ヒガンバナ

佐藤

投稿十八作目です。

 うだるような暑さが過ぎると、何か拍子抜けしたものを感じる。
 学校帰り、家路をたどる恵子の足取りは重い。また今日も勉強に集中することが出来なかった。受験勉強も、そろそろ追い込みの時期だというのに。このままでは、ろくでもない結果が出てしまうかもしれない。きっと親がうるさくなる。考えるだけでも憂鬱のあまり、食欲が旺盛になりそうな気分だった。
 知らぬ間に、立つは弁当の陳列棚前。コンビニエンスストアの中である。どうやって入ったのかすら覚えてないあたりが致命的だ。「自分が思っているより、ほんのちょっとだけ食欲が常軌を逸していたらしい」。そんな、国語だったらしっかりバツがついてしまいそうな感想が頭をよぎった。
 ついでなので、適当に物色することにする。ずいぶんとスカスカの陳列棚なので、選択の余地はあまりない。結局一番取りやすそうな置き方となっていた牛丼弁当を手に取った。更に、レジに向かう途中、冷蔵庫を開け、烏龍茶のペットボトルを入手する。
「いらっしゃいませ」言うと、パートのおばちゃんは慣れた手つきでバーコードをスキャンした。
「546 円になります」
 おばさんの言葉はショッキングなものだった。恵子の指が一瞬止まる。値段の計算に失敗したのだ。小銭入れの中にある総額は 530 円。十分足りると思っていたのに。
 だが、負けない。何食わぬ顔で野口英世を取り出す。
「1000 円からでよろしいですか?」
 うっさいな早くそいつで清算してよこんなクソみたいな店とっとと出たいんだからまったくもう、とはもちろん言わない。にっこりとして「はい」。おばちゃんが袋に弁当とペットボトル、それから箸を入れた。
「ありがとうございました」
 自動ドアを抜けると、風が吹き付けてきた。冷たく、湿り気を帯びている。空模様もずいぶんと重い。一雨くるかもしれない、自然と駐車場をぬける足が速くなった。道路に出て数メートル、そして途中の路地へと入り込む。両側にぎっしりと家が立ち並ぶ、手狭な空間。奥に向かってゆるい上り坂になっている。恵子の家はこの先だ。ただし、ちょっと遠い。小高い丘の上に建っているのだ。
 家のほうを見上げる。すると、重い背景色を彩るかのような、あざやかすぎるほどの赤を見つけた。花だ。草木がこれからしおれていこうと言うときに、はちきれんばかりの瑞々しさを放っている。
 彼岸花だった。
「へえ。もう咲いてるんだ」
 夏の次は、秋。こうまで単純な事実を、いまさらのように思いつく。
 いよいよ雨が降ってきたので、恵子は急いで家へと駆け込んだ。
 勉強のことは後で考えよう。今は、牛丼をレンジに放り込むのが先だ。

ヒガンバナ

投稿十八作目でした。

ヒガンバナ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-21

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