恋人じゃないぜ条約
アイツに気付いてほしいから。
アイツに笑ってほしいから。
アイツを好きでいたいから。
海色の風をこの胸に感じて
約束なんて、要らなかったんだねと
全てをその優しく細めた目で
見つめ返してほしいから。
Ⅰ*元の、一歩。 -ハジメノ、イッポ-
「ねぇ」
自転車の鍵を開けていたアイツは、この一言だけで
ピクっと反応した。
「乗せてってよ」
ゆっくりと振り返ったアイツの目は、明らかに泳いでいた。
のも束の間の事、「…嫌だ」と素っ気なく答える。
少し前までは、不自然に冷たい反応にいちいち傷付いていたが、
もう慣れた。
「今日は、乗せてくれるまでここ、動かないって決めてんの」
そう、悲しいことに、言い返せる余裕がある位には。
いつもは、一発で引き下がるアタシが、今回は反論したことに
アイツは少しだけ目を大きくした。
しかし、深く溜め息を付くといつも通り自転車に股がってしまう。
平然と、こちらなど見ずに。
…あぁ、やっぱり私はこれ以上言えない。
結局ここでまた何も言わずに置いていかれて、
後悔するのは自分なのに。
アタシは淡い紫と濃い青グラデーションされた空を
見上げて、ふっと息を付く。
「………乗らねぇの?」
低い声にハッと視線を戻す。
自転車に股がったまま、上体をこちらに向けてるアイツがいた。
…つか、今何て言った?
呆然としているアタシにもう一度、「乗らねぇの?」と問いかけるアイツ。
「…いいの?」
思わず言ってしまってから、弱気な発言をしてしまった自分に舌打ちしたくなる。
「お前がここ動かねぇなんて言うからだろ?乗るなら早く乗って」
うん。理由はどうであれ、乗るのを許可された事に変わりはなし。
色々前向きに捉えたアタシは、自分でも段々笑顔になっていくのが
分かった。
そして、短い距離を駆け足で自転車に向かったのだった。
Ⅱ*制御、不可能。 -セイギョ、フカノウ-
久し振りに乗った、自転車。
初めて後ろに乗った時、スカートなのに思いっきり跨いで乗って
アイツに頭叩かれたっけな…。
思い出さなきゃ思い出せない程、あれから時は確かに進んでいるのだと
ボンヤリ思った。
考えを中断すると、次に風の冷たさに意識が飛んだ。
夏の終わりを感じさせる涼しげな風。
学校の近く…即ち、私とアイツの家の近くには海が広がっている。
だからか、風までもが潮の匂いと湿っぽさとを纏って海色に染まっているようなのだ。
半袖のYシャツなのと、掴まる所もアイツの背中…なんて都合よくいくはずもなく鉄の冷たさに掴まっているためか肌寒く感じた。
チラッと、自転車を漕ぎ始めてから一度も口を開こうとしない
アイツを横目で盗み見た。
顔は見えないのに。
見えるのは、あの頃とたいして変わらない大きな背中だけなのに。
それでも、直ぐに目を背けてしまう程に胸が苦しかった。
恋人じゃないぜ条約
2章まで………
モヤモヤするとは思いますが、
1章ずつ増やしていきたいと思います。
展開が滅茶苦茶&拙い文章の作品で
スミマセン…!