lost
こちらはもとは解釈小説にしようとしてたものです。
原曲がももいろクローバーZさんの「LOST CHILD」です。
とても素敵なので是非聞いてみて下さい。
この世に完全はなく、不完全もない。
そして自分を自分だと保証するものもない。
自分が何なのかだって、違う可能性もある。
つまり「ずっと自分を人間だと思って生きてきたけど、実は猫でした」なんて事だってあり得るわけだ。
それ以前に、これが人間か犬か猫か鳥か猿か魚か、なんて分けられる保証もない。
完全な秤が無いんだから、完全な人間も完全な犬も完全な猫も完全な鳥も完全な猿も完全な魚もこの世にはいない。
というと、この世には信じられるものがないんじゃないか、と考えるだろう。
そうだ。信じられるものなんかない。
信じられるか信じられないかを判断する秤がないんだから。
つまり、信じられるのは、自分だけ。
高校に入学して、不思議なクラスメイトに出会った。
出席番号が同じで、たまたま喋っていた。
時折気難しい話をしてくるところに、俺はいつも考えさせられた。
特に考えさせられたのはこの話だった。
「私達はまだ旅にも出てないのに何でもう迷子なの?」
比喩を混ぜて大事なことを省略したからか、全く話の内容が理解できなかった。
「それは…まだ小さい枠の中にいるのに、何故悩んだり迷うことがあるのかってことか?」
「うん。おかしいと思わない?私は思うな」
「まず考えたことないな」
「まぁそうだよね」
それから彼女とはとても沢山の話をした。
『私の中には、私の知らない私が隠れてるのかなーって最近思うの。でもだとしたら、私の知らない私に今すぐ会いたい』
『何処まで行けば、行方不明になった私に会えるの?』
『生まれた限り、命を使う事が使命なら、どこまで行けばいいの?何を信じていけばいいの?そもそも何で?夢?愛?何かが見える?私の知らない私に会える?』
『慌てることも、恐れることも、何もないと思うんだ』
『この世にある全てのものは変化して、何事も同じじゃない。細胞は消滅誕生を星みたいに繰り返す。今日の私だって今日の日暮くんだって永遠じゃない。でも、その力は絶対無くならない』
正直同い年でこんな事を考える人がいるってことに驚いた。
彼女は常に追い込まれていたからだと思う。
彼女は死に直面していたから。
重い喘息を持っていた。
中学生の時に発覚したらしい。
どうやら親にも親友にも話せていないらしく、話せたのは適度な距離感の俺だけらしい。
結局彼女は高校卒業を目の前にして死んだ。
チョコレートをもらった日の夜だった。
もちろん通夜にも葬式にも呼ばれず、ごく少ない親友と身内だけで終わったらしい。
呼ばれても行かなかったけど。
何が起きたのかいまいちよく分からなかった。
数時間前まで普通に話してたのに、食べてたのに、歩いていたのに、俺を…抱きしめていたのに。
柔らかい感触を思い出すと震えが止まらない。
意識はしてなかった。
好き、だなんて。
思えばこれが初恋だった。
こんなに短く終わるとは。
儚い。
切なかったけれど、辛かったけれど、悔しかったけれど、諦めはついた。
終わった事だと。
未練の塊は捨てていかないと。
信じられるのは、自分だけだと、考えて生きているんだから。
他人の死など気にするべきじゃない。
俺は1人で生きてきたんだから、これからも1人で生きていく。
人に縋るのは嫌いだ。
性に合わない。
そもそも、浮き上がった自分が悪い。
どんなに辛くても、苦くても、痛くても、過去のことは、さっさと忘れて、これからを大切に自分の人生を歩む。
それが俺の人生観だから。
変わらない朝も、終わらない夜も1人で待つ。
でも。
君の強さと、君の柔らかさと、最初で最後の人との繋がりを、愛しく感じながら生きてみようか。
冬晴れの空の色すら苦く感じた。
lost
読んで頂きありがとうございました!!