
「ねぇねぇ川内さん。どーしたの?なんか楽しいっぽい?」
「え!?コホンコホン!! いーじゃん一応初陣なんだからさ~ワクワクしないほうが嘘でしょ!?夕立ちゃんは黙ってあたしを守ってくれればいいんだよぉ~!」
「ぶー!なーんか川内さん生意気っぽい。わざと後ろから撃っちゃおっかな~?」
「ちょ!?そういうのは心臓に悪いからやめてって!」
 黙って浸りたかったのに茶地を入れられる形になった川内はわざとらしく咳をしてごまかす。するとなにかひっかかるものがあったのか夕立は冗談を投げかけて川内を焦らせていた。


--

 時々スマートウォッチの画面を見る五十鈴。Aの2体は最初に確認したときから4kmほど距離を詰めていた。五十鈴たちも南下して進んでいるため、距離とその差を考えると、大体似た速度で移動していると捉えていた。
 五十鈴は先頭を進みながらふと口にする。
「このくらいの距離だとすると……地理的にはあの石油会社の製油所あたりかしら? やつらが製油所の何か施設を狙うとは想像できないけれど、タンカーなら狙われる可能性がありそう。ただ進むだけじゃいけないわね……どうしたら……。」
 ブツブツと呟くように言葉を続けているため、川内をはじめ駆逐艦の二人もとくに反応せず五十鈴が思案するに任せていた。
 海岸線に沿って進む五十鈴たち。養老川の河口付近を通り過ぎたあたりで、隣の鎮守府の艦隊旗艦球磨から通信が入った。

「こちら神奈川第一鎮守府、第2艦隊旗艦の球磨だクマ。応答願いますクマ。」
 五十鈴は一瞬呆けた。
 クマ?何回自分の艦娘名を言えばいいんだ相手は?

 相手の言い方を気にしないことにして応答することにした。
「こちら鎮守府Aの第1艦隊、旗艦の五十鈴です。現在養老川の河口を越えました。そちらの状況を教えて下さい。」

「現在、F石油の敷地の前を通過中。袖ヶ浦製油所の手前クマ。ホントならもっと手前の企業の港に誘い込むつもりだったけど失敗したクマ。そのまま東京湾を北上されるとものすごくまずいクマ。至急来て挟み撃ちにして助けて欲しいクマ!」
「わかりました。どこか別の港か水路に追い込みましょう。そのまま上手く追いかけられますか?」
「やってみるクマ!」

 そこで一旦通信を終了し、五十鈴は進みながら頭と首だけ少し後ろを向きながら3人に伝えた。

「神奈川第一鎮守府のやつらはまたしくじったみたいよ。この海岸線にある企業の港に追い込もうとして逃してただいま北上中とのことよ。」
「え?え?あっちの鎮守府の艦娘って強いんじゃないんですか?一体……。」
 事情をまったく知らない川内が真っ先に質問をする。それに対して五十鈴の代わりに答えたのは村雨と夕立だ。夕立に際してはかなり皮肉を込めて言い放つ。
「うちよりも人多くて強い人いるみたいなんですけど……私としては正直な印象としてはぁ~……。」
「ぶっちゃけ人多いだけで遊んでんじゃないの?」
「二人にしてはなんかきっつい言い方だなぁ~。そんなに!?」
 川内は目をパチクリさせて中学生二人の言い振りに驚き呆れる。
「人多いんだしいろんな人がいるってことだと思うわ。私たちは決して慢心せず調子に乗らないで、冷静沈着に動いて少数でも確実にこなしていきましょ。」
 生真面目な五十鈴らしい掛け声に3人は「はい!」と普段より声を張って返事をして頷いた。

 深夜のため月明かりと工場などの各々の非常灯、そしてスマートウォッチあるいは艤装のLED発光しかない。それらを頼りにしても4人は互いの顔と表情をはっきりとは見られないのだ。ちなみに探照灯はまだ点灯させていない。
 それぞれの声掛けや雑談が一区切りすると、4人が進む海上は近くの工場の機械音が鈍く響き渡る・自身らが水をかき分ける波の音しかしないほぼ静寂の世界となっていた。

「少し速度あげましょう。」
 五十鈴がそう提案すると川内たち3人は再び声を張って返事をした。それを受けて先頭の五十鈴は一気にスピードを出す。今までの進み方の2倍近い。それに遅れまいと村雨・川内・夕立の3人が続き、隣の鎮守府の艦隊と深海棲艦が待つであろう海域へと急いだ。


 スピードを上げたおかげで10分もしないうちに4人は姉崎火力発電所の手前までたどり着いた。五十鈴がスマートウォッチで深海棲艦の距離と方角を確認すると、五十鈴たちと深海棲艦の間はわずか3kmほどまで縮んでいた。スピードからして、ほぼ目と鼻の先の感覚である。
 いよいよ戦闘開始が近い。
 五十鈴は3人に再び声をかけた。今度は今までのような雑談めいた声掛けではない。
「あと2.58km。その先に深海棲艦、AのCL1-DD1がいるわ。村雨はバリア代わりの弾幕のため機銃用意、夕立は連装砲を構えて準備、川内は……あなた左右に何の武装を取り付けた?」
「えっと、右腕は単装砲2基と1つ飛ばして機銃、左腕は連装砲1基に一つ飛ばして機銃2基です。」
「そう。あなたは自由な戦い方ができる艤装のタイプだから、敵が姿を見せてもすぐ撃てるように両腕とも構えてなさい。」
「りょーかいっす!」


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 五十鈴の早口の指示を聞き取り、川内は湧き上がる興奮を抑えるのに必死になっていた。
 実際には恐怖を感じて尻込みするかもしれないが、初陣は失敗がつきものだ。経験者が3人もいるのだから基本的な細かい立ち回りは任せて、隙間隙間で思い切り撃ちこんでやろう。
 川内は心の準備ができ、胸のあたりがカァっと熱くなるのを感じる。

 心臓の鼓動が早くなってくる気がした。川内は自身の胸に手を当てて抑える。2週間ほど前までただの一般人だった自分・普通のちょっとゲームやアニメオタクだった女子高生たる自分が、海上を滑るように進みそして今現実にいる人間の脅威と戦おうとしている。
 ゲームのような展開が待っていると以前、同級生で今となっては学校で唯一会話をしたいと思える男子生徒、三戸から聞いたのが始まりだった。興奮しないわけがない。恐怖を感じないわけがない。
 まもなく、普通のゲームでもVRでもない本当の戦いに飛び込むことになる。

川内の初戦

川内の初戦

 喉が異様に乾いてきた。川内はゴクリと唾を飲み込み、旗艦五十鈴の指示を移動しながら待つ。
 心なしか前方、五十鈴と村雨の隙間から見えるはるか先の海上いや海中に、黒みがかった緑に光るものが見えてきた気がした。錯覚か!?興奮しすぎだろ自分!とセルフツッコミを入れる程度にはまだ余裕がある。
 とにかく川内は見たままを前方にいた五十鈴に伝えてみた。

「なんかドキドキしてきましたよ~。」
「そう。」
 感情をこめずに一言で返す五十鈴。川内はその反応にめげずに話しかけ続ける。
「ところで深海棲艦ってどういうふうに見えるんですか?緑っぽく見えるもんなんですか?」

「は?何言ってるの?」
「こんな夜だったらライトを当てないとホンットに見えませんよぉ~。」
 五十鈴と村雨のツッコミに加えて後ろからもツッコミが来た。
「目が光ってるやつはそれでわかるっぽい?あたしも今日が初めての夜戦だからドキドキ~。」

 夕立のツッコミと心の内を聞いて川内は軽く振り向きながら夕立に対して確認する。
「それじゃさ夕立ちゃん!あそこに2つ黒みがかった緑に光るっていうか……なんだろなぁとにかく緑っぽいやつ!あれ見える?」
「え~? ……うん。見えるよ。ぼんやりだけど。あれなぁに?」
 川内に促されて夕立が目を凝らすと、同様に見えたようだった。
「あ~じゃあやっぱあれが深海棲艦なんだ?」
 夕立も度合いが違えどどうやら川内が見えていたものが見えることがわかった。それを受けて川内はますます興奮と緊張が身体を包み込むのを感じる。が、残りの二人の反応は違う。
「な、何言ってるのよ?どこに緑のが見えるの!?」
「わ、私もそんなの見えませんよぉ~?」
 先頭を進む五十鈴と村雨は辺りをキョロキョロするが、川内が言及したその存在が見えていない。五十鈴は仕方なく探照灯を前方に照射する。
「ホラ!前方のあそこ!1時の方向にサーッとまっすぐ照らしてもらえますか?」

 五十鈴が手前から1時の方向にまっすぐ角度を動かして前方を照らしたその時、実際の距離にして500m弱先の海上でキラリと光を反射する何かを発見した。海面やただの魚の反射ではないことはすぐにわかった。すぐさま五十鈴は自身のスマートウォッチで見ていたレーダーを確認すると、件の2体は10~11時の方向にまだ2.4kmを指し示している。
 まるで方向が違う。
 焦った五十鈴は一旦徐行の後停止を指示し、川内と夕立に別の指示を与えた。
「みんな一旦止まって。それから川内と夕立は前に来て私達と同じ列に並んで。その緑に光るやつは……どう見える?」
 川内は指示通りに前に出て五十鈴の隣に立った。夕立は五十鈴の左隣りに立っている村雨の隣に並ぶ。
「どうって……まだ1時の方向にいますよ。2体。ねぇ夕立ちゃん?」
「うん。でも1体黒っぽい緑っぽさが薄いっぽい。すっごく見づらい。もう1体はわりと見えるっぽい。あれぇ、ますみんは見えないの~?」
「見えないわよぉ!あなたどんだけ視力パワーアップしてるのよ!」
「アハ~!あたしパワーアップしてたっぽい!それも川内さんと一緒!うれしー!」
「うんうん!」川内は夕立を顔を見合わせて喜びを表した。

 二人の言葉を受けて五十鈴は数秒推測し、それを口にした。
「ソナーやレーダーに引っかからないやつも来てるってことかも。それになんで川内と夕立がはっきりではないにせよ裸眼で500m近い位置のを確認できるのよ……。」
「もしかして、二人の艤装の効果なんじゃないですかぁ?」
 村雨の想像に五十鈴はコクリと頷いた。同じことを想像していたために五十鈴が頷く仕草は早かった。

「幸運と不運が一緒に来た感じね……。ともあれレーダーに引っかからないとなるとかなりまずいわね。隣の鎮守府の人たちも気づいていないかもしれないわ。伝えておきましょう。」
 五十鈴はすぐさま隣の鎮守府の旗艦球磨に伝える。

「ねぇ球磨さん。応答願います。」
 五十鈴は右隣りでプフッっという吹き出す音を聞いたが気にしないでおいた。

「はい。こちら球磨クマ。」
 五十鈴も吹き出しかけたが舌を軽く噛んで我慢し、相手に事の次第を伝えた。
「……というわけです。どうやらレーダーやソナーに引っかからないやつらのほうが先に進んでいて厄介そうです。」
「……了解したクマ。というかあたしたちの方が挟み撃ちなんて困るクマ!こっちはもうすぐ河口に誘い込めそうだし3人でなんとかするから、そっちはそっちで発見した以上はきちんと片付けてほしいクマ!」
「了解です。あの……こちらの艦娘に、裸眼で深海棲艦を検知できる視力を持つ者がいます。そちらに一人貸し出しましょうか?」
「ホントかクマ?それなら助かるクマ!なんでもいいから寄越してくれクマ!」
「了解致しました。」

