夢を叶える猫

私は猫又の「こぞ」と言いまして、指輪の魔人の付き人やってます。
そう、アラジンが魔法使いから貰ったあの指輪です。
時を経て、海を渡って、今は日本にあります。
魔人の先生は日本語がわからニャいので、私が通訳してるってわけです。
うちの先生はそれなりに凄いお方なんですがね、なにせランプの魔人に手出しできなかったくらいですから、どんな願いでも聞けるわけではニャいんです。だからこの私めが指輪を手にした人間に色々と諭して、出来る範囲で夢を叶えるお手伝いをしているってわけでございニャす。

39歳会社員男性の場合

1億円が欲しいとおっしゃいますか。一番近いのは確かいなほ銀行でしたね…え?何をするって、銀行の金庫からお金をこの部屋に移動させるんですよ、安心してください、そういうのは先生の得意技ですから。ニャに、1億円だったら10キロ程度のものです、狭い部屋に置いても大して邪魔にはならないですよ。
は?それは泥棒だって?…だって貴方、何もないところからお金が湧き出してくるとでも思うんですか?そんな馬鹿なことはありませんよ…ランプの魔人がアラジンに与えた食べ物や財宝だって、どこかから盗ってきたものニャンですから!
えー、時代が違うって?ちょっと、乱暴は止めてくださいよ、まだ何もしてないでしょうが!
ああっ窓から投げ捨てるなんてひどいっ!


…やれやれ、えらい目にあいましたよ。自分だって指輪を拾った癖にねえ…。
中途半端に正義感の強い人が一番タチが悪いですね。


17歳女子高校生の場合

美人になりたい?そうですねえ…じゃあ、お好きな女優さんかモデルさんあたりと魂を入れ替えましょうか?
あ、ダメ?
では首から上だけ交換するのは?
そういうのじゃニャい?
目を二重にして、鼻を高くして、エラを削りたい?
…それなら普通に整形すれば?

…何も泣くことはニャイじゃないですか。うちの先生はそういうことは出来ないんですよ。
先生が得意なのは「物の位置をずらしたり入れ替えたり」することです。だから、例えば離れている目をちょっと寄せたり、斜めについてる鼻を真っ直ぐにしたりならお手のモノニャんですが、貴女見たところパーツの配置はよろしいみたいニャんで…。
そうだ、こういうのはどうです?
先生、お願いします。

…いかがでしょう?歯並びを治してみました。
出っ歯が凹んで綺麗な口元になったじゃニャいですか?
おや、納得いかないって顔してますね?
自分たちで言うのもニャんですがね、ゴミ捨て場で拾われた指輪にしては頑張ったほうだと思いますよ?
歯並びだって、歯医者で治してもらおうと思ったら、時間もお金もかかるんですから。
今回浮いたはずのお金で、いつか本当に整形してみたらいいんじゃニャいですか?


28歳OLの場合。

お姉さん、お姉さーん!
我々を呼び出しましたかお姉さーん!
え?呼んだ覚えはニャい?
でも先週買ったアンティークの指輪をこすったでしょう?
ああ、イライラしてやっちゃったんですか。
ニャに、遅刻しそうだって?
それなら先生の一八番!今すぐに連れて行ってあげますよ!
目的地は…?東京駅!
それニャら今すぐ行ってらっしゃーい!!!!


…良かった。お姉さん新幹線に間に合いましたね。
え?先生はご不満で?
ああ、「気味が悪い」ってまた中古屋に売られちゃったからですか。
仕方ないですねえ、日本人なんてこんなものですよ。
ニャアに、これからも私がついてますから、次もまたきっと面白い人に会えますよ。

夢を叶える猫

夢を叶える猫

かつてアラジンが魔法使いから授かった指輪が海を渡って現代の日本にあったとしたら…。妖怪・猫又が通訳兼付き人として指輪の魔人と悩めるニッポン人をつなぐ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-22

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