 球磨との通信を終えた五十鈴は事の次第を川内たちに話した。そして球磨の艦隊に向かう者を決めることにした。
「夕立、球磨さんのいる艦隊に向かってもらえるかしら?」
「え~~。あたしぃ?うーえー。」
 五十鈴が指示するも夕立の反応は鈍い。それを察した村雨が五十鈴に言った。
「あの~、ゆうはこう見えて人見知りするほうなんで、知らない球磨、プフッ……別の鎮守府の知らない艦娘の人たちに混ざるのはちょっとどうかと。」
「……今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? 暗い中でも深海棲艦を確認できるのはあんたと川内の二人だけなのよ?」
 渋る夕立とそれを友人としてかばう村雨の様子を見た川内が代わりにと名乗り出る。
「だったらあたし行きますy
「あんたはこれが初戦でしょうが! 駆け出しのペーペーを貸し出したとなったら何言われるかわからないわ。ここは経験者の夕立に行ってもらいたいわ。お願い、頼りにしたいんだからね?」
 五十鈴の指摘は尤もなため、川内はすぐに萎縮して黙る。そして考えを変える気はサラサラないため、五十鈴は食い下がってどうにか夕立を説得する。

“頼り”

 その言葉を聞いた夕立は隣にいた村雨が暗闇の中でもひと目でわかるくらいに喜びとやる気を燃え上がらせて身体をウズウズさせ始めた。

「あたしやる! あたしがやらないとダメっぽい?頼られてるならやってあげないと!!」
「ちょ、ゆう?あなた本当にいいの?」
 心配を口にする村雨。しかしやる気スイッチが入った夕立の耳には友人の心配は右から左へと素通りするだけだった。

「それじゃあお願いね。隣の鎮守府の人たちは……の辺りに来ているらしいわ。」
「りょーかいっぽい!」
 五十鈴が最終の指示を与えると夕立は2~3歩海面を歩いて3人の前に出て、右手を額に添えて敬礼のポーズをわざとらしくしてその意を示す。
 五十鈴たち3人は身体を右に動かして1時の方向へ、夕立は身体を左に傾けて9~10時の方向目指して進んでいくことになった。新手の深海棲艦2体とAのCL1-DD1は距離はもちろんだが、方向が全く異なるため、3人と1人の向かう先も異なる。



--

 艤装のLED発光でほのかに照らされていた夕立が暗闇の中に消えて見なくなったことを確認すると、五十鈴はすぐに指示を出した。
「新手は少しずつ東京寄りに移動しているみたいだから、なるべく海岸線寄りに追い込むわ。村雨、右側に来て。」
「はい。」
 指示を受けて村雨は五十鈴と川内の前方を弧を描くように回りこんで移動する。村雨が移動し終わるのを待たずに指示の続きを出した。
「川内にはライトを渡しておくわ。私が使うよりも、見えているあなたが持って的確に照らしてちょうだい。」
「了解でっす!」
「村雨は川内から敵の位置を聞いたら東京側に回りこむように移動して。ある程度距離を置いて、なるべく敵に近い海中に向けて機銃で撃って弾幕を張って。」
「はぁい。わかりましたぁ。」
「川内は私と村雨の間にいるようにして。逐一ライトで敵の位置を知らせて。あとは私と村雨でタイミングを見計らって攻撃し続けるわ。」

 五十鈴から指示を聞き終わった川内と村雨は早速配置に付くべく五十鈴から離れてそれぞれ向かっていった。


--

 川内は先に行った村雨の後ろ姿を見届けた後動き出した。村雨の背中の艤装のLED発光でかろうじてわかるが、すぐにその発光源の周囲数cmしか彼女の姿を確認できなくなる。
 一方で川内は深海棲艦と思われる黒緑に見える物体に視線を向けるとその大きさが少し大きくなってきたように見えた。近づいている証拠だ。
 ゲームとは違って距離感が掴めない。ライトを当てようにもどのくらいの角度で照射すれば五十鈴たちの砲撃をヒットさせられるくらい的確に照射できるかがわからない。やはりそこは経験を積むしかないのか。川内は頭を悩ます。
 こんなことならやはり初陣は日中の視界が良好なシチュエーションがよかった。悔やんでいても仕方ないので川内は探照灯を照射する前に正直に告白した。
「ねぇ~五十鈴さん!敵の2体はまだ結構先に見えるんですけどー、ライトはどのくらいの位置から当てればいいですかぁ~!?」

 川内から問いかけられて五十鈴はわずかに思案した後、指示を出した。
「そのライトは1km先まで届くから、うまく測って少しずつ当ててみて。」
「えー?うーん……とりあえずやってみます。」
 今いち要領を得ない五十鈴の回答に眉をひそめる。しかしブチブチ悩むよりもとにかく身体を動かして試してみる。自身の信条を胸に川内はとにかく行動を起こすことにした。

「そういえば深海棲艦って光当てるとどうなるんだろ?てか魚なの?それとも海に放たれた機械の化物とかなの?」
 独り言をブツブツ言いながら抱いた疑問を自問自答する川内。
 勉強家な那珂や五十鈴と違って川内はとりあえず動いた結果悩んで後から他人に聞いて解決する質だった。

パァ……


 川内は10度の角度で探照灯を照射し、徐々に角度を上げていく。川内以外の二人は深海棲艦の位置がわからないため、川内の動きを見て動くしかなく、その場に留まっている。川内は黒緑に見える物体をもっと大きく捉えるために、照射しながら陸上を普通に歩く速度で海上を進む。
 しばらく照射しながら進んでいるある時、海上で再び不自然にキラリと光を反射する存在を捉えた。

「あれだ!あそこです!!黒緑のもまさにあそこにあります!」
 川内の宣言で五十鈴と村雨は動き出した。


 村雨は光が当てられてる海面が意外と近かったため、一旦南西に向けて弧を描くように移動して距離を開け、再びその存在と向かい合った。そして指示通り、東京寄りに行かせないために半径約50mの前方に向けて機銃掃射した。


ガガガガガガガ


バシャバシャバシャバシャ


 その存在に当てるために撃ったわけではないので当然機銃から放たれたエネルギー弾は海面に当って激しく波しぶきを立てる。超高速で放たれる質量の小さい機銃のエネルギー弾は海中数十cmまで沈み、海中を浅くかき乱す。
 臆病な魚であれば乱れるポイントを嫌い方向転換して逃げる。それはどうやらその存在も同様であった。
 村雨の弾幕、そして川内の探照灯の照射から逃げるその存在は、方向転換し終わった後に海上から跳ねてその姿を晒した。
 飛び跳ねたのに気づいた川内が黒緑のそれを追いかけるために探照灯の光を向けて再び照射すると、その姿が明らかになった。

 それは、頭の先つまり上顎の先が異様に鋭く肥大化し、上顎の左右両端から不自然に管が2本伸びた、タチウオ型の深海棲艦だった。そしてそれは3mはあろうかという、本来存在するタチウオからはあり得ないほどの体長を持つ、文字通り化物と誰もが判断できる存在だった。

「うわぁ!! でっか!!?気持ち悪ッ!ウオェップ……?」
 川内は生理的に受け付けぬ嫌悪感を抱いたが、それは程なくしてすぐに収まった。その際、清らかな流水が喉から下まで体内を一瞬で通り抜けて染み渡るような爽快感を覚えた。
 次の瞬間、目の前に飛び込んでこようとしたタチウオ型を見ても先ほど感じた腹の底から湧き上がる吐き気はすっかり収まっていた。

「川内!そのまま宙を照らしてなさい!」
 五十鈴の声が聴こえると同時に、川内の左、7時の方向と右、1~2時の方向から砲撃によるこぶし大のエネルギー弾がタチウオ型を挟み込む形で命中した。


ズガアァン!
ドゴッ!!

バッシャアァーン!!

「急いでそこから後退しなさい川内!」
「川内さぁん!そこから離れてくださぁーい!」
 五十鈴と村雨の両方から次の行動のアドバイスを受けた川内だがそれを実行できずに、驚きで膠着していた身体をどうにか右に飛び退けタチウオ型をギリギリで避けるのが精一杯だった。
 深海棲艦化しているとはいえ、やはりタチウオの生態の特徴が強いため表面は弱く、五十鈴と村雨のW砲撃を食らったタチウオ型は2箇所に大きく穴を開け、すでに絶命していた。
 川内とタチウオ型が重なるような位置になってしまっているため、狙えなくなった村雨はもう一匹がいると思われる方向に向けて機銃掃射をして弾幕を貼ることにした。


ガガガガガガガ


「ごめん村雨ちゃん!もう一匹はそこにはいない!……五十鈴さんの真後ろ横切った!!」
「えっ!?」

 五十鈴は仰天して海面をジャンプして強引に方向転換しライフルパーツを構える。が、当然見えていないためにどうしていいかわからない。
「ちょっと川内!見つけたならちゃんと照らしなさいよ!」
「ゴメンなさい!」

 とっさのことに判断が追いつかずに目視だけでもう一匹を確認するに留めた川内は、探照灯を持っていない手で後頭部をポリポリと掻いて照れ隠しした。そしてすぐに探照灯でもう一匹を照らし始める。

 その光は、五十鈴から見て3時の方向、実際には北の方角に、わずか10mしか離れていなかった。
 泳ぎが遅いとされるタチウオだが、深海棲艦化したタチウオ型は巨大化に比例した速度で迫ってきていた。
 一角のように鋭く伸びた上顎の一部が五十鈴に真っ先に襲いかかる。


ガシッ!!


 五十鈴はすんでのところで避けきったつもりだったが、自身の背面にある艤装の大きさを考慮しておらず、タチウオ型の鋭い一撃によって艤装の表面をかすって削り取られていた。

「きゃっ!!」

「「五十鈴さん!?」」

 五十鈴はかすった衝撃の反動で前方へ弾き飛ばされるも、足元の安定感が強いため転ばずに済んだ。そしてそのまますぐに滑って前進するほどには瞬時に回復できていた。
「だ、大丈夫。かすっただけよ。」
 川内の右隣りに立つためにスゥーッと移動して大きめに弧を描いて旋回した。


 ここまでの戦闘で3人は深海棲艦の姿形をわかってきていた。ただ魚に特段詳しいわけではない中高生の少女たちなので、当然タチウオ型の生態なぞわからない。今繰り広げている戦闘においては、元々探知されていない個体であるがゆえに詳しい生態・特徴を調べながら戦っている暇はない。ある程度の姿形と攻撃性と行動パターンが分かり次第、下手に直接攻撃を喰らわないうちに囲い込んで倒して早期決着を目指す。

 五十鈴は呼吸を整え、川内に指示を出した。
「あなたも照射してるだけじゃなくて実際に撃ちこんでいいわよ。」
「え?マジですか!?やっとかー。その指示待ってたんですよ~。」
 川内の軽い捉え方に一抹の不安を覚える五十鈴。だがそれよりも早期に片付けたい理由を作りだした。

 自身の艤装の衝撃から察するに、鋭く突き出た頭の先は物理攻撃であるがゆえに艤装のバリアなぞ役に立たない。
 艦娘の電磁バリアは一般的な銃撃の他、現在判明している深海棲艦のいくつかの飛び道具による攻撃を本人の1m前後までで可能な限り防げるようになっている。基本的に物理攻撃には効果がないが、有効範囲内に入ろうとした相手に電気ショックを与えてひるませるくらいには役に立つ。
 五十鈴は電磁バリアの受発信機を背中の艤装にもつけていたが、それがまったく検知せず相手をひるませもしなかった。おそらくはバリアが反応する速度ではないか、電磁バリアの性質を弾くか掻き消す特徴があるのだろう。
 そう考えた五十鈴は、先ほどの素早い突きの攻撃を再び思い出した。あれをまともに食らったら怪我をするどころではなく、即座に死ねるレベルだ。
 だからこそ、五十鈴は攻撃の手を増やすことにした。

「持ちながら平然と立ち回って攻撃できるのはあなたたち川内型の艤装しか無理だと思うの。それにあなたはあれが見えてるから。」
「はい。初陣で頼られるのってものすごく嬉しいですねぇ。あたし川内に選ばれて良かった気がする。」
「はいはい。まったく、なんかあなたが旗艦やったほうが確かに良かった気がするわね。」
 五十鈴は愚痴をこぼしながら、もしかして那珂はここまで見越して川内を旗艦に推していたのか?と想像する。しかし考えていてもその答えはこの場では出ないので早々に思考を切り替える。

 五十鈴は一人離れていた村雨を呼び寄せた。以後は索敵と攻撃の要である川内を守るように自身と二人で両脇に位置して立つ。川内を中心に、左右から残りの深海棲艦を囲い込みながら3人の猛攻で撃破する。
 五十鈴が再び出した指示と合図で、3人は目の前約100m先を悠々自適に泳ぎまわっているタチウオ型との距離を詰め始めた。

海岸沿いにて

 五十鈴たち3人から離れた夕立はなるべく海岸線、火力発電所の岸の側を進んで隣の鎮守府の球磨の艦隊に近づいていった。探照灯を持っているわけでもなく、周囲の僅かな光と月明かり等でしか見えていない。そして夕立は東京湾の千葉寄りの地理なぞ知ってるほど博識ではない、歳相応の知識しかない夕立が迷うことなく球磨たちの戦闘海域に向かうことができたのは、途中で通信して球磨から居場所と周囲の確認の仕方を教わったためであった。
 夕立が球磨たちがいる場所、つまり姉崎火力発電所と製油所の間の水路に無事にたどり着いて戦闘支援し始めた頃、川内たちはソナーやレーダーに引っかからない新手の深海棲艦2体との戦いに、半分勝利していた。


--

 探照灯を右手に持った川内は睨みつけるように深海棲艦を見続ける。緑色に薄黒く光る塊はよく見るとそれほど速くないように思えた。相手がどれほど動いても、川内はすかさず探照灯を照射する。

「へへ~ん!どれだけ動いたって逃さず当てられるんじゃないのこれ?今ですよ五十鈴さん、村雨ちゃん!」
「さっきの不意な突撃を喰らわないうちに速攻で片付けるわよ。……今よ!」

 タチウオ型が海面から顔を出したその時、

ドドゥ!
ドゥ!
ドドゥ!!

 五十鈴、川内、村雨の砲撃が3方向からタチウオ型に襲いかかる。


ドガァ!
ズガアァン!
バチィィーン!!

 3つの破裂音を発生させたタチウオ型はあっけなく死んだかに見えたが、死に際に一番目立つ川内に向けて、口の両端にあった管の先から何かを発射させてきた。


ズビュルルル!!!


「へ?」


ビチャビチャ!!バチッ!


 川内の目の前で電磁バリアが何かをかき消した音と光を発生させた。まばゆいばかりの火花が散ったので離れたところにいた五十鈴と村雨はすぐに気づいた。が、その効果が何なのかまでは気づけない。
 川内のバリアがかき消したと思われる何かのかき消せなかった分は、彼女の制服の脇腹から腰回りにかけてビッチリとふりかかる。
 それは、粘着性の液体だった。


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「うわうわうわ!?なにこれ!?服とか魚雷発射管が変な音立てて溶けてく!うわっっつい!!」
「どうしたの川内!?」
「だ、大丈夫ですかぁ!?」

 片手に持った探照灯の向きなぞ忘れて手足をその場でバタバタと慌ただしく振るって溶ける服と焼けつくような痛みを必死に解消しようとする。しかしそのような仕草で解消できるようなものではなかった。
 川内に近寄った五十鈴と村雨は悪臭にドン引きして顔を歪める。お互いの顔ははっきり見えないために互いがどれほどの苦々しい顔をしているのかわからない。

「く……臭い。あなたこれ……何を食らったのよ……?」
「うぇ~ん。川内さん臭すぎますぅ~。」
「ちょっと村雨ちゃん!? その言い方はちょっと色々誤解を招くって! 一番臭くて痛い思いしてるのあたしなんだからね!?」
「と、とりあえずその服とか艤装を溶かしてる液体を洗い流しなさいよ。一旦海に身体付けて液体を海水で洗い流すのよ。」
「あ、そ……そっか。でも海水って何か変な化学反応的なこと起こしませんかね?」
 川内の微妙に鋭いツッコミに五十鈴は考え直し言いよどむ。
「それもそうね。でも真水なんて今この場で調達なんてできないから試してみなさい。私はここまでの事をとりあえず提督に一報しておくわね。」

 そう言って五十鈴はスマートウォッチからの通信を鎮守府の本館に向けて発信し、提督にこれまでの状況を伝え始めた。五十鈴の話を聞いた提督はマイクとスピーカーごしにではあるが異様なテンションで川内の心配を気にしだす。
 五十鈴がそれをなだめて状況報告を続けていると、背後でピチャピチャと音がし、その次にバッシャーンと水の中に飛び込むような音が耳に飛び込んできた。プラス、自身に水しぶきが少しかかった。

「!?」
「ちょっと川内さぁん!?そんな飛び込み方無茶ですよぉーー!?」

「うっく、しみる~!いたたぁ~!あ、でも服が溶ける音が小さくなってきたかも? 魚雷発射管は、あ……」

 村雨が側で慌てふためいてキモを冷やしていると、川内はそんな他者の心配なぞ意に介さず冷静に服と魚雷発射管の確認をしていく。
「あっちゃ~。魚雷発射管もしかして電源入らない?ねー村雨ちゃーん!ちょっと見てくれない?」
「いや……そう言われてもですねぇ。私艤装の仕組みとか知らないんですけどぉ~。」
 川内は液体を食らった魚雷発射管の動作がおかしいことに気づき、近くにいた村雨に状態把握を誘いかける。村雨の心境は、一応川内のことは心配だが、そんな相談されても私わからないわよ、という何の根拠と期待があって自分に相談してるんだという理不尽な川内への愚痴っぷりだった。

 わざとらしく川内が探照灯で自身を照らしてくるのでしぶしぶ村雨は川内に触れる位置にまで近づく。まだ臭いので鼻をつまみながら、部位を照らす川内の操作のもと、少し怖いので小指で魚雷発射管の各部位をトントンと突いたり、自身の単装砲の砲塔を使って表面がかなり溶けている部位を突いて確認する。
 確認すると言っても機械のいろはなぞ専門分野外どころか艤装を脱げばただの女子中学生・女子高生な二人なので、パッと見て使えそうか・使えそうにないかに留まる。

「まぁ……いいんじゃないですかぁ、使えなくなってても。敵は倒しましたし。あとあっちの本来の2体は隣の球磨さんたちにお任せしちゃえば。」
「まぁ、そうだね。隣のクm、プフッ。村雨ちゃんに同意見だわ。」
 アハハと笑い合って会話を締めようとする川内と村雨。ひとまず戦いが終わったことで完全に安心している様子だった。その様子を通信を終えた五十鈴が見てピシャリと叱る。

「安心してないでよ二人とも。それよりも川内! 本当に敵が他にいないか一通り周りを見ておいて。これから球磨さんたちの支援に行くんだから、背後から狙われるなんて嫌よ。」
「はーい。」

 やる気なくだらっと間延びした返事をして川内は村雨からスゥっと離れて大きく円を書くように移動し、黒緑に光って見える何かが他にいないか見始めた。一応探照灯も使って視覚を念入りに確保する。
 やがて川内は五十鈴と村雨の間に戻ってきて報告を口にした。
「うん。もういないみたいです。じゃあさっさと行きましょうよ。」
「はいはい。あんた装備ボロボロなんだからあたしたちの後ろにいなさいっての。」
 すぐに気持ちを切り替えたのか、率先して南に向けて先頭を進んで行こうとする川内。五十鈴と村雨は苦笑しながらそれに続いた。


--


 先に夕立が向かった隣の鎮守府の第2艦隊、球磨の艦隊は、姉崎火力発電所と石油会社の袖ヶ浦製油所の間の水路上に構成された海上で戦っていた。
 球磨と2人の艦娘そして夕立合わせて4人はAのCL1-DD1の2体を取り囲むように、機銃掃射で敵の移動を制限し砲撃する方法でじわじわと追い詰めている。
 夕立はチマチマしたその行為を嫌ってさっさと魚雷を撃ちこんで倒そうと球磨に文句と要望を伝えたが、球磨は戦い慣れているのか夕立の希望を却下した。最長600m幅の海域とはいえ、狭い海域内で魚雷を撃とうものなら外した場合の被害が甚大になる。今この時は石油会社所有のタンカーが2隻停泊しているため、さらにその危険性が高い。
 口調は真面目なのかふざけているのか反応に困る球磨の言い分に、夕立は常識的にそうなのだとなんとなく理解はできたが納得がいかなかった。深海棲艦が見える自分が助けてやっているのになんで自分の好きなように戦わせてくれないのか。
 夕立は不満でイライラを爆発させそうだったが、知らない鎮守府の知らない艦娘たちと一緒なのでそれを上手く発散できない。それがまた苛立ちを産み、夕立は負の連鎖に陥りかけていた。


--

 川内たちは数分してようやく球磨たちのいる細い海域の入り口にたどりついた。その先、陸に近い場所からいくつかの砲撃音が響いてきたため3人はその場所を特定することができた。
 五十鈴は球磨に連絡を取る。
「おぉ、あんたたちも来たクマか。あんたたちはそのまま水路の入り口付近にいて敵が逃げないように壁代わりになっていてほしいクマ。
「了解です。私たちにはもう一人深海棲艦が見える者がいるのですが、追加で援護は必要ですか?」
「こっちは夕立が見つけてくれてるおかげで結構当てられてるからあと1体クマ。けどCL1、軽巡級は硬い甲羅を持つシャコ型みたいで、なかなか弱らないクマ。」
 球磨の口ぶりに五十鈴はたった1体とはいえ苦戦している様子が伺えた。やはり参戦すべきだろうと判断し、それを球磨に伝えた。ただし、制服と艤装が一部破損した川内はそのまま参戦して撃たせたらどう影響あるかわからないため、水路の入り口で待たせ、当初言われた壁代わりに援護させることにした。

「わかりました。まぁ今のあたしじゃ仕方ないですよねぇ。うん。こんな夜に無茶したくないし。それじゃああたしはこの辺りで何をすればいいんですか?」
「ここは直線距離で約600m近くある。悪いけど一人で行ったり来たりして監視しておいて。敵が近づいてきているのがわかったら撃っていいから。その時私たちはあなたが狙いやすいようになるべく直線上に追い立てるわ。」
「了解です。」

 川内から返事を聞くと五十鈴と村雨は海岸へ向かって水路を進んでいった。


 五十鈴たちの背中をぼーっと見ていた川内は、初めての戦場で一人ぼっちになってしまってしまった事実に急に寒気や不安を感じてブルっと震える。
 なぜか暗闇でも深海棲艦を捉えることの出来る自身の視覚能力。それによって五十鈴たちを勝利に導けたことは誇らしく思う。しかし自分は敵の死に際の反撃をもろに食らい、制服も腰回りの艤装もボロボロになってしまった。これが初陣の結果だと思うと悔しくて仕方がない。せめて魚雷の一本でも撃てて、今捉えている薄ぼんやりしてすごく小さな黒緑の反応を遠巻きに撃破できたら、どれほど誇らしく、優越感にひたれるだろう。
 もっとわかりやすくて戦いやすい初陣がよかった。

 川内は何度目になるかわからない後悔を頭の中で抱いていた。
 ふと、別の戦場に行った那珂や神通は今頃どうなのだろうか。そう気にかけた。

洋上の4人

洋上の4人

 五十鈴たちが出撃して数分後、那珂たちも鎮守府Aの沿海を出て目的の海域に向けて移動し始めていた。
 送られてきていたBのCL2-DD1の現在の位置情報を那珂がスマートウォッチで確認すると、那珂たちから見て11時の方角、実際の方角では南西に約21kmと、位置的には羽田空港~京浜港の少し北を移動していることが伺えた。
 隣の鎮守府からは軽巡洋艦天龍と龍田を含めた4人の艦娘がチームを組んで追撃中である。

 先に発進して沖に出ていた神通・五月雨・不知火は少し遅れてやってきた那珂を待っていた。

「ごっめ~ん。さていこっか!」
「「「はい!」」」

 那珂は普段の口調と雰囲気で、先刻まで抱いていたもやもやした感情を一切感じさせずにいた。想い返すと制御できぬ感情のためイライラし始めてしまうことがわかったため、きちんと気持ちを切り替えるべく両手で左右の頬を同時にパチンと叩く。
 それは神通たちからすれば、なんだかよくわからぬ行為としか捉えられない。
 それを見て気合を入れた行為と捉えて真っ先に真似をしたのが五月雨だ。

「エヘヘ。じゃあ私も気合を入れます!えーい!」

パチン!

「私もバッチリです!」

 あたしの気持ちも知らずに真似するなんて、五月雨ちゃんってば可愛すぎやろ!!と、適当な方言風に心の中でツッコんで萌え転がりながら少女の仕草を見ていた。
 とりあえず出撃任務のやる気は萌え力(ぢから)から満たされた那珂であった。

--

 那珂たちはまっすぐ南西へと移動し始めた。時間がもったいないと感じたため、最初から通常海上を移動する速度の2倍出しての移動だ。移動中はひたすら平坦な海の景色が続く。さすがの那珂も、そして普段から物静かな神通ら3人も口をつぐんで進む。
 4人の隊列は那珂を先頭にして、神通・五月雨・不知火と単縦陣で組んで進んでいた。


 鎮守府Aのある町から約11km先の海上。那珂たちは東京湾のど真ん中にいた。那珂や五月雨・不知火はすでに慣れていて何も感じていないが、初出撃・初陣である神通は海上のど真ん中を人の身で平然と滑るように移動するその様に、密かに高揚感と優越感そして不安がないまぜになった感情を抱いていた。
 今の速度はどのくらいなんだろうかとふと疑問に感じる。自転車を立ち漕ぎで全力で漕いだ時?それとも自動車?
 色々想像してみるが、神通こと神先幸として速い乗り物に乗った時の速度などそれほど気にする人生を送ってきたわけではないため、比較材料を頭に思い浮かべてはみるが結局わからない。わかるのは、姿勢をまっすぐにして直立に近い状態にすると風の抵抗をやや受けてすこしだけつらいということだ。だがそれでも艤装は推進力・浮力そしてバランスを自動制御してくれるので平然と進める。だから今このときは顔にビシビシ当たる夜の潮風など正直どうでもよかった。
 不明点で悩むモヤモヤよりも、風を受け髪をなびかせて一般人ならあり得ぬ移動方法による爽快感のほうがはるかに優っていた。

 神通は、訓練の最初の1週間を思い出した。
 最初は川内に遅れて中々自由な移動ができなかった。それが今や平然と鎮守府の工廠の湾から出て速度を上げて東京湾を直進している。自分は艦娘になる前から果たしてどれだけ変われたのだろうか。今こうして高揚感を抱きながら過ごしているが、自分の中の何かが変わったわけではない。
 それは結局のところ外的要因で変わったに過ぎないのだ。神通はいまいち自分を素直に評価できない。

 そういえば川内は元気にしているだろうかと心配に思った。まだ他者を気にかけるほどの余裕が神通にはあった。


--

 どれほど移動し続けたかわからなくなった頃、那珂以外の3人は平坦な景色に飽きていた。那珂は時々スマートウォッチを見て、隣の鎮守府の艦隊から送られてきているBのCL2-DD1の位置情報を確認している。
 一方で後ろの3人は雑談をしていた。

「あ!あそこって何かな?位置的には東京○○○○ランドかなぁ~?シーだっけ?」
「シー。」
「二人とも……よく見えますね。もしあそこがシーだとしたら、位置的には直線でも6kmくらいありますよ?」
 五月雨が有名なランドマークの光を見つけて不知火に話しかける。神通は五月雨が発見したとされる遠くの光を見てみたが、自身には相当睨みつけないと捉えられないので焦って弱々しくもツッコミを入れる。
「え、光となんとなく周りの形見えませんか?」
「?(コクリ)」
「……。」
 何が違うのか、古参の二人と自分を比べてなんとなく察しがついたが、あえて自分で触れる必要もないだろうと思い、神通は軽くため息をついて前方の那珂へと視線を戻す。
 五月雨たちの会話を聞いていた那珂だったが、自分まで会話に混じって目的から逸れる気はない、今は完全な真面目モードだった。再びスマートウォッチの画面を確認すると、標的の深海棲艦までは後5kmにまで迫っていた。
 その時、通信が入った。


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「こちら神奈川第一鎮守府、第3艦隊旗艦の天龍。応答願う。」
「はーい!こちら鎮守府Aの第1艦隊、旗艦の那珂です!天龍ちゃんおひさ!」
「え……おぉ~!那珂さんかぁ!!よそからの支援ってのはあんたのことだったのか。うわっ!なんか嬉しい!今回も頼むぜ?」
「おぅよ!そっちに龍田ちゃんもいる?」
「あぁ。あと今回は前のやつらとは違う駆逐艦が二人だ。そっちは?」
「こっちはねぇ~、あたしの学校の後輩が軽巡洋艦神通になったからその子と~、それから前にあったの覚えてるかな?五月雨ちゃん。それからもう一人は知らないと思うけど、不知火ちゃん。」
「へぇ~学校の後輩かぁ。それじゃあ前に話してた艦娘部無事作れたんだ?」
「うん!もっとお話したいなぁ~。戦い終わったらお話しよ?」
「あぁ。まずは邪魔者をさっさと片付けねぇとな。合流ポイントは……」

 すでに親しくなって気軽に話せる友人関係になっていたため通信での会話が弾みそうになった那珂と天龍だったが、お互い旗艦ということで私語は早々に打ち切り、お互いの合流ポイントや作戦を通信越しに確認しあう。
 天龍からの情報を聞いた那珂はそれを神通たちに伝えた。
 深海棲艦は海上に頭を常に出しているのが1体、ソナーによるとその近くにたまに海上に顔を出すのが1体という編成だ。天龍たちが追撃している間にもう1体は倒していたため、残り2体となっていた。
 常に頭を出している1体は背びれのようなものでエネルギー弾を弾くため、下手な砲撃では効果がない。もう1体は中々姿を表さず、その姿を確認できない。
 どちらも魚の異常変形型と捉えられているが明確な確認ではない。

「常に頭を出してるって……お魚ってそういうことできるんでしょうか?」
「五月雨、魚じゃない。深海棲艦。」静かに不知火がツッコむ。
「あ、そっか。でも……?」

 五月雨の気がかりに気づいた那珂は推測で補完した。
「今までの戦いであたしたちが見たことあるのは、魚や甲殻類の異常変形した深海棲艦だよね。それ以外の気持ち悪い型のやつもいるっていうし、あまり普通の海洋生物の常識に当てはめないほうがいいかもしれないよ。」
「「はい。」」


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 神通は那珂と五月雨・不知火の会話に混じれないでいた。初めてこれから見る深海棲艦がどういうものなのかわからないためだ。
 今までなんとなく戦いに出るという感覚を理解できていたつもりだが、いよいよ近いと知るとこれまで抱いていた移動による爽快感は影を潜め、心臓の鼓動が早くなってきた気がして胸に手を当てる。
 かすかにトクントクンと普段より大きめに感じられる鼓動。ハァ……と小さく深呼吸をして息を吐く。もう2~3回繰り返して気持ちを落ち着ける。

 大丈夫。自分には那珂さんがいる。年下だけどベテランの五月雨さんと不知火さんもいるし、さらに隣の鎮守府から4人の艦娘が来ている。私は危険な目には会わずに済む。訓練の時のように攻撃できないまでもせめて敵の位置を察知して支援すれば初戦としてはまずまずだろう。
 神通は自分に言い聞かせてゆっくりと気持ちを整理する。気が付くと神通は、那珂たち3人からじっと見られているのに気がついた。暗闇なのでお互いの艤装のLED発光でぼんやり見えるのみだが、視線ははっきり感じ取れた。
「神通ちゃん?そろそろ戦いが始まるけど……心の準備はいいかな? ここから先は訓練じゃないよ。意思の通じない相手との本当の戦いだから、ムリしないで危ないと思ったらあたしたちの後ろに下がっていいからね。」
「神通さん!私たちがいます!夜だから怖いですけど……きっと大丈夫ですよ!」
「私たちが、神通さんを……守ります。」

 那珂・五月雨・不知火それぞれから思いを聞いた神通は、自分の想像どおりにこの3人が守ってくれることを確信した。不安がほとんど消えた神通は、決意の言葉を伝える。
「はい。よろしく……お願いします。行きましょう。」

 そして4人はついに、天龍と決めた深海棲艦との距離に達しようとしていた。那珂のスマートウォッチには、300mと表示されている。


--


 那珂のスマートウォッチの表示が切り替わり、天龍からの通信が入った。
「こちら天龍。深海棲艦との距離を100mに詰めた。そっちは?」
「こちら那珂。290m。あともう少しだよ。」
「了解。こっちは陣形を広く展開させて囲い込み始めるから、そっちもあらかじめ展開させながら残りを詰めてくれ。」
「はーい!」

 天龍との通信を切った那珂は作戦の行動パターンを伝えた。
「あたしと五月雨ちゃんは正面から、神通ちゃんは2~3時、つまり西側から、不知火ちゃんは南東側からお願い。」
「「「はい。」」」

 BのCL2-DD1(1体減ってCL1-DD1)の個体は速度はそれほどでもないが、瞬間的な方向転換が素早く、移動については針路を確認するとフラフラしている。囲い込みながら鎮守府Aの4人と隣の鎮守府の4人が距離を詰めていると、気づくと千葉の有名なランドマークとお台場の間の海域に入りかけているのに気がついた。
「ねぇ那珂さん。さっきよりも○○○○シーが近い気がしますけど……なんか動き方気になりませんか?」
「うん。それはあたしも気になってたの。一気に距離を詰めてやつらの移動を制限したほうがいいかもしれないね。」
 五月雨の疑問を受けて那珂は天龍に連絡を取ると、9~10時の方向から肉声で大声が聞こえてきた。

「おーーーい!そこにいるのはーーー那珂さんかぁーーー!?」
 まだ遠いが、静かな海上のため聞き取ることができた。相手はどうやら那珂たちの艤装のLED発光の位置関係で気づいたようだった。深夜の海上で人の背の高さで光るものなど艦娘の艤装以外にないためだ。とっさに那珂はスマートウォッチで深海棲艦の位置を確認すると、その方向はほぼ真西に600mと距離を開けられている。
 すでにB-CL1-D1は両艦隊の包囲網を抜け出てしまっているのに気がついた。
「天龍ちゃん!!敵が西に行ってる!あたしたちは速度一気にあげて通り越してまた囲い込むから、そのまま西に向けて来てーー!!」
「了解ーー!」

 那珂は五月雨の顔と、少し離れたところにいる神通と不知火に対し大声で指示を出した。那珂たちは真西に向けて一気に速度を上げて海上を走り出した。4人分の水をかき分ける音が響き渡る。



--

 しばらく進んでから那珂が左腕をあげてスマートウォッチを確認すると、ついに深海棲艦は北北東に200mと表示された。それを見て大声で指示を出した。
「全員合図をしたら180度方向転換するよ。不知火ちゃんはその場で方向転換、不知火ちゃんを軸に左手側に針路転換するから、他のみんなは不知火ちゃんのLEDの光を頼りに距離を保って左手側に弧を描くように移動してね。」
「「「はい。」」」
 那珂の指示で4人は身体を左に傾け、さながら4人全員が1隻の船になったように方向転換し始めた。一番大きく移動するはめになった神通は自身の左の先に光るLED発光の位置を頼りに遅れまいと速度を3人よりも出して針路を転換させる。
 全員が方向転換し終わったことをLED発光の位置で確認した那珂は素早く通信を入れた。
「天龍ちゃん!こっちは西から囲い込んでるよ!あと砲撃の指示お願い!」
「はいよ!」
 天龍への連絡を手早く終えた那珂は五月雨たちに砲撃用意の指示を出す。
「全員武器構えて!トリガー握っていつでも撃てるようにして!」
 普段のチャラけた声質ではない鋭い那珂の声が響き渡る。那珂の真面目さを今まで垣間見ていた五月雨はもちろんだが、一緒の出撃が初めてだった不知火と神通は初めてのその真面目な指示にゴクリと唾を飲み込んで心臓の激しい鼓動を無理やりにでも収めながら返事をして並走する。
 そして深海棲艦との距離が100mを切った。反対側から探照灯の照射が始まる。それを見て那珂もスマートウォッチの画面をサッと視界に一瞬入れて確認した後、右手に持っていた探照灯をその方向へと照射した。互いの探照灯の光が交差したそのポイント、常に顔を出している深海棲艦が誰の目にも飛び込んできた。

神通の初戦

神通の初戦

「砲撃開始ぃーー!」
 天龍の大声が周囲に響き渡る。それは、艤装で耐久度が増した声帯のおかげでもあった。


 深海棲艦に向けて、東から、西からすさまじい音とともに砲撃が始まった。
ドゥ!ドドゥ!ドドゥ!ドゥ!
ドゥ!ズドドオゥ!ドドゥ!ズドッ!


ズガガガガッ!ドガァアアアアーーーン!!!


「やったか!?」
 深海棲艦への着弾の際に発した煙で見えなくなった前方を見ながら天龍がそう口にする。
 一方の那珂はその後を想像して早々に目と探照灯の光を別の方向に向けていた。那珂が頼りにするのは、以前から見知っていた深海棲艦の発光する目だ。
 一番近くにいた五月雨に向かって那珂は指示を出した。
「五月雨ちゃん、海中を監視して。やつが目を発光させていたら、そこにいることがわかるはずだから。」
「はい!」

 那珂と五月雨は互いに別方向を向いて海中を確認し始めた。今まで海上に顔を出していた個体ならば、また顔を出すために海上に近い浅いところを泳いでいるはずと考えて那珂は360度必死に見渡す。
 しかし先ほどの砲撃と着弾からほとんど時間が経っていないのに光っているはずの目が確認できない。
 光らない個体なのか?
 いやそんなことはない。追い越すときに光っていたのを目撃している。

 那珂が五月雨がいる方向の先を見、五月雨が那珂の先、つまり神通のいるあたりを見渡したその時、五月雨が視線の先の海中に光る点を見つけた。それは神通の下だった。


「神通さん!!下です!そこから逃げてーー!」
「「!!?」」

 五月雨の叫び声を聞いて那珂は瞬時にその方向に上半身と首と頭を向ける。当人の神通は真下に目を向けると、その光る点が2つ、急激に大きくなっているのに気づいた。
 しかし、気づいた時にはもはや行動を起こせるタイミングではなかった。


ズザバアアアアアァァ!!

ガズッ!!

「きゃああああぁ!!!」


 深海棲艦の強烈な突き上げは神通の少し右に逸れたため神通がそれをモロに食らうことはなかったが、右足の艤装に激しい衝撃を受けその衝撃と深海棲艦のジャンプ力のために思い切り横転しながら那珂側へと弾き飛ばされる。

「神通ちゃん!?」
「「神通さん!」」

 その衝撃は凄まじく、神通は那珂を越え、五月雨を越え、ゆうに20~30m飛ばされて思い切り水面に叩きつけられた。そこは不知火の目と鼻の先だ。
 飛んできた存在など暗闇のため見えなかった不知火は飛来してきた神通の着水の際の水しぶきに驚いて後ずさりよろけて海面に片膝をつくも、すぐに体勢を立て直して目の前の存在に警戒する。
「だ、誰……?」
 不知火は一本のロボットアームを掴んで手動で右手元に持ってきて睨みつける。しかしそこで立ち上がろうとしていたのは深海棲艦ではなく、自身が慕う神通その人だった。
 すぐに沈みかけたので神通は慌てて立ち上がる。しかし何かがおかしい。
 右足が海面に浮かばないことにすぐに気がついた。普段であれば海面がまるで足場にひっかけたかのごとく足が浮かび、立ち上がることができるのだが、今この時は右足は何の抵抗もなく海中に沈む。左足だけでどうにかバランスを取ろうとするも片足がすぐに海中に沈んでしまうため思うように浮かぶことができない。
 全身を海面に落としてずぶ濡れになりながら本気で焦り始める。神通の心にもたげてきたのは、海のど真ん中で何にも捕まれずにその身が沈む恐怖だった。
 その焦りは泣きそうな声になって周りに響き渡る。

「た、助けて……! 誰かぁ!右足が……浮かばない!」
「じ、神通……さん!!」
 不知火は構えていたロボットアームを乱暴に背後へと押して下げ、目の前にいると思われる神通を掴んで支え始める。

「不知火ちゃん?そこに神通ちゃんいるの?」那珂が叫ぶ。
「神通さん、右足浮かべない。主機の片方が壊されたみたい、です。」

 不知火から簡素な言葉で状況を聞いた那珂は目の前に浮かんだ深海棲艦から視線を一切離さずに残りの3人に指示を出す。
「不知火ちゃんはそのまま神通ちゃんを支えてあたしたちの後ろに、五月雨ちゃんはあたしと一緒に前列として引き続き攻撃!」
「「はい!」」
 五月雨と不知火は返事をしてそれぞれの役割を果たすべく体勢を整える。五月雨は那珂と並ぶために前進して深海棲艦と対峙し、不知火は神通を半身で支えながら那珂と五月雨の完全に後ろに位置するために3時の方向へとわずかに移動した。
 そして那珂と五月雨は同列に揃うやいなやすぐさま主砲で撃ち始めた。

ドゥ!
ドドゥ!!


ズガッドゴォォ!!

 エネルギー弾が着弾し、深海棲艦の表面で爆発する。熱風と光が瞬間的に周囲に撒き散らされた。
「よーし!そのまま海上に引き止めといてくれ!!」
 距離を詰めてきた天龍たちが続いて攻撃し始める。
ドドゥ!
ドゥ!
ドドゥ!!

ズガッ!
ドシュ
バァーーン!
 移動しながらの天龍たちの砲撃は3人が先頭の天龍から流れるように発射されて深海棲艦に直撃し、背びれから背身を始めとして身体を完全に真っ二つにするほど肉を砕ききっていた。

 ゆっくりと天龍が深海棲艦だった物体に近寄る。
「ん?おいちょっと待て。こいつはCL1、軽巡級のほうだ!あたしたちがさっき砲撃したのとは違うやつだ!」
 判定のために天龍が探照灯を当てて確認するとその形状が判明した。それはセキトリイワシが巨大化し、肥大化した歯がむき出しになっている個体だった。すでに死亡していてプカプカ浮いているセキトリイワシ型の軽巡級を天龍がさやに収まった剣でカツンと叩いて再確認したのち、眼帯型のスマートウェアで撮影していた。

「おい!攻撃食らったのは誰だ!?そっちの被害状況を教えてくれ!」
 天龍が那珂たちの方を向いて問いかける。
「うちの神通ちゃんがやられた!右足の艤装が壊れて移動が困難になっちゃってるの。」
「マジか!?かなり硬そうなヤツだったし、無理ないかもしれねぇな。」
「いや……それ以外にも原因あるといえばあるんだよねぇ……。」
 神通の負傷について、この状況とは別の要因が頭の中にあった那珂は言い淀む。
「なんだよ~らしくねぇ歯切れ悪さだな。はっきり言ってくれよ?」
「うちの神通ちゃんね、実は今日が初めてなの。連れてきたのはまずかったかなぁ……。」
「なにぃ!?初戦なのか!?しかも今回は夜戦だろ? そりゃ無茶ってもんだよ……まぁいいや。そいつ下げておいてくれ。全員、残りのDD1に気をつけろー!海中に逃げてるぞ!」
 那珂の言葉を気にかけるも、切り替えの速さは那珂以上なのか天龍はすぐに作戦行動の指示の言葉を続けた。離れようとする天龍に那珂は移動しながら申し訳なさそうに言う。
「支援しにきたつもりが、迷惑かけちゃってゴメンね?」
「いいっていいって!それよりもなんか作戦をくれ。」
「うん。そうだね……全員輪になるように配置について、ひとりずつ輪の中か外を交互に向くのはどうかな? そうすればどの位置でも誰かしら敵に気づけるようになると思うの。全員一気にやられないためにも、輪はなるべく広く中を開けて作るの。どうかなぁ?」
「よしそれ採用。おーいみんな!」
「えっ?」
 那珂がとっさに考えて提案した陣形と警戒態勢を、天龍はすぐに承諾して自分の艦隊の仲間に早速伝える。那珂はそれを目の当たりにしてやや焦った。緊急の戦闘状態とはいえいくらなんでも判断早すぎだろうと。しかし天龍の人柄は前の合同任務の際に垣間見ていたので、その判断を認めてくれた思い切りの良さに那珂は喜びを感じつつも苦笑せざるをえない。
 天龍の承諾した自身の案を五月雨たちに伝え、自身らも実行に移し出した。


--

 隣の鎮守府の4人と鎮守府Aの4人が円陣を組んで海上に立つ。那珂と天龍は手に持っていた探照灯を辺りに照らして仲間の視界を助ける。しかし残りの深海棲艦は姿を現さない。
 ふと那珂は探照灯のメリットではなく、本来持つデメリットを思い出した。そのデメリットを活用すべく、那珂は天龍に言った。
「天龍ちゃん!ライト消して!あたしのだけついてる状態にするから!」
「え?お、おう!?」
 天龍は那珂の叫びを聞いて自身が持っていた探照灯の照射を一旦消す。その瞬間、8人の中では那珂の探照灯だけが唯一の光となった。そして自身が唯一目立つであろう存在になるがために、以前行った動きをし始めた。
 それはその場にいない五十鈴だけが見たことのある行為だった。


バシャバシャ!バシャバシャ!


 その場で何度も足踏みをして海面を波立たせる。膝回りまで濡れることを気にせずひたすら足踏みをし続けた。
 その様子を6~7m隣にいた五月雨、逆の隣にいた不知火&神通、そして天龍と龍田も怪訝な顔をしてチラチラと見ている。しかしそれを問い正したりアホらしく思ったりは一切しない。それは、あの那珂のやることだからなにかしら秘策があるのだろうという信頼によるものだった。
 那珂が行うことの全てを把握できているわけではないが、那珂以外の3人、そして天龍ら4人は各々の主砲を構えてジッと見守り続ける。

 那珂は円陣の内側を向いていたためそれにすぐには気付かなかったが、那珂の2つ右隣に外向きに構えていた天龍が気づいて叫ぶ。
「おい那珂さん!後ろ!」
 天龍が見たのは海中に浮かぶ、小さく光る2つの光だ。しかし那珂は天龍の気付きを一言で押し留めた。
「まだ!」

 那珂はそこで初めてバシャバシャと跳ね続けるのをやめた。探照灯の光は自身の背面20度の海上に向けて照射し続けたままにする。そして海中からするあらゆる音を逃さぬよう耳を後ろ向きに澄ませ、やがてゴポゴポという音を聞き取った。それはゆっくりと大きくなってくる。
 那珂はタイミングを見計らっていた。確実に狙いすまして倒すには、目立つ存在が囮になるのが手っ取り早い。その囮が焦って仕損じては、とっさに考えたとはいえ大事な作戦が台無しになってしまう。敵が自身を襲うその時、それが那珂が想定しうるベストタイミングだった。
 自身の意を察してもらえないかもしれない隣の鎮守府の面々がいるため作戦を打ち明ける。

「みんな、まだ動かないで。あたしがDD1を引きつけるから。あたしが合図するまでは一切動かないで。波紋も立てちゃダメだよ。」
「了解。」
 天龍が返事をすると龍田ら他の3人も返事をして頷いた。

 那珂は上半身だけで思いっきり振り向いて後ろを見、海中にいる2つの光を測る。まだ遠く深い。目測で50m先と判断した。しかし速い。というよりも速くなってきた。2つの光はどんどん大きくなってくる。海上に顔を出すかもしれないと思い、姿勢を低くし足幅を広げて限界まで屈みこむ。
 しかしながら那珂の唯一の誤算は、DD1つまり駆逐艦級が、跳んで避けるのには難しい角度とスピードで海面から飛び出してきたことだった。
 そしてその時が訪れる。


ズザバアアァァァ!!!


 その姿は異形の個体だった。常に顔を出しているように見えた背と頭の部分は、その個体の背中の一部であり、ご丁寧にも体内で発光する組織を見せる穴が背中に空いていた。
 本体たる身体はメガマウスと見間違うかもしれない5mほどもある巨体でどす黒く、月の光でところどころ反射して微細な光を称える金属製に見えてもおかしくない鱗を腹にビッシリ生やしている。
 そして本当の顔は人のこぶし大ありそうな目をギロリと光らせ、極大に肥大化した歯が口からはみ出ている。並の海洋生物なら一飲、巨大な生物でもその肥大化した歯で噛み砕いたりすりつぶせそうな剛強さである。
 とても現代の魚の分類に含めることができないその姿をまともに目にした7人は、各々が初めて深海棲艦を目にした時に感じた生理的嫌悪感と吐き気を催す。しかしそれも初めての時と同様、清らかな感覚が全身を駆け巡ったおかげで一瞬にして平常心を取り戻せた。
 那珂は背を向けておりなおかつしゃがんでいたためその異形の巨体をまともに見ずに済んだが、その回避行動たるとっさのジャンプでかわさせてくれそうな体格差ではないことにすぐ気づきタイミングを完全に逃した。駆逐艦級の剛強そうな顎から滴り落ちる海水がシャワーのように迫るそのギリギリで瞬時に両足を海面から上げて頭から海中に没し、海中にその身を隠すことにした。
 その際、7人への指示も忘れない。

「やっば……砲撃開始ぃ!!」

 3~4秒経ってから海上の7人の主砲が火を吹いた。
ドゥ!ドドゥ!ドゥ!ドドゥ!
ドゥ!ズドドオゥ!ドドゥ!ズドッ!


ズガガガガッ!ドガァアアアアーーーン!!!


 那珂は海中にて、7人による一斉砲撃の激しい爆音を聞いた。海中に逃れた自分がやるべきことは砲撃ではないことを悟り、身体を海上に向け不用意に浮かばないよう主機も海上に向ける。そして両腰につけた魚雷発射管の1番目のスロットを1つずつ押した。目指す敵は、もはや脳波制御によるインプットが必要ないくらい目の前、つまり海面にその腹をつけてそばにいるからだ。

ドシュ、ドシュ……

2本の魚雷は那珂の目の前わずか10m先めがけてまっすぐ泳いでいき、そして駆逐艦級の腹にモロに炸裂した。


ズガッ!ズドオオオォォーーーン!!


--

 海面に現れた駆逐艦級は那珂がとっさに身を海中に沈めてかわした後、弧を描くように7人の描いた輪の中に収まった。那珂の焦りの一言の後に続いた指示により、神通ら7人は構えていた主砲のトリガーをすぐに引く。
 神通は不知火に支えてもらいながらの砲撃であった。右側を支えられているがため必然的に己が得意としている左腕での攻撃となる。
 神通にとっては先ほどの大失態を帳消しにするための、冷静な反撃となる良い機会となった。可能な限りトリガースイッチを連打して目の前の駆逐艦級を撃つ神通に触発されたのか、支えている不知火も右手につけた手袋の人差し指の付け根にあるトリガースイッチを力強く押して連打する。

 周囲に高熱のエネルギー弾の炸裂による肉が焼け焦げた匂いが立ち込めてきたその時、駆逐艦級の腹が盛り上がり、水でくぐもった爆発音とともに背びれに相当する部分から火柱が立ち上がった。
 駆逐艦級は爆散し、一瞬にして動かぬ複数の肉塊と成り果てた。その場は5m近い火柱のために辺りが光々と照らされ、互いの全身がはっきりと確認できるほどだった。
 那珂は雷撃した後、目の前の海面が急に開けて宙に立ち上る火柱を見た。改めて確認するまでもなく標的は死亡だろうと判断し、主機を海底に向けて一気に海上に浮かんでいった。


ザバァ!!


 那珂が顔を出すと、その音を聞いて反射的に構えた不知火と目が合う。その目は鋭いなぞのやわな表現ではなく、並の人間なら視線だけで倒せそうな迫力だった。暗闇にもかかわらずなぜか不知火の眼光がわかる気がした那珂はその目を見て慌てて両手を上げて声をあげた。

「わぁ~不知火ちゃん!?あたしだよあたし!!撃たないで~!!」
「……那珂さん? はぁ……。」

 密着するように支えられている神通にしか聞こえぬ安堵の息を漏らして、不知火は主砲を取り付けたロボットアームを上空へ向けて逸らした。


--

 隣の鎮守府の天龍たちが確認のため撃破した深海棲艦の撮影をしている間、那珂たちは状況を確認しあっていた。
「神通ちゃん、どう?大丈夫?」
「神通さん!ゴメンなさ~い!私がもう少し早く気づいていたら、こんなことにならなかったのに~……!」
 那珂の心配に続いて五月雨が己の反省を込めて心配を口にする。
 泣きそう、ではなく本当に泣き出して謝る五月雨に対し、神通は頭を振ってその心配をやり過ごそうと言いかける。
「五月雨さん、気にしないでください。むしろ、五月雨さんが気づくのが遅れていたら、今ご、頃……わ、私は……うぅ……」
 しかし戦闘が終わったことで緊張の糸がそこで途切れたのか、神通は五月雨以上に声を上げて泣き出してしまった。

「うえぇ~~~~えぐっ…えぐっ!こ、怖かった……死ぬかと……思ったよぅ……!!」
 年下の二人がいるにもかかわらず、隣の鎮守府の面々が見ているにもかかわらず一切人の目など気にせず泣きじゃくる神通。那珂はその様子を見てサッと近寄り、神通を頭からそうっと抱きしめて声をかける。

「うんうんよしよし。初出撃よく頑張ったね。よく耐えたね。初めて化物と戦ったりこんな暗い夜遅く海のど真ん中に来るなんてホントは不安でいっぱいだったよね? だってあたしたち普通の女の子だもん怖いの当たり前だよ。もう終わったから、気持ちを我慢しなくていいから、思いっきり吐き出していいんだよ。ホラ。」
 那珂から暖かい言葉をかけられ、もはや感情を隠すべき障壁がなくなったのかさらに声を荒げて泣きじゃくる神通。五月雨と不知火も感極まって神通に抱きつき、年上だが後輩である少女の気持ちの爆発につられてもらい泣きし始めた。すでに那珂も抱きついているため海上に浮かぶ押しくらまんじゅう状態になっているが、誰も見た目の瑣末な事なぞ気にしない。
 ただ、隣の鎮守府の天龍たちはその様子を見て特別に感情を沸かせるわけでもなく、不思議な物を見るように遠巻きに眺めるだけだった。


--

「よし。こっちの確認は終わった。さぁて、帰ろうぜ。」
 ひとしきり現場の確認を終えた天龍が那珂たちの方に振り向き音頭を取る。一緒に確認作業をしていた龍田は駆逐艦2人を呼び寄せる。
 那珂たちも天龍の側に集まった。

「天龍ちゃん!」
「おぅ。そっちの負傷者はその神通ってやつだけか?」
 天龍の再確認に那珂は後ろにいる五月雨達3人を見渡してから伝えた。
「うん。心配かけてゴメンね。」
「だ~から。いいっての。でも初陣のやつを夜戦になんか連れて来るのはちょっと常識疑うぞ? そっちがどうか知らねぇけど、うちの鎮守府じゃそれが運用の規則にもあるし、提督はそれを絶対守ってくれてるし。」
「うん……うちはまだ教育らしい教育できてないし、今回は緊急の出撃だったからなんだかんだでみんな慌ててたよ。」
「ん~でもまぁ来てくれて助かったよ。こっちは第1艦隊のやつらがしくじったせいで警戒線突破されて迷惑かけちゃったし、ホントに謝んなきゃいけないのはこっちだもん。」
 那珂と天龍はアハハと苦笑いを浮かべ合う。

「そうそう。最後の駆逐艦級のやつが腹から火柱上げて爆散したのって、あんたの何か技?」
「え~~う~~~んと、べっつに技ってわけでもないんだけどなぁ。とっさの思いつきだよ。思いつき。」
 照れ笑いを浮かべて天龍からの賞賛に応対する那珂。そんな那珂に天龍は詰め寄る。
「まったまた!てか今回も夜戦であんたの技ちゃんと見られなかったじゃんか!今度演習しよーぜ、演習。」
 天龍は前回に続いて今回も那珂がした行動を見られなかったことに不満とさらなる期待を持ったのか、場を変えて見せてもらえるよう願い出てきた。那珂としては他の鎮守府の艦娘との演習はむしろ願ってもないことなので、天龍からの突発的な提案を二つ返事で飲むことにした。
「うんうん!それいいねぇ~!うちさ、昨日まであたしの姉妹艦の訓練をしてたんだぁ。こっちの五月雨ちゃんや不知火ちゃんも混ざって色々演習試合してたんだけど、人が少ないから思うようにいかないの。」
「あ~人少ないんだっけ。今何人?」
「うちはやっと10人超えたとこ。だから他の鎮守府の艦娘とやれたほうが良い経験になると思うの。あたしとしてはむしろばっちこーいって感じ。」
「よっし。久々に那珂さんに会えたし、あんたの本気を見たいし、帰ったら提督に相談しておくよ。」
「うん。お願いね。」
「ま、どのみち今回の非常事態を招いたミスで、ほうぼうにお詫びに回んないといけないだろーし、もしそっちにうちの提督が行くことになったら、あたしも連れてってもらうようにするわ。」
「うん、期待しないで待ってるね~。」
「へん。言っとけ~!」
「「アハハハ」」
 まるで昔からの友人のように腹から出てくる気を許しあった笑いを交えて約束を交わし合う二人。最後に天龍は今回の事態を交えておどけて言葉を締めるのだった。


--

 DD1の深海棲艦を倒したその場でしばらく深夜の海上まっただ中のおしゃべりを楽しんだ後、両艦隊はそれぞれの鎮守府へ向けて別れることとなった。
 その前に天龍そして那珂は今回の事態のもう一つの現場を気にかけた。天龍は完全に忘れていたようで、那珂と話し合って早速通信して連絡を取ることにした。

「あ~~。こちら第3艦隊の天龍。球磨の姉御~。生きてっか~?こっちはとりあえずカタつけたぜ。鎮守府Aの那珂さんがトドメさして終わったよ。」
 天龍が暢気度ど真ん中の声で球磨に連絡を取ると、幾つかの砲撃音と小さな悲鳴のあと、球磨の怒号とともに通信がつながった。
「何なのあんた!!?……じゃなかった。なんだクマ!?こっちは今ちょうど倒せるいいところなんだから邪魔しないでy……すんなクマ!!」
「姉御……怒りでキャラが……」
「う、うっさい。とにかく、もうちょっとしたらかけろクマ。」
「あ~はいはい。あたしたちは先に帰るからね。じゃあね。」


 那珂や神通らは天龍が会話する球磨たる艦娘のことをよくわからず、何やら天龍と仲が悪そうな娘という印象しか持てないでいた。別の鎮守府でもその場所なりの人付き合い・いろんな人がいるのだなとぼうっと眺めていた。
 那珂たちが通信を終えた天龍から伝え聞いたのは、もう一つの海域でも無事に勝利したという報告だった。

幕間:忍び寄る存在

幕間:忍び寄る存在

 火力発電所と製油所の間の水路の端で五十鈴たちの帰りをぼーっと待っていた川内は、一人で待つ+深夜ということもあり、大あくびをして眠気を湧き上がらせ退屈をその身に宿し始めていた。
 水路といっても見渡す限り人一人の身としてはあまりにも広すぎるその水域にポツンと立っているその現実味のなさに川内はあくびをしながら一人でクスクス笑っていた。

 馬鹿正直にここで待っていてもいいのか。自分に期待されたのは、もしかして言いつけに背いてでもアクティブに戦場に立つその心意気や度胸だったりするのか!?もしかしてこんなにボーッとしていたらダメか!?
 などとある意味気楽な悩みを抱え込んでいた。しかし艤装も壊れているし緊張の糸が途切れてしまい眠気を爆発させていたので、面倒臭くて動きたくない。
 そのうちあまりにも退屈なので、最近見た漫画やプレイしたゲームを思い出し、艦娘としての自分の決めポーズや必殺技でも考えようと妄想+アクションをし始める。
 五十鈴たちや球磨たちが帰ってくるまで実際の時間にして10分少々。川内は退屈すぎて死にそうだった。

「あ゛~~~暇だ。退屈だ。制服と魚雷発射管がボロボロじゃなけりゃあっち行ったのになぁ~~。……そういや神通は大丈夫かなぁ?あの娘体力ないからなぁ~。親友としては心配だ。ま、それはそれとして、ポーズの続きっと。」
 独り言も捗る川内。ポーズを取るために若干動きまわる。一人遊び呆ける川内は、背後への注意力が完全になくなっていた。

 川内が次のポーズを取るために立ち止まって唸っている間に静かに海面から上がる物があった。“それ”は右腕を思い切り振りかぶり、川内の頭めがけて右上から袈裟切りに振り下ろす。


ドガッ!!

「!!?」

ザブン!
ゴボゴボ……


 “それ”の右腕は川内の右後頭部から側頭部にかけての部位をモロに鷲掴み、その力強い振り下ろしの勢いを保ったまま川内を海中へと沈める。
 川内は夢うつつだらけきった意識から現実の衝撃へと戻された。急激な姿勢の変化のため首に激痛が走る。頭を押さえつける何かを振り払おうともがくが、光がまったく当たらぬ時間帯の海中、視界不良もいいところだ。そして突然の事のため足の艤装、主機の推進力もまともな状態に復帰させられず思うように振りほどけない。川内は海中にひたすら押し込まれる。
 バタバタさせていた足が偶然にも“それ”の腹と思われる部分、柔らかい部分に当たった感覚を覚えた。足の主機から出る衝撃波がその部位をさらに強く何度も押しこんだことで一瞬ひるませることに成功する。自身の頭を掴むその部位の力が緩んだことに気づくと、川内はとっさに身をよじって重圧から逃れ、“それ”と向かい合せになった。

((な、なによ……こいつ!?どんな……えっ!?))

 川内は初めて気づいた。“それ”が自身を押さえつけていたのは、魚が持つ部位などではない。真っ暗な海中で川内に見えたのは、自身の直ぐ目の前ででかでかと黒緑色に光って見える“人の右腕”の形をした何かだった。しかしその右腕らしき物が生えている身体は一つの凸凹とした楕円の球体状のように見えその全貌が掴めない。
 とっさに細かく分析できるほど余裕のない川内はその右腕を見た瞬間、今までののんべんだらりとした過ごし方の人生であり得ない・絶対に味わうことのできない心の底から震える恐怖に本能的に支配された。
 先刻の深海棲艦を初めて見た直後に感じた頭の上からつま先まで清流が駆け巡るような爽快感が一切起きない。川内の内に残ったのは恐怖心と本能的な防衛意識だ。すぐさまぶっ飛ばしてとにかく逃げたい気持ちが爆発するかのように湧き上がって川内の右腕を動かす原動力となった。

((怖い!怖い!怖い!やめてよ!!))

 川内は右腕に取り付けていた単装砲2基と機銃のスイッチを押して砲撃・銃撃しようとした。が、目の前で起きたことは完全に予想外の出来事だった。

((え……弾が出ない?))

 艦娘の使う装砲や機銃の弾は実弾ではなく、特殊な化学薬品を気化させ、光と高熱と合わせて圧縮して発射するエネルギー弾方式である。空気中から水の中に撃ちこむ場合、威力はかなり落ちるが多少の深度ならば海中の相手にもある程度の傷を負わせられる。
 しかしながら現在川内がいるのは海中である。海中から海中に向かって撃っても威力が落ちる落ちないのレベルではなく、そもそもエネルギー弾の形を保てない。効果があるといえば多少目の前の海水を一瞬高温で温める程度である。つまり、目の前の“それ”には全く効果がない。
 砲身の先が一瞬光るが弾が全く出ないことに川内は慌てふためき、恐怖を取り戻してしまう。引っ込めて右手が次に向かったのは腰だ。そこで川内は魚雷を打ち込んでやろうととっさに考えるが、すぐに魚雷発射管が使えないことを思い出す。

((ダメだ! 魚雷も撃てない。一体どうしたら……))

 川内が砲撃も雷撃もできないで海中でまごついている間に“それ”は川内の目の前から横をスゥっと泳いで背後に回りこむ。その際爪のような鋭い何かが制服の左腕の袖や背中をかすって切れる感覚を覚えた。肩が切れて血がにじみ出て海水に混じる。
 そして“それ”の身体、口と思われる部位から大量の泡が川内の左肩甲骨辺りにゴボゴボと当たる。次の瞬間、川内の左肩は燃えるような痛みに襲われた。

((いっったぁぁーーー!!))


 足が海底の方を向いていたため、川内は急いでコアユニットを介して主機に念じ最大の浮力と推進力を発揮させて海上へと急速浮上した。


ザッパアァーーーン!!


「がはっ!ゴホッ!!くっそ!!ただでやられるかっての!!」

 海面に浮き上がって顔を出した川内は急いで海面に立つ。と同時に右腰と左腰の魚雷発射管から魚雷を1本ずつ抜き出して手に持ち、ジャンプしてその場から数m離れ、“それ”が海面に顔を出すのを待つ。やがて姿を見せた“それ”は右腕を先に出した後、楕円の球体と思われた物体からもう一本の腕、そして最後に頭をその巨大な口と思われる穴から出した。まるで、巨大な魚と人間が融合しているか、魚の被り物をして冗談のような、そんな簡単な表現では表しきれぬこの世のものとも思えないおどろおどろしい存在だった。

「な、なんなのよ……なんなのあんたはあぁぁぁ!!!」


 恐怖心から極度の興奮状態に陥っていた川内は姿勢を低くして叫びながら海面スレスレをダッシュして“それ”に急接近する。移動中に海面に浸した魚雷2本から青緑色の光をまとった噴射が始まる。川内は手のひらを広げて魚雷から手を離し、そのエネルギーの勢いに任せてソフトボールの投球のように“それ”へと投げ放つ。
 話に聞いた那珂の真似ができてるだとかそんなことを気にしている余裕はまったくなく、自身でも驚くべき流れるような行為だった。魚雷2本は海面に“立った”その存在へまるで対艦ミサイルのように飛んでいき、右腕の付け根と肩に相当する部分、そして左下腹部と思われる部位に命中した。


ズガッ!
ズドガアアアア!!

 魚雷のあまりの威力と爆風に川内は吹き飛ばされる。
「うわっとと!!?」
 宙を吹き飛ばされ、15mほど海面を波しぶきを撒き散らして滑るように着水してようやく体勢を整えられた。そして川内は爆風が起きた場所にすぐさま移動する。
 しかしそこには何も・誰もいない、ただ煙だけが舞う海面だけがあった。そしてその辺りに響いたのは煙舞って吹きすさぶ風音と、それが収まった後には川内の荒げた呼吸の音だった。

「はぁ……はぁ……なんだったのよ今のは。くそ! 初陣だってのにあたしついてなさすぎでしょ……たく!」
 謎の存在を確認すべく海中に目を向けて360度全方向見渡すも、見えるはずのその反応は確認できなかった。そのため川内にはまだ湧き上がる恐怖と怒り、そして理不尽さへの鬱屈とした気分が残るだけとなった。


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 時間の感覚も忘れて川内がぼうっと立ち尽くしていると、探照灯の照射が自身に向かってされた。
「川内?そこにいるわね。」と五十鈴。
「はあぁ~~あ!な~んかすっきりできない戦いっぽかった。う~~が~~~!」
「ちょっとぉ!噛みつかないでよ、ゆう!」
 五十鈴の後ろにいる夕立と村雨はちょっかいを出しあっての帰還だ。
 続いて隣の鎮守府の球磨たち3人もやってくる。

 川内は見知った人物の姿と声を見聞きして、先刻まで張っていた警戒心を解きようやく安堵の息をつくことができた。それは海面にしゃがみ込むという仕草を伴って表された。
「はぁ~~~~~……」
「え?ちょっとどうしたのよ?それにあんたさっきなんかした?そっちから爆発音がしたわよ?」
 静かな海上のため、さすがに少し離れた場所で起きた異変に気づくのは容易かったのか五十鈴が尋ねる。すると川内は泣く・怒るを同時に表しながら五十鈴に詰め寄って泣きついた。

「うっく……ぐずっ……。聞いてくださいよぉおおお!!あんな深海棲艦がいるなんて、あたし全然聞いてないですよぉおお!」
「なになに?また新手?」
「だと思います!人型の深海棲艦なんてビビりましたよぉ。はっきり見えたわけじゃないですけどぉ、あの姿は人っぽかった! ねぇ五十鈴さん、深海棲艦って魚の異常変形だけじゃないんですかぁ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。人型ってどういうこと?」
 まくし立てる川内に五十鈴が戸惑いつつも問いかけようとすると、それに球磨が乗ってきた。
「どういうことクマ?人型って、あんた何を見たの?詳しく教えなさ……教えろクマ。」

 二人から問いただされて川内は事の次第をすべて伝えることにした。
 泣いてえづき、どもりながらも必死に説明する川内。五十鈴は川内の背中を撫でながら聞き、球磨はしゃがんでいる川内を腕を組んで見下ろして聞いている。
 やがて聞き終えた二人、回りにいた村雨・夕立そして神奈川第一鎮守府の駆逐艦2人は、その体験談に驚愕した。

 川内ら鎮守府Aのメンツから見ればかなりの熟練者に見えた球磨も、口に手を当てて神妙な面持ちで余裕なさげな様子で、川内から聞いた内容を頭の中で咀嚼・整理していた。
 しばらくして球磨は正直な推察の結果を口にする。
「ぶっちゃけ、あたしも人型の深海棲艦は他の現場の噂程度にしか聞いたことないクマ。日本の領海の激戦区の海域や海外の話ばかりよ……だクマ。日本の、しかも東京湾っていう首都がめちゃ近い海に出るなんてにわかに信じられない……クマ。あたしの判断じゃなんとも言えないから、この話は帰ったら提督に報告するクマ。あんたらも自分のとこの提督にきちんと報告しなさいクマ。」
「「はい。」」
「まったく、さんざんな目にあったクマ。第1艦隊のやつらがミスして警戒線を突破されるし、海自や米軍にも連絡いって英語でまくし立てられるし。この後の提督の胃が痛むのが容易に想像つくクマ。」
 球磨の物言いに五十鈴たちは苦笑いして相槌を打つ。
「ひとまず任務完了だクマ。鎮守府Aの皆さん、ご協力まことにありがとうございましたクマ。」
「いえ。私達が皆さんの力になれたのなら光栄です。」
 代表して五十鈴が挨拶仕返した。
「そうそう。さっきもう一つの敵のBグループを追いかけてたうちの第3艦隊も任務完了したらしいクマ。そっちの艦隊の那珂って娘たちも任務終えて帰ったらしいから、あんたたちももう帰っていいクマよ。」
「了解致しました。それではお先に失礼します。」
 五十鈴がお辞儀をして挨拶をすると、遅れて川内ら3人も挨拶する。そして五十鈴は川内たちの方を振り向くと、3人が待ち望んでいた言葉をかけた。
「さてみんな、鎮守府に帰るわよ。」
「「「はい!」」」
 今度こそ本当に戦いの終了として、全員安堵できることとなった。


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 火力発電所側の岸に一旦移動してコンクリート製の波止場に各々座ったり寝そべって一休みしている間、五十鈴が本館にいる提督ら、そして遠く西の海域で戦って帰投中の那珂に連絡を取る。
「こちら五十鈴。那珂、そっちも終わったらしいわね。」
「五十鈴ちゃ~ん!そっちも?」
「えぇ。だからこれから帰るわ。1時間くらいかけてね。」
「あたしたちも天龍ちゃんたちと今別れて移動し始めたとこだよ。同じくらいかかるかなぁ。」
「それじゃあ工廠でまた会いましょう。」
「うん!それじゃまったね~!」
 声をかけ終わった五十鈴は改めて川内たちに号令をかけ、重くなりかけた腰を各々上げて出発した。

 那珂たち、五十鈴たちは行きとは違う雰囲気に感じられる深夜の海を、心からおしゃべりを楽しみながら帰路につくのだった。

報告

 鎮守府に先に到着したのは川内たちだった。といっても時間はすでに4時を回っており、日の出まであと40~50分といった時間になっていた。
 川内たちが出撃用水路を上って工廠内に入ると、水路に設置されたセンサーの表示を見たのか、明石が駆け足でその区画へと入ってきて出迎えをした。

「ただいま戻りました。」
「たっだいま~明石さん。」
「ただいまですぅ~」
「ただいまただいまー!」

「おかえりなさい、4人とも!無事でしたね?」
 そう明石が言って近寄ると、その言葉がすぐに嘘になったことを自覚した。
「って!川内ちゃんその格好!やられてるじゃないの!大丈夫!?」
「アハハ……どうにかね。初陣のあたしが一番被害すごいってなんか納得いくようないかないような、なんか複雑っす~。」
「ホラホラふざけてないでこっちへ来てください!五十鈴ちゃんたちは無事?」
 明石はブンブンと手招きをしてまず川内、そして五十鈴を陸への移動を促す。
「はい。私たちは3人ともなんともありません。」
 明石は心底ホッとしたような様子で胸をなでおろした。
「それじゃあ五十鈴ちゃんたちは提督を呼びに行ってください。報告を聞きますので。」
「はい。そういえば那珂たちはいつごろ戻ってくるか分かりますか?」
「数分前に連絡がありましたよ。あと10分くらいって言ってましたから、そろそろ戻ってくるはずです。」
 明石の言葉を聞いて五十鈴は頷いて本館へと戻っていった。村雨と夕立は那珂の艦隊にいる五月雨と不知火を出迎えるために、そのまま工廠にいることにした。


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 川内たちから遅れること10分。那珂たちが到着したときには、空の暗闇の端に白色の絵の具を一滴垂らして水平線に沿って混ぜたような仄かな明けが、那珂たちの背中を押すように迫りつつあった。
 あらかじめそろそろ到着しそうということを那珂は提督らに連絡していたため、湾に入って工廠内に入ると提督と明石・妙高はもちろんのこと、先に到着した川内たちも出撃用水路の側で出迎えしてくれた。

「おおぅ!?なんか勢揃いしてるし。ただいま、みんな!」
「おかえり那珂、五月雨、不知火、神通。」と提督。
「おかえりなさ~い!那珂さん!神通……って!!何!?どーしたの神通!?」
 誰もがその異変にひと目で気づいていたが、それを真っ先に言及したのは同期である川内だった。それを受けて五十鈴や明石、提督も次々に口に出して目に見えて心配をし始める。ほぼ全員から心配の眼差しと言葉を投げかけられ、一身に注目を浴びてしまった神通は照れくさくなり、支えられていた不知火と五月雨の肩を引っ張り寄せてその後ろに顔を隠してしまう。

「実はね、神通ちゃん、深海棲艦の体当たり受けて足の艤装を壊しちゃったの。」
「えっ……神通もですか?」
「もって?まさかそっちも何かあったの?」
 那珂の聞き返しを受けて川内はしゃべろうとしたが、その前に提督が遮った。
「とりあえず4人とも上がりなさい。地面に足つけて落ち着いて話したいだろう。」

 那珂たち4人は出撃用水路から上がり、艤装を脱いで話を再開することにした。


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 那珂は正直なところ非常に眠かったが、今回の緊急の出撃の内容を全て報告しないことには終わらない。報告して提督から承認を得るまでが出撃任務だと認識している。それは五十鈴も同じだ。
 那珂と五十鈴が提督に説明をしている間、五月雨ら駆逐艦は互いに慰め合い言葉を交わし合っている。冷たいお茶を持ってやってきた妙高が渡して場に混ざり、まるで親子のような雰囲気を醸し出す。さながら学校での出来事を急きながら話す娘たちと、話半分で頷いて聞き流している母親という日常の構図のように。
 一方で川内と神通はお互い地面にへたり込みながら見つめ合い、そして自身らに起きた状況を二人で語り合っていた。
「……というわけだったのよ、あたしのほうは。」
「……そう、ですか。私は足の艤装を壊されただけで済みましたけど、川内さんのほうが初めてにしては……忙しすぎでした、ね。」
 川内は肩をすくめて説明する。神通は苦笑いを浮かべてそれを聞き、自分のことにも触れる。
「ハハ。ヘットヘトだよもう。死ぬかと思ったもん。」
「私も……です。艦娘にとって、移動を制限されるとどれほどの問題なのか、あっさり死ねるかもしれないことが分かった気がします。」

 川内は神通が言った、地味だが艦娘の根源を突く命に関わる大事な問題を何度も頷いて噛みしめる。そしてそれまでより大きめの声で、工廠のその場にいた誰もがはっきり聞こえる声量で言った。
「うん。けどあたしたちは、こうして生きてる。」
「はい。お互い、初めての戦いでボロボロですけど……生きてるって、素晴らしいです。私、改めて自分がすごい体験をしてるって実感できました。」

 二人の言葉に那珂、提督、そして五十鈴たちが気づいて振り向く。自身らも初陣のときの思い出がそれぞれにあるため、当時を懐かしむ表情を浮かべ合う。
 那珂は言葉をかけたかったが、あえて二人に声をかけずにいた。提督の方に視線を送り直し、眉を下げた笑顔を投げかける。視線に気づいた提督は那珂の意図に気づいたのかお返しにとばかりにほんの少し鼻を鳴らして同じく笑顔を返す。那珂と提督の心の中の思いは一緒で、それが眼の色に表れていた。

 その良い雰囲気の最中、那珂は出撃前をふと思い出した。外に出て戦いを経て帰ってきた今、完全にもやもやとした気持ちが取れたわけでもない。しかし提督と同じ気持を抱けているこの瞬間は艦娘那珂として、そして光主那美恵として満たされて心地よい。もしかしたらチマチマしたことで悩んでいたかもしれない。いや、大事な気持ちなのだろうけれど、今は目の前の、若干あごひげが伸びた顔で浮かべる凛々しくもどこか頼りなさ気な、自分だけに向けられた優しい笑みが見られただけでもいいやと思い返すのだった。


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 その後那珂たちは気持よく寝るために朝風呂を堪能し、それぞれの布団のある和室に我先にと駆け込んでいき、布団の中で安眠を貪り始める。
 布団に飛び込んですぐに寝静まったその姿を見て、大人勢の提督・明石・妙高は少女たちの頭を優しく撫でて(提督はさすがに遠慮して見るだけだが)就寝の挨拶をそうっとかけてから執務室へと戻っていった。

同調率99%の少女(19) - 鎮守府Aの物語

なお、本作にはオリジナルの挿絵がついています。
小説ということで普段の私の絵とは描き方を変えているため、見づらいかもしれませんがご了承ください。
ここまでの世界観・人物紹介、一括して読みたい方はぜひ 下記のサイトもご参照いただけると幸いです。
世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
挿絵原画。
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65546723
鎮守府Aの舞台設定図はこちら。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1djrbjkCEw25Tqg6Qybku60x_TkOXkinL1kmElBxHPzo/edit?usp=sharing

好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)

同調率99%の少女(19) - 鎮守府Aの物語

急を告げるブザーの音。鎮守府に泊まっていた那珂たち艦娘は緊急出撃することに。川内と神通にとっては、深夜の出撃が初陣となる。 艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60~70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。 --- 2017/12/13 - 全話公開しました。

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-24

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 深夜の出撃
  2. 川内の初陣
  3. 川内の初戦
  4. 海岸沿いにて
  5. 洋上の4人
  6. 神通の初戦
  7. 幕間:忍び寄る存在
  8. 報